Quatre-vingts-douze 渦巻島の決戦(岩翔の乱争)
Side オークス
「イグリー、オークス、いくよ! 」
『うん! 』
『おぅよ! イグリー、俺の足引っ張るんじゃねぇーぞ! 』
『はぁ…、また始まったよ…。…はいはい』
おいおい、またイグリーの奴とかよ! ボールから飛び出した俺は、横目でチラッと隣を見る。だけどそこにいたのは、またあのイグリー。コイツはカナの呼びかけに頷いていたが、正直言って俺はコイツとはあまり合わない。この呆れたような、上からな態度が無性に腹が立つ。調子が狂うし、何より俺が攻撃する先に割り込む事が多い。
『…ほぅ』
『まぁ相手が誰だろうと、俺達に敵う筈は無いがなぁ』
俺の相手は、確かミカルゲとドクロッグという種族。うろ覚えでどんな種族なのかは知らねぇーが、暴れればそんな事関係ない。腕を組んで俺を睨む態度にはイラっと来くが、ブッ潰しちまえば何てことはねぇー。
「オークス、最初から全力でアレ、いくよ! 」
『当然だぁっ! この俺の実力、今に見せてやるぁっ! 』
そう来ねぇーと、暴れ甲斐がねぇーってもんだろぅ! カナが後ろで、俺に対してこう声をあげる。昨日覚えたアレを早速使うつもりらしく、おそらくは左腕に着けているソレを起動させる。直接見た訳じゃねぇーが、カナはその左腕を高く上げ、その効果を発動させる。すると俺は土色と黒の光に包まれ…。
『
この俺とやり合う事を、後悔する事だなぁっ!』
それが弾けると同時に溢れ出る力と共に、高らかにこう言い放つ。メガ進化っつぅーやつで背が高くなった俺は、吹き荒れる砂嵐の中で俺以外の三人を悠々と見下ろした。
『ふっ、お前も仮初の力で俺様達に刃向かうか…。…いいだろう、デカい図体の貴様から葬ってやる! 毒突き! 』
『悪の波動! 』
『追い風! 』
なるほどなぁ! コイツらは俺から仕留めるって訳か。…面白い! 俺が言い放った言葉に対し、ドクロッグはニヤリと笑みを浮かべながら応える。相当自信があるのか、当然のように俺に向けて走ってくる。両手に紫のオーラを纏わせている辺り、直接殴って攻撃すると言ったところだろう。もうひとりも黒い波紋を放出し、先制攻撃を仕掛けてきた。だが…。
『
そんなヘボい攻撃、効かんわぁっ! 地震! 』
『なっ…! 』
『…っ! 』
俺の脇腹を捉えるも、軽く叩いたくらいの痛みしか俺には届かない。昨日ヘクトの親父と戦って分かった事だが、この姿での俺は守りの面でも強くなれるらしい。だから俺は、そんなザコい攻撃を一切気にせず、右足に力を込めて一気に踏み鳴らす。するととてつもない揺れが起こり、至近距離にいるコイツらに襲いかかった。
『燕返し! 』
『くっ…! 』
『
岩雪崩! イグリー、コイツらは俺の獲物だ! 邪魔するなぁっ! 』
『はぁー…、だからオークスは…』
イグリー、また俺の相手を横取りする気か! 俺の攻撃で怯んだところに、イグリーの奴が割り込んでくる。高い位置から急降下し、地面スレスレを滑空して相手との距離を詰める。そのまま素早い動きでドクロッグに接近し、力を溜めた右翼を叩きつける。その一撃で、ソイツは遠くに吹っ飛ばされていた。
そんなイグリーに無性に腹がったから、俺は奴が視界に入った段階で技を発動させる。エネルギーを解放する事で大岩を出現させ、それを大量に獲物三にんの上に降らせる。当然怯んでいる獲物ふたりには命中したが、肝心なイグリーにはかわされてしまう。俺の岩石の雨をすり抜け、おまけに獲物を一体奪われてしまった。
『ちっ…。んだが、これではそうはいかんだろう? …呪い…』
『
知った事かぁっ! 』
『っ! 』
『
噛み砕く! 』
残ったコイツは何かボソボソと呟いているが、そんな事、俺が知った事ではない。何かの技を発動させていたが、俺は気にせずコイツとの距離を詰める。足が届く距離まで近づいてから下の方の薄茶色のやつを蹴り上げ、ソイツ自体を宙に浮かせる。そこで俺は狙いを定め、躊躇う事無く思いっきり噛みついた。
『かはッ…! …フッ…、その余裕も…、今のうちだぞ? 』
『
そういうお前こそ、もうおしまいか? この俺に勝とうなど、所詮夢物語って訳だっ! トドメの地震! 』
『…っぐぁっ…! 』
手応えありだな。噛みつかれた直後に放り投げられたコイツは、フラフラにも関わらず笑みを浮かべる。何のつもりかはしらねぇーが、追い込まれているはずなのに勝てる自信があるらしい。そんな事はメガ進化して敵無しの俺には関係ないから、気にせずこう言い放つ。メガ進化の強さに酔いしれながら力を溜め、問答無用で地面を踏み抜いた。
