Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Dix Des Light 〜オワリハジマリ〜
Soixante et onze 緊急事態
  Sideライト



  「緊急連絡、緊急連絡。町北東部にて火災が発生。火災は町北部、東部に広がっている模様。繰り返します、町東部にて…


 「えっ、なっ、何? 」
 かっ、火事? センターの宿泊施設へのチェックインも終わり、ソファーでアーシアちゃんとフライのさんにんで話をしていると、何の前触れも無く辺りに警告音が鳴り響く。あまりにも急すぎる事だったから、エスパータイプじゃないふたりはもちろん、ロビーにいる他の人達も驚きでとびあがってしまっている。その後、館内アナウンスが流れる。放送の声もどこか切羽詰まったような感じで、雰囲気だけでも深刻性が伝わってきた。
 『火事って…、こんな時間に? 一軒ならまだしも、それが町に広がってるだなんて…』
 『ストーブとかはもう使う時期ではないですから、不自然ですよね』
 …だとしたら、放火? でも、何で? サイレンに驚いて思わず立ち上がったっていう事もあって、わたしはすぐにその場から駆けだす。他の場所で火事っていうと、あまり外には出ない方が良いような気もするけど、立場上今は少しでも多く状況を把握したい。ほぼ反射的にエントランスの方に走りだしちゃったけど、アーシアちゃんとフライも、すぐわたしについてきてくれる。ふたりはふたりで言葉を交わしながら、考えを交換し合っていた。
 「お客様、外は大変危険…」
 「だから行くんです! わたし、エクワイルの組員なので! 」
 わたしは建屋の外に出ようとしているから、当然センターの人は利用客であるわたしを止めようとする。入り口の前で仁王立ちになり、わたしの進路を遮る。だけどわたし達だって、ここで素直に引き返す訳にはいかない。ここで言う事を聴いたら、エクワイルとしての責務を果たせない…。元々請けた任務とは違うけど、今はそんな事、関係ない。一般の人達の命にも関わってくるから、ほぼ怒鳴りつけるような感じで、立ちふさがる係の人を押しのけた。
 「もっ、もうここまで…? みんな、すぐに出てきて! 」
 うっ、嘘でしょ? 火事にしては、火が回るの、早すぎない? 自動扉から跳び出した先の光景に、わたしは思わず言葉を失ってしまう。外に出て真っ先に目に飛び込んできたのは、見渡す限りの赤…。何軒も建つショップや住宅が、メラメラと赤や橙、黄と言った色に染め上げられてしまっている。それに伴う熱波も強烈で、ティルのそれに慣れていなければ思わず身が竦んでしまうほど…。未曾有の大火災に、人々もパニックに陥ってしまっていた。
 だけどわたしは、慌てて考えを切り替える。右手に三、左で二個のボールを手にとり、みんなを控えから出してあげる。この時には、後から来たアーシアちゃんとフライも、何とかわたしに追いついていた。
 『こんなところまで火が…? 』
 『らっ、ライト、なっ、何があったの? 』
 『っ…、火事ですっ! 私達も、まだ何も分からない状態、ですけど』
 『シアちゃん達でも? 』
 わたしに追いつくと、フライ達も思わず息を呑んでしまっている。フライとアーシアちゃんでもこの状態だから、残りのみんなの驚きはかなりのものだと思う。真っ先に飛び出したラフはあまりの状況に、やっぱりあたふたと取り乱す。それにアーシアちゃんは、顔を歪めながらも何とか答える。テトラは慣れてるから大丈夫そうだけど、それでも驚きを顕わにしていた。
 「うん。…とっ、兎に角、今はすぐにでも何とかしないと! っ、センターにまで…! だから、フルロ。フルロはティルと一緒に、センターにいる人達を避難させて! 後のみんなは、情報を集めつつ町の人達を誘導…」
 『センターもダメとなれば…、最寄りのワカバに誘導するのが良さそうだな? 』
 『それでいこう! ボクはシルク達に、応援を要請するから! 』
 キキョウだと離れすぎてるし、火元からは一番離れている方向だから、それが最善かな? わたしは取り乱しながらも、何とかみんなに指示を出す。本当はみんながバラバラになって行動するのが一番効率が良いんだけど、フルロはこういう経験が無いはずだし、そもそも炎が苦手な草タイプ…。だから咄嗟に、ティルと一緒にいれば対処できる、そういう結論に至る。そのままの流れで、わたしは誘導する場所の指示を出そうとしたけど、その直前に、直近から聞こえてきた爆音に驚いてしまう。横目でチラッと見ると、ついさっきまでわたし達がいた、多くの人が宿泊するセンターにまで火の手が回り始めてしまっていた。わたしが驚いている間に、ラグナが代わりに提案してくれたけど…。そして最後に、フライが翼を羽ばたかせて舞い上がりながら、大きな声をあげ、飛び立った。
 「じゃあ、お願い! 」
 彼が飛び立ったのをきっかけに、わたし達も一斉に行動を開始する。それぞれがそれぞれの方向に、散り散りに駆けだしていった。


