Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Onze des Light 〜譲れない想い〜
Soixante-dix-sept 深夜の語らい
  Sideライト



 『…よしっと。とりあえず、これだけ書いておけば大丈夫かな? 』
 『これなら、問題なさそうだ』
 『ライトさんはどうです? 』
 『さっきよりはマシになった、かな』
 流石に姿を変えたり“ステルス”を発動させるのは無理だけど…。これからの事について意見が一致したから、深夜の薄明りの中で作戦会議。わたし達以外はみんな寝鎮まっているから、当然声を潜めて…。わたしの状態を考慮してもらった案がまとまったから、それに向けて行動を開始していた。纏まった作戦はこう。暗闇の中で行動するから、ティル、テトラ、フルロはボールの中で待機してもらう。ティルは今書き終わったみたいだけど、何も伝えない訳にはいかないから、置手紙の準備。それが終わったから、ティルにも控えに戻ってもらう予定。それからはわたしとラグナ、ラフとアーシアちゃんの二組に分かれて、研究所を脱出する。本棚の間隔的にわたしでも通れそうだけど、四にん一気に動くとかえって目立ってしまう。だからわたしとラグナは中、ラフとアーシアちゃんは窓から抜け出して、町の西側で合流。そこからはわたしがアーシアちゃんを、ラフがラグナを乗せて、タンバに向けて飛び立つ。
 『それなら良かった。…じゃあ、あとは頼んだよ』
 『ああ』
 『うん! 』
 『はいです』
 壁に紙を当てて書いていたティルは、そっと、音をたてないよう注意しながらペンを棚に置く。細心の注意を払ってサイコキネシスで置いていたから、全くそれらしい音がしない。この静寂にあるのは、外のそよ風と、わたし達がヒソヒソと話す声だけ…。置いたティルは、わたしの首にかけている鞄の中の自分のボールにも技をかけ、それを作動させる。小さく頷いたタイミングでおさまると、それを二足で立っているアーシアちゃんが落ちないように受け止めてくれた。
 『よいしょ、っと…。ライトさん、準備できましたよ』
 『アーシアちゃん、ありがとね。…それじゃあ、いこっか』
 『うん。ライ姉、ラグ兄、また外でね』
 『ああ。アーシア、ラフを頼んだぞ』
 『うん! 』
 ラフひとりだと心配だけど、アーシアちゃんがいるから、大丈夫だね。アーシアちゃんはしまってくれてから、一度わたし達の方に向き直る。それをわたしは右目で見ながら、こくりと頷く。そのままわたしは翼に意識を向け、ふわりと体を浮かせる。まだ完全に“代償”の効果が抜けきってないけど、この感じなら飛ぶくらいなら何とかなりそう。小声でみんなに呼びかけると、それぞれパっとした表情で応じてくれた。
 『ライト、あまり無理はするなよ』
 『わかってるよ』

  ただでさえ抜け出して迷惑をかけるんだから、それ以上心配をかけるようなことはしないよ。

 これだけでも十二分に心配させることになるけど…。特に、シルクに…。これから抜ける本棚の間に向き直ると、後ろの方から微かに物音が聞こえてきた。分かりきってるから見なかったけど、アーシアちゃんがそっと窓から出て、ラフも翼をたたんでゆっくり続いているはず。だからわたし達も、物音をたてないように本棚の間を進み始める。細心の注意を払って、話の途中だけどわたしは方法をテレパシーに切り替えた。
 『ライト、体の調子はどうだ?

  まだあまりスピードは出せないけど、翼をたたんで飛ぶくらいなら出来そうだよ。

 そもそもここでスピードを出したら、風の音とかでバレるし、翼が本棚にぶつかるかもしれないからね。わたしの先導をしてくれているラグナは、さっき以上に声を潜めてわたしに訊ねてくる。彼は体勢を低くし、爪の音さえ立てないように歩いている。一見慎重に歩いているように見えているけど、それでもそこそこの速さで歩いている。この歩き方は初めて見るけど、もしかしたら組織にいた頃の技術が身体に染みついていたのかもしれない。
 『それなら良かった。…ライト、お前は意識が無かったから知らないと思うが、二本目の通路を左、突き当りの扉を出ると外だ

  二本目を左で、そこから真っ直ぐいけば外、なんだね?

