Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































小説トップ
Chapitre Onze de Cot 〜終息に向けて〜
Quatre-vingts-un 離島の激戦(上陸)
 Sideコット



 「フィフさん、あの島がそうですか? 」

  ええ、そうよ。

 『いよいよ、だね』
 うん、見えてきただけで凄く緊張してきたよ…。ネージュとカナと別れてからしばらくすると、遂に目的の島、タンバシティが見えてきた。まだ百メートル以上あるけど、その島の緊張感とか臨場感とか…、いろんなものがここまで伝わってきてるような気がする。伝説の種族がふたりもいるから、ピリピリした空気がここでも感じられる。プレッシャーっていう特性だ、ってフィフさんが言ってたから、多分その影響だと思う。だからまだまだ距離があるのに、鼓動が早鐘を打ってきている。これからこの緊張感の中で戦うんだ、こう改めて感じ、凄く身が引き締まってきた。ちょっと前から強い雨が降ってきてるからびしょ濡れだけど…。
 『うん。…コット君、イグリー君。危ないって思ったらすぐに逃げてよ』
 『そういう約束だもんね』
 「もちろんです」
 コガネとか怒りの湖で戦った事があるけど、今回は訳が違うからね。フィフさんを乗せているフライさんは、カナの元を離れて来ている僕達に念を押す。会った時はいつも明るかったフライさんでも、さすがに今回はそうはいかないらしい。イグリーの背中から見た感じでは、どこか表情が強張っている気がする。神妙な様子で言ってきたから、僕達は気を引き締めて返事した。

  極力私達も、注意しておくけど…。…突入する前に、コット君、イグリー君も、改めて使える技、教えてもらっても良いかしら?

 「えっ、うん。僕はフィフさんに教えてもらった、目覚めるパワーとアシストパワー。それからチャージビームと、見切りです」
 『コット技の半分が、シルクさんからだからね。俺は追い風と燕返し、鋼の翼と追討ちだよ』
 『とりあえず弱点属性に対して、対策は出来てるって感じだね』
 僕なら目覚めるパワーで、イグリーなら鋼の翼だね。多分戦略とかの確認だと思うけど、羽織っている白衣が短毛に張りついているいるフィフさんは、改めて僕達に語りかけてきた。僕は少し拍子抜けしてしまったけど、それでもとりあえず、素直に教える。だけどよく考えたら、フライさんは僕達の技を知らないし、逆に僕達も分からない。少し気付くのが遅れたけど、こういう意図があったのかな、って僕は気付くことが出来た。

  ええ。…それじゃあ、絆の名に賭けて、いくわよ!

 「はい! 」
 『うん! 』
 『任務開始、だね』
 …よし、兎に角、戦い抜こう! そうこうしている間に、僕達は目的地の海岸線に辿りつく。イグリーとフライさんが海面スレスレに滑空し始めたから、僕は彼の背中で跳び下りるタイミングを見計らう。そうしているとフィフさんが、気合を入れるようにかけ声? …うーんと、喋れないから“声”って言えない気がするけど、僕達三にんにこう呼びかける。だから三者三様に、気を引き締めて返事した。

  コット君、行くわよ! ついていて!

 「はい! チャージビーム! 」
 そういえば、フィフさんの本気のバトルを見るのって、初めてだっけ? 言うが早いかするが早いか、フィフさんは僕に駆け下りながら言葉を伝えてくる。浅瀬に降りたって事もあって、その場所に派手な水飛沫(みずしぶき)が一つあがる。それに続いて、僕も海に飛び込む。いつもならちょっと躊躇うけど、もう雨で濡れてるからどうでもいい…。思いっきり頭から飛び込んだから、ちょっと目にしみてきたけど…。
 だけど僕は、すぐに水面から顔を出して技の準備をする。少し泳いだら足が底についたから、すぐに歩くように前に進む。陸地より進みにくいけど、それでもめげずに先を進むフィフさんの後を追う。フィフさんの少し左に逸れて、溜めたエネルギーを黄色いブレスとして放出する。同じタイミングでフィフさんも、真っ黒な球体、シャドーボールを五発連続で撃ちだしていた。
 『ぐぁっ…』
 「うっ、海から? 」

  プライズ! 私達がまとめて相手になるわ!

