Quatre-vingts-onze 渦巻島の決戦(氷炎の風)
Sideネージュ
「ヘクト、ネージュとお願い! 」
『おぅ! ネージュ、いくぜ! 』
『うっ、うん! 』
ヘクト君、頼りにしてるよ。岸辺で戦う準備をしていると、カナさんは残りのみんなを順番に出場させる。イグりー君とオークス君は別の相手と戦うみたいだから、別の所に出場して、ヘクト君は私と組むから岸の方に跳び出す。ヘクト君は気合十分っていう感じで胸を張って、高らかにこう言ってくれる。バトルが好きっていうのもあるかもしれないけど、こうして引っ張ってくれるところが頼もしい。
…だけど今回の私は、ちょっと違う! 今の相手は、私を無理やり捕まえようとした密猟者。それも、そのリーダー。いわゆる因縁の相手…、っていうのかな? 絶対に負けたくない相手だから、私がメインで戦う、そう決めている。
『なるほどねー、あんたの相方はヘルガーかい』
『ヘルガーか。昔いたアイツを思い出すよな』
『アイツ? それって、オヤジの事だよなぁ? 』
『たっ、多分そうだと思うよ? 』
うろ覚えだけど、確かそうだって言ってたような…。私達の相手は、最初から出ているブニャットと、スカタンク、っていう種族。向こうは向こうで話しているけど、私達は私達で、その相手が話して色事が話題に上がる。確かヘクト君のお父さんのトレーナーの元同僚? って言ってたような気がするから、訊いてきた事にこう答える。チラッと聞いただけだから自信は無いけど…。
『きっとそうだよな? お前らが誰なのかは知らねぇ―けど、この勝負、俺達が勝たせてもらうぜ! 』
『あらー、大層な事を言ってくれるじゃなーい? まっ、せいぜい楽しませてくれるととは期待しといてあげるわね』
『んだが、たかがガキの
戯言…、俺はそこまで期待はしてないけどな。…
バークアウトォッ! 』
『ふっ、吹雪! …っく! 』
ぜっ、全体技? ヘクト君が意気揚々と言い放つと、相手のブニャットはすぐに食いついてきた。売り言葉に買い言葉っていう感じで、スカタンクもそれに続く。勢いよく言ってるけど、私にはどこか喧嘩みたいな…、そんなように聴こえた気がする。こんな風に感じていると、いきなりスカタンクが喉に力を込め、高らかに咆哮をあげていた。
先手をとられちゃったけど、それでも私はすぐに反応する。向こうが音系の全体技なら、こっちも全体技で対抗すれば少しは軽減する事が出来る。だから私は体中にエネルギーを行き渡らせ、それに氷の属性を纏わせる。距離があるからあまり威力は出ないけど、一気に解放する事で迎え撃つ。だけど完全には防ぎきる事はできず、私は思わず顔をしかめてしまった。
『ネージュ、すまん! …毒々! 』
『甘いわ! 燕返し! 』
『さぁな、それはどうかな? 』
『水の波動! 』
『ちっ…』
ヘクト君となら、連携して戦える自信はある! だから…! 私が雪混じりの突風を吹かせている間に、ヘクト君は七メートルの距離を一気に駆け抜ける。ブニャットに狙いを定めて、相手が走ってくる先を先読みして、その場所を紫色に染め上げる。だけどそれを相手はひらりとかわし、右の前足に力を溜める。素早い動きで距離を詰め、ヘクト君に斬りかかろうとしていた。
だけど私が、そうはさせない。陸に上がりながら喉元にエネルギーを蓄え、今度は水の属性に変える。それに音波を乗せて、ブニャットの前足を狙って解き放つ。流石にここまでは予想していなかったらしく、私の水輪は狙い通りの場所を捉える。そういう事もあって、必中技の対象が私のソレに移り、かき消すことに成功し…。
『俺を忘れるなよ! 辻切り! 』
『っく…! 』
『ネージュ! 熱ぷ…』
『そうはさせないわ! 猫の手…、影撃ち! 』
『なっ…! 』
分かってたけど、流石にこれは…。私の注意がブニャトに向いているから、私はもうひとりへの対応が遅れてしまう。陸の上を這って移動しているところに、スカタンクが悪タイプを帯びた斬撃を浴びせようとしてくる。頭では分かっていたけど、水の波動を発動させた直後で硬直していたから、その攻撃をまともに食らってしまう。少し痛かったけど、今まで沢山戦って鍛えられたからかな…? 思ったよりは痛くはなかった。
それより…、私がダメージを食らっちゃったから、ヘクト君が咄嗟に援護をしてくれようとする。私の吹雪と同じ様な感じで技を準備し、焼けつくような風を吹かせようとする。だけどそれよりも早く、ブニャットが右の前足を高く掲げる。すると技の効果が発動したのか、
瞬きをするかしないかの短い時間でヘクト君の背後に移動し、そのまま思いっきり突っ込んでいた。
『ギガイン…』
『サイコキネシス! へっ、ヘクト君には、近づかせないよ! 』
『くぅっ…、中々、やるわね』
なっ、何とか間に合った、かな? ブニャットはヘクト君に密接した位置で、一気に力を蓄える。テトラさんが使っているのを見た事があるから分かるけど、あの構えは多分大技のギガインパクト…。このままだとヘクト君が危ないから、私は咄嗟に強く念じ、ある光景をイメージする。まだ完全にコントロールはできないけど、その通りに、ブニャットは見えない力で弾き飛ばされていた。
『けど、これは…、どうかしらー? 猫の手…、…』
『その技、使わせてもらうぜ? …ものまね』
