Quatre-vingts-treize 渦巻島の決戦(雷雨の冷疾)
Sideコット
「…小物は相手にするな、ドンカラス、ガブリアス、ルギアだけを狙え! 」
『フッ…、当然だ』
『まさか逃げ場のないここに逃げてくるとはな』
「小物…? 小物って、僕の事じゃないですよね? 」
…何か今、凄くイラっときたんだけど。みんなも戦闘を始めているから、僕達も一歩遅れて戦闘態勢に入る。ブイゼルの姿のエレン君とふたりで戦うことになると思うから、ふたり揃って相手に注意を向ける。すぐに相手の幹部も、残りのメンバーを出場させる。…だけどその幹部が言った事が僕に対してなきがして、思わずこう声を荒らげてしまった。
「当然だ。喋るとはいえ、たかがサンダースだ。ルギアには遠く及ばんな」
「たかが…? 」
「あぁそうだ。サンダースはそこら中にいるが、ルギアはコイツだけだ。天気をも操るコイツがいれば、世界は俺のもの…、そう思うだろう? 」
…やっぱりムカつくけど、こんな感じの人、どこかで会ったような…? 幹部のその人は当たり前のように言い放ち、僕達のすぐ後ろにいるニアロさんに目を向ける。すぐに僕の方に視線を落とし、おまけ、とでもいうかのような態度で僕の事を見下す。僕もいるのは好都合って言ったのはどこの誰? そう言いたくなったけど、これだと向こうの思うつぼになる気がしたから、出かかったそれを何とか喉の奥に抑え込む。相変わらず腹が立つけど、体の中から煮えたぎってくる何かも抑えながら、何とか聞き流すことにした。
僕のチカラで世界征服を? …そのために僕達を追い回していたとは…。ですけど、僕のチカラでは…
『そんな事、俺達の知った事じゃねぇーが、伝説の種族をこき使う、それだけでも魅力的だと思うけどなぁ? 』
『ちょっとニアロのことをなんだと…』
『人間のなり損いが…、貴様は黙ってろ! 』
『…っ! 』
ちょっ、ちょっと! 酷くない? トレーナーがトレーナーなら…、ってよく言われているけど、この幹部のメンバーにも当てはまるかもしれない、僕は率直に感じた。ドンカラスは右目を吊り上げ、僕達を問いただすように声をあげる。悪タイプ、っていう事があるかもしれないけど、どこか僕達を言葉で狂わせるような…、そんなニュアンスも含んでるような気もする。エレン君がその挑発に乗っちゃってたけど、言い切る前に割り込んできたガブリアスの言葉に、僕は思わず言葉を失ってしまった。
『いまなんて…』
『半人風情が…、俺様に何度も言わせるな! 貴様に喋る権利など微塵もないんだよ! 』
「ちょっとエレン君に…」
『…ニアロあれをじゅんびして』
『えっ、エレン、あれって、チカラ…』
『それじゃなくてここのを』
そのガブリアスは、何の恨みがあるのかは分からないけど、罵声と共にエレン君への暴言を続ける。流石にこれは酷過ぎる、だから僕は、なんてことを言うの、そう言おうとした。だけどそれは、言われた本人の、暗く重い声に遮られてしまった。
ビックリしながらその方、隣にいるエレン君をハッと見ると、彼は両手を強く握り、顔も引きつらせている…。キレる寸前、今にも爆発しそうな彼は、辛うじて溢れ出しそうな怒りを抑え込みながら、振り返らずにニアロさんに話しかける。何かを頼んでるみたいだけど、僕にはその意図がさっぱり分からない。“チカラ”って言ってるから、能力か何かっていう気もしたけど、それでもなさそうだから…。
『ここの…、うん、そういうことなら』
『逃がすかぁっ! 辻…』
『ぼうふう! 』
『っく…! 』
