Quatre-vingts 離島の激戦(唄花の炎)
Sideティル
『…火炎放射』
『ドラゴンクローっ! 』
これは…、一筋縄ではいかなそうだなぁ…。アルファのメンバーを相手に総力戦が始まってから数分後、俺は相手に対して牽制の炎を放出する。俺の相手は、地面、悪タイプで、相性的にかなり不利になるワルビアル。本音を言うと得意な接近戦に持ち込みたいところだけど、何しろ相手は俺の弱点を突く技を沢山使う事が出来る。まだ全部は確認していないけど、今発動させたドラゴンクローに加えて、ぶんまわす、シャドークローを発動させていた。残り一つはまだ分からないけど、地面タイプの技のはずだから、地震じゃないかって俺は思っている。それに加えて、今の天気は雨。状況的には相手のワルビアルも変わらないはずだけど、雨で濡れて体中が痺れている。最初はライトにレインコートを借りようかとも思ったけど、武道を極めた身としては、フェアなバトルが出来なくなってしまう。そもそも炎タイプっていう性質上、どうしても体温が上がってしまうから、蒸れて集中できない。それに着るためには、尻尾と耳を出す穴も開けないといけないから、それだけで無駄な時間がかかってしまう。
『サイコキネシス! 』
…だけど、このままだとライトの作戦が実行できない! だから無理してでも、この状況を変えないと! 若干焦りにも似た想いに満たされながら、俺はすぐに別の技に切り替える。炎を放出している口を閉じ、同時に懐からステッキを取り出す。雨で消えないうちに見えない力で拘束し、保護しながら形を変えていく。杖の先端に纏わせるように付加し、四十センチぐらいの刃物状に変質させる。この時には相手に一メートル半まで迫られていたから、両手で炎刀を正面に構える。
『マフォクシーの分際で俺に勝とうなど、十年早いわぁッ! 』
紺色のオーラを纏わせた相手は大きく跳び、その右の爪を俺に振りかざしてくる。それに対し俺は、柄にあたるステッキを平行に、右手が左、左手が右に来るように構える。そうする事で相手の爪を刃状の炎で受け止め、円を描く様に振り上げる事で弾き返した。
『相性だけで判断してるかもしれないけど、そうはいかない! 』
『その余裕も今のうちだぁっ! ぶんまわす! 』
今度は、連続で攻撃をヒットさせる作戦できたかぁ…。弾いた反動で、俺自身も数十センチ下がる。だけどすぐに地面を蹴り、前に跳び出す。左手を基準にして右手を右斜め下に構える事で、刀身を下向きに構える。相手も同じタイミングで再接近し、俺にとって弱点になる拳を大振りで振りかざしてきた。
振り方的に左から直撃すると思うから、俺は刀をその位置から斜めに振り上げる。手ごたえはあったけど、これだけでは相手を弾くことが出来ない。右の一撃が来るまでに左手を中心に回転させ、最下点に来たところで対角線上に振り上げる…。詰めるスピードでも圧しながらそれを続ける事で、俺は刀で横八の字を描く様に斬り込んでいく。
『相性が悪くても、使い方次第でどうにでもなります! 隙ありっ! 』
『なっ…、くっ』
計八太刀を左右の拳に命中させたところで、相手の連撃が一瞬緩む。当然俺はその隙を見逃さず、素早く刀身を下中央に構える。技の効果が切れて仰け反っているところに、炎刀をスッ、っと振り上げる事で体幹に沿って切り裂いた。
『もう一発! 』
間髪を開けずに振り下ろし、一刀両断に…。
『たかが一発で…、粋がるなぁっ! 地震! 』
『くぅっ…! 』
まっ、まさか、この一瞬で…? 上に斬り上げた事で数十センチ後退することになった相手は。負けじと俺に抗ってくる。ぶんまわすの効果が切れたほんの一瞬に、エネルギーを足に集中させていたらしい。着地と同時に解放する事で、半径数メートルの範囲にけたたましい揺れを発生させる。密着していた俺は当然回避する事が出来ず、大ダメージを被ってしまった。
『へっ、マフォクシーごときが俺に盾突くからだ。…この一撃で、楽にしてやるぁっ! 』
ゆっ、油断した…。だけど、ここでやられる訳には、いかない! 予想外のタイミングでダメージを食らってしまい、俺は思わず膝をついてしまう。サイコキネシスを維持する集中力も途切れてしまい、右手で持つ炎刀も雨によって消火されてしまった。
『シャドー…』
