Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Onze de Cot 〜終息に向けて〜
Soixante-dix-neuf 独光の置手紙
 Sideコット



 「…ぅ…ん? 」
 あれ…? ヨシノでの大火災で、ライトさんは大怪我を負ってしまった。フィフさん達が助けに行ってくれてはいたんだけど、状況はあまり良くなかったらしい。一応助けれたみたいだけど、その時の相手はあのエンテイ…。あれから僕も少し手伝ったんだけど、フィフさんとウツギさんが手当をしてもダメだった…。詳しくは分からないけど、火傷の影響でライトさんは左目が見えなくなってしまった。助けに行ってたフィフさん自身も無傷では済まなかったらしく、前から患っていた喉の状態が更に悪化…。フィフさん自身はあまり気にしていないみたいだけど、声帯がダメになって喋れなくなっちゃっている。
 …それで、一応ライトさんの容態が安定? したから、夜も遅かった、それから旅と救助活動で疲れてるからって事で、その日は解散になった。僕達はすぐに家に帰ったんだけど、フィフさんはライトさん、それから救助された人用の治療薬を合成する準備をする、って言ってた。フライさんとコバルオンのコルドさんは、研究所とかに空きスペースが無いって事で、僕達の家で一晩過ごすことになった。僕達の家の方もあまり広くは無いけど、そこはカナの部屋だけじゃなくで弟の部屋にも分かれることになった。部屋が違ったからコルドさんは何をしていたのか分からないけど、フライさんは書類…、って言ったらいいのかな? この事件の報告書を書いていた。
 そして今、寝ていた僕はふと目を覚ます。部屋のカーテンが閉まってるから薄暗いけど、その隙間から入ってくる光を見る限りでは、まだ明け方、かな? その中で物音がした気がしたから、僕はボーっとした頭で辺りを見渡す。時間的にも早すぎるぐらいだから、この部屋にいるカナ、ネージュ、イグリー、フライさんは寝息をたてて眠っている。…だけどその中で僕は、埋まっているはずの壁際に、空きスペースがある事に気がついた。その場所は…。
 「フィフさん、どこに行ったんだろう…」
 寝る前にはいたはずだけど…。その場所で寝ているはずのフィフさんの姿が、無かった。
 「…研究所にでも、行ったのかな…? 」
 もしかしたら、ライトさん達のところかな? 従兄弟のいそうな場所を、僕は寝起きであまり機能していない頭で考える。するとそう言えばって言う感じで、僕の頭の中にあるじんぶつが思い浮かんでくる。フィフさんは確か、ライトさんは親友だ、って言ってたのを聴いた事がある。つい昨日だって、ライトさんが無事だって分かって、フィフさんは安心感から号泣してた。だからもしかすると、フィフさんは朝一でそこに行ったのかもしれない。
 「…いってみよう、かな…」
 一度そう思っちゃったから、僕はその事が気になってきた。すぐに寝直そうとも考えたけど、この感じだと寝れなさそう。だから僕は、音をたてないように注意しながら起き上がり、慎重に扉へと向かう。壁に前足を添えて二足で立ちあがり、その左側を取っ手にかける。すると体重をかけているから、扉は部屋の外側に開いていく。ギーッ、と鈍い音がしたから一瞬ヒヤッとしたけど、幸い誰も起きてはいなさそう。内心ホッとしながら、僕は部屋から出て、そーっと扉を右の前足で閉めた。
 「六時前…、まだ寝てると思うけど…」
 何をするつもりなんだろう…。スタスタと階段を下り、僕はそのまま壁に掛かっている時計に目を向ける。短い針は真下を向き、長い方は十一を指そうとしていた。フィフさんの行動に首を傾げながらも、僕はひとまず、心当たりのある場所へ向かおうとする。同じように玄関を開け、外に出…。

  あら、コット君。ごめんなさい、起こしちゃったかしら?

 「えっ、あっ…。ううん、たまたま目が覚めちゃったから」
 外に出るとすぐ、僕は急に誰かに呼び止めれる。…正確には頭の中に声が響く、だけど、それに僕は驚き、思わず変な声を出してしまった。だけどそのお陰で誰か分かったから、気を取り直してそっちの方を見る。予想通り白衣を羽織ったエーフィが、暖かな視線を僕に送ってきていた。
 「ええっとフィフさん、こんな朝早くから何をしてたんですか? 」

  私? そうね…、合成に必要な物質の前処理、かしら?