エレン君達の間だけで通っている事があるらしく、ニアロさんはこれだけで納得して頷く。すぐにニアロさんは、大きな翼を羽ばたかせ、頼まれた事をするために滝の方に飛び立とうとする。だけどそれに気付いたドンカラスが、阻止するために攻勢に移る。同じく羽ばたいて浮上し、翼にエネルギーを溜めながら接近しようとしていた。
だけどこの攻撃は、発動する間もなく阻止されていた。どこからか強烈な突風が吹いてきて、それに煽られてバランスを崩す。状態を維持できずに、陸地の方に堕ちてしまっていた。
『あぁわかったよそんなにいうんならオイラにもかんがえがあるよにげられないのはそっちもおなじだよコットくん」
「えっ、なっ、なに? 」
…エレン君、完全にキレてるね。猛烈な突風を発生させたのは、能力の一つでその技を使える、エレン君。彼は軽く上に跳びながら回転し、二本の尻尾を大きくふる事で、技を発動させていた。僕がエレン君の方を見た時、彼は丁度着地したところで、そのまま早口で相手のふたりに言い放つ。息継ぎもなしにずっと喋り倒しているから、完全にブチギレモードに入ってると思う。そんな風に思いながら警戒レベルを高めていると、彼はそのままの流れで僕に話しかけてきた。急だったから、変な声を出しちゃったけど…。
『コットくんってつかえるわざかわってる? 』
「うっ、うん。ひとつだ…」
『ならそれとくみあ…』
『ブツブツと煩いんだよ! ドラゴンクロー! 』
『みっ、見切り! 』
『アクアジェット! 』
『ちっ…』
いっ、いきなり? この間にエレン君は、僕にこんな風に訊ねてくる。だから僕は、一つだけ変わったよ、そう教えてあげようとする。だけど立て続けに遮られたから、言いきる事はできなかった。最初にエレン君に遮られたけど、多分これは組み合わせて…、っていう感じで言おうとしていたんだと思う。そこへ相手のガブリアスが声を荒らげながら迫ってきて、立ちあがったドンカラスを背に攻撃を仕掛けてきた。手元に紺色のオーラを纏わせているから、きっと相手はこの一撃で倒すつもりなんだと思う。
だけど僕達が咄嗟に反応したから、奇襲は失敗する。僕は瞬間的に運動能力を最大まで高め、爆発的に開放する事で左に跳ぶ。エレン君は水を纏って、その勢いも乗せて右へと回避する。このままだと背を見せることになるから、すぐに反転して相手を正面に捉えた。
『熱風! 』
「っく! 」
『コット君! 』
『砂嵐。所詮貴様等はこの程度の技で…』
熱っ…。目の前にガブリアスに集中していたせいで、僕はドンカラスの行動に気付くことができなかった。ドンカラスは僕の後ろの方から急降下してきて、多分四、五メートルぐらいある距離でエネルギーを解放する。するとヘクトのとはまた違った、焼けつくような突風が僕達、特に近い距離にいる僕に襲いかかってくる。出来る事なら技で回避したかったけど、その技をついさっき発動させたばかり…。だから一瞬の硬直の間に風が達し、僕は数メートルぐらい吹き飛ばされてしまった。
この時更に、ガブリアスも別の技を発動させる。右の手元にエネルギー体を作り、その状態で高く掲げる。その位置で砂色の球体が発光し、かと思うと砂が混ざった嵐が吹き始めた。一応オークスの特性で経験した事はあるけど、岩、地面、鋼タイプでもない僕にとっては天候の変化は死活問題…。ダメージ…。
『すなあらし? てんきをかえたってぼくのまえではいみないよ! …“無常なる事象よ、我が身の力となれ”! 』
「えっ、なっ…、なに…? 」
何が起きたの? 砂混じりの突風が吹いてきたけど、パッと見た感じエレン君は全然同時てなさそう。叩きつけてくる砂の痛みを堪えていると、エレン君が何かを力強く唱え? る。すると一瞬青白い光が灯り、上の方に打ち上がる。パンッ、って弾けると、それをきっかけに今度は強めの雨が降り始めた。