無防備になった俺にトドメを刺すべく、相手は二メートルの距離を一気に詰めてくる。右手の爪に漆黒のオーラを纏わせているから、これで決着を着けるつもりでいるらしい。
だけど俺は、ここでやられる程弱くはないつもりでいる。追い込まれた時こそ、相手には心に隙が出来る。そこを突けば、形勢逆転を狙う事も十分可能。武術の師匠であるハートさんから、そう教わっている。だから…。
『クロ…』
『マジカルシャイン! 』
この教えの通りに、カウンター攻撃を狙う! ワルビアルが爪を高い位置から振り下ろすまでの短い間に、俺は即行でステッキにエネルギーを送り込む。十分な量を溜めれなかったけど、それでもフェアリータイプに変換する。ステッキを持つ右手を高く掲げ、同時に溜めたソレを解放する。すると先端から、目を覆うほどの閃光が放たれた。
『ぉぅっくっ…! 』
『もう一発! 』
光と共に衝撃波も放たれ、その影響で相手は、たぶん一メートルぐらい弾き飛ばされる。俺自身も目を瞑ったけど、濡れた砂浜に叩きつけられる音で、大体の距離は分かる。ホウエンのカイナのビーチで戦った事があるっていう事もそうだけど、そもそも俺は沿岸の港町であるカロスのショウヨウシティ出身。俺にとって砂浜は、小さい頃から慣れ親しんだ地形。当時は殆ど気にしてなかったけど、砂地特有の性質、動きづらさには慣れているつもり…。その勘を頼りに、俺は同じ技を、完全な状態で発動。立ち上がりながら両手で持ち、高々と突き上げながらエネルギーを解放した。
『ぐぁっ…! そんな…、俺が…、マフォクシーごときに…』
『属性だけが全てじゃない。経験積んでるなら、知ってて当然だと思いますよ』
この反撃が決定打になったらしく、ワルビアルは派手に崩れ落ちる。種族上重量があるから、湿った状態でも砂が一瞬舞い上がる。ここで閉じていた目を開けると、そこには砂にまみれ倒れた対戦相手…。気を失ったらしく、これ以降何も声はあげなかった。
――――
Sideラフ
『…自然の力…、大地の力! 』
『そんな攻撃効かんわぁっ! アクアジェット』
『
竜の波動! 』
フッ君、大丈夫かな…? 私達が戦いはじめて数分経つけど、状況はあまり良くないと思う。私自身はライ姉にメガ進化をしてもらって戦ってるから問題無いけど、フッ君は思うように戦えていないと思う。クズ共とのダブルバトルで、相手はシャンデラと、確かアバゴーラっていう種族だったと思う。一応フッ君はアバゴーラを中心に攻めてもらってるけど、そのほとんどが炎タイプのシャンデラに阻まれてしまっている。それに炎技で攻められてるだけじゃなくて、フッ君は最序盤にシャンデラの毒々を食らってしまっている。今さっきフッ君は地形を生かした技を発動させたけど、そういう訳で私も、毒で体調が優れないフッ君を守りながらだから受けのバトルになっている。フッ君は光合成を使えるけど、この天気だと絶望的、だね…。
そんな訳で、フッ君の技で相手の足元の地面が隆起し、牽制の意味合いも込めて相手へのダメージを狙う。雨に濡れて動きが鈍っているシャンデラには命中したけど、水タイプのもうひとりにはそうはいかなかった。フッ君が技を発動させたのと同じタイミングで水を纏い、一直線に反撃を仕掛けてきている。だから二メートルの高さにいる私は、即座に喉元に竜のエネルギーを溜め、ブレスとして解き放った。
『遅い! 』
『えっ…、くっ! 』
『
フッ君! ムーン…』
『私を忘れるんじゃ…、ないわよ! シャドーボール』
『
フォ…、っく! 』
もっ、もう復帰した? 相手の進路を読んでブレスを放ったけど、あと数十センチのところでかわされてしまう。まわり込むように回避され、そのままフッ君へと突っ込んでいく…。いつものフッ君ならかわせたと思うけど、毒の影響、それから技を発動させた直後の硬直、両方が合わさって身動きがとれなかった。だから相手の水撃をまともに食らってしまっていた。
あれだけフッ君に接近されてしまったから、私はすぐに狙いを水のクズに定める。メガ進化した事でフリーになった両翼を前に掲げ、そこに薄桃色球体を創り出していく…。だけど注意が青クズに移ってしまったから、もうひとりの接近に気付くのが遅れてしまう。死角から放たれた三発の漆黒球に、私は対処する事が出来なかった。
