Quatre-vingts-sept 帝と君主
Sideコット
『…さぁヘクト、
どこからでもかかって来い! 』
『おぅよ! イグリー、オークス、いくぜ! 』
『当然だ!
…これが、か。イグリー、俺の足引っ張るんじゃねぇーぞ』
『改めて見ると、やっぱり違うなぁー。…はぁ』
僕は何回も見てきたけど、仲間で誰かができると、凄く安心? するよ…。あの後の僕達は、セイジさんに誘われてセンターの食堂へ…。これまで迷惑をかけたから、っていう理由で、夜ご飯を奢ってもらえる事になった。それで食べ終わってからは、この何日かで疲れが溜まってたって事もあってすぐに休む事にした。…それで今日起きたら昼になってて、慌てて準備して外に出た、って感じかな?
それで成り行きにセンターの外に出たんだけど、何も考えてなかったから、とりあえず浜辺へ…。そこでライトさんとユウキさんと会ったんだけど、それまでの間にバトルをしていたらしい。ライトさんとユウキさんを入れた七対七で戦っていたみたいなんだけど、結果は三勝二敗二分けでライトさんがギリギリ勝ったらしい。会った時ライトさんはメガ進化した状態だったから、誰と戦ってたのかは分からないけど、ライトさんが決着を着けたんじゃないかな、きっと。
で、その後にジムに挑戦しに行こうかと思ったんだけど、運悪く今日は臨時休業だった。多分昨日の事でだと思うけど、ジムリーダーにジムトレーナーも、町の被害報告とかをまとめるのに忙しいらしい。ジムがやってないから一度ワカバに帰ろうかとも考えたけど、ジョウトの端から端まで移動することになるから、戻らずにゆっくり過ごすことになった。…それで、みんなで浜辺を散歩してる時にセイジさんと偶然会って、ヒマだったからバトルすることになった。僕とネージュは見学だけど、ルールはトリプルバトル。昨日もらったキーストーンの使い方のレクチャーって事で、カナの方はオークスとイグリーとヘクト。カナは対面しているセイジさんに教えてもらいながら、左手首に着けているブレスレットを高く掲げる。するとそれに反応したのか、カナ側はオークスが、セイジさん側はヘクトのお父さんが、いつもと違う姿に変貌を遂げていた。
「へぇ、これがオークスがメ…」
『ここにいたか』
『あっ、えっ…』
んっ? オークス達の変化に目を奪われていたけど、僕はそれでも近くから話しかけてきた声に驚いてしまう。戦ってないネージュもそうらしく、僕の声を重なるように変な声をあげてしまっていた。
「すっ、スイクンさん? 」
『お前は確か…、あのエーフィの従兄弟だったな? 』
「あっ、はい」
話しかけてきたのは、昨日はセイジさんと戦っていた、スイクンさん。伝説の種族らしく威厳がある彼は、驚く僕達に淡々と語りかけてくる。フィフさんの従兄弟、僕のイメージはそうらしく、彼は多分、念の為って言う感じでこう訊いてきた。それに僕は、若干戸惑いながらもこう頷く。一応今回の件で面識はあったけど、スイクンさんとこうして一対一で話すのは初めて…。だから僕は、緊張して思わず強張ってしまった。
『昨日の件、お前達も戦っていたのだよな? 』
「はい。僕はフィフさん…、エーフィさんと戦ってました。ネージュは、三にんで沢山の敵と戦ってたんだよね? 」
『うっ、うん。私はあまり動かなかったけど、後方支援…、って言ったらいいのかな…? 吹雪とかサイキキネシス、とかで…』
『俺もコルドから聴いただけだが…、よくやってくれたようだな。…助かった』
「ううん、僕達、プライズと結構戦ってきたから…、その決着? を…」
『んにしても、よくやったよなぁ! 』
「…っ! 」
こうして褒められると、嬉しいけど、やっぱり恥ずかしいよ。僕は昨日、フィフさんと一緒に戦っていたから、スイクンさんにこう伝える。ネージュ達の事は僕もヘクトからしか聴いてないけど、聴いた話によると十何人もの下っ端達と戦い続けていたらしい。フライさんといたイグリーはスカイバトルで、空中にいる何にんもと戦って倒していたんだとか…。
ネージュも緊張でガチガチになってるけど、昨日の事を手短に話す。それを聞いたスイクンさんは、あまり表情を変えてないけどぺこりと頭を下げる。こうして頭を下げられると何か申し訳なくなっちゃうけど、僕はフィフさんの隣で戦ってただけだから…。謙遜、って言ったらいいのかな? 右前足を上げて左右に振り、そんな事無いですよ、っていう感じで返事する。決着をつけるためかな、そう言おうとしたけど、スイクンさんの後ろから来たひとに遮られて、言い切る事が出来なかった。そのひとは…。
「えっ、エンテイ? 」
『構えんでくれ、お前らのお蔭で正気は取り戻したからな』
『はっ、はい…』
話しかけてきたのは、今までプライズのアルファに戦わされていた、あのエンテイ…。急な事だったから僕、それからネージュも咄嗟に身構えたけど、それを彼はすぐに制する。敵意は無いっていう感じで、豪快な笑顔を浮かべて、警戒する僕達に言い放っていた。
