Quatre-vingts-cinq 離島の激戦(終結)
Sideコット
『
グアァぁぁぁぁぁーーっ! 』
「こっ、今度はなに? 」
「すっ、凄い声量…」
『この声は…、フラムさん! 』
ちょっ、ちょっと待って! この声、絶対にただ事じゃないよね? コルドさんの一声のお蔭で、何とか不意の攻撃に対処する事が出来たけど、僕、フィフさん、それにユウキさんとコルドさんも、急に聞こえてきた大声に驚いてしまう。正確な場所までは分からないけど、ここでもこれだけの大きさで聞こえてきたから、あまり離れていないと思う。どこか苦し気な声がした方に振りかえりながら、僕は思わず、疑問も乗せてこう呟いた。
「…まさか、私のエン…」
ユウキ! 今のうちに…!
「あっ、うん! シルク、コルド、リーフ! コット君も、四にんは声がした方に向かって! 」
「…だけどユウキさん、ここはどうするんですか? 」
確かに向こうも気になるけど、アルファの事は大丈夫なのかな? まだ幹部のメンバーも残ってるはずだし…。フィフさんの呼びかけで、僕はハッと我に返る。さっきの大声で気が逸れちゃってたけど、僕達はまだ戦っている最中…。多分ユウキさん達もそうだと思うけど、彼もフィフさんの言葉で短く声をあげる。小さく頷くと、語調を強めて、僕を含めたみんなに指示を出してくれた。
一応近くでフィフさんの別の仲間ふたりが戦ってるけど、それでも相手はそれ以上の数がいるから、僕はあまりこの場を離れない方がいいと思う。格闘タイプだと思うけど、白い種族のあのひとも合わせても、ユウキさんとふたりだけになってしまう。だから僕は、ユウキさんにこう迫った。
「コット君、ここの事は心配しないで。…オルト! 」
『ふたりにこっちに来るよう伝えて! 十万ボルト! 』
『スーナとフライだな? 』
フライさん? って事は、イグリーも来るって事だよね? 僕の疑問に、ユウキさんは背中越しに答えてくれる。フッと小さく笑み? を浮かべる。かと思うとユウキさんは、最前線で戦っているふたりのうち、オルトさん、っていうひとにこう呼びかける。ピカチュウの姿になって、電撃を放出しながらそっちの方に駆けていった。
『そうなるね。…シルク! 』
ええ! コルド! コット君!
『はい! 』
「うっ、うん…! 」
ユウキさんの指示を受けて、リーフって呼ばれた緑色の彼が僕達の方に戻って? きた。白い彼に続くように呟くと、喋れないフィフさんを見てから大声をあげる。僕もどういう意味かは分かったけど、フィフさんはこれだけで察して大きく頷く。フィフさんは短く言葉を伝えながら、先陣を切って駆けだす。その彼女に僕、コルドさん、それからリーフっていう彼も、一歩遅れて続いた。
『コットさん! これからフラムさん…、エンテイと戦う事になるかもしれません。気を引き締めて下さい! 』
「はい! エンテイの強さは、間近で見た事があるからわかってます! 」
『しっ、知ってるって…』
ニアロ君達を保護した時に聴いたんだけど、コット君達も鈴の塔で戦ってたらしいのよ。
僕が闘った訳じゃないけど、全然歯が立たなかったから、その強さは十分わかってるよ! 島の中心に向けて走りながら、コルドさんは僕に対して注意を呼びかける。どういう関係なのかは分からないけど、名前、なのかな? エンテイの名前を知ってるって事は、それなりの仲なんだと思う。話題に上がっているエンテイの強さは十二分に分かってるつもりだから、僕は力強くこう言い切った。
これにリーフさんは、呆気にとられたように呟く。僕達とは違って這ってるから若干遅れ気味だけど、それでも彼は何とかついてきてくれている。リーフさんと会うのは初めてだから仕方ないけど、僕のことは多分、フィフさんの従兄弟っていう事しか知らないはず。だからすぐに事情を話そうとしたけど、ほんの少しの差でフィフさんが頭の中に声を響かせたから叶わなかった。
『鈴の塔…。っていう事は、エレン君はコット君達を逃がすために、囮になったって…』
『多分、そういう事だと思います』