――――


  Sideアーシア



 「…! 」
 『電光石火、守る! 』
 あっ、危ない! みんなと別れてから、私は港の方に向かった。火元になっている町の北東部からは少し距離があるけれど、私が着いた時には手遅れ…。建物の殆どが炎に包まれていて、酷いものだと音をあげて崩れてしまっている。あまりの熱さにむせ返りそうだけど、ここで立ち止まってはいられない。今だって私の視界の端の方で、炎の中から逃げ遅れた人の姿を確認する事ができた。おまけに炎に焼き尽くされて、今にも建物が崩れ落ちそうになっている。だから私は、咄嗟に電光石火を発動させ、その方に向けて一気に駆け出す。支えを失って崩れてきている所に滑り込み、踏ん張る為に二足で立ちあがる。腰が抜けて逃げ遅れた人を守れるように、倒れてきた方向に緑色のシールドを展開させた。
 「ぶっ…、ブラッキ…? 」
 『くっ…、今のうちに、逃げてください! 』
 すっ…、凄い重さ…。このままだと、あまりもたないかも…。間一髪、私はシールドで瓦礫を受けとめる事に成功する。だけど、あまり良いとは言い切れない…。炎と倒れる勢いが相まって、私のシールドはミシミシと音をあげ、あっという間に亀裂が広がってしまう。慌ててこう声をあげ、促したけど、その人は全く動き出そうとはしない…。…よく考えたら、私はブラッキーだから、普通の人には言葉は伝わらない。ライトさんはラティアスだから伝わるから、ついそのつもりで呼びかけちゃったけど…。
 「助けて…、くれ…」
 『くっ…、…ごめんなさい、体当たり』
 「っく…」
 『電光石火! 』
 だっ、ダメだ…、もう、もたない! ほんの少し待ってはみたけど、この人は全然立ちあがってはくれない。それどころか、修復するのも間に合わず、ヒビがシールドの全体に広がってしまう。このままだと助けられない、そう感じた私は、シールドにエネルギーを送るのを止め、咄嗟に回れ右をする。一瞬前足をついて力を溜め、心の中で謝りながらその人に突っ込む。痛い思いをさせちゃったけれど、その甲斐あって何とか倒壊しかけている建物の外に避難させる事はできた。だけど、私はここで安心してはいられない。すぐに逃げないと大変なことになる。支えを失って完全に倒れてきたから、慌てて四肢に力を込め、思いっきり地面を蹴る。危うく尻尾が挟まれそうになったけど、間一髪脱出することは出来た。着地したタイミングで、後ろから埃交じりの熱風が、私を追い抜いていった。
 「ありが…、とう…」
 この人は助けれたから、次、いかないと…! 加減して攻撃したつもりだったけど、その人は痛みで顔を歪めてしまっていた。だけどこの感じだと、ただ痛いだけ、それで済んでいるとは思う。燃える瓦礫の山に埋もれて取り返しのつかない事になるよりはマシははずだから、多分許してくれるはず…。そう自分に言い聞かせてから、私はすぐに足に力を込める。一歩踏み出した所で、後ろから力ない声が聞こえてきたから、一旦立ち止まってそっちに振りかえる。すぐに視線を戻して、技を発動させずに駆けだした。
 『…ムーン…、フォース! 』
 『ぐぁっ…! 』
 『小娘が、フェアリータイプのくせにいきがってんじゃないわよ! ベノムショック! 』
 あっ、あれは…! こんな状況なのに、私が向かった先では、何故かバトルが繰り広げられていた。一対二での戦いらしく、ひとり側は特殊技で、敵のゴーリキ―を倒す。だけどその隙にもうひとり、確かエンニュートっていう種族の彼女が、手元に紫色のエネルギー体を創り出す。それをまさに、色違いのかの…。
 『てっ、テトちゃん! 電光石火…、守る! 』
 戦っていたのは、色違いのニンフィアのテトちゃん。不利な状況で戦っていたらしく、あまり余裕が無さそう…。この様子だと願い事を発動させる暇も無かったらしく、かなりふらついている。このままだとテトちゃんが危ない、こう感じた私は、一気にトップスピードまで加速し、彼女の前に跳び出す。丁度そのタイミングで毒々しい物体を撃ちだしてきたから、後ろ足だけで立ちあがって、シールドで迎え撃った。
 『シアちゃん…、ありがとう…』
 『ちっ…』
 テトちゃん、大丈夫かな…。緑色の壁を張り終えたのと、紫の塊がぶつかったのは、ほぼ同時…。完全な状態ではなかったけど、特殊技だから塊の全部を弾くことができた。手を通して後ろをチラッと見ると、テトちゃんが何とか、声を絞り出している。顔色がかなり悪いから、もしかすると毒状態になってるのかもしれない。
 『テトちゃん、何で…』
