Quatre-vingts-deux 離島の激戦(疾化の絆)
Sideコット
『…トレーナーもいないお前達に、それが出来るとは思わないがな! 水の波動! 』
『火炎放射! 』
「チャージビーム! 」
受けてたつわ!
ブロスターっていう種族の相手が荒らげた声をきっかけに、僕達の戦闘が幕をあげる。相手のふたりは水のリングと炎のブレスを発動させる。天候的には不利だけど、相当温度が高いらしく、雨に打たれる火炎からは真っ白な蒸気があがっていた。
それに対して僕は、左から迂回するように駆け出し、同時に喉に電気のエネルギーを蓄える。上陸してから何回も発動させているから、幹部のひとが相手でもそれなりに戦えるはず…。そう思いながらブレスとして放出し、対角線上にいたブロスターをスラッシュの記号を書くように狙う。フィフさんはフィフさんで、浮かせていたエネルギーのうち黄色と青のソレで、壁を作りだしていた。
『クソガキが…、ナメるな! 冷凍ビーム! 』
『…っ! 』
うそでしょ? これだけ強化してるのに? 僕が狙っているブロスターは、すぐに僕に対する対処をしてくる。後ろに跳ね下がりながら技を準備し、右の鋏に蓄積させる。そこから光線を発射する事で、僕の雷線を打ち消そうとしてくる。僕はてっきり牽制のつもりで発動してきたのかと思ってたけど、それにしては凄く圧が重い気がする。下が濡れた砂だから踏み込みにくいから、僕の方がズルズルと後ろの方に圧し込まれ始めてしまっていた。
『あーら、威勢が良かった割には、苦戦してるようじゃない? 目覚めるパワー! 』
「どっ、同時…、っく! 」
コット君!
『ちっ…、跳び跳ねる』
さらにそこへ、フィフさんに技を防がれたカエンジシが援護射撃を仕掛けてきた。横目でしか確認できてないけど、口元に濃いえんじ色の球体を創り出し、僕の右腰辺りを狙って撃ちだしてきた。すぐにでも対処したかったけど、何しろ今はブロスターの氷線に抗っている真っ最中…。だから僕は、横からの弾丸をまともに食らってしまった。
だけど僕に攻撃を仕掛けてきたカエンジシ自身も、意識が逸れていることに変わりはない。フリーになっているフィフさんがすぐに反応し、青と茶色のエネルギー塊の全部をその相手に向かわせる。前者を霧状に分解して四メートルぐらい先にいるカエンジシの足元に漂わせ、後者を無数の針状にして囲ませ、中心に向けて収束させる。技そのものの形状自体を変えてるからそれだけでも十分に凄いけど、フィフさんはそれを同時にしている…。サイコキネシスはイメージと集中力が肝心だ、って聴いた事があるから、フィフさんのそれらの強さが何となく分かった気がした。真上に跳ばれて、かわされちゃってたけど…。
「空中に逃げるなんて、墓穴を掘ったんじゃないですか? 」
空中に跳んでるって事は、チャンスだよね? それなら…。不意のダメージを食らったけど、貯めが甘かったらしくあまりダメージは無かった。砂まみれになりながらもすぐに立ち上がり、僕は大きく跳躍している相手に目を向ける。その相手が見ている方向からすると、狙いは多分白衣を羽織ったエーフィ…。僕への注意が散漫になってるはずだから、それを利用して反撃を仕掛ける事にした。
まず初めに、僕は自分の潜在的な何かに強く意識を向ける。それを活性化させ、エネルギーにリンクさせることで状態を高めていく…。次に僕は、技を命中させる相手…、ではなくてその敵から直線距離で二メートル離れた地点の空中を、強く意識する…。
「アシストパワー! 」
するとそこに薄紫色の球体が出現する。チャージビームの効果で“特殊技の威力が強化”させている、アシストパワーの効果で“自身が強化されているほど威力が底上げされる”…。この二つの追加効果が掛け合わさっているから、僕の設置技は三十センチぐらいにまで膨れ上がっていた。遠隔射撃するようにそれを飛ばし、逃げ場が無いカエンジシを撃ち落とそうとする…。
『させるかぁっ! 波動弾! 』
だけどもうひとりの相手も、黙ってはいない。完全に隙だらけの僕を狙い、十五センチぐらいの弾丸を発射してくる。僕から二メートルの位置まで接近してきているから、多分タイミング的にもダメージは免れられないと思う。だけど…。
「僕の観察眼を、甘く見ないでください! 」
同じ手は、通用しない。横目でブロスターの様子を見ながら発動させていたから、今度はすぐに対処する事が出来た。アシストパワーを飛ばしてからすぐに技を切り替え、全身の筋力を活性化させる。雨に紛れて空気をかき分ける音が聞こえてきたから、それを頼りに僕に大体の到達時間を計算…。瞬間的に力を解放し、その場で伏せるように体勢を低くする。お腹が砂についたタイミングで、僕の背中スレスレの位置をえんじ色の弾丸が通り過ぎていった。
『見切りか…。だが、あいつにアレを発動されては、あのエーフィもここまでだな』
「えっ…、フィフさん! 」
えっ? 伏せた状態からすぐに体勢を起こし、僕は空中にいるカエンジシの方に目を向ける。横方向に流れているから命中したと思うけど、一撃で倒すまでには至らなかったらしい。跳び跳ねた状態のカエンジシは空中で技を中断し、別の技に切り替えているらしい。僕が見た感じだと意識が薄れ始めているような気がしなくもないけど、それでもかまわず、フィフさんに決定的な一撃を与えるつもりなんだと思う。何しろカエンジシは、自由落下しながら燃え盛る炎を体に纏っている。フレアドライブだと思うけど、落ちる勢いも乗せてフィフさんに狙いを定めていた。
『愚民如きが…、調子乗ってるんじゃ…ないわよ! あたしの一撃で、燃え尽きるがいいわ! 』
『悪の波動! 』
僕と対峙していたブロスターも、作戦なのか狙いをフィフさんに変える。ありったけのエネルギーをかき集めて、それに邪悪な何かを混ぜ込んでいく。目の前にいる僕には目もくれず技を発動させ、黒い波紋を見上げているフィフさんに向けて解き放つ。
このくらいの攻撃…、暴走した時の化身に比べたらどうって事無いわ!