『雨乞いか。そんな生ぬるい…』
『なまぬるい? オイラの“チカラ”はただのあめじゃないよ! コットくんにはわるいけどそっちがそのつもりなら…オイラもほんきでいくよ! 』
『だがたかが雨…、その程度で良い気になるな! 流星群! 』
『辻斬り! 』
「チャージビーム! 」
何か普通の雨じゃないみたいだけど…。この場にいる全員に叩きつける雨は、視界を奪うぐらいの強さになっていた。エレン君の能力だと思うけど、敵味方関係なしに牙をむいてくる。エレン君はその事について言ってるんだと思うけど、申し訳なさそうに僕に声をかけてきた。かと思うと彼は、言い切る間もなく姿を歪ませる。ユウキさんとか、ブイゼルに変える時と同じだから、多分人に戻って何かをする…。かと思ったけど、彼は別の種族の姿で相手に目を向ける。ピンク色の毛並みで四足の種族…、多分これがシキジカなんだと思うけど、その姿で力強く言い放っていた。
その彼に対して、相手はあまり気にしてないかのように声を荒らげる。荒々しくエネルギーを解放し、上の方から大量の岩石を降らせてくる。それもただの岩じゃなくて、竜の属性を纏った大技…。ドンカラスも低空飛行で迫って来てるから、僕は少しでも数を減らすために電気のブレスを吹き出した。
『その程度か! 』
『雨が少々気になるが、大したことないな。燕返…』
『くさむすび! 』
『くっ! 』
『コットくんちょうきせんはとくい? 』
「長期戦? むしろその方が嬉しいよ」
『化け物が…、作戦会議のつもりか? 砂嵐…』
その方が、チャージビームで強化できるからね。そっちの方がいいね。隕石群の方を見上げて薙ぎ払ったけど、落ちてくるスピードを弱めただけで破壊する事はできなかった。だから僕は上を口を閉じ、上をよく見ながら右に左にと跳んで回避する。ちょっとダメージを食らってるからスムーズにはいかなかったけど、それでも何とか、一回も当たらずにかわすことはできた。
エレン君の方も回避できたみたいで、四足で駆けだしながら攻勢に移っていた。丁度ドンカラスも低空飛行でエレン君に狙いを定めたみたいだから、多分何かの技で返り討ちにしようとしてるんだと思う。五メートルの距離でエネルギーの強度を高め、それを前足に集める。三メートルの距離になると、彼は一歩だけ前足を強く岩盤に叩きつける。するとタイミングを見計らったかのように、岩盤から蔓が延びて滑空するドンカラスの足に絡みつく。相当蔓が丈夫らしく、それでドンカラスは顔から地面に叩きつけられていた。
『それならさきにガブリアスからたおそう。チャージビームでけんせいすればコットくんもきょうかできるしドンカラスもたおせるかもしれないからね』
「うん…」
『ゴタゴタと煩いぞ! アイアンへ…』
「目覚めるパワー! 」
『っぁっ! …まさか、氷タイプか? 』
「そうだよ。…もう一発! 」
さっきは中途半端だったけど、多少は強化できたかな? エレン君はエレン君で作戦を考えてたみたいで、彼はガブリアスから倒すつもりなんだと思う。僕はドンカラスから相手しようかと思ってたけど、それを言う前に敵に迫られてしまう。頭を硬質化させ、僕に不意の一撃を食らわせようとする。だけど幸い四メートルぐらいのところで気付けたから、氷のエネルギーでそれに抗う。丸くしたそれを一発撃ちだし、顔面に命中させた。これで怯んでスピードが落ちたから、右に跳んでかわしながら、もう一発解き放った。
『…だがその程度の技、俺様には通用せん! 逆鱗! 』
『アクアジェット! 』
「見切り…」
『ぼうふう! 』