『超音波! そっ、それなら、使えなくするだけだよ! 』
またこの技? 次は何を仕掛けてくるんだろう…? 私の攻撃で弾く事はできたけど、威力が足りなかったらしく、あまりダメージを与える事はできなかった。四メートルぐらい弾かれた先で、ブニャットはまた同じ技を発動させる。今度は何の技が発動するのか分からないけど、ブニャットは周りの光を取り込んでるように私には見えた。何となく空気が張りつめてきたような…、そんな気がしたから、私は牽制の意味を込めて甲高い音波で様子を伺う事にした。
『…! 毒突き…! ちっ…、狙いが定まらん…』
『ネージュ、ナイスだ! 猫の手…、チャージビーム! 』
『へっ、ヘクト君? 』
こっ、これって、コット君の技だよね? 光を溜め込んでいるブニャットの前に、スカタンクが躍り出る。私の狙いは外れたけど、ひとまず混乱状態にする事はできたと思う。すぐに右の前足に紫色のオーラを纏わせ、バックステップで距離をとっているヘクト君に駆け寄っていたけど、狙いが外れて硬い岩盤を捉えていた。
その間にヘクト君も、相手のブニャットと同じように右前足を高く掲げる。すると何かを閃いたのか、すぐに喉元に技を準備し、電気のブレスとして正面に吹き出す。これもよく知ってるから分かるけど、この技を使うのは、コット君…。何でヘクト君が使えるのか分からないから、私は思わず変な声をあげてしまった。
『驚いただろぅ? ジム戦の時はまだ使えなかったけど、オヤジから教わったんだ。オヤジが旅していた頃に流行ってた古い技みてぇーだが、少しの間だけ、相手の技を自分の技として使えるんだ』
『自分の、技として? 』
『おぅ! さっきブニャットが猫の手を発動させてただろぅ? あれをコピー…』
『私の技を…、粋がってるんじゃ…、ないわよ! ゴッドバード! 』
『ヘクト君! 水の波動! 』
『っく…! 』
『っあぁッ! 』
そっ、そうだった…! 向こうも発動、させてたんだよね…? ヘクト君は得意げに教えてくれたけど、その代わりに隙だらけになってしまっていた。それを見計らっていたのか、光を溜めていたブニャットが一気に駆け抜けてきた。狙いはもちろん、無防備なヘクト君。ブニャットには翼なんて無いけど、そういう技の効果だから、光だけを纏った状態で突っ込んできていた。
だから私は、咄嗟に水のリングでその勢いを止めようとする。何故かいつもよりエネルギーの溜りが悪いけど、それでもギリギリ、間に合わせる事はできた。だけどブニャットは止まらず、そのままヘクト君と正面衝突…。ヘクト君は耐え切れず、派手に跳ね飛ばされてしまった。
『吹雪! ヘクト君、大丈夫? 』
『ぅっ…っく! 』
『正直言って…、ヤべェ…、かもしれねぇな…』
だってあんな大技を食らってたから…。このままだとマズい、そう感じた私は、ヘクト君に近づかせないために強めの突風を吹かせる。エネルギーを沢山使って発動させたから、多分相手のふたりともを圧し返せたと思う。その間に私は、フラフラだけど何とか立ち上がろうとしているヘクト君に、こう声をかける。だけどヘクト君は、切れ切れに、そして歯を食いしばりながら、弱々しくしか応えられていなかった。
『…んだけど…、ここで諦めは…、しねぇーよ! だから…、ネージュ、一気に…、攻めるぞ…! 』
『うっ、うん! 』
『ちっ…、やられたか…』
けど…、ヘクト君、結構辛そう…。だから、私が…! 私の吹雪でブニャットは倒せたみたいだけど、ヘクト君も限界が近いかもしれない…。そんな状態だけどヘクト君は、無理やり大きな声を出して、自分を奮い立たせる。いまにも転びそうだけど、それでもヘクト君は残ったスカタンクとの距離を詰めはじめる。だから私も、そんな彼を援護するために技を準備し始めた。
『だがまずは…、お前から逝ってもらおうか…! 毒突き! 』
『臨む…、ところだぁっ! 猫の手…、暴れる…! 』
へっ、ヘクト君! 相手はひとりになったけど、それでも諦めていなかった。力強く言い放ち、限界が近いヘクトに向けて走りだす。右の前足に毒のオーラを纏わせ、ヘクトに襲いかかる。それに対してヘクトも、ブニャットの技を利用して、オークス君の連撃で迎え撃っていた。
『水の…』
『…! 』
『ぐぅっ…! 』
『これで…、終わりだぁっ…! 』
正面から仕掛けたふたりは、ヘクト君は頭の角を、スカタンクはその前足を、それぞれ命中させる。ふたりともダメージを受けたけど、ヘクト君だけはまだ止まらない…。少し弾かれたスカタンクに跳びかかり、更に頭突きで追加ダメージを狙う。三撃目をし…。
『ならお前もろとも…、道連れに…、
してやるまでだ…! 』
『なっ…、っぐぁぁっ…! 』
『ヘクト君…! 』
えっ、まっ、まだあんな技、残ってたの? ヘクト君は三発目を当てようと、頭低くして突進…。だけど相手も、タダでは受けようとしない。何を発動させたのか分からないけど、ヘクト君の角が触れた瞬間、スカタンクからとてつもない衝撃波が放たれる。私の所までは届かなかったけど、密着していたヘクト君はかわしきれず、まともに食らってしまう…。そのせいで、ヘクト君とスカタンクは同時に倒れ…、相討ちになってしまっていた。私が残ってるから、一応勝てはしたけど…。
Continue……