私もそう思ってるわ。私の治療薬を使ったからもう大丈夫だとは思うけど、フラムさんの聖なる炎で火傷を負ってるから…、そう考えるのが自然ね。
「えっ、エレン君が…? 」
それってまさか…、トレーナーのエレン君に攻撃した、って事だよね? この感じだとリーフさんもだと思うけど、フィフさんとコルドさんの話しで、僕の中の何かが繋がったような気がする。怒りの湖でルギアさんとフィフさんと合流した時、結構お喋りのはずのエレン君が全然話しかけてこなかった。直接は言ってないけど、あの時エレン君は、気絶していて…、それか酷い怪我を負っていて…、まともに話せる状態じゃなかった、んだと思う。トレーナーに攻撃した、っていうのはとんでもない事だけど、状況的に納得できた気がした。
『僕は怒りの湖で別の任務に就いていたから分からないけど、シルクからそう聴いてるよ』
「フィフさんから? 」
ええ。本当は私とフライも怒りの湖で交戦する予定だったけど、そういう訳で行けなかったのよ。
えっ、フライさんも? っていう事は、もしかするとあの時、フィフさん達とも一緒に戦う事になってたかもしれない、って事だよね? リーフさん達もあの時、湖にいたっていう事に驚いたけど、僕はそれ以上に、そういう事にビックリしてしまう。たまたまフィフさんと会ったんだと思ってたけど、偶然じゃなくて必然だった…、僕はそう思わずにはいられなくなってしまった。どういうルートで来てたのかまでは分からないけど、陸路で考えるなら、怒りの湖へはコガネからはエンジュを通らないと行く事が出来ない。時間的に考えても、どう足掻いても起きた事…。上手く言葉に出来ないけど、僕は壮大な事に呆気に取られてしまった。
『僕はアークさんから聴きました。…シルクさん、リーフさん、コットさん…! 』
『うん! 』
「はい! 」
言われなくても、分かってます! そうこうしている間に、僕達はもう一つの戦場に辿りつく。まだ技の射程距離には入ってないけど、その場所をしっかりと捉える事が出来た。だから僕は、コルドさんに言われる前から気を引き締める。短く返事し、こくりと頷きながら戦闘に備えた。
そのつもりよ!
『リーヴェルさん! おま…』
『…なのです? 』
『そうか…、囚われていた影響が、出ているという訳か』
「えっ、この状況って…」
もしかして…。声が届く範囲まで駆け寄り、コルドさんが真っ先に声をあげる。お待たせしました、そう言おうとしてたと思うけど、彼はこの状況を目にして声を小さくしてしまう。そこに広がっていたのは修羅場、というよりは平穏、っていう感じの光景。途中からしか聞けなかったから分からないけど、ブラッキのアーシアさんが、目の前に倒れているエンテイに話しかけているところだった。
ティル君、これって…
『あっ、シルク! それにコルドさんとコット君にリーフさんも。俺達だけで何とか解放できたから、もう大丈夫だよ』
『ティルさん達だけで? という事は…』
『その通りだ。コルド、フラムの事はもう心配するな。この通り、無事だ』
もしかして、既に解決した、って感じ、だよね? フィフさんが一番近くにいたティルさんに話しかけると、すぐに気付いてくれた。マフォクシーの彼は僕達の方に振り向き、安堵した表情を浮かべながらこう言ってくれる。これだけだといまいち状況が分からないけど、少なくとも戦闘中じゃない、って事は確かだと思う。疑問符で満たされている僕達のうちコルドさんが、いち早くここにいる誰かに問いかける。するとスイクンさんが、倒れているエンテイをチラチラ見ながら、手短に説明してくれた。
「…っていう事は、僕達が来なくてもよかった、ってことですよね? 」
急いで来たのに無駄だったって事になるから、後味が悪い…。だけどその反面、あんなに強かったエンテイと戦わなくてよくなった、そういう思いも確かにある。…なんというかモヤモヤする終わり方になっちゃったけど、ひとまず危機は脱したのかもしれない。パッと見た感じ、ライトさんも無事だとは思う。誰も大きな怪我を負ってないみたいだから、複雑な気持ちに満たされながら、僕はこう呟いた。
Chapitre Onze de Cot 〜終息に向けて〜 Finit……