 『またプライズ…、だよ。…願い事…』
 『何人来ようと、アタシの前ではひれ伏すしかないのよ! 弾ける炎! 』
 『スピードスターっ! 』
 まっ、またプライズですか? 相手のエンニュートに向き直りながら訊ねると、途中だったけどテトちゃんは答えてくれる。結構毒が回っているらしく、いつもの溌剌とした明るさが無い…。こんな状態だったけど、テトちゃんは何とか、相手の事を簡単な、そして一言で教えてくれた。その後は、…直接は見てないけど、多分目を瞑ってエネルギーを活性化させる。だけどこれを相手は待ってくれるはずも無く、十センチぐらいの炎の塊を飛ばしてきた。咄嗟に私は立ったまま、エネルギーを手元に集中させる。確か広範囲に攻撃できる技のはずだから、属性を変換せずに撃ちだす。二メートルぐらい進むと七つに弾け、先頭の三つぐらいが相手の炎とぶつかり合った。
 『テトちゃん、大丈夫そう? 』
 『うん…、願い事を使いながらなら、何とか…』
 『それなら、ちょっとだけ時間、くれる? 』
 『どのくらいもつかは…、うぅっ…、分からないけど…』
 それなら、早く準備をしないと! 私の星が残っている間に、私はテトちゃんに状態を尋ねる。回復技を使えるから何とかなってるみたいだけど、弱点の毒状態だから、あまり良いとは言えないと思う。だから私は、これだけを言うとすぐ、行動を開始する。前足を地について相手に目を向け、走りだす。
 『誰が来ようと、同じよ! 毒突き』
 『シアちゃん…! 』
 『うん! 』
 『フラッシュ! 』
 私を敵として認識したらしく、相手も私に向けて走ってくる。相手は両手に毒々しいオーラを纏わせ、私を狙う。たぶんあの技で、テトちゃんはト毒状態になっちゃったんだと思う。
 この光景を後ろで見ているテトちゃんは、私に向けて大声で合図を送ってくれる。これだけで何となく分かった気がしたから、私はテンポよく…、剣の舞を発動させながら、左へ跳ぶ。直接は見てないけれど、いつも通りなら、元いた場所をテトちゃんの光の玉が通過する。ここで私は目を閉じてから、前、前、右の順に跳躍。
 『くっ…、目が…! 』
 『もう一発…! 』
 これだけ時間を稼いでくれたら、そこそこの威力にはなる、かな? 私はまだ目を開けず、勘だけを頼りに相手との距離を詰める。発動させている剣の舞を維持しながら、今度は右斜め前、前とリズムよく跳ぶ。ここで私は前足で地面を思いっきり押し、その勢いで二足で立ちあがる。
 『ムーン、フォース! 』
 『っ…、こんな技、口ほどにも無いわ! 』
 そこ、ですね! テトちゃんが連続で閃光を放ってくれているから、まだ目を開けられない状態だと思う。だけどいつも通りなら、そろそろ別の技を発動させていても良い頃。予想通り、テトちゃんは別の技の名前を唱え、リボンにエネルギーを蓄える。一発だけ放ち、目が眩んでいる相手に命中。その物音で、私は相手がどこにいるか、一瞬で分かる事ができた。
 『そこですね! 』
 ここで私は目を開け、もう一度相手の場所を確認する。二足で左斜め前に跳んでから、私は技を発動させる準備を始める。私が持っているエネルギー、それ自体に意識を向け、活性化させる。同時にふわっと浮くような…、神秘的な力をイメージする。その状態で相手のいる場所に狙いを定め、そこに大量のエネルギーを送り込む…。
 『これでっ…! アシストパワー! 』
 『ぎゃぁっ…! 』
 すると相手の足元が濃い桃色に染まったかと思うと、急に同じ色の気柱がそびえ立つ。エスパータイプのエネルギー塊に、真上に突き上げられたエンニュートは、為す術無く宙を舞う。
 『っく…』
 『相性が悪くても…、この技なら! ギガインパクト! 』
 勢いをそのままに左へ逸れると、そこをテトちゃんがすごい勢いで駆け抜けていく。相手が地面に叩きつけられるタイミングに合わせて、捨て身で突っ込んだ。
 『ぐぅっ…』
 『電光石火、守る! 』
 すぐに私は前足も地面につけて、電光石火でテトちゃんを追いかける。すぐに追いつき、大技の反動で動けないテトちゃんをサポートするため、緑色のシールドを前面に展開する。私の守るは物理技には弱いけど、威力だけは弱めてくれる。その時にはテトちゃんも立ち直っているはずだから、多分大丈夫。…だけど私の備えは杞憂に終わり、相手は意識を手放してしまっていた。


  Continue……

■筆者メッセージ

・エンニュート

特性:腐食
技:毒突き、ベノムショック、弾ける炎、悪巧み
Lien ( 2017/03/16(木) 21:39 )