Qurtre-vingts-deux 離島の激戦(浄炎の光)
Sideティル
ライト、ごめん、遅くなって!
『マジカル、シャイン! 』
ティル!
よし、ここからが本番だ! 相性的に不利なワルビアルを倒した俺は、すぐにライトの元に駆けつける。地震を食らったから万全な状態じゃないけど、とりあえず支障なく戦えるとは思う。距離的にはあまり離れてなかったから、俺はすぐにライトが戦っているはずのエンテイのところへ…。ライトの姿は見えないけど、沢山のミストボールを降らせていたから、作戦通りに“ステルス”を発動させていると思う。スイクンもいるけど技を発動させてなさそうだから、おそらく俺を待っている段階。だから俺はエンテイまで七メートルある地点から、衝撃波を含んだ閃光を解き放った。
『マフォクシー…、彼だな? 』
『お待たせしまし…』
『ガァッ! 』
『…火炎放射! 』
噂には聴いてたけど、本当に底無しだね…。一応予定通りに来れたつもりだったけど、とりあえず俺は、お待たせしました、って言おうとする。だけどその途中で咆哮に遮られたから、それは叶わなかった。それどころか俺に向けて熱を帯びた光線…、多分ソーラービームだと思うけど、左斜め前方から撃ちだしてくる。だから俺は咄嗟に、喉元にエネルギーを溜めてブレスとして解き放った。
『俺の雨の中で、フラムのソーラービームを受けとめるとはな』
『ライトのパートナーなんだから…、当然です! 』
『グぉ…ッ? 』
ティル、先にアレをお願い!
そういう話だもんね。俺が来てからずっと相手の正面をとり続けているスイクンは、拮抗する白緑色と赤の二線を見、こう呟く。雨の中でのバトルはヒマワキで慣れてるつもりだけど、体中が痺れる感じが少し違う気がする。上手く言葉に出来ないけど…。
で、その間にエンテイが技を中断し、俺との距離を詰めはじめてきたから、俺もほんの少し遅れて攻撃に備える。だけど俺とエンテイの間に、空から突然温度の低い光線が放たれる。ライトだと思うけど、左目が見えてないからなのか、タイミングが合ってなかった。だけどこれが逆にエンテイの気を引いたらしく、急に立ち止まって辺りをキョロキョロと見渡し始める。この隙を利用して、ライトは俺の頭の中に語りかけてきた。
うん。
『スイクンさん、ほんの少しだけ、お願いします! 』
作戦の第三段階…。これが成功すれば…。ライトからは一言しか伝わってこなかったけど、パートナーのアレと言ったら、俺はあの事しか思い浮かばない。作戦通りならライトのアレのはずだから、俺は頭の中で彼女に返事する。それから俺は、彼女が予め伝えてくれているのかは分からないから、様子を伺っているスイクンさんに対してこう声をあげる。スイクンさんがどう言ってきてもするつもりだから、間髪を開けずに精神状態を高めていく…。
『グアァっ! 』
『少しとは、どれぐ…』
『見ればすぐに分かります! 』
『ッ! 』
やっぱり、狙いを変えてきたね…。精神を高めた俺は、そのままライトの事を強く意識する。すると俺の斜め前方…、ちょうどエンテイの真上の辺りに、突如紺を薄紫色の光塊が出現する。これを発動させるとライトの位置がバレるけど、作戦上やむを得ない…。だけどこの段階まで来たら、発動を成功させたも同然。だから俺はすぐに駆けだし、結果を見届けずにエンテイとの距離を詰める。懐に仕舞っていたステッキを抜刀し、振り上げながら相手の下顎に叩きつけた。
『なっ…』
『
…ティル、ここからが勝負だよ! 』
『もちろんだよ! ライトも、無理しない程度にサポート頼んだよ』
