Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Onze de Cot 〜終息に向けて〜
Quatre-vingts 焦りと苛立ち
 Sideネージュ



 『シルクさん、あとどのくらいかかる? 』

  そうね、フライの全力で三十分だから…

 『このペースなら五十分、ってところかな』
 「あと五十分ぐらい、だって」
 そっか、まだそんなにかかるんだ…。慌てて跳び出した状態だからまだ落ちつけてないけど、ラフさん達のトレーナーが脱走したって聴いて、私達も慌ててその場所に向かっている。ヘクト君が言うにはタンバシティみたいだから、ヨシノシティから海に出た。その途中で昨日火事があった町を見てきたけど、何というか…、一面の焼け野原? になってて、凄く焦げ臭かった。もしあの場所にいたら、って思うと怖くなってくるよ…。話を元に戻すと、ヨシノシティから海路だから、コバルオンっていう種族のコルドさんとは一旦別れた。ヘクト君とかオークス君はカナさんがいるから大丈夫だったけど、コルドさんはシルクさん達と同じトレーナーのメンバー…。だから、一度コガネシティに戻ってから向かうって言ってた。
 だから今は、私がカナさん、イグリー君がコット君、フライさんがシルクさんを乗せいる。海に出て三十分ぐらい経ってると思うけど、そのタイミングでイグリー君がシルクさんに訊ねる。喋れなくなっちやったシルクさんは少し考えてたけど、それに割り込んでフライさんが答える。少し前を飛んでるから振りかえっていたけど、それでもスピードは全然落ちていなかった。
 「五十分も? 」
 『うん。この景色なら、ヒワダタウンの近くぐらいまでは来てると思う、けど…』
 『あれ? ネージュちゃんって、この辺りに来た事があるの? 』
 『そういえばネージュって、野生の時は毎年この辺を行き来した事がある、って言ってたっけ? 』
 そうだけど、これって…。私はこの景色に見覚えがあるから、カナさんの言葉にこくりと頷く。イグリー君の言う通りだけど、私は別の事を気にしはじめちゃったからあまり話が頭に入って来なかった。何しろ今は、海路を進んでいるけど私のペースに合わせてもらっている状態。水上だから早く泳げるけど、それでもやっぱり飛ぶスピードには勝てない。野生時代も、私は群れの中でもあまり早い方じゃなかった。
 『うっ、うん…』
 「確か生まれはカントーだけど、頻繁に渦巻き島にも行き来してた、って言ってたよね? 」
 『そう、だけど…』
 私よりも後にメンバー入りした、ヘクト君とオークス君にはタイミングを逃して話せていないけど、コット君とイグリーが覚えていてくれていたのは凄く嬉しかった。だけど私は、それでもある事が頭から離れない。それは…。
 『やっぱり…、イグリー君、フライさん、先に行ってて』

  さっ、先にって…、ネージュちゃん?