当然倒れかけのコイツは、かわす事が出来ずまともに攻撃を食らう。多めのエネルギーを力に変えたので、おそらくコイツは力尽きた事だろう。自信がある割にあっけなかったが、イグリーの奴に倒されるよりマシ…。
『
…っ! …次はお前らだ! 岩雪崩! 』
『いっ、いつの間に…! 』
『またか…。…鋼の翼! 』
ちっ、また外したか…。ミカルゲを仕留めた俺は、すぐに残りの獲物を探す。殆ど時間をかけずに見つけ出し、即行でエネルギーを蓄える。何故か体が痛んだような気がしたが、俺に対しては攻撃されてないから、気のせいだろう。気に留めることなくエネルギーを解放し、イグリーもろともドクロッグの上から大量の岩石を降らせることにした。
しかしまたしても、イグリーの奴は俺の不意打ちをやり過ごす。瞬時に翼を硬質化させ、二メートルの高さで岩石に叩きつける。鋼タイプの技だから、俺の大岩は容易く砕け散る。吹き荒れる砂で視界が悪くなっているが、それでも奴は的確に鋼鉄の翼撃を命中させていた。
『…もうやられたか。…だが、貴様等には…、俺様は倒せん! 』
『
そっくりそのままお前に返す! 暴れ…』
所詮コイツもこの程度か…。巨大な俺を見て血迷ったのか、ドクロッグは真正面から俺の方に走ってくる。イグリーと戦って消耗しているらしいが、どうやらまだ動けるらしい。それに向こうから仕掛けてきたとなれば、喜んでそれに応えるのが俺だ。コイツが一メートル半ぐらいのところで跳びかかってきたタイミングで、俺は極限まで力を溜め、コイツに右…。
『ふっ、その程度か? 』
『
なっ、何故だ? 何故発ど…』
『リベンジ! 』
『
嘘だ! 俺の十八番がぁ…っ! っぐ…! 』
『鎌鼬! 』
『っ…っく! 』
嘘だろ? 何で俺の得意技が発動しないんだ? 真正面から突っかかってきたコイツに、俺は渾身の力で殴りかかる。だが何故か力が溜まらず、ただ軽く叩くだけで終わってしまう。それどころか、俺はコイツの手痛い反撃に遭ってしまう。格闘タイプの技で、俺は力任せに殴り返されてしまった。
更に腹立たしい事に、奴が俺の獲物を横取りしてくる。いつの間にか準備していたのか、奴は空気の刃をドクロッグに向けて飛ばす。技の発動直後って事もあって、俺の獲物にそれは命中…。それなりのダメージを与えられてしまった。
『
なら岩雪崩…、っこれもか…』
『…気付いたか? あいつの戦略を』
あのミカルゲの戦略? そんな事、知る訳ねぇーだろ? 暴れるを使えないなら、岩雪崩のイグリーもろとも一掃する。…だがこの技も、何故か発動しない。訳が分からないところに、どこがおもしろいのか、コイツは嘲笑いながら俺を挑発してくる。
『まさかオークス、相手の作戦にハマったんじゃあ…』
『
うるせぇ! 地…』
『いくら発動しようと…、したって、無駄だ! ベノムショック! 』
『鋼の翼! 』
まっ、また発動しない? 今度こそ返り討ちにしようとしたが、またしても俺の技は発動しない。こうなると本当に、相手の策にはまったのかもしれない、そう思えてしまっている。狼狽える俺に対し、ドクロッグは勝ち誇ったように急接近。紫色の塊を、無防備な俺に飛ばしてきた。
しかしその間に、イグリーが滑り込んでくる。奴は翼に鋼の属性を纏わせ、力任せに叩き落としていた。
『燕返し! 』
『…っく! …だが、デカいお前は…』
更にイグリーは、走る勢いの余るアイツに急接近。そのまま翼を叩きつけ、一発で体力を削りきっていた。
『オークス、まさかエネルギーを使いきったんじゃないだろうね? 』
『
そんな事知る訳ねぇーだろ! 』
『…だろうね。あの時はまだ、オークスはいなかったから…。俺もコットとベータからしか聴いてないけど、ミカルゲの特性はプレッシャー。気付かないうちに余計にエネルギー量を削られるらしいんだよ。…それにオークスを見た感じだと、恨み、でも使われたんじゃない? じゃないと、地震二回だけなら、エネルギーは使いきれないはずだからね』
エネルギーを、削る? 奴はさぞ知ったような素振りで、俺にこう語ってくる。そんな覚えはちっともないから、当然俺は真っ向から否定する。小汚い相手の作戦に腹が立ったが、上からの奴の態度にも俺はイラついてきてしまった。バトルには、勝ったが…。
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