 「前処理…、薬の、ですか? 」

  ええ。

 前処理って事は、昨日だけでは終わらなかったのかな? 続けて僕は、彼女に疑問を投げかけてみる。すると彼女は、一瞬声に出して話してくれそうになってたけど、すぐに開きかけた口を噤む。ついクセで…、って言う感じに僕には見えたけど、フィフさんは笑顔を浮かべる事でそれを誤魔化していた。そのままフィフさんは、浮かせている何かを鞄の中に仕舞いながらこう語ってくれる。サンプル管か何かだと思うけど、丁度終わったらしくそれ以外は何も浮かせていないみたいだった。

  原料と反応物は昨日のうちに仕込めたんだけど、溶媒までは準備できなかったのよ。だから、そのための脱水とか濾過(ろか)作業、ってところね。

 「そうなんですね。それとフィフさん、フィフさんは喉、大丈夫なんですか? 」

  まだ少し痛むけど…、博士から鎮痛剤をもらえたから、昨日より…

 よく分かららないけど…。それに痛みが鎮まってるなら、良いの、かな? 軽く頷いてから教えてくれたけど、専門的な内容だったからあまり分からなかった。だけど僕から訊いたから、そのままスルーする訳にもいかない。だからそれなりの返事で応じ、別で気になっていたことを彼女に訊ねる。僕が見た限りでは痛そうにしている感じは無いけど、それは無理して隠しているから、なのかな? 僕の想像だから何とも言えないけど…。だけどフィフさんは、伝えてくる言葉が詰まってたけど、それでも今の状た…。
 『コット、それにフィフさんも、もう起きてたんだな? 』
 「へっ、ヘクト? 」

  えっ、ええ…

 だけどその途中で、別の声が割り込んでくる。あまりに急な事だったから、僕、それからフィフさんも、思わず驚きでとびあがってしまった。特にエスパータイプだから、フィフさんは僕以上にビックリしていたと思う。直後の呼吸が、ほんの少しだけ荒れていた。そのお陰で、完全に目か覚めたけど…。
 で、その声の主は、僕とは別の部屋で寝ているはずの、ヘルガーのヘクト。彼も外に出てきて、聞き覚えのあるセリフで僕達に問いかけてきた。
 『そういゃあずっと気になってたんだけど、フィフさんの喉も、能力の影響なんだよな? 』
 「違うと思うけど…、確か大火傷を負った後遺症、でしたよね? 」

  ヘクト君のいう事もあるかもしれないけど、大元はコット君の言う通り、大怪我の後遺症って言った方が正しいわね。

 僕はそう聴いてるけど、他に何かあるのかな? 後ろ足で玄関を閉めたヘクトは、あからさまに思い出したような素振りを見せ、僕達に訊いてくる。僕も色んな事があってうろ覚えだけど、確かコガネで会った時、フィフさんはこう言ってたような気がする。だけどこれ以外にも理由があるのか、僕、それからヘクト、それぞれをフィフさんは肯定する。だけどその言葉には、どこか含みを持たせているような気がした。
 『んなら、能力の影響じゃねぇーんだな? 』

  一概には言い切れないけど…。今思うと“チカラ”が覚醒し始める段階だったのかもしれないけど、火傷を負った時はまだ“証”は授かってなかったわ。十九の時だから…。

 「コット! ハァ…ハァ…、それから、君達も! 」
 「うっ、ウツギさん? 」
 今度はなに? ヘクトの疑問に、フィフさんはすぐに答えてくれる。喋れないからテレパシーでだけど、フィフさんは多分過去の事を思い出しながら言葉を伝えてくれる。能力の影響じゃない、っていう事にはビックリしたけど、いつぐらいなのかは教えてくれた。だけどその途中で、研究所の方から走ってきた人、ウツギさんに遮られてしまっていた。
 研究所から全力で走ってきたらしく、ウツギさんの息はかなり弾んでいる。彼にしては珍しく、僕が見た感じではどこか焦っている、そんな気がする…。

  どっ、どうし…

 「単刀直入に訊くよ、ここにラティアスは来てる? 」
 「ラティアス…、ライトさんですか? 」

  いいえ、来てないわ。もし来てたら、私が気づかないはずがないわ。

 そうだよね。もし来てるなら、僕が出て来た時にも話してる最中だったはずだし…。
 『だよな。俺はまだ出てきた…』
 「きっ、来てない? 」

  ええ。…博士? 相当焦ってるみたいだけど、ライトにな…。

 「ラティアス達が、いないんだ」
 「らっ、ライトさんが、いない? 」
 嘘だよね? ライトさん、左目が見えなくなったし、そもそも動ける状態じゃないのに?ただならない様子で声を荒らげるウツギさんは、立て続けに僕達の言葉を遮っていく。相当焦っているらしく、彼の髪型はかなり乱れ、いかにも寝起きで駆けつけたっていう感じだった。服装も白衣じゃないから、多分彼も起きたばかりだったんだと思う。…だけど彼からそう聴いた瞬間、僕はウツギさんについて考えている場合じゃない、そう思わずにはいられなくなってしまった。
 『おいおい、嘘だよな? あんな状態なのに、どっか行ったっつぅーのかよ? 』

  ライトが? 博士、昨日私が帰った後は、ちゃんといたはずよね?

