Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































小説トップ
Chapitre Dix De Cot 〜故郷〜
Soixante-dix-huit 父の背中
  Sideヘクト



 「簡易的な措置しか出来てないから詳しくは調べてみないと分からないけど、恐らくは…」
 「そう、ですか…」
 伝説の種族だったからこれで済んでるけど、もし俺だったら、間違いなく逝ってただろうな…。救助活動も一段落し、俺達は拠点になっていた研究所に集まった。一応俺は途中までコットと行動していたが、ある時から姿が見えなくなっていた。俺自身は後から知った事だが、その時ちょうどフルロのトレーナーが大怪我を負って運ばれてきていたらしい。フィフさんとコット、それからここの学者が駆けつけたらしいが、あまり良く無い状態だったとか…。詳しくは知らねぇーけど、その場で応急措置をしてから、すぐに研究所に運び込んだらしかった。
 それからは俺も合流して、フルロのトレーナーの治療に当たっていた。密猟組織の幹部…、俺がコットと出逢った日に戦った奴が何故かいたが、そいつは俺と同族のヘルガーを連れていた。しかもそのヘルガーが、俺の親父らしい。すぐにでも話したたかったが、何しろあの状況…。親父とコットと一緒に、フィフさんの手伝いをしていた。

  機器が揃ってないから、簡易的にTLCでしか反応は確認できてないけど…。…最善は尽くしたけど、完全に回復する事は、諦めた方が良いかもしれないわ…。

 『嘘…、嘘、だよね?』
 「ライトさん…」
 あのフィフさんでも、これが限界なのかよ…。研究所に来てから忙しそうにしているフィフさんは、この場にいる俺達に独り言のように呟く。呟くと言っても声に出して喋っていないから、厳密にはそう言えない気もするが…。首を軽く横にふりながら言葉を伝えてくるフィフさんに、チルタリルっつぅー種族の彼女が、信じられない、っていう感じで声をあげる。俺が見た感じでは、今にも涙が溢れそうな表情をしていた。
 コットは最初から付き添っているから、この状況でも割と落ち着いている。だけどそれでも信じきれないらしく、俺の反対側で小さく呟いていた。
 『…俺達がアイツの暴走を止められなかったために、こんな事になってしまうとは…』
 『オヤジ…』
 『…いや、元はと言えば俺の注意が甘かったのが原因だ』
 『ううん、ふたりは悪くないですよ、リーヴェルさん。プライズの頭領が勝手にしてる事だって、ラグナさんが言ってましたから』
 俺の親父はその組織の幹部のパートナーらしいが、この事にかなり責任を感じているらしい。幹部だが、それ以前にジョウト出身のヘルガー…。トレーナーも同じ様な感じで、俯いたまま声を絞り出している。俺自身、親父の事は殆ど知らねぇ―が、少なくともいつもはこんな感じではないと思う。尻尾が完全に下を向いていて、話す言葉に全く覇気が無かった。
 オヤジに対し、フィフさんと来ていたスイクンは自責の念に駆られているらしい。声自体は力強いが、自分自身に責任を感じているらしい。それをシャワーズが優しく宥めているが、あまり効き目がないらしい。右の前足で軽く叩いてみたりしているが、彼に応えてはいなかった。
 『…、シルクが作った薬だから、多少はマシだと思うけど…』
 『俺達の傷を癒したぐらいだ…、俺自身も、そうであると信じたい』
 確かに、フィフさんの薬は凄く効くからなぁ。…そういゃあ俺も、野生時代にバトルで怪我した時、フィフさんの薬で治してもらったっけなぁ…。フルロのトレーナー…、今はラティアスっつぅー姿だが、その彼女を挟んだ反対側でも何かを話していたらしい。んだけど俺が途中から聴いた感じだと、向こうではフィフさんが作った薬の話をしていたのかもしれない。フライゴンのフライさんがこう呟くと、スイクンがその彼に続く。何があったのかは知らねぇ―けど、以前あった事を思い出しながら言っている、俺はそんなような気がした。
 『…っく! 』
 「…っ! ライトさん、ライトさん!
 『…良かった…、ライト、無事だったんだね! 』
 …ん? 目が覚めたのか…? 俺達が話している最中、丁度真ん中、怪我した本人が小さく声をあげる。意識が戻り、その影響で傷が痛んできたらしく、体が強張ったように俺には見えた。俺がいる顔の左側は包帯に巻かれていて分からねぇ―が、多分右目は硬く閉じてしまっていると思う。これに気付いたカナ、それからフライさんが、真っ先にハッと声をあげていた。
 「…ひとまず、山は越えたか…」
 『流石、あの学者のエーフィと言うべきだな』
 「…よし、ヘルガー、いくぞ」
 『アルファを止めに、だ…』

  待て! どこへ行くつもりだ!