ここからのメインは俺だから、気を引き締めていかないと…! エンテイの真上で光を纏うライトは、いつもと違う姿…、メガ進化した状態で姿を現す。ライトが言うには、メガ進化した状態でも“ステルス”は使えるらしいけど、彼女はまだ出来ないらしい。何しろライトは、まだメガ進化はこれを入れて三回しかした事がない…。慣れてないからだと思うけど…。
それでメガ進化したライトは、姿を現すなりこう声を響かせる。淡くて薄い紺色っぽい色だから、俺は一瞬、親友でラティオスのヒイラギの事を思い出す。…だけどその考えをすぐに頭の隅の方に追いやり、ライトの問いかけにすぐに答える。左目の辺りは包帯が巻かれたままだけど、頬までは覆いきれてないから、俺の位置からでも羽毛が焼けた跡が見える。
『なっ…、何なん…』
『ジョウトではあまり知られてないと思いますけど、メガ進化です! 火炎放射! 』
『
竜の波動! 』
『サイコキネシス! 』
次の段階にはまだ進めないけど、その時間ぐらいなら、問題ない! 真上にいたライトは、すぐに宙返りしてエンテイの正面をとる。右目しか見えないから危うく地面にぶつかりそうになってたけど、スレスレで体勢を起こしていた。丁度そのタイミングで俺が炎のブレスをはいたから、それに続けて彼女の暗青色のそれを放ってくれる。だけど俺の火炎は別の目的で発動させたから、ライトのだけが一直線に突き進んでいった。
『がァァぁッ! 』
『ここまで接近したら、流石に戦いにくいでしょう? 』
『
ミストボール連射! 』
これに対してエンテイは口元に炎を蓄え、塊状にして解き放ってくる。挙動とか温度を考えるとオーバーヒートだと思うけど、それを直近の俺に向けて飛ばしてくる。だけど俺は炎球の一メートル手前で左に跳び、スレスレで回避する。さっき拘束した自分の炎を、ステッキに纏わせながら再び距離を詰めはじめた。
そのすぐ後でライトが、相手の斜め上、直線距離で三メートルぐらいの位置から、純白の弾を六発連続で撃ちだしていた。そのうちの四発が、多分狙いが外れてエンテイの足元に着弾していた。
『ハイドロポンプ! …接近型か』
『ッ? 』
『ライトが遠距離で戦うなら、パートナーの俺は接近戦をする…、当然の事です! 』
俺とライトの配置を考えてだと思うけど、スイクンさんはエンテイの右側から、超高圧の水流を放つ。彼の水流はバテているのか、エネルギー量が足りてないのか…、どっちかは分からないけど、かなり水の勢いが弱かった気がする。そのお陰って言うのもあるけど、俺は炎の刀を左側に携え刀身の届く五十センチのところで思いっきり斬り上げる。同時に右向きに跳び、相手の正面一メートルの位置を陣取った。
『グおォォッ、ガァっ! 』
『ライト! 左! 』
『
えっ…』
うそ…、このタイミングで? 距離的に考えても俺を狙ってくる、そう思ってたけど、その予想は外れてしまう。口元に炎のエネルギーを溜めていたから、俺はてっきりその属性の近接技の類を思っていた。だけど相手は真上を見上げ、大きな炎塊を打ち上げる。その炎は六メートルぐらいの高さまで撃ち上ると、四方に弾け炎の雨を降らせる。おまけにその場所にいるのは、潰れた左目を相手に向けているライト…。彼女には見えていないはずだから、俺は声を大にしてこう言い放…。
『スピードスターっ! 』
『ムーンフォース! ライト、ティル! 遅れてごめん! 』
『テトラ! シアさん! 』
ごめん、助かったよ! ただでさえ万全な状態じゃないのに、このままだとライトが攻撃を食らってしまう。俺は半ば焦りにも似た気持ちに満たされながら、咄嗟に対策をとろうとする。維持しているサイコキネシスで拘束しようとも考えたけど、運悪く俺の影響範囲外だから届かない。だから携えている炎刀を投げ、空中で切り裂く…。そうしようと思って、俺は低い位置から炎の業物を投擲しようとする。だけど上に振り上げようとした丁度その時、島の中央方向から二つの声が割り込んでくる。六つの流星と五つの桃弾が、降りしきる炎粒を撃ち落としていた。