 私のせいで、ペースが落ちてしまっている、っていう事。私にとってライトさんは、ラフさん達のトレーナー、っていうイメージしかないけど、シルクさんとフライさんは、彼女は親友だ、って聴いた事がある。だから本当なら、全力で飛ばして助けに行きたい、って思っているはず…。だけど私が泳ぐスピードが遅いから、こんなに時間がかかってる。シルクさん達が振り返ったけど、私は…。
 『わっ、私は行き方分かるから、早く行ってあげて! 』
 渦巻き島だけど、その近くにあるのは知ってるから、ひとりだけでも行ける。前の私なら無理してでもついて行ってると思うけど、今はカナさんがいる。ひとりになるのは嫌だけど、カナさんが一緒にいてくれている。だから私は、みんなのことを考えてこう声をあげた。
 『だっ、だけどネー…』
 「…うん、わかったよ」
 『けどコット君、それだとネージ…』
 『そうだよね。ネージュの頼みだからね』
 コット君、イグリー君、ありがとう、分かってくれて。フライさんは乗り気じゃないみたいだけど、ふたりは私の頼みに、笑みを見せて頷いてくれた。ふたりも最初はビックリしていたけど、そこはやっぱり今まで一緒に旅してきた仲。少し考えていたけど、快く了承してくれた。
 「カナ、僕達は先に行くけど、ネージュが行き方知ってるみたいだから、いい? 」
 「えっ? いいけど、絶対にバト…」
 「心配しないで。今まで僕だけでも何回も戦ってきたし、指示も出せるよ。それにフィフさん達もいるから」
 正直言って、カナさんよりもコット君の方がいい指示をくれるからね。イグリー君に乗せてもらっているコット君は、カナさんを乗せている私の方を見下ろしながら通訳してくれる。カナさんにとっては急に話をふられる事になったから、コット君達とは別の意味で驚いた声をあげていた。驚きながらもその理由を訊いてきていたから、コット君は自分の考えを交えて語りかける。その途中で、少し前を飛んでいるフライさん達の方をチラッと見ながら話していた。
 「…うん。じゃあ、先に行ってて。私達もすぐに追いつくから! 」
 『ネージュ、すぐに来てよね! …追い風! 』

  …わかったわ。

 『あっ、ちょっと…』
 カナさんも分かってくれたから、これですぐに向かってくれるはず。これを聴いたイグリー君は、私にこう呼びかけてから技を発動させる。エネルギーを解放すると、私、それからイグリー君の後ろから、背中を押すように強い風が吹き始める。それに押された事もあって、イグリー君は先を飛ぶフライさん達を追い抜いていった。
 シルクさんは多分分かってくれたと思うけど、フライさんはあまり納得できていなかったらしい。だけどイグリー君が追い抜いていったから、その彼を慌てて追いかけていった。


