Soixante et seize 赤い光
Sideコット
『…おいおい、俺の親父を知ってるっつぅーのかよ』
『私も驚いたわ。まさか彼の子供が、あなただったとはね』
「…なんかそうみたいだもんね」
初めて知った時は、本当にビックリしたからなぁ…。家に着いてからの僕達は、カナのお母さんにも挨拶をしてから、二階にあるカナの部屋へ…。当然僕の事にはビックリされたけど、流石にこれは予想できたから、僕は驚かなかった。だけど時間が無くて伝えられなかったから、ヘクトと母さんはそうじゃない。お互いがお互いに対して、こんな風に声をあげてしまっていた。
ここまで来ると、世界は狭いんだって感じるわね。ヘクト君のお父さんがセッカさんとお友だちで、セッカさんの息子さんがコット君、その従兄弟にあたるのが私…。不思議よね。
『だよな! 俺はコットとフィフさんを見てると、本当に従兄弟って感じがするよな』
『そうだね。シルクさんはテレパシー使えるし、コットは人の言葉を喋れるしね』
やっぱり、従兄弟でもそういう所が似てるんだよね、僕達って。フィフさんは頭の中に直接話しかけてくれているから、多分カナにも伝えていると思う。花井の内容に合わせて、フィフさんはヘクト、僕の母さん、僕の順に視線を流す。最後は問いかけるように締めてたけど、質問したというよりは、呟く、って言う様な感じがした。僕も何でだろう、そう感じているから言おうとしたけど、ほんの少しの差で、ベッドの傍で腰を下ろしているヘクトに先を越されてしまう。彼は僕とフィフさんを見比べ、明るく言い放つ。それに反対側の壁際にいるイグリーが、うんうん、ていう感じで頷きながら賛同。狭い部屋だから、嘴で指しながらこう言ってくれた。
『俺にはよく分からねぇーな。お前らとは今日会ったばかりだしな』
「オークスは、仕方ないかな」
イグリーとは犬猿の仲のオークスは、扉に一番近い壁際で話に参加する。オークスとの出逢いはあまり良くはなかったけど、こうして話してみると思ったより荒れてるって言う感じではなかった。オークスは小さい時からあんな生活をしてきたって言ってるけど、もしかすると根はいいひとなのかもしれない。サナギラスに進化するきっかけになったイグリーにはそうじゃないけど、それ以外の僕達には全く喧嘩を仕掛けてこない。イグリーとの喧嘩を見てるとただ怒鳴り散らしている、会った直後はそんな印象だったけど、ティルさん達と別れる直前になると、言ってる事が一貫していて芯が通っている、そんな気がしている。
そんな彼に対して、僕もこんな風に呟く。小さい時からの定位置、机の傍に敷いている愛用の座布団に前足を揃えて座っている。旅に出る前はこれが僕のベッド代わりだったけど、サンダースに進化した今は、ちょっと小さいかな…。少し寂しいって言うのもあるけどその反面、進化した事の実感も改めて湧いてきて…、何ともいえない感じかな。
確か、今日仲間になったばかり、って言ってたわね。
『そうなると、チョウジの辺りね。懐かしいわ』
セッカさんも、行った事があるのね?
『そうよ。私も昔は…』
母さん達もジムを巡ってた、って大分昔に聴いたっけ? 僕の一番近くにいるフィフさんが、多分さっきの会話から想像して語りかける。フィフさんとは会ったり別れたりしてるから、オークスとは実質入れ違いみたいな感じだった。これを言いはじめると母さんとティルさん達にも言えるから、キリが無いけど…。…で、僕から見てフィフさんを挟んだ反対側にいる母さんは、僕達の会話で昔の事を思い出したらしい。僕は聞いた事があるけど、それ以外は初耳のはず。フィフさんはもちろん、イグリー達も以が…。
『コット君、外が凄く明るいんだけど、いつもこんな感じなの? 』
「外…? 」
母さんが昔の事を話そうとしていたけど、それを部屋の真ん中にいる彼女、ネージュが珍しく言葉を遮る。大分前からそわそわしてたから、もしかするともっと前から話し出そうとしていたのかもしれない。思い切ったように訊ねてきた彼女は、彼女から見て後ろ、ベッドの上にある小窓を目線で示す。言われるままにその方に目を向けてみると、彼女の言う通り、外から光が差し込んでいる。その光は街灯とかの白っぽい色じゃなくて、白熱灯みたいな褐色とか、暖色系の色…。最初は電灯が切れかけてるのかな、そう思ったけど、それなら点滅しているはず…。気になった僕は立ちあがり、ネージュの背中に跳び乗って改めて見てみる事にした。
「コット、外がどうしたの? 」
「ネージュが気づいたんだけど、外ってこんな明…」
『えっ、ヨシノで? うっ、嘘よね? 』
ふぃっ、フィフさん? 僕が注意深く小窓の方を見上げているから、ベッドに腰かけているカナが不思議そうに聴いてくる。それに僕はすぐに振り返り、ネージュの代わりに気になった事を言う。…だけどその途中で、突然声を荒らげたフィフさんに遮られてしまった。
『それで、被害状況は? …分かったわ、私もすぐに向かうわ! 』
フィフさんは右耳に着けているイヤホン型の通信機から、何かを聴いたらしい。フィフさんの驚き方からすると、少なくとも良くない事、だと思う。思わず立ち上がった彼女は、水色のスカーフに着けているピンマイクも右の前足で起動させ、すぐに話始める。驚きながらも質問し、一瞬だけ暗い表情になる。だけどすぐに決心したような目つきになり、通信機越しに話している誰か、…多分フライさんだと思うけど、そのひとにこう言い放っていた。
「…何か凄く慌ててるけど、何かあったの? 」
「ヨシノがなんとか、って言ってましたけど…」
外が明るいのと、何か関係があるのかな…? 慌てて立ちあがったフィフさんを見て、言葉が解らなくても、カナは様子だけで何かがあったと察したらしい。不思議そうに首を傾げながら、白衣のエーフィにこう尋ねる。僕自身も引っかかる事があるから、ネージュの背中から降りてからカナに続いて口を開く。フィフさんが繰り返した事しか分からないけど…。
ヨシ…。…そうね、早かれ遅かれ伝わる事だから、今言っておくわ。ついさっきフライから連絡が入って、ヨシノの町中で大規模な火事が起きたらしいのよ。
『かっ、火事? 』
火事って事は…、外の光が、それってこと?