『なっ…、くっ…! 』
『嘘だろぅ? このコンボが、崩されただと? 』
ふぃっ、フィフさん? なっ、何をしたの、今? 僕の予想では、業炎と化したカエンジシと真っ黒な波紋が、同時にフィフさんにぶつかるはずだった。だけどそうはならず、サイコキネシスとは違う何かに弾き飛ばされていた。もの凄い勢いだったらしく、フィフさんの周りの砂が、半径三メートルぐらいの範囲にわたって抉れていた。
「これって…、風…? 」
七メートルぐらい離れた場所にいたから、僕はそのモノが何なのか、このタイミングで知ることになった。フィフさんがいる方向から、砂混じりの突風が吹きこんできた。飛ばされる程じゃなかったけど、雨と合わせた不純物が僕に叩きつけてくる。一瞬吹き飛ばし、っていう技な気がしたけど、それじゃないってすぐに気付く。従兄弟の彼女は能力の影響で六つの技が使えるけど、その中のどれにも当てはまらなかった。
エネルギー保存則…。貴方達には分からないだろうけど、事物が持つエネルギーは、かたちが変わってもその合計は一定になる…。それは私達、ポケモンの技にも当てはまるわ。厳密に言うと、これは技でも何でもなくて、ただ自然法則を応用したもの…。放たれた特殊技をエネルギーそのものに還元し、それを風力に変換しただけ…。だけどその使い方次第で、その効果を何倍にも引き上げれるのよ!
『―――! 』
スクールで聴い事がある気がしたから、僕はなんとなくフィフさんが説いたことを理解できたと思う。どの教科だったかは覚えてないけど、カナが卒業するちょっと前ぐらいにそう習ったような気がする。確かにフィフさんのいう通り、僕は本当にその法則を使ったんだと思った。何しろさっきはあんなに浮いていたエネルギー群が、今ではゴーストタイプらしいソレだけになっていた。
これだけ伝えきったフィフさんは、突風で出来た穴を思いっきり跳び越し、直近のカエンジシとの距離を詰めはじめていた。距離的に跳びきれそうに無かったから、フィフさんは残ったエネルギーを分解し、その効果で強めの風を発生させる。それを使って自分自身を吹き飛ばし、難なく砂浜に出来た大穴を跳び越える。前足が砂についた瞬間に技を発動させ、バチバチと音をあげる電気を体中に纏わせていた。
『そんな事…、知った事か…! 目覚めるパぁっ…! 』
「目覚めるパワー! 」
『ぐぅっ…! 悪の…、波動…! 』
その状態でフィフさんは、かなりの量の電撃を放出する。離れた場所でも毛が逆立つほどのそれを三筋に分裂させ、カエンジシ、ブロスター、それから僕にも向かわせる。サンダースの僕にとってはすごく嬉しい事だけど、これを食らったらひとたまりもないと思う。意識が朦朧としているカエンジシはかわせていなかったけど、ブロスターはギリギリのところで跳び退いていた。だけど特性の効果で回復してもらった僕の氷弾までは、かわし切れていなかった。
「見切り…、からのチャージビーム! 」
ブロスターが一瞬怯んだから、僕はその隙に一気に距離を詰める。筋力を活性化させることで黒い波紋を跳び越し、着地と同時にエネルギーを蓄積させる。フィフさんには勝てないけど、それでも強めの電気に変換し、その状態で技を温存する。
「これで最後です! 」
『なっ…、冷…』
一メートルの距離まで急接近し、間合いに入った所で思いっきり喉に力を込める。電気のブレスを撃ちだし、それが丸腰のブロスターを貫く…。
『…っあぁッ…! 』
コット君には、技一発当てさせはしないわ!
そこへ更にフィフさんも、同じタイミングで攻撃を仕掛けていた。多分二つの技を組み合わせていると思うけど、フィフさんの弾丸は独特な形状をしていた。色的にドラゴンタイプの目覚めるパワーだと思うけど、十センチぐらいの長さの棘の周りを、漆黒のエネルギー体が螺旋状に渦巻いている。雨をかき分けるごとに漆黒と紺の速度が増し、僕から見て斜め方向から直行する。ちょうど僕の光線との交点、ブロスターがいる場所に、ほぼ同時に到達した。その甲斐あって、僕が相手していたブロスターは耐え切れずに崩れ落ちていた。
「フィフさん! 」
ええ!
相手を倒せたのを確認すると、僕達は互いに視線を交えさせる。目で合図を送ると、フィフさんもそれに応じてくれる。その流れで僕達は、止めていた足を一気に進める。同じ島とはいえまだ離れた場所にいる、ライトさん達の元に向けて…
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