『これで終わりよ! オーバー…』
『…光の、壁! 』
『
コットンガード!』
『させるか! ストーンエッジ! 』
まっ、マズい! このままだと、フッ君がやられる! 私が不意打ちで硬直している隙に、対峙していたシャンデラが地上のフッ君に狙いを定める。直線距離で四メートルぐらいあるけど、それでも奴は雨までも蒸発させそうなぐらい高温の炎塊を解き放つ。それを受けてフッ君は、咄嗟に透明な壁を出現させたけど、今のフッ君では軽減させた状態でも耐えられないかもしれない…。
だから私は、シャンデラの横を通り抜け、炎塊の後を追いかける。翼でも勢いをつけながら急降下し、同時に翼と羽毛の密度を最大まで高めていく。一応炎には追いつけたけど、その瞬間にもうひとりのクズも阻止しようと応戦してくる。私の行く手を阻むように大量の岩石群を出現させ、壁になる様に突き上げてきた。
『
そんな攻撃…、痛くも痒くもないよ! 』
『つくづく馬鹿な小娘ね…。まとめて葬ってやるわ! エナジーボール! 』
『ラフちゃん…、には、手を出させへんで…! …花吹雪! 』
それでも私は、躊躇わずにそこへ突っ込む。メガ進化にコットンガードも重ねているから、こんな石ころなんかで倒れるなんてあり得ない…。半部以上降下できたから、激突する岩石群なんかは気にせず、追い抜いた炎に向き直る。斜め下にいるフッ君に密着するように、業炎の到達に備えた。
毒が体中に回って意識が朦朧としてきているらしく、フッ君は切れ切れにこう呟く。その状態でも彼は、更に別の技を発動させる。草のエネルギーを最大まで高め、それを一気に解放する。すると私の後ろから、雨に紛れて桜色の花びらが吹き荒れ始めた。
『
うぅっ…。…フッ君! 私が時間を稼ぐから、今のうちに回復して! ムーンフォース連射! 』
『…んじゃあ…、そうさせて…、もらうで…。…光合成…』
このままだと、フッ君はあまりもたないかなぁ…。直接見てないから分からないけど、声のトーンからすると、フッ君はもう限界に近いのかもしれない。ひとりでクズふたりを相手するのは骨が折れるから頑張ってほしいけど、今はそうも言ってられなさそう。業炎、草球、その両方を羽毛で受け止めながら、私はどうしたらいいか、必死に考える。いつもは自分で思いつく前に、ライ姉とかラグ兄がアドバイスをくれるけど…。だけど今は、ふたりとも別のクズと戦っている。だから、私だけでどうにかしないといけない。それなら、折角ここまで守りを固めてるんだから、私ひとりで相手すればいい、こう言う結論に至った私は、すぐにフッ君に対して声を響かせる言い切ってからすぐにエネルギーを蓄え、また飛んできたエナジーボールを打ち消すべく四発発射した。
『ちっ…』
『ハイドロポンプ! 』
『
竜の波動! 』
うーん、でもやっぱり、クズ二体は流石に厳しいかぁ…。それなら…。薄桃と若草は狙いすまされたようにぶつかり合い、衝撃波と共に雲散する。ひとまずこれでしのげたけど、まだまだ安心してられない。丁度青クズが高圧のブレスを放ってきたから、それを押し返す必要がある。少し慌ててエネルギーを溜め直し、暗青色の属性を纏わせる。喉に力を入れながら解放し、水色の先端を狙って撃ちだした。
『
君達みたいなクズに〜、私は倒せないよ〜。所詮非社会組織のきみ達に〜私達に勝てる術なんてないんだから〜』
相手がふたりなら、片方を動けなくすればいいよね? こう言う結論に至った私は、ブレスを相手との中間の位置まで圧し返した所で、エネルギーを遮断する。そうすると私のブレスはピタリと止むから、すぐに浮上し、その場から退避する。相手を見据えながら喉へエネルギーを送り直し、片方のクズを強く意識しながら声をあげる。離す言葉にメロディーをつけて、眠らせるべく独唱する体勢に入った。
『…くっ、まさかこいつが潰されるとはね…。…シャドーボール』
『
クズ相手に手加減する気なんて、全っ然ないからね! 竜の波動!』
狙いを定めた相手、アバゴーラに接近しながら歌いあげたから、ひとまず眠らせる事に成功する。こうなれば、目覚める前に赤クズを潰すだけ…。今度は漆黒の球体を五発撃ってきたから、相手もろとも打ち消すべく、私は多めに竜のエネルギーを蓄積させ始めた。
Continue……