そうよ。原因はまだ分からないけど、少なくとも自然的じゃなくて、誰かが意図的に起こしたもの…。炎が燃え広がる速度からすると、何かの技かもしれないって言ってたわ。
『炎なら、火炎放射とかなんじゃねぇーの? 』
技…? 火災だから、炎タイプ、って事だよね?
そう考えるのが、自然ね。フライの話によると、火の手は北東から広がって、今では町の八割に燃え広がっている…。センターと船着き場にも燃え移っていて…
「センター…。らっ、ライトさん! ライトさんは無事なの? 」
ひとまず、問題ないそうよ。今はセンターの係の人達と協力して、救助活動に当たっているわ。…だから、一番近くにいる私も助けに…
「それなら私もいきます! 」
『おいおい、待てよ! そんな面倒なこ…』
かっ、カナちゃん?
「センターも燃えてるなら、早くライトさんを助けに行かないと! 」
「そっ、そうだけど、いくら何でも危険すぎるよ! 」
コット君の言う通りよ!
「大丈夫だよ。昨日あれだけプライズと…」
いいえ、バトルとはわけが違うわ! バトルとなるとそれだけに集中できるけど、災害救助となるとそうはいかないのよ。誰かを助ける以前に、自分の身は自分で守らな…
「
分かってるよ! そんな事は分かってるけど、行きたいんです! ライトさんにはいろんな事を教えてもらった…。…だから、今度は私が、ライトさんの手助けをし…」
カナちゃん達がライトから教わってることは重々承知してるわ。カナちゃんの気持ちも分かるけど、いくら何でもカナちゃんには危険すぎる…。そもそも、これ以上危険な目に遭わす訳に…
「
だからだよ! ライトさんが危ない目に遭ってるんだか…」
死にたいの? 「えっ? 」
厳しい事を言うけど、カナちゃんがそうしたくても、
私がそうはさせないわ! もし助けに行って、カナちゃんに何かあったらどうするのよ! 火災の現場だから、最悪の場合、命を落とす事だって十二分に考えられるわ! カナちゃん以外にも言えてるわ! もし救助している間に、コット君とか…、メンバーの誰かがが命を落としたらどうするのよ! …私は、みんなには誰も失ってほしくないのよ! カナちゃんには分からないかもしれないけど、大切なひとを失うのがどれだけ辛い事か…。…カナちゃん達には、私みたいな思いをさせたくない…。だから…
「でっ、でも…」
「カナ…」
僕ならそんな事、耐えられないよ…。
「それでもわた…」
『はぁ…、サイコキネシス…』
「くぅっ…」
『辛い思いをするのは、私だけで十分だから…』
カナとフィフさんは、譲れないもののために激しく口論…。五分の戦いかと思ったけど、フィフさんの一言で形勢が一気に傾く。他のひとが言ったらそうでもなかったと思うけど、フィフさんが言ったから十分すぎるほど説得力があった。僕も言われるまで忘れちゃってたけど、フィフさんは小さい頃、震災で両親、僕にとっての叔父さんと叔母さんを失っている。声で直接は言ってないけど、感情が高ぶって、フィフさんは涙ながらに主張する。だけどカナは、それでも主張を譲らない…。僕は言う事を聴くつもりだけど、埒が明かないと思ったらしく、フィフさんは諦めたようにため息を一つつく。かと思うと、フィフさんは見えない力をカナに送り込む。カナを気絶させ、意味ありげな事を呟くフィフさんは、重々しく悲しげな表情をしていた。
「フィフさん…」
『安心して、気を失ってるだけだか…』
「ううん、そうじゃなくて、僕達にもできること、ありますか? 」
フィフさんの言う事を聴こうとは思ってるけど、カナと一緒で大人しく待っていたくない、っていうのも事実…。だから僕は、右の前足で涙を拭っているフィフさんにこう訊ねてみる。
『コット君でも…? それなら…、ワカバで救護にまわってもらおうかしら? 』
「救護、ですか? 」
『そうよ。ヨシノとワカバは近いから、一時的な避難場所として逃げてくる事も考えられるわ。だから、研究所とかに頼んで、その体勢を整えてほしいのよ。人の言葉を話せる、コット君にしかできない事だから』
「僕、だけに…? 」
『そうよ。…セッカさん、セッカさんはコット君に就いてもらっても、いいかしら? 』
『えっ、ええ…』
『あとのみんなは、研究所に行ってからそこでサポートにまわってくれるかしら? 』
『傷薬とか、そういうのを運んだりするとか? 』
『そうなるわね。…それじゃあ、頼んだわ! 』
「はい! 」
フィフさん、頑張ります! それぞれに役割をもらった僕達は、フィフさんのかけ声に大きく頷く。特に僕は、僕にしか出来ない事を頼まれたから、より一層言い放つ声に気合が入る。オークスは自力では動けない状態だから、気絶してるカナを看てもらうことになる、のかな? …兎に角僕達は、白衣の裾を靡かせて跳び出したフィフさんに続いて、行動を開始した。
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