『それとコルドから聴いた事だが、ラプラスのお前は操られた拙者にも臆さず戦ったんだってな? 』
『わっ、私は、あっさりやられちゃったけど…』
『鈴の塔での一件だな? 俺も師から聴いただけで詳しくは知らないが、“雨水”の二人も応戦したとか…』
『“雨水”が? ここ数日の事は覚えていないが…、拙者の知る限りでは、リーヴェル? “雨水”はカントーにいるはずだが…』
“うすい”…? 何なんだろう、“雨水”って…。話に置いてかれたような気がするけど、エンテイ…、さんはスイクンさんをチラッと見てから、ネージュに話しかける。急に話しかけられて凄くびっくりしてたけど、ネージュは何とかそれに答えていた。最後の方は声が小さくなってたけど、それでもちゃんと聴きとれたらしい。“師”っていうのは誰か分からないけど、スイクンさんは伝え聴いたらしい事を話し始める。鈴の塔といえば僕達が初めてエンテイさん、ホウオウ、それからルギアと逢った場所だけど、その一件って言われたら僕はアルファの事が真っ先に思い浮かぶ。そのルギアがエレン君のメンバーだって事には、驚かされたけど…。
『そうか、フラムはこの一週間の記憶が抜けている、と言っていたな。“彼”はその間にジョウトに来、ジムを巡っているそうだ。俺はフラムが捕まる前日に会ったが、その時はキキョウのジムを突破したところだったそうだ。…ただ、“彼ら”もプロテージに狙われているらし…』
『プロテージ…、そうだ! エクリアは…、エクリアはどうなった! 』
プロテージ…、どこかで聴いたような…。スイクン…、リーヴェルさんはエンテイ、フラムさんを気遣うように訊ねる。その“彼”っていうのが誰なのかも気になるけど、僕は彼が言ったあることが心のどこかに引っかかる。前に聴いたような気がしたから、僕はこれまであった事を一つずつ辿り始める。旅立った時の事を思い返していると、急にフラムさんが思い出したように声を荒らげる。そのエクリア、っていう人が誰なのか全然見当がつかないけど…。
『エクリアなら心配するな。あいつは無事だ。俺はここにはヨシノ経由で来ているが、師と共にウバメの森に身を隠している』
『森に? …だがいくら師匠とはいえ、相手は拙者を捕え、エクリアをも手中に収めようとしたや…』
『それなら問題ない。ジュカインとシャワーズを連れたエクワイル員が警護して…』
「ええっと、そのジュカインとシャワーズって、ツバキさんとニトルさんですか? 」
この組み合わせなら、多分そうだよね? 途中から考え事をしてて聴いてなかったけど、リーヴェルさんとフラムさんはふたりで話を進める。聞き流していたからあまり内容が入ってきてないけど、もしかすると、プライズの前にも何かあったのかもしれない。そんな事を何となく考えていると、僕はふと、リーヴェルさんが言った種族が頭の中に入ってくる。二トルさんはワカバでチラッとしか見てないけど、僕はこの組み合わせてピンときた。だから話を遮る事になっちゃったけど、僕はリーヴェルさんにこう訊ねてみた。
『確かそういう名だったな。ああそうだ。彼女らには傷を癒す間、世話になったからな』
「傷? 」
『そうだ。コルドとエクリアと応戦したんだが、囚われたばかりのフラムと…』
『えっ、ええっと…、さっ、さっきから気になってるんだけど、コルドさんとはどういう関係…』
「あっ、それ、僕も気になってたよ」
初めて会った時から一緒だったけど、コルドさんとリーヴェルさんって、知り合いなんだよね? リーヴェルさんはすぐに話してくれたけど、その途中で、勇気を出して声を出したネージュに遮られてしまう。ネージュが話に割り込むのは珍しいからビックリしたけど、確かに彼女が言った事も気になってる。よく考えたら、コルドさんはユウキさんのメンバーだけど、元々はイッシュの伝説の種族で、リーヴェルさんとフラムさんはジョウト…。仲が良さそうだったから、僕も便乗して訊いてみた。
『あぁコルドの事だな? あいつは拙者達の弟弟子だ』
「おとうと、でし? 」
『そうだな。俺達は師…、ホウオウから伝説としての心構えを教わっていたのだが、コルドが急に来た…』
『そういえばあの頃のコルドは荒れていたよなぁ。あの頃はコルドとよく喧嘩したもんだ』
『その度に師から説教されていたな、懐かしい』
コルドさんが、荒れていた? この感じだと相当昔からの関係だったらしく、ふたりは当時の事を思い出しながら話してくれる。ホウオウから教わっていたっていう事は納得だけど、コルドさんが来た、っていう事があまりしっくりこなかった。確かコルドさんは鋼と格闘タイプだ、って言ってたから、テレポートとか飛んだりすることは出来ないはず…。それもそうだけど、あのコルドさんが荒れていた、僕はこの事が全く想像できなかった。
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