  って事は、そこそこ広いのかな、この研究所って。斜め後ろから見た感じだと歩きにくそうだけど、ラグナの歩調は全然落ちてない。左目が見えないせいで距離感が全く掴めないけど、多分少しずつ離れていってるかもしれない。だから慌てて速度を少し上げ、彼の後を追いかける。
 『…しかし不思議なものだな。四年前までは追う立場、敵同士だったが、今では背中を預け合う仲間。当時の俺達では、全く想像できなかっただろうな

  …そうだね。それによく考えたら、わたし達って十何年も前から関係があったんだよね。

 『フッ…、そうだな。あの頃の俺はポチエナで、純粋にジム巡りをしていたからな

  わたしなんて、まだ何もチカラを使えなかった時だからね。そういえばあの時は、初めてアオイさんに本島に連れてってもらった時だったかな。

 今思うと、本当に懐かしいよ。立ち並ぶ本棚の間を駆け抜ける間に、いつしか思い出話に華が咲き始めていた。立場が違ったとはいえ、奇妙な運命に思わずわたしの口元が緩む。正面を向いたまま走ってるから分からないけど、チラッとわたしの方を振り返ってくれているのを見ると、多分ラグナも笑みを浮かべていると思う。状況的にはそんな場合じゃないけど、そのお陰で、何時間ぶりに心から笑えたような気がした。



――――


  Sideアーシア



 『…それじゃあ、いこっか』
 『うん。ライ姉、ラグ兄、また外でね』
 『ああ。アーシア、ラフを頼んだぞ』
 『うん! 』
 はい! 体の事が心配だったけれど、ライトさんは何事も無く浮くことが出来ていた。内心ホッとしていると、ライトさんがすぐにこう呼びかける。それに私達は頷き、脱出のために行動を開始する。…つい、いつもの大きさで声をあげそうになっちゃったけど…。
 『よっと…。ラフちゃん、通れそう? 』
 『正直際どいけど、翼をたためば何とか通れると思うよ』
 そっか。なら良かった。みんな揃って小さく頷いてから、私達は窓の方に向き直り、そっちの方に歩いていく。二足で歩きながら見た感じだと、多分私は余裕で通れると思う。だけどそこそこ高い位置にあるから、私は窓の冊子にそっと手を添える。足で同時に地面を蹴り、同時に手でそこを強く押す。勢い余って足をぶつけちゃったけど、ひとまず私はこうして窓の冊子によじ登る。この後でラフちゃんも通ることになるから、すぐに外に跳び下りる。たまたま一階の窓だったから、着地の時に屈むだけで衝撃を逃がすことが出来た。振り返りながら訊ねると、ラフちゃんは丁度空いた窓の幅を目で測っている所だった。
 『…ちょっとキツいけど…、うん。シア姉、お待たせ』
 『じゃあいこっか』
 ギリギリ、だね…。ラフちゃんは行ける、って判断したらしく、躊躇いなく窓の冊子に向かう。危うくハマりそうになってたけど、何とか通り抜ける事が出来ていた。ラフちゃんの翼は綿みたいにフワフワだから通れたけど、もし違ったら無理だったかもしれない。…兎に角無事通れたから、ラフちゃんはにっこりと笑いかけながら翼を広げ直していた。
 『うん! …そういばシア姉? 』
 『ん? 』
 ラフちゃん、急にどうしたんだろう? 研究所の外に出たって事で、私達はすぐに加速する。真夜中とはいえ外に出たから、多少は物音がしても大丈夫だとは思う。そういう事で私は、手を地面につけて四足の体勢になっている。トップスピードになったタイミングで、ラフちゃんがふと私に声をかけてきた。
 『今までずっと訊けなかったんだけど、シア姉って何で二足で立てるの? 』
 『ええと、そういえばあの時、ラフちゃんは近くにいなかったね。私も皆の前で言うタイミングを逃してたのだけど、元々別の世界の人間だったから、かな』
 『えっ、そっ、そうだったの? 』
 『はいです。前にも話した通り、導かれたのは五千年後の世界なんですけど、そこと元々私達がいた世界を救うため、ですね』
 『私、たち? 』
 『うん。導かれたのは私だけじゃなくて、他にも何人もいたんです。何とか世界は救えて、一応元の世界には戻れたんだけど、私だけ残ったんです。まだ、したい事…、しないといけない事があったから…』
 『したい事? 』
 『そう。…この事件が解決したら、みんなの前でゆっくり話しますねっ』
 本当はシルクさんとウォルタ君が書いた本があると早いんだけど、五千年後の世界の文字で書いたものだからなぁ…。話したい気持ちは山々だけど、今話すと長くなりそう。ライトさん達との合流地点に近づいているっていう事もあるから、無理やりになっちゃったけど話を切り上げる。
 『ひとまず、今はライトさん達を…、あっ、来ましたね! 』
 そうこうしているうちに、研究所のある方向から話し声が聞こえてきたような気がした。こんな時間だから気のせいかもしれない、そう思いながら声がした方を見てみると、ある意味予想通りの人物がふたり…。ラティアスのライトさんと、グラエナのラグナさんが、こっちの方に向かってきている所だった。


  Continue……

Lien ( 2017/04/30(日) 00:21 )