Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Onze des Light 〜譲れない想い〜
Soixante-dix-huit 離島の激戦(遭遇)
 Sideライト



 『ラグ兄、あの島がそう? 』
 『ああ、間違いない。あの島が、タンバシティだ』
 『…いよいよ、ですね』
 …うん。これで、決まるんだよね…? ワカバの研究所の脱出に成功し、わたし達はすぐに合流。すぐに飛び立ったから、多分誰にも気づかれずに出発する事が出来た。抜け出す時はわたしとラグナ、ラフとアーシアちゃんの組み合わせだったけど、飛ぶ時は体格差、それからわたしの状態を考慮してわたしがアーシアちゃんを乗せて飛ぶ事になった。その時はまだ暗かったから、わたしと多分ラフも、目が慣れるまでは全然見えなかった。右目だけしか見えないから大変だけど、それでもニ十分ぐらいしたらぼんやりと見えるようにはなっていた。…今思うと、丁度そのくらいに陽が昇り始めたからだと思うけど…。それでそれからは、多分二時間ぐらい飛んだかな? その頃にはチカラを使った代償が抜けていたから、全力の七割ぐらいのスピードで飛ぶことが出来た。昨日全身を打ちつけたからまだ体中が痛むけど、逆にその状態だったからラフがついて来れたと思う。耳でラグナの案内を聴いてたけど、右目だけとはいえ、やっぱり分かりやすさは違った。
 それでわたし達は、距離は分からないけど、遠くに一つの島が見えてきた事に気がつく。飛行タイプっていう事もあって目が良いラフが最初に気付いたから、その彼女が乗せているラグナがこう答える。わたしの左側を飛んでいるから見えないけど、多分ラグナは右の前足でその島を指していると思う。それにアーシアちゃんが、自分に言い聞かせるように呟いていた。
 『うん。ベータ先に行って戦ってるみたいだけど…』
 『今のところは、問題なさそうだな』
 『そうですね。雨が降ってきたけど、煙は出てないみたいですしね』
 うん、わたしにも見えたよ。わたしは脱走する前に聴いただけだけど、ラグナが言うには、ベータとスイクンが、先にタンバに向かったらしい。さっきから弱い雨が降り始めてきたから、もしかすると今も戦っている最中なのかもしれない。ラグナが言うには、スイクンは雨を降らせるチカラがあって、どんな炎でも消す事が出来るらしい。っていう事はもしかすると、わたしがヨシノで気を失う直前に降ってきた大雨は、スイクンのチカラだったのかもしれない。
 『シア姉、私もそう思うよ。…ライ姉、何か作戦はあるの? 』
 『作戦…? うーん…』
 『二手に分かれて奇襲を仕掛ける、というのはどうです? 』
 『奇襲か…。普段ならこれで行くところだが、相手はあのアルファだ。少数で攻めては逆に俺達が不利になる』
 『私達が? ラグ兄、どういう事なの? 』
 えっ、奇襲作戦じゃあダメなの? アーシアちゃんが提案してくれたけど、ラグナはあまり乗り気ではないらしい。わたしも同じ様な事を考えてたけど、ラグナにはそれを躊躇う理由があるらしい。理由はまだ話してくれてはいないけど、ラグナが言った感じだと、返り討ちに遭う、その可能性が高いんだと思う。
 『ライトは分かるかもしれないが、アイツはああ見えて用意周到な奴だ。グリース時代からそうだったが、あいつは最低でもに十数人の部下を引き連れて行動している。昨日もそうだったよな? 』
 『はい。最初から戦ってたのはテトちゃんだったけど、確かにプライズの組員が何人かいました』
 『私もそう聴いてるよ』
 『だろぅ? アイツの目論みも考慮すると、おそらくタンバのジムトレーナーも交戦している事だろう。そう考えると、戦闘員の事は考えなくてもいいはずだ。幹部の相手は、ベータが抜けた今、ゼータしかいないはずだ。ゼータの相手は、ジムリーダー自身がしていると考えられる』
 なるほどね。つまりラグナは、地元の人達も合わせれば、何とか応戦出来てるかもしれない、って事だね? 雨が少し強くなってきたタイミングで、ラグナは今回の作戦を話し始める。多分根拠から話していると思うけど、これは多分、ラグナじゃないと分からなかった事だと思う。何しろラグナは、元々密猟組織の幹部のパートナーだった。それも、アルファの同僚だって言ってた。わたし自身も四年前はその組織…、殆どラグナとそのトレーナーに、だけど、追われる立場だった。ラグナ自身は密猟組織の出だから、その組員、いわゆる反社会的組織の考える事は分かっているつもり、とも言っていた。この状況で思う事じゃないけど、今回の任務で、ラグナの真価が発揮できるとわたしは考えている。
 『俺の記憶が正しければ、アルファのメンバーは全員、イッシュ地方の出身。パートナーのヒヒダルマを筆頭に、シャンデラ、オノノクス、ワルビアル、ランクルス、アバゴーラだったはずだ。俺達の属性を考えると戦い辛い相手だが、向こうも属性に偏りがある事に変わりない。フライやクロムがいれば…、有利に戦えるかもしれんが…』
 『だけどラグ兄、あのゴミクズだけじゃなくて、エンテイもいるんだよ? エンテイはどうするの? 』
 『それなら、わたしに考えがあるよ』
 むしろわたしは、そのためだけにここまで来た、って言ってもいいかもしれないね。多分ラグナは降りしきる雨空を見上げ、遠い記憶を辿っていると思う。そこから作戦を練ってるのか、時折語尾が延びているような気がする。一応彼自身も何か考えはあるのかもしれないけど、ラフに遮られて言い切る事はできていなかった。保護…、いや、救出対象の事を挙げ、ラグナに質問。だけどその彼が応える前に、わたしがこう名乗りを上げた。
 『ライトさんに? …だけど、流石に今の状態だと、あまり戦わない方がいいと思うのですけど…』
 『うん、わたしもそう思ってるよ。だから、わたしはチカラを貸すだけ。左目が見えない状態で戦った事なんてないから、足手まといになるだけ…。だから―――』
 確かにアーシアちゃんの言う通り、今のわたしはまともに闘える状態じゃない。仮に今戦っても、フルロにさえ勝てるかどうか怪しいぐらいかもしれない…。だからわたしは、作戦を伝えるっていう意味を込めて、さんにんに自分の考えを伝えた。
 『…なるほどな。それなら、エンテイを解放できそうだな』
 『ライトさんへの負担も、最小限に抑えられそうですしねっ』
 『うん! 私もそれでいいよ』
 『じゃあ、それでいくよ! 』
 ティルとテトラとフルロにはまだ言えてないけど、三にんには後で伝えればいいかな? 細かく作戦を伝えると、ひとまず三にんは賛成してくれた。ラグナには反対されそうな気はしてたけど、今回は大丈夫だったらしい。そうと決まったら、左目が見えないわたしでも目の前まで来てるって事が分かってるから、みんなに対してこう呼びかける。
 『ああ』
 『うん! ムーンフォース! 』
 『はいです! スピードスター』
 『ミストボール! 』
 「なっ、何だ? 」
 降りしきる雨の中、目標が確認できたから、わたし達はすぐに作戦を遂行する。まず最少の作戦は、こう。弾丸系の技を使えるわたし、ラフ、アーシアちゃんが、弾数で圧しきって着陸する場所を確保する。ほぼ同じタイミングで、ラフはムーンフォースを四発、アーシアちゃんのスピードスターを七発。そしてわたしは、上手く狙いを定められないけど、ミストボールを合計十発発射した。
 「らっ、ラティアス? 怪我で動けなかったはずじゃあ…」