逆鱗かぁ…、厄介だな…。ただでさえ豪雨で視界が悪いのに、ガブリアスは猛烈な勢いで僕に襲いかかってくる。これを食らったらタダじゃ済まない、本能的にそう感じた僕は、咄嗟に五感を活性化させる。瞬間的に力を込める事で、真上に高く跳んでやり過ごした。
とそこへブイゼルの姿に変えたエレン君が突っ込み、背中に体当たりする。だけどそれでも止まらず、ガブリアスは僕を狙って攻撃を続ける。だからエレン君は二本の尻尾にエネルギーを集め、猛烈な風を吹かせ…
『俺の事を忘れたとは言わせないぞ! ゴッドバード! 』
『えっ…』
「エレン君! チャージビーム! 」
『しまっ…、ぐぅっ…! 』
そっ、そうだ! どおうりで戦闘に絡んでこなかった訳だ…! 僕もうっかりしてたけど、エレン君の背後にドンカラスが急降下してくる。激しい光を纏ってるから、何かを仕掛けてくる、そしてエレン君を倒す。エレン君は技を発動させた直後で硬直してるから、このままだと大ダメージを食らってしまう。だから僕が代わりに、光塊と化したドンカラスに迎え撃つ。喉元に少し多めにエネルギーを集め、ブレスとして解き放つ。もちろん正面に立つのも忘れずに…。ここまでに何回か発動させていたって事もあって、ギリギリでドンカラスの勢いが止まる。それにそこそこダメージを与えれたらしく、頭から水しぶきをあげて岩盤に滑り込んでいた。
「…あれ? ここまで水、来てたっけ…? 」
『ちっ…、やられたか。…しかし、この水は厄介だ…』
気付かないうちに岸の方に行ってたのかな…? 僕も今気づいたけど、岩盤が水で満たされ始めていた。
『やっときづいたの? わすれてるかもしれないけどここはオイラたちのホームアウェーなのはそっちだよ! …ガブリアスはきづいてるかもしれないけどこのあめはほかのてんきをむこうかしてうわがきされないこうかがあるそれだけじゃなくてここのしまにはちょっとしたしかけがあってねせんだいの“雨水の防人”がつくったしかけでねちょっとしたしかけをさどうさせるとここのくうかんはみずにみたされるそとのかいすいをながれこませるときにうずができるからそれがこのしまのゆらいになってるらしいんだよ』
「みっ、水にって…、エレン君」
うっ、嘘でしょ? って事は、早く脱出しないと…! エレン君は凄い勢いで、何かを喋り倒す。だけどもの凄く早くて、殆ど聴き取れなかった。…だけどそれでも、浸水する、それだけは何とか聴きとれた気がした。
『だいじょうぶ。オイラにかん…』
『…墓穴を掘っただけか。所せ…』
『くさむすび! そのことはしんぱいしないで! カナちゃんのほうは…いまごろニアロがせなかにのせてくれてるはずだよ。だからあとはオイラたちがごうりゅうするだ…』
『流星ぐ…』
「目覚めるパワー! 合流? でもいつの間に相談…」
『うーんとちょっとね。…コットくん、つるでうごけないいまのうちに…! 』
そっ、相談してるような感じ、全然なかったんだけど? 結構な水量が流れ込んでるらしく、溢れ始めた海水が三十センチぐらいの深さになっていた。エレン君の作戦だけどこのままだとマズイ、そう感じた僕はエレン君に迫る。だけど僕の焦りとは対照的に、エレン君は落ち着いた様子で僕に説明してくれる。その途中でガブリアスが仕掛けて来てたけど、エレン君が蔓で、僕が氷球を当ててそれを阻止する。それからすぐにエレン君はブイゼルの姿に変え…。
『オイラたちもだっしゅつしよう! アクアジェット! 』
「うっ、うん…! 」
水を纏ってから、少し高い位置を突っ切ってくる。そのまま僕の腰のあたりを抱え、海水で満たされ始めている洞窟内を突き進み始めた。
Continue……