――――

 Sideネージュ



 「あっ、あれってもしかして…」
 『えっ、あっ…』
 うん、たぶん、そうだと思うけど…。コット君達に先に行ってもらってから数分後、私の背中に乗っているカナさんが、ふと何かに気付いたらしい。直接は見れないから分からないけど、たぶんカナさんはその方を指さしながら言ってるんだと思う。だから私も、それと思われる方向に目をやってみる。すると私から十五メートルぐらいの場所に、いくつもの影…。ヒワダぐらいの位置から少し西側に進んだぐらいにいるから、少し遅れてはいると思うけど…。
 「ラプラスの群れじゃない? 」
 『うっ、うん。そうだけど…』
 海上にいたのは、十数にん規模のラプラスの群れ。時期的に考えると、元々私がいた群れだった。やっと会えてうれしい気持ちもあったけど、あまりその度合いが高くないのも事実…。すぐにでも話しかけたいけど、状況が状況…。先に行ったコット君達はもちろん、早く追いついてラフさん達を助けに行きたい、その思いの方が強い。二つの想いで葛藤する私は、そういう訳で中途半端な返事しか出来なかった。コット君とシルクさんがいないから、言葉は伝わらないけど…。だから、小さく頷いてカナさんの問いかけに応えた。
 「やっぱり! って事は、ネージュの…」
 『この気配は…、ネージュ? ネージュなんだな? 』
 『…うん』
 さすがにこの距離だと、気付くよね? 思った事が当たって嬉しかったらしく、カナさんは弾けた声をあげる。だけどその声を聞きとったらしく、群れの殆どが一斉にこっちに振り向く。その中のひとりが、私達の方に泳ぎながらこう訊ねてきた。
 『あの雨以来姿が見えなかったから、心配し…』
 『まぁネージュの事だから、また泣いてたんじゃないの? 』
 『うぅっ…』
 『図星だね』
 そっ、そうだけど…。本当に心配そうに、私より一まわり大きいラプラス…、群れのリーダーはこう続ける。だけどその途中で、別のひとりがリーダーの言葉を遮る。私より一つ年上の彼は、昔からそうだけど痛い所を突いてくる。洞窟でひとり泣いてたのは事実だから、そんな彼に何も言い返すことが出来なかった。だけど…。
 『だっ、だけど、仲間ができて変われたんだよ』
 『仲間? 』
 『うん。ジョウト中を旅して、強くなれた…』
 『へぇ、強くね…。あの泣き虫のネージュも、大層な事を言うようになったんだね』
 『…っ! 』
 そっ、そんな風に言わなくても…! それでも必死に反論したけど、やっぱり彼の方が一枚上手…。いつもの事だけど、流石に今日は聞き流すことが出来なかった。こんな事はあまり思った事は無いけど、コット君達と旅してきた事を全否定された気がして、言いようのない何かがこみ上げてきた。
 『ヒドロ、今の私はもうあの時の私とは違うよ!
 『そこまで言うんなら、証明してみせてよ』
 『言われなくても、そのつもりだよ! 』
 昔から嫌いだった彼、ヒドロの口車に乗せられたような気がして悔しいけど、それでも私は、こう言われた事が許せなかった。感情に任せて大声をあげたから、背中のカナさんをびっくりさせちゃったけど…。だけどバトルを申し込ま…、じゃなくて、ケンカを仕掛けられたから、気にせず後ろに下がって距離をとる。
 『だけどこの一発で、ねじ伏せてあげるよ。氷の礫! 』
 下がり終えて減速したタイミングで、ヒドロは口元に氷の塊を創り出す。距離が七メートルはあるけど、何のためらいも無く撃ちだしてきた。
 先手を取られたけど、もちろん私はこの攻撃に抗う。距離に余裕があるから、私は使えるようななったばかりの技を発動させてみる。潜在的な力に意識を向け、それを増幅させる。この状態で作用させたい対象、氷の塊に狙いを定める。その氷の弾くイメージを膨らませる事で…。
 『…サイコキネシス! 』
 見えない力…、昨日ティルさんから教えてもらったエスパータイプの技を発動させる。
 『なっ…、僕の氷の礫が…! 』
 その結果、三メートルぐらいの距離まで迫ってきていた氷塊が、何かにぶつかったように斜めに弾かれた。
 『なら、これなら…! 水鉄砲! 』
 『水の波動』
 防がれる事が予想外だったらしく、ヒドロは焦った様子で水の光線を放ってくる。私の特性は知っているはずだけど、それでも水鉄砲を使ってきたから相当焦ってるんだと思う。そのまま受ける事も考えたけど、さっき散々言われたから、仕返しっていう事で技で対処する。離していた距離を詰めながら、私はそれよりも上位の技を発動させる。ちょうどリングの部分が水にぶつかるように、高さを調整して解き放った。
 『まっ、また? それなら…、凍える風! 』
 『時間が無いから、これで決める…! 吹雪! 』
 加減して放ったから、二つの技は私から二メートルの位置で消滅する。これで更に慌てたのか、ヒドロは形振り構わなくなってきた気がする。全体技の冷風で、私を攻撃しようとしてきた。
 そんな彼に対して、私は冷静に迎え撃つ。本音を言うとバトルしている暇はないから、この技で決着を着ける、自分にそう言い聞かせながら凍てつく氷のイメージで満たしていく。それを風に乗せるように誘導しながら、予め溜めていたエネルギーを解放する。すると私の想像通りに、背後から強烈な風雪が吹き始めた。
 『えっ…、ぁっ! 』
 『だから言ったでしょ、変わったって』
 当然威力で勝るから、私の風がヒドロの風を押し返す。必要なエネルギーの六割ぐらいしか溜めなかったけど、それでも相手を凍えつかせた。手加減したつもりだったけど、ヒドロには耐えられなかったらしい。私の風に押し流されながら、彼は短く声をあげてしまっていた。


  Continue……

Lien ( 2017/05/11(木) 23:29 )