Soixante et dix さんにんの共通点
Sideライト
「…そっか。それじゃあカナちゃん達とは、ここで一端お別れかな? 」
「そうですね」
確かカナちゃん達って、ワカバの出身だって言ってたっけ? 荒野を雑談しながら南下していたわたし達は、何事も無く街道の中継点であるゲートをくぐり抜ける。カナちゃん達と一緒に来ていたっていう事もあって、この何時間かでそれなりにみんな打ち解けているらしい。ティルとコット君はコガネの時から仲良さそうだったけど、今日はラフと一緒にネージュと話していた。何を話していたのかはまだ聴けてないけど、遠目で見た感じだと、バトルとか技関係の事だと思う。テトラは話していたって言うよりは、もめごとの仲裁に入っていたって言う感じかな? ピジョットのイグリー君とサナギラスが何かを言い争っていたから、それを宥めていた。ラグナはフルロと一緒にいて、フルロとヘルガーのヘクト君のバトルの監督をしていた。ラグナの話によると、最初の方はフルロの優勢だったけど、反撃されてその結果、引き分けで決着が着いたらしい。アーシアちゃんはコット君と一緒に、シルクから新しい技を教わっていた。実戦形式で練習していたらしく、その時シルクは“チカラ”を発動させていたらしい。アシストパワーっていう技を教わっていたみたいだから、“チカラ”の対象は多分コット君だけ。…何しろ、アシストパワーはエスパータイプの技で、アーシアちゃんは悪タイプだからね。最後にわたしは、カナちゃんとフライと雑談。その時は元の姿のままだったから、テレパシーで話しながら、だけど…。
「ティルさん達は、今日はヨシノで泊まるんですよね? 」
『うん。コット君達は、一度家に帰る、って言ってたね』
「そうだったね。シルクとフライはどうするの? 」
そろそろ話に戻ると、わたしとカナちゃんが話している間に、サンダースのコット君はティルに声をかける。コット君は多分、アーシアちゃんから聴いたんだと思うけど、その確認を兼ねて尋ねていた。その瞬間にはもう、わたし達は一通り話し終えていたから、わたしも途中からその会話に参加する。そのまま視線を移し、親友のふたりにも同じことを訊いてみる事にした。
私達? そうね…、私はコット君達について行こうかしら? コット君のお母さんに、挨拶もしたいしね。
『そういえば、シルクとコット君って、従兄弟なんだよね』
わたしも初めて知った時はビックリしたからなぁ…。
『それじゃあ、シルクがコット君達の方に行くなら、ボクはライトについていくよ。それなら、いつでも連絡を取れるしね』
そっか。それならもしカナちゃん達に何かあっても、フライとシルクを通じてすぐに対応できるね。わたしの問いかけに、シルクは考えながらもすぐに答えてくれる。コット君の耳もピクッ、と動いたから、彼も気になっていたんだと思う。いつもなら直接声で話してくれるけど、カナちゃんも聴いているから、今回は直接みんなの頭の中に語りかけてくる。特にコット君に伝えたかったらしく、彼に重点的に視線を送っていた。
その彼女に続いて、フライも自分の考えを話し始める。そのまま喋るとカナちゃんには伝わらないから、大げさなぐらいの身振りと視線で示しながら…。話し始めた時は、シルクが通訳をしてるのかと思ったけど、この様子だとそんな事は無さそう。カナちゃんは真っ直ぐ、注意深くフライに目を向けていた。
ええ! フライ、もし何かあったら、すぐに連絡して!
『うん、もちろんシルクもね。あまり無理しないように』
特に喉だけは、酷使しないようにね。
『当然よ! 』
シルクっていつも無理しちゃうからなぁ…。…わたしがシルクの事を言える立場じゃないと思うけど。シルクは大きく頷きながら、笑顔でこう応える。連絡云々って言ってたから、それはたぶん、リーフとスーナが持っているのと同じ物だと思う。直接は訊いてないけど、わたしが見た感じでは、シルクは“従者の証”に付けてるピンマイク、フライはこめかみ辺りの黒い小型の機械だと思う。それをさっき、フライは触りながら話していたから、間違いない、かな?
帰ってきた答えに、フライからも自然と笑みがこぼれていた。そのまま表情を変えずに、フライはさらっとシルクにこう念を押す。これにわたしも、分かってるとは思うけど、念のため彼女だけに、テレパシーでフライの補足をする。シルクは愚問ね、とでも言いたそうに、堂々と首を縦に大きくふってくれた。
じゃあ、ライト、みんなも、また会いましょ!