『
テトラ! アーシアちゃん、待ってたよ! …冷凍ビーム! 』
『ちょっと苦戦しちゃったけど、私達も何とか倒せました! …アシストパワーッ! 』
『がッ…? 』
確かテトラ達はオノノクスとランクルスだったと思うけど、ひとまず倒せたんだね? テトラ達のお蔭でダメージを免れたライトは、後ろ向きに飛び下がりながらふたりに声をかける。その状態で氷のエネルギーを準備し、光線としてエンテイに解き放つ。正面を向いた状態だったからしっかり狙えていたけど、距離があったから左に跳ばれて回避される。…だけどそれを見越して技を発動させていたらしく、シアさんの気柱が着地点から突き上がっていた。
『フラッシュ! …ライト、ティル、シアちゃん! 』
『はいです! 』
『うん! 』
テトラとシアさんが来てくれたから…、やっと最終段階に移れる! シアさんの気柱は正確に命中していたけど、正直言ってどれだけダメージを与えられたのかは分からない。これだけ長い時間戦い続けているから、気柱の太さからすると、シアさんは最大まで強化されているはず…。だけど本当に底無しなのか、エンテイは何事も無く俺達との距離を詰めてくる。俺から見てライトとの間にいるテトラ達を狙い、牙に炎を纏わせ始めていた。
それにテトラは、すぐに対策を講じる。左右のリボンにエネルギーを蓄え、球状にして二つ創り出す。それを迫る狂炎に向けて放ち、丁度中間ぐらいの位置で発光させる。当然俺達は咄嗟に目を閉じたけど、自我の無いエンテイにとってはそうはいかないはず…。多分連続で閃光を発生させてくれている彼女は、その状態で短く合図を送ってくれた。
『
…“癒しの波動”! 』
『サイコキネシス! 』
『
ティル、アーシアちゃん、後は頼んだよ…! 』
ライト、言われなくてもそのつもりだよ! 放たれる閃光の中、ライトはありったけのエネルギーを手元に集める。チカラを発動させる事になるから、ライトはここで戦線離脱…。チカラの代償で身動きがとれなくなるけど、こうしないとこの作戦は成功しない。ライトの全てがこもった光を受けとり、託された想いと共に相手を見据えた。
『…ティル君、いけそうです? 』
『コントロールするのが難しいけど、何とかしてみせるよ』
後ろでドサッ、と砂地に堕ちる音がしたから、多分力が抜けたライトが地面に落ちたと思う。ライト自身は完全に無防備になるけど、そこにはテトラと、まだ来てないけどラフとフルロが向かってくれることになっている。だから俺はそっちには振り返らず、目の前の脅威だけを視界に入れる。それと同時に、俺は今までにないぐらいの念を送り、ライトから託された浄化の光の制御に集中する。いつもなら簡単に操れるけど、厳密にはこれは技じゃない…。勝手が違うから骨が折れるけど、意地でも操って見せる…。自分にそう言い聞かせながら、俺はその光塊を手繰り寄せた。
『ガぁぁッ! 』
『守る! くっ…、凄い威力…』
俺は何とか、ずっとステッキに纏わせている炎に、それを混ぜ合わせる。技じゃないから形状までは変えられないけど、俺の炎に混ぜればそれが出来るはず…。半ば賭けだったけど、俺はそのイメージを最大限まで膨れ上がらせ、まんべんなく二つを合わせていく。すると二つのエネルギー体は一つになり、二つを合わせたような色…、赤白色に輝き始めた。