  わたしの事は後で話すから、今の状況を教えてください!

 『ラグナ! まさかお前達が来るとはなぁ! 』
 『来るのは当然だ! 』
 よし、っと。まずは潜入成功だね。第一段階にアーシアちゃんの作戦を採用したわたし達は、難なく戦場となっている浜辺への着陸に成功する。誰にも言わずに来てるから、当然着陸した近くで交戦しているベータは取り乱してるけど…。で、そんな彼にわたしは、アーシアちゃんが背中から跳び下りるのを待ってから、テレパシーでこう問いかける。彼の左に降りたから、驚きとか色んな表情をしているのが手にとるように分かった。
 「あら、何者かと思えば、死に損ないのラティアスじゃない」
 「みっ、見ての通りだ。地元の連中と交戦してはいるが、生憎俺達の劣勢だ」
 「折角この私が見逃してやったのに、わざわざ死ににくるところは、所詮お前も無能なポケモン…」
 「俺の手持ちはマリルリとオニドリル、ハガネールがやられ、残りはコイツだけだ」

  あまり状況は…

 「くっ…、あまり良く、なさそうですね」
 代償の効果が抜けたから行けると思ったけど、やっぱりまだダメだったかぁ…。ベータ…、いや、わたし達側に寝返ったセイジっていう彼は、戸惑いながらも戦況を伝えてくれた。アルファは独り何かを言い放ってるけど、わたしはそっちには敢えて耳を傾けない。代わりにわたしは、いつもの感覚を頼りに姿を人間に変える。だけど昨日のダメージが響いて、強烈な目眩が襲ってきた。倒れないように重心を落とし、膝に手をついて何とか堪えた。

  ひとまずこれから、アルファのメンバーを殲滅します。セイジさんにも手伝ってほしいので、わたし達が―――。

 「…まぁいいわ。エンテイの感度が落ちているが、ラティアス、お前が来たのなら好都合…。そこまで貴様が死にたいのなら、喜んで葬り、私自ら“心の雫”を奪ってやるわ!
 「…なら、頼んだ」
 「はい。ティル、テトラ、フルロ、みんなも、いくよ! 」
 ここからが正念場…、気を引き締めて行かないと…! この作戦にはセイジさんの協力も必要だから、彼にもテレパシーで作戦を伝える。同意してくれたかは分からないけど、してくれなくても、わたし達はそれを実行するつもり…、いや、実行しないといけない! だからわたしは、セイジさんの返事を聴く前に鞄に入れている三つのボールを手にとる。ずっと控えで待機してくれていたティル、テトラ、フルロを出してあげるため、同時に投擲した。


  Continue……

Lien ( 2017/05/05(金) 23:15 )