「うん! 」
『次会うのは、タンバかアサギだな』
そうだね。そのままシルクは、上げた視線をわたしの方に向けてくれる。にっこり笑いかけてくれながら、こう言葉を伝えてくる。わたしも、つられるように頷く。その直後に、ラグナは推測を交えながら、その可能性があると思われる町の名前を挙げる。確かにジム巡りの順番で行くなら、陸路ならアサギになるし、海路ならタンバになると思う。これはまだ誰にも言ってないけど、わたし達は空を飛んで、タンバの試験からうけるつもり。ジョウトのリーグはアサギシティの近くに移転した、ってシルクから聴いているから、そうすれば手間も省ける、かな?
そういうわけで、それぞれ短く言葉を交わしてから、わたし達、フライは西のヨシノへ、シルク、カナちゃん達は東のワカバタウンへとそれぞれ歩き始めた。
ーーーー
Sideライト
「…お待たせしました。こちらのお部屋をお使いください」
「はい、ありがとうございます」
時間的に心配だったけど、空いてて良かった…。カナちゃん達と別れたわたし達は、三十分ぐらいかけて目的地、ヨシノシティに辿り着く。別れたときには夕日が眩しかったけど、今はもう完全に沈んで、空には月が光輝いている。センターに入る前に空を見上げてみたら、満点の星々が一面に広がっていた。
綺麗な景色に心踊らせながらセンターに入ったわたしは、受付の人から部屋の鍵を受けとる。その前にティル達の回復をしてもらったばかりだから、今わたしの近くにいるのは、アーシアちゃんとフライだけ…。そのふたりも傍のソファーの所で待ってくれているから、小走りでそっちの方に向かった。
『ライトさん、どうでした? 』
「大部屋はとれなかったけど、二人部屋なら空いてたよ」
『二人部屋かぁ。ボクがいる分少し狭いかもしれないけど、問題ないかな? 』
流石にそれは、部屋に行ってみないと分からないかなぁ…。わたしが戻ってきたことに気づいたアーシアちゃんは、一度鍵に目を向けてから、すぐに視線を上げる。動作で訊きたいことはわかった気がしたから、わたしはその通りに彼女達に教えてあげる。にんずう的にも大部屋をとりたかった、これが本音だけど、時間的に考えると仕方ないかな…。そんな事を考えていると、フライも鍵のタグを見てから、こう呟く。彼はもしかすると、ヨシノのセンターには泊まったことがあるのかもしれない。
「そうなの? 」
『うん。港町っていう事もあってね、宿泊施設は充実してるんだよ。ホウエンで言うなら…、トウカぐらいの設備はあるんじゃないかな? 』
トウカぐらいあるなら、このにんずうでも問題なさそうだね。フライの説明にいまいちピンと来なかったから、すぐに彼に問いかける。すると彼は、一瞬上を見、すぐにわたしに目を向ける。フライにとっても出身の地方の事を例に出し、すぐにわたしの疑問を解消してくれた。
『トウカって…、ジムがある町の事です? 』
『そうだよ。七千年代で言うなら…、一般的な探検隊ギルドの、チーム部屋、三部屋分はあるんじゃないかな? 』
『そんなにあるのですか? …て、ふっフライさん? フライさんも向こうの世界を知っているのですかっ? 』
「うん。わたしより、沢山知ってるんだよ」
そもそもわたしは、偶々一緒にいて、シルクに誘ってもらったのがきっかけだからね。知らないのは仕方ないけど、いまいちイメージ出来ていないらしく、アーシアちゃんはいまいちパッとしない表情で首を傾げる。そこでわたしが説明しようかと思ったけど、すぐにはいい例が出てこなかった。一瞬チョウジタウンの事が浮かんだけど、こことそこでは少し事情が違う。この考えを頭の奥の方に追いやっていると、フライが代わりに口を開いてくれた。
彼はアーシアちゃんでもイメージしやすいように、未来の世界の事を交えて話始める。五千年後の世界の事に関しては、ティルよりもわたし、わたしよりもフライとシルクがよく知っている。フライは多分、アーシアちゃんの事はシルクから聴いているはずだから、アーシアちゃんに合わせて説明できていると思う。代わりにアーシアちゃんは、フライの口から未来の世界の事が出てくるとは思っていなかったらしく、頓狂な声を出してしまっていた。
『アーシアさんの事は、シルクとシードさんから聴いてるよ。ボクも七千年代に何回か行ったことがあってね、向こうの事情とか歴史は、一応知ってるつもりだよ。それにウォルタ君に考古学の基礎…』
そういえばフライ、シルクと初めて導かれたときに、ウォルタ君達と出逢って、色々教えた、って言ってたっけ? そのままフライは、話題を未来の世界の事に変え始める。シルクが言うには、わたし達が行ったことがある場所とアーシアちゃんがいた場所は違うらしい。詳しくはまだ聴けてないけど、シルクがひとりで向こうに行ってるとき、ウォルタ君とある事を調査していて、その時にアーシアちゃんと知り合ったんだとか。フライはその…。
「
緊急連絡、緊急連絡。町北東部にて火災が発生。火災は町北部、東部に広がっている模様。繰り返します、町東部にて…」
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