俺が刀を生成している間に、エンテイが一気に勝負を仕掛けてきた。テトラの閃光を吸収していたらしく、膨大なエネルギーを光線として発射してくる。狙いは当然、無防備になっている俺。だけどその前にシアさんが二足で躍り出て、緑のシールドで受け止めてくれる。だけど相当強い威力らしく、特殊技に対しての耐久性が高いシアさんでも、俺の方に押し流されてしまっていた。
『これなら…。…シアさん! 』
『はいです! 電光石火! 』
よし、出来た! シアさんが光線に抗ってくれている間に、俺とライトの光剣が完成する。大元が火炎放射の炎に混ぜ込んだから、俺の予想通り、浄化の光のコントロールが大分楽になった。そういう事もあって俺は、いつものように赤白色のエネルギー塊の形状を変えていく…。四十センチぐらいの刃物状に変質化させ、ステッキの先端に纏わりつかせた。
これで最後の準備が完了したから、あとは一気に攻めてエンテイの首を絞めつけている“服従の鎖”を断ち切るだけ…。俺は目の前で耐えてくれているシアさんに、短くこう合図を送る。俺が左斜め前に跳んだタイミングで、シアさんも亀裂が入ったシールドを雲散させる。同時に技を発動させ、光線の反対側から四足で駆けだしていた。
『グおォォォっ…』
『エンテイさん、この一撃で、終わらせますっ! 』
あの構え…、向こうもこれで仕留めるつもりだね、絶対に。俺もシアさんに続いて距離を詰めていると、相手は身構え、エネルギーをかき集め始める。濡れて痺れている体に更に重圧がのしかかってきたから、エンテイは専用技の聖なる炎を準備していると思う。俺の距離と走るスピードだと際どい所だけど、電光石火を発動させているシアさんなら、何とか間に合うはず…。二メートルまで近づいたところで、二足で高く跳躍する。
『アイアンテール! 』
『ガァッ? 』
最高点に達したところで、シアさんは尻尾を硬質化させる。それを勢いをつけて振り抜き、準備段階のエンテイの脳天に叩きつけた。その甲斐あって、エンテイの体勢は若干下方向に崩れていた。
『これで…、決める! 』
その間に俺も、迂回するように距離を詰める。両手で左斜め後ろに刀を構え、駆ける両足にも力を溜める。シアさんがアイアンテールをヒットさせたタイミングで、俺も助走をつけて跳びかかる。二メートルの距離を一気に詰め、すれ違い様に刀を前方に振り抜く。
『ッ! 』
手ごたえは、ある! シアさんが体勢を崩してくれていたから、狙い通りの位置で赤黒い鎖がたわむ。そこへ俺の刀身が横切り、逆くの字に鎖が張りつめる。鋼鉄製の壁に打ちつけたような重い衝撃が、赤白色に輝く刀を通して俺の両腕に伝わってくる。危うく弾き返されそうになったから、更に俺は振り抜く両腕に力を込めた。
『ティル君! 』
『―――、今、
解放しますから! 』
…いける! 横目でチラッと見た感じだと、元々この鎖には、僅かに傷が入っていたらしい。ライトが昨日、“癒しの波動”を命中させた時に亀裂が入ったような音を聞いた気がした、って言ってたから、多分その時の物だと思う。だからそこをピンポイントで狙ったから、この手応えならいけそうな気がする。それを表すかのように、ピシッ…、と確かに鈍い音が俺の耳に届いてきた。
『ガぁっ?
グアァぁぁぁぁぁ――っ! 』
『うっ…』
『くぅっ…! 』
そこでありったけの力を両腕に込め、跳んだ勢いも刀身に乗せていく。するとこれが功を制したのか、伝わってきていた重い圧力が、急に今まで無かったかのように消え失せる。対象を失った聖なる炎刀は、降雨の大気を一刀両断する。断ち切れたか…、着地してすぐに振り返って確認しようとしたけど、尋常じゃない声量の叫び声が俺、それからシアさんに襲いかかってくる。だから思わず、俺は両手を刀から放し、大きな耳を強く塞ぐ事しか出来なかった。
Continue……