 「確かにいたよ。…だけど今日様子を見に行ったら、これが置いてあって…」
 「…紙? 何か書いてあるみたいだけど」
 「……」
 ウツギさんはそのままの流れで、ズボンのポケットに手を突っ込む。そこから一枚の紙きれを取り出し、屈んで僕達に見せてきた。まだチラッとしか見てないけど、何かの無造作に破った切れ端のそれには二行ぐらいの文章が書かれていたような気がした。それをフィフさんは、サイコキネシスで浮かせ、全員に見えるようにしてくれた。そこには、若干乱れた字でこう書かれていた。

―・―・―

  心配をかけてしまい、申し訳ありません。ヨシノの事件の決着をつけにいってきます。

―・―・―

  これは…、ティル君の字ね。事件の…、決着…?。

 「昨日の火事の事、ですよね? …だけど決着をつけに行くって…」
 うーん、どういう事なのかさっぱり分からないよ…。…ベータが昨日何かを言ってたから、それと関係があるような気がしなくも無いけど…。この手紙の意味について、ひとまずこう考えてみる。だけど引っかかる事が出てきただけで、それ止まり…。これは多分、フィフさんも同じ様な感じだと思う。いまいちパッとしない表情で、首を傾げながら手紙? に目を通していた。
 『決着…、そうか、決着かぁっ! それならもしかすると、タンバに行ったかもしれねぇーな』

  たっ、タンバに…? ヘクト君、どうしてタンバにいると…。

 「タンバシティって、ワカバからだと凄く離れてるけど」
 『コットフィフさんも、俺の親父達とスイクンが、夜の間にタンバに向けて出発したっつぅーのは知ってるよな? 』

  えっ、ええ…。私はコット君の家に戻ってから、フライから聴いたけど…。

 『それを話してた時に、ラグナさんもいたんだ。その時ラグナさん、ひとりでも止めに行くつもり、って言ってた。…んだから、フルロのトレーナーも一緒について行ったんじゃねぇーかな? 』
 「つっ、ついて行ったって、まさか…、あんな状態で行ったんじゃないよね? 」

  できればそう思いたくないけど…、その可能性が高いわね…。…こうしてる場合じゃないわ! 相手はプライズのアルファ…、昨日は辛うじて助けられたけど、ライト達の身が危ないわ!

 「そうですよね! プライズなら、下っ端を沢山連れてる事もあり得ますよね? 」

  ええ! …コット君、ヘクト君も、あまり気は進まないけど、状況が状況…。そうも言ってられないから、手を貸して…、くれないかしら…?

 だってそうだよね? 万全な状態じゃないのに、戦えるはずないもんね? それにプライズって事は、何をしてくるのか分からない。乗せてもらって空を飛んでる時、撃ち落とそうとしてきたぐらいだから…。ヘクトが教えてくれたことで、僕はこの状況の深刻性がすぐに分かった。それを基に考えた結果、一刻を争う、そういう結論に至る。フィフさんはどんな風に考えていたのか分からないけど、多分大勢と戦うことになる、そう感じたんだと思う。だからかもしれないけど、フィフさんは苦渋の決断、って言う感じで僕達に頼み込んできた。僕自身は、言われなくてもそのつもりだから…。
 「はい! 僕もプライズの危険性は分かってるつもりです。だから、カナ達を叩き起こしてでも、行きます! 」
 『当ったり前だろぅ? 昨日はワカバだけだったんだ。おまけにオヤジとフルロも戦ってるはずだから、俺が行かねぇー訳ねぇーだろぅ? 』
 当然僕は首を縦にふる。カナじゃないけど、僕だってティルさん達に色んなことを教えてもらったから、その恩返しをしたいと思っている。おまけにフィフさんに頼ってもらえているから、僕は一切迷うことなく言い放った。ヘクトは相変わらず、バトル中心に考えてるみたいだけど…。

  …ありがとう。

 そうと決まったら、すぐにでも行動を開始しないといけない。そういう訳で、僕はすぐに家に戻り、カナ達を起こすために階段を駆け上がった。満身創痍の状態で戦場に乗り込んでいる、僕達の師匠を助けに行くために…。

  Continue……

Lien ( 2017/05/04(木) 15:35 )