De Lien Neuvieme 応援要請
Sideシルク
『それじゃあコット君、そっちは頼んだわ! 』
「はい! 」
カナちゃんには悪い事をしちゃったけど、有事だから…。コット君の家にお邪魔していた私は、そこでフライから事件の知らせを聴いた。丁度カナちゃんの部屋にいた時だったから、当然コット君達にも知れ渡る事になった。火事となると物凄く危険だから、コット君達は言う事を聴いてくれた。…けど、気持ちは分かるけどカナちゃんだけはそうはいかなかった。あそこまでもめるのは、初めて…。結果的に私が黙らせることになってしまったけど…。
それで、気を失わせたカナちゃんはネージュちゃんとオークス君に任せて、私とコット君、それからヘクト君とイグリー君で、行動を開始している。流石に火災の現場についてきてもらうのは、私の“チカラ”で護っていても危険な事に変わりない。だからさんにんには、コット君を中心に救護に当たってもらうつもり。そのためにさんにんには、研究所に事情を話しに行ってもらうように頼んである。だからカナちゃん達の家を出て、別れ際に私から彼らにこう声をかける。するとコット君は、任せて下さい、って言う感じで自信満々に頷いてくれた。
『フィフさんもな! 』
『ええ! 』
任せたわよ! コット君に続いて、ヘクト君も私の呼びかけに応じてくれる。これだけを見届けてから、私はすぐに四肢に力を込め、一気に駆け出す。私の後ろの方でも足音が二つ、そして大きな羽音が聞こえ始めたから、さんにんも研究所に急行し始めたと思う。こうして私達は、隣町で発生している大火災のために、各々で行動を開始した。
『…“絆により、我らを護り給へ”…』
…兎に角、出るのが遅れた分、急がないと! 駆けるスピードが最大に達したところで、私はその足を緩めず、目をゆっくりと閉じる。持ち合わせる意識を活性化させながら、チカラの発動のきっかけとなる文句を唱える。すると私の中の、一種のリミッターが解除される。今は護る対象が誰もいないけど、私がそのひとに意識さえ向ければ、五にんまでなら一部を除いてあらゆる攻撃を防ぐことが出来る…。三年前ならこれ止まりだったけど、完全にチカラが覚醒した今なら、特殊技の威力だけじゃなくて運動能力も強化される。…相変わらず、あらゆる状態異常と攻撃に極端に弱いけど…。
『…これなら、十分もあればつくかしら? 』
“絆の加護”を発動させた私は、すぐに閉じていた目を開ける。私自身は直接確認しにくいけど、発動させた影響で瞳が水色を帯びる。それだけでなく、完全覚醒の段階として、私の瞳の軌跡に、同色の残像が空中に一瞬漂う。完全に陽が沈んだ夜って事もあって、僅かに波打つ水色の正弦波が描かれていた。
『…サイコキネシス。みんな、フライから聴いてるわね? 』
はい、ヨシノの火災、ですよね?
…兎に角、今は少しでも早く、多く情報を把握しないと…。加護を発動し終え、更にかける速度が増した私は、見えない力で通信機のマイクを起動させ、それに話しかける。“絆の従者の証”に着けているから風で靡いてるけど、ブレが少ない結び目だから問題無い。私が単独でオーリックの地位に就いた時は白衣の襟だったけど、雑音が多かったからこうしている。…そうこうしている間に、右耳に装着している小型のイヤホンから、一つの声…。コルドがいち早く、私の呼びかけに応答してくれる。彼も手短に、要件を通信機越しに確認してくれた。
ウチらも聴いたよ♪ フライが救助の指揮を執ってくれてるんだよね?
『そうらしいわ。私も今向かってるけど、来れそう? 』
はい! 炎は森からでも確認できたので、今向かってます。
ウバメの森からでも見えたって事は、相当深刻なようね…。コルドに続いて、スーナも通信機越しに応えてくれる。イヤホン越しに風の音も聞こえてきてるから、多分スーナも移動中。空を飛んで、どこかに向かっている最中なのかもしれない。そんな推測をしながら、私も彼らに語りかける。フライから話は伝わっているはずだから、すぐに用件から入る。大分端折ったけど、これだけで分かってくれたらしい。
僕だけでなくて、リーヴェルさんと二トルさんにも来てもらってます。
それは心強いな。
今繋がりの洞窟にさしかかるところなので、あと三十分ほどで着くと思います。
三十分か。俺もユウキと向かっているが、まだまだかかりそうだ。
そうよね。コガネからとなると、飛んでも五十分はかかるから…。コルドが一通り話し終えてから、今度はオルトが会議に参加する。コルドは全力疾走してるらしく、声が弾んでいるけど、オルトはそうじゃなさそう。ユウキの手伝いで講義の準備をしていたはずだから仕方ないけど、話す声に申し訳なさが含まれていた様な気がした。
コルド達で三十分かぁー。それなら、ウチらは五分ぐらい遅れるかな。
エンジュからだと、そのくらいだね。…僕もすぐにでも向かいたいけど、チョウジだからいつになるか分からないよ。
『距離的にも、難しそうね…。それならリーフ、リーフはキキョウ側からサポートに当たってくれるかしら? 』
救護だね?