 「もう一発チャージビーム! 」
 一直線に進む電気の光線は、一番近くにいたフォレトスを捉える。そこへ更にフィフさんの弾、一発が着弾し、派手に吹き飛ばす。前に能力の効果で、特殊技の威力が限界を超えているって聴いてたけど、それでも僕はビックリしてしまった。何しろフィフさんは、残りの四つをサイコキネシスで操って、それら同士をぶつける事で球体を細かく分解。これを何回も繰り返す事で無数に増殖させ、目で見える一面の敵に、ほぼ同時にダメージを与えていた。
 彼女の凄技に驚きながらも、僕はもう一度同じ技を発動させる。今度はフィフさんの真横で発動させたから、首を左から右に振る事で目の前を薙ぎ払う。これはフィフさんの技の威力が高かったからだと思うけど、これだけで二、三にんが崩れ落ちていた。
 「フィフさん! 目覚めるパワー! 」
 これである程度は強化できたはずだから、一気に攻めれるかな? 上陸した僕達は、四肢に力を込めて一気に駆け出す。口元に氷のエネルギーを蓄積させ、それを丸く形成する。相手の数が数だから控えめにしたけど、僕は五センチぐらいの氷球を四発、連続で撃ちだした。
 フィフさんはフィフさんで、さっきとは別の方法で攻撃を仕掛ける。横目でチラッと見ただけだから見間違いかもしれないけど、彼女は口元で、黒と紺のエネルギーを渦を巻くように混ぜ合わせる。四発放ってから改めて見てみると、そのエネルギー体の大きさは二メートルぐらいまで膨れ上がっていた。上を向いて解放しても撃ち上らなかったから、多分サイコキネシスで操っていると思う。それだけでなく…。
 「ふぃっ、フィフさん、いつの間にそんなに? 」
 僕が見上げた視線の先には、色とりどりのエネルギー体がいくつも浮いている…。これもサイコキネシスで浮かせていると思うけど、薄水色と黄色、青や黒、それに茶色に銀色…。十色のエネルギー体が、彼女の斜め上で追うようについてきていた。

  コット君! 右から来てるわ!

 「えっ? 見切り…! 」
 フィフさん、ごめんなさい! 気が逸れてました…! フィフさんの上エネルギー群に気を取られていると、その彼女から強めの言葉が伝わってくる。そこでようやく、僕は自分に対して相手が接近してきていることに気付く。横目で見ただけだから種族までは確認してないけど、僕は咄嗟に筋力を活性化させ、回避行動に移る。瞬間的に前足で踏ん張って、その状態から右を強めに、同時に砂を押し込む。そうする事で時計回りに反転し、走ってた勢いも合わさってそのまま跳び下がった。
 『ちっ、かわされたか』
 『コイツのフレアドライブをかわすとは、ガキのくせに大したものだな』
 ふっ、フレアドライブ…。あっ、危なかった…。着地しながらさっきまで居た場所に目を向けると、そこには炎を纏った相手がひとりと、それを追うもうひとり。その彼女? は舌打ちし、もうひとりは癪に障る言い方で僕にこう言ってくる。何て言う種族か、分からないけど…。

  …ゼータのカエンジシとブロスターね。…これだけの規模だから、総動員、って感じかしら?

 『あぁそうさ。アルファ様のプロジェクトがようやく始動したんだ、幹部の俺達が暴れない訳がないだろう? 』
 「幹部って…」

  そうよ。今は味方だけど、ベータと同じ地位になるわ。

 って事は、強いって事だよね? 上級技のフレアドライブも使ってたし…。フィフさんが教えてくれたけど、ブロスターっていう種族の相手は、いかにも挑発するような感じでこう言ってくる。このひとが言うプロジェクトは、多分ジョウトのジムを潰す事、何だと思う。だけどイグリー達に乗せてもらってた時に見た感じだと、まだヨシノみたいに焼け野原にはなってなかった。その代わりに島中でバトルが繰り広げられていたから、戦場って言ってもいいかもしれない。
 「ベータと…」
 『…まぁいいわ。相手が誰であろうと、邪魔をするなら葬り去る。あたし達と出くわしたのが運の尽きね』

  運の尽き…? いいえ、寧ろ幸運と言ったところね。上陸して早々に、幹部の戦力を削ぐ事が出来るのだから…。エクワイルのオーリックとして、このチャンスを逃す訳にはいかないわ!

 「そうです! 僕だって、プライズを止めれるなら、全力で立ち向かいます! 」
 破壊し尽された町は、もう絶対に見たくはない…。だから、それを阻止できるのなら…! ああいえばこう言うって言う感じで、僕達は互いに言葉で火花を散らす。ヘクトぐらいの大きさの彼女は、僕達を見下すように言い放ち、フィフさんはそれに正面から対抗する。…いやそれだけでなくて、フィフさんは自らの使命を言い聞かせるように、相手のふたりに言葉を飛ばす。それに続いて僕も、ワカバを出る時からの決意を胸にこう言い放った。
 『面白い…。トレーナーもいないお前達に、それが出来るとは思わないがな! 水の波動! 』
 『火炎放射』
 「チャージビーム! 」

  受けてたつわ!

 ここから本格的に、戦闘開始かな? ブロスターっていう種族の彼は、乱暴に声を荒らげる。何タイプかどんな技を使えるのかも分からないけど、水のリングを飛ばしてきたから、少なくともそのタイプだとは思う。この感じだと多分、狙いはフィフさん。もうひとりの相手もこれに続き、喉元に技を準備する。雨が降ってるから威力が落ちる気もするけど、燃え盛る炎のブレスとして僕に発射していた。これに対しフィフさんは、浮かせているエネルギー群のうち、黄色と青色の一部を本体から切り離す。それを壁状に変形させ、それぞれの壁になるようにそびえ立たせていた。更に僕もこれに続き、電気を帯びた光線を正面に解き放つ。狙うのはもちろん、予想だけど相性的に有利なブロスター。それぞれに相手の出方を伺いながら、離島での激戦が幕を開けた。


 Continue……

Lien ( 2017/05/14(日) 22:38 )