Soixante et qurtorze 最後の手段
Sideライト
『…シルク…、が…、わたしを意識して…、くれているなら…! 』
わたしがもつかは分からないけど…、あの方法が使えるはず…! シルクが助けに来てくれたっていう事もあって、わたしは辛うじて危機を脱する事ができた。“従者のチカラ”の対象は誰かは分からないけど、それは多分、自分を追い込むために発動させているんだと思う。彼女は重傷を負ったわたしの前に立ち、“チカラ”の影響で使えるハイドロポンプで、囚われのエンテイの聖なる炎に応戦…。一応五分五分で拮抗してるけど、シルクは確実に無理をしている。だけど彼女は、それでもわたしの為に戦ってくれている。
だからわたしも、ただ倒れているだけな訳にはいかない…。元の姿に戻したから多少はマシになったけど、それでも気を抜くと意識が飛びそうになる。それでもわたしは、心に決めて目を閉じる。…わたしもエンテイも、どうなるかは分からないから、賭けだけど…。
『…、
…っく…』
気絶しないように注意しながら、わたしは更に意識を高めていく。潜在的な力にも作用させ、それを解放する。するとわたしは紺と赤の光に包まれ、すぐにガラスが割れた様な音と共に雲散する。メガ進化した事で、今のわたしにはもの凄く体に負担がかかるけど、どのみち一度は消えかけた命…。それを誰かのために使えるのなら、どうなっても構わない…。わたしがそう、決めたんだから…。
『
はぁ…、はぁ…』
体に力を入れ、わたしはふわりと浮かび上がる。この位置だとシルクに当たるから、重心移動で右に逸れる。左目が使い物にならないけど、方向だけなら何とかなるはず…。距離感が全く掴めないけど、無事な右目だけで狙いを定める。その狙う先は、エンテイじゃなくて、捕縛している赤黒い鎖、“服従の鎖”…。アルファが感情に任せて言い放ったことだからあてにはならないけど、今はそんな事、言ってられない。確か感情が何とか、って言ってたはずだから、わたしの“チカラ”で何とかなると思う。…いや、わたしにしか、出来ない…、多分…。だからわたしは息を切らせながらも、その“チカラ”の準備を始める。そして…。
『
この一発に…、賭ける…! …“癒しの…、波動”…! 』
これでどうにかならなかったら、もう打つ手が…、ない! …だから、絶対に…、命中させる…! 体勢を起こした状態で、わたしは手を構える。するとそこに、純白に光り輝く珠が生成される。その影響で一瞬クラッとしたけど、ここまで来ればあとは命中させるだけ…。横に構えたそれを同時に突き出し、わたしの全てを乗せて解き放った。
その結果…。
『
ガぁっ…? 』
『…? 』
らっ、ライト? いっ…
『
くぅっ…』
シル…、ク…! 今のうちに…! 結果はどうだったのかは、分からない…。意識を保つだけで、精一杯だったから…。だけど、気のせいかもしれないけど、ピシッ…、と何かに亀裂が入ったような音が聞こえた様な気がする。その影響なのかもしれないけど、ほんの少しだけ、エンテイの炎が弱くなったような気がする。何も言わずに発動させたから、シルクもビックリさせちゃったけど…。だからわたしは、思いっきり言葉を念じ、脱力して地面に堕ちながらも、親友にこう訴えた。
「なっ、一体何…」
えっ、ええ…!
「
グぅゥっ…、グヮぁぁァッ…! 」
『
やっ…、た…? 』
倒せた…? 業炎の勢いが弱まった事で、シルクの激流が一気に圧し返しはじめる。パワーバランスがシルクの方に傾き、瞬く間に赤線が短くなる。あまりに急な事だったから、操っているアルファは頓狂な声をあげる。そんな事は関係なしに、シルクはこのチャンスにありったけのエネルギーを注ぎ込む。終いには完全に炎を打ち消し、エンテイもろとも押し流す。三重に発動させているっていう事もあって、もの凄いダメージを与えたらしかった。
「ちっ…、エンテイ、立ちなさい! たかがエーフィ如きにやられるんじゃないわよ! 」
「グルるル…」
「もう一度聖なる…?」
『……? 』
…ん? 何だろう…? 荒々しい声でアルファが呼びかけるも、エンテイが起き上がる様子はない。だけどアルファは、それでも声を荒らげる。手に持つ機械から伸びる鎖を引っ張り、力で無理やり動かそうとする。だけどその最中、何故かその手を止めていた。
一瞬訳が分からなかったけど、すぐに訳を知ることができた。それは、ポツポツ…、と冷たい水が、倒れるわたしの羽毛を濡らし始めたから…。これには流石にシルクも気づいたらしく、彼女の黒い空を不思議そうに見上げる。…だけどその瞬間から、まるでバケツをひっくり返したような…
…雨…? でもこの感じは、リー…
『
っくあぁぁっ…! 』
ライト!
恵みの雨、状況的にはそうだけど、今のわたしにとってはそうじゃなかった。その雨はかなりの大火傷を負っているわたしにも降りかかり、無差別に濡らしていく…。そのお陰で纏わりついている火が消えていくような感覚が、ある。だけどそれだけじゃなく、同時に患部に容赦なく水滴が叩きつける事で、それ相応の痛みがわたしの左目周辺を襲う…。その痛みに耐えきれず、わたしは思わず叫び声をあげてしまった。
『……! 』
ライト、今、何とかするか…
「…
アルファ、お前はよくもやってくれたな! 」
『シルクさん! 』
右目も反射的に閉じちゃったけど、多分シルクは、わたしの方に駆け寄ってきてくれたと思う。テレパシーで伝わってくる言葉にも、さっきとは別の焦りが含まれているような気がする。降りしきる雨の音でよく聞こえない…。
だけど、それはほんの一瞬の事だった。雨が叩きつける音がピタリと止み、少しだけ周りの音が少なくなる。サイコキネシスだと思うけど、多分シルクはそれで、わたしを保護してくれているんだと思う。続けて言葉を伝えてきたけど、その最中に別の二つの声が割り込んでくる。そのうちの一つには、ただならない怒りの感情が含まれているような気がした。
「ちっ、ベータのクズか…」
こっ、コルド! リーヴェルさんも! なっ、何でベータといっ…
話は後だ!
今はフラムさんとライトさんの事が先です!
「…ラティアス、命拾いしたわね。アバゴーラ! 」
『逃がすか! 吹雪! 』
この声は多分、コルド…、かな? もうひとりは、分からないけど…。
『
…っ! 』
ライト…、ライト! しっかりして! ラ……
コルドが来てくれたなら、もう安心、かな…。もうひとりの声は、多分コルド、だと思う。そう感じたわたしは、何故かホッとしたような気がする…。だけどそれで気を抜いちゃったから、集中力が切れて一気に目の痛みがぶり返してきた。そのせいでわたしは、何か冷たい風が吹いてきたような気がしたけど、それをちゃんと感じる前に、意識を手放してしまう。シルクが何かを呼びかけていた様な気がするけど、それを最後まで感じることが出来なかった。
Continue……