 『オヤジ、待てよ! 』
 折角意識が戻ったっつぅーのに、もうどっか行くのかよ! フルロのトレーナーの意識が戻ったと分かると、部屋の奥にいる幹部、俺のオヤジのトレーナーが、ボソッと呟く。かと思うと彼は、まるでその時を待っていたかのように出口に向けて歩き出す。オヤジもその彼に続いている所を見ると、言葉が通じないなりに、同じ思いで行動している、俺はこう思った。短くオヤジに声をかけ、それに応えようとしていたが、その途中で怒鳴るような声が頭の中に響いてきた。いきなりの事で驚いたが、声的に呼び止めたのは、入り口付近で控えているスイクン…。普通の人間の彼にも分かる様に、俺が呼び止める声と同じタイミングで、テレパシーで呼び止めていた。
 「…この事件を、終わらせに行く」
 『んだけど、相手はエンテイなんだろう? いくらオヤジ達が幹部だろうと、伝説の種族に敵うはずがね…』
 『それでもだ! ヘクト、この事件は俺達、プライズが起こした…。こうなるとは思っていなかったが、組の方針に背いた頭領を止めるのは、その部下…、いや、元同僚の俺達の役目だ。…ラグナ、そうだろぅ? 』
 『ああ。俺もエクサと同じ思いだ。今はエクワイル側とはいえ、俺も元々密猟組織の幹部だった。…あいつの危険性は、元同僚なりに理解しているつもりだ』
 相手はイグリーとネージュを、たった一発で倒した伝説の種族なんだろうぅ? それも、暴走している…。そんな奴に、どれだけ強くても普通の種族の俺達が勝てるはずがねぇーよ! オヤジのトレーナーは、スイクンの方を真っ直ぐ見、短く、そして力強く言い切る。止めなければならない、でもそれだとフルロのトレーナーの二の舞になる、そう思った俺は、親父に対してこう声を荒らげる。だけどその最中に、俺はオヤジ自身に遮られてしまう。そのまま主張を続け、元同僚らしいグラエナのラグナさんに話題をふっていた。

  危険性、か…。

 「危険性…、アルファの事だな? 」
 『アルファ…、確かプライズの頭領だったよな? 』
 『その通りだ。…逃げた方角から推測すると、アルファはタンバに向かったはずだ。だから俺達は、今すぐ向かうつもりでいる』

  タンバ…、ジム狙いか! …だが、貴方単独では行かせん! 火事を終息させるために協力したが、信用したわけではない。俺達に同行する事で情報をひ…

 『ならこうはどうだ? 俺達はアルファを止め、スイクンのお前はエンテイを解放する。最善策のラティアスは潰えたが、俺達が組めば解放できるはずだ』

  …利害一致、という訳か。

 『なるほどな』
 『フルロのトレーナーが、最善策? 』
 それって、どういう事だよ? スイクン、オヤジ、それからラグナさんは議論をはじめていたが、俺はそれについていく事が出来なかった。だから俺は聴きに徹し、自分なりに考えてみる。コットから聴いた事しかしれねぇーが、タンバは確か、ジムがある小さな島だったはず。それにスイクンが言う事も、俺も何となく分かる気がする。一緒に行動していたらしいが、元々は狙う立場と狙われる立場。もし俺がスイクンの立場なら、捕まえようと狙ってくる奴を信じたくはない。この感じだとおそらく、スイクンも同じ気持ちだろう。だけどオヤジは想定済みだったらしく、トドメと言えそうなセリフでフイクンを説き伏せていた。
 『ライトのチカラの事だな? ライトのチカラであれば、確かにエンテイを解放できるかもしれない。ライトのメンバーだと言う事もあるが、ベータ、アルファが知るラティアスについての情報は、元々俺の元パートナーが集めたものだ』
 『ガンマの事だな? 』
 『ああ。ライトのチカラの一つに、人の“心”を浄化する、というものがある。エクサはライトのこのチカラで、“服従の鎖”を断ち切るつもり、そうだよな? 』
 『その通りだ』
 『何かよく分かんねぇーけど…』
 大怪我してそれが出来なくなったから、エンテイと同等の種族のスイクンで対抗する、っつぅー作戦なんだろうな、きっと。ラグナさん自身も訳ありだとは知っていたが、まさか情報源だとは思わなかった。…だけど俺が驚く間もない間に、議論は進んでいってしまう。そんな状態ではあったが、少なくとも俺は、フルロのトレーナーが事件解決のカギ、これだけは何となく分かった気がした。


  Chapitre Dix De Cot 〜故郷〜 Finit……

Lien ( 2017/04/22(土) 22:59 )