『ええ。ワカバの方でも、私の従兄弟がその体制を整えてくれてるはずだわ。だから、避難先はそっちで頼んだわ』
近いですからね。了解しました! …ですけどシルクさん、伝える手段はあるんですか?
『そこは問題ないわ。何で話せるのかは分からないけど、コット君、人の言葉を話せるのよ』
うっ、嘘だろ? 何らかの伝説の当事者なら無くはないと思うが、そんな事があり得るのか?
『そうらしいわ』
流石にあの時は、私も驚いたわね…。途中からリーフも会議に出席し、フライを除く私達は、互いの状況を伝え合う。みんな走ったり飛びながら雑音が少なからず混ざってるけど、大体の位置と所要時間は把握できたと思う。その過程で、私はコット君にさっき頼んできたことをそのまま伝える。コット君が人の言葉を喋れるって事は、私以外にフライ、それからライト達しか知らないから、当然みんなは通信機の向こう側で驚きで声を荒らげる。本当はそんな場合じゃないけど、私は手短に、この事に関して補足説明をし始めた。
――――
Sideコルド
『…そういう事でしたか。了解しました! 』
『で、彼女は何と? 』
『ワカバタウンの方で、救護体制を整えてくださっているそうです』
助かります! 兄弟子でスイ君のリーヴェルさん、シャワーズの二トルさんと森を出た僕達は、その途中で通信機越しに会議をしていました。リーフさんは後方支援になりそうですが、後の皆さんは来れそう…。僕自身も、丁度繋がりの出口付近にさしかかったので、数十分ほどで着く距離まで来れています。ここで会議が終わったので、並走して下さっているリーヴェルさんが、僕に対してこう訊ねてきました。
『ワカバなら、三十分ぐらいで着きますからね』
『賢明な判断と…』
「なっ…、すっ、スイクン? 」
『あっ、あなたは…! 』
そうですね。歩幅の関係で追いつけないので、二トルさんは僕の背中にしがみついた状態でこう訊ねてくる。全力で走ればもう少し短縮できますが、歩くとなるとそのくらいかもしれません。聴いた話によると、ユウカさん達はワカバには赴いていないようですが、この様子だとどこかでその事を聴いたのかもしれない。そんな憶測をしていると、リーヴェルさんがこう評価…、しようとしていたその時、ヒワダタウンの方から聞こえてきた声に遮られてしまう。その声の方に振りかえると、そこには僕、それからニトルさんも見知っているはずの人物…。まさかの遭遇に驚き、僕は思わずその足を止めてしまった。
「あの学者のコバルオンか! 」
グリ…、いえ、今はプライズのベータさんですか…。リー…、スイクンには、手出しは…
「俺が言えた口ではないが、すまん、力を貸してくれ! 」
『ぷっ、プライズが? でも、何で? スイクンさん達を狙ってるはずじゃあ…』
そっ、そうですよね? 現に今も、フラムさんが…! 僕達に気付き、話しかけてきたのは、今プロテージの残党と並行して追っている、プライズの幹部。嘗てホウエンで敵対した、ベータ。彼はテレパシーで語る僕を遮り、必死にこう訴えてくる。ただでさえ鉢合わせになった事に驚いているのに、助けてほしい、そう頼んできている。当然僕はもちろん、リーヴェルさん、背中の二トルさんも、あまりの事に声をあげてしまった。
プライズが、助けろと? そんな戯言、信用なるものか!
「無理は承知だ。…だが単刀直入に言う、アルファ…、プライズの頭領を止めてくれ! そのためにスイクン、お前の力が必要だ! 」
リーヴェルさんが? でっ、ですが、代表の指示に従うはずのあなたが、何故…?
「ヨシノの火災には流石に気付いているだろう。あれは…、アルファの仕業だ」
アルファ…、まさか…。
「そうだ、アイツが従える、エンテイだ。アイツの事だ、あの規模ならエンテイの能力を酷使していることも考えられる」
フラムさんの、チカラまで…。となると…
「竜には竜を、ゴーストにはゴーストを、だ。薄々感づいてるかもしれないが、未だに炎が治まらないのは、そのため…。そこでスイクン、お前の力が必要だ! 」
『……』
ですが、流石に僕でも…
「
ヨシノは俺の故郷だ! …確かに俺達、プライズは密猟を専門としているが、町の破壊となれば訳が違う! …しかしアイツは…、俺が見る限りでは本来の理念は気にしていない。アイツの経歴を考慮すれば、この火災は始まりに過ぎん…。アイツは…、エンテイを使い街を破壊し、挙句の果てには全国のジム、リーグ協会を潰す気でいるはずだ! 」
『りっ、リーグを…? 』
俄かには信じられない事ですが、僕はその主張に言葉失ってしまう。それが部下にあたる幹部の口から明かされたとなると、尚更…。アルファの経歴は存じてないけど、嘗ての振る舞い、そして今回の状況からすると、十分可能性はある。彼女の気質、そしてフラムを従わせているとなると、尚更…。予想以上に深刻な状況、信憑性に欠けるとはいえ、そう感じずにはいられなくなってしまった。
Continue……