Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































小説トップ
Chapitre Dix De Cot 〜故郷〜
Soixante et quinze 数日ぶりの我が家
  Sideコット



 「…そっか。それじゃあカナちゃん達とは、ここで一端お別れかな? 」
 「そうですね」
 「ティルさん達は、今日はヨシノで泊まるんですよね? 」
 『うん。コット君達は、一度家に帰る、って言ってたね』
 ワカバだと、センターが無いから泊まれないしね。ティルさん達とフィフさん、それからフライさんと行動を共にしていた僕達は、午後の何時間かをかけてフスベから南下していた。出た時には昼過ぎだったけど、話したりバトルしたり…。僕はブラッキーのアーシアさんと一緒に、フィフさんから新しい技を教えてもらいながら、次の目的地を目指していた。ペースを落として時々休憩しながらだったから、今はもう夕方。青かった空が朱く色づいていて、フスベの方には沈みかけている太陽が星空の刻の到来を告げようとしていた。
 そんな中僕達は、街道の分岐点になっているゲートを抜け、その前で立ち話。東西に延びている二十六番道路で、別れ際の会話をしている。ここまでは方向が同じだったけど、僕達は一度家に帰るつもりだから、ここでお別れ。僕達の家に泊まってもらうって事も考えたけど、田舎町の小さな一軒家だからね…。そういう訳で提案しなかったから、ティルさん達はヨシノのセンターで一晩を明かすって言ってた。家の玄関は狭いから、イグリーとネージュ、ヘクトとオークスはボールの中。ティルさん達は全員外に出ていて、ライトさんは人の姿に戻って…、じゃなくて、ラティアスっていう種族だから、変身して、って言った方が良いのかな?
 「そうだったね。シルクとフライはどうするの? 」

  私達? そうね…、私はコット君達について行こうかしら? コット君のお母さんに、挨拶もしたいしね。

 『そういえば、シルクとコット君って、従兄弟なんだよね。それじゃあ、シルクがコット君達の方に行くなら、ボクはライトについていくよ。それなら、いつでも連絡を取れるしね』
 ええっと確か、無線の通信機、持ってるって言ってたっけ? 僕、それからティルさんが話した後に、鞄の紐を左手で掴んでいるライトさんが、フィフさんとフライさんを見、ふたりに訊ねる。僕も気になっていたから、聴き逃さないように耳をたてる。するとフィフさんはカナにも聞こえるように、頭の中に直接語りかけてくれる。僕に視線を送りながら、こう語ってくれた。フライさんも間髪を開けずに、カナにも伝わるように視線でも言ってくれる。僕、フィフさんの順番に視線を送り、最後にライトさんで止める。それからいつの間にか耳にあたる部分に身につけている、通信機らしき何かを手で触りながら話してくれた。

  ええ! フライ、もし何かあったら、すぐに連絡して!

 『うん、もちろんシルクもね。あまり無理しないように』
 『当然よ』

  じゃあ、ライト、みんなも、また会いましょ!

 「うん! 」
 『次会うのは、タンバかアサギだな』
 そうだね。早くても明日になると思うけど、どっちかだね、きっと。フィフさんはフライさんの方を見上げ、心配しないで、とでも言いたそうににっこりと笑顔を見せる。それにフライさんも、口元を緩めてそれに応じる。これは僕の勝手な想像だけど、フライさんはフィフさんの喉の事を言ってるのかもしれない。それに気づいてるのかは分からないけど、フィフさんは大きく頷いていた。
 続けてフィフさんは、ライトさん、ティルさん達それぞれに目を向ける。こう言うのを見ると、本当に仲が良いんだなぁーって思う。そしてそれぞれに会釈しから、僕とカナ、シルクさんは東のワカバタウンへ。ティルさん達とフライさん、ライトさんは西のヨシノシティへと歩く足を向けた。


――――


  Sideコット



  ここが、そうなのね?

 「うん」
 うーん、何というか、不思議な感じだなぁ…。ティルさん達と別れてから数分後、僕達は何事も無くワカバタウンに帰ってこれた。殆ど時間が経ってないから、ほんの少し朱が弱くなってきているくらい…。…暁の刻、って言うのかな? 黒と赤で綺麗に色づいている。
 そんな中僕達は、ある一軒の家の前で立ち止まる。その建物とは、僕とカナの家。何日か前に出発したばかりなのに、何故か懐かしい…。それだけじゃなくて、ホッとするような安心感とか、初めての事をする時みたいなドキドキとか…、色んな感情が混ざってると思う。何ともいえない気持ちに満たされながら我が家を見上げていると、初めて来る従兄弟の彼女が、こう質問してくる。頭の中に声が響いている状態の時、カナが小さく頷いていた。
 「ちょっと前に出たばかりなのに、何か凄く久しぶりに帰ってきたような気がしますよ」

  私もその気持ち、よく分かるわ。

 「やっぱりそうだよね? ただいまー」
 フィフさんも、こういう経験あるんだね? 僕は白衣を着たフィフさんに、暖かな気持ちに満たされながら、こう呟く。すると彼女も、思い出すわね、とでも言いたそうな感じで言葉を伝えてきた。フィフさんの時ってなると、どれぐらい前なのか見当がつかないけど、四ヶ所のリーグを制覇したって言ってたから、ひょっとすると沢山そう思った事があるのかもしれない。僕が呟いた事に、同意…? いや、同調してくれた。
 カナも似たような感じだと思うけど、彼女は僕達の会話…、って言えるのかどうかは分からないけど、それに軽く相づちをうつ。そのまま右手を玄関の取っ手にかけ、思いっきり引っ張る。喉に力を込め、高らかに声をあげていた。
 「ねっ、姉ちゃん? もう帰ってくるなんて、早くない? 」
 「まだ六ケ所しか巡ってないけど、近くを通ったから。こんな時間だしね」
 カナが扉を開けると、そこにはちょうどカナの弟…。鉢合わせみたいな感じになっちゃったから、手を滑らせて持っていた本を落としてしまっていた。しかもそれが足の上に落ちていたから、その痛みと驚きとが合わさって言葉にならない声をあげてしまっている…。だけどそれでも何とか、カナをこう問いただしていた。
 「六ケ所…、だけどジムって…」
 『あらコット、案外早かったわね。おかえりなさい』
 「ただいま。あの後、色々あって早く進んでね」
 何やかんやで、一気に進んだからなぁー。カナが弟を話していると、話し声を聞いたのか、グレイシア…、僕の母さんがスタスタと奥の方からやってきた。母さんとは昨日会ったばかりだから、あまり驚いては無さそう。だけど予定よりは早く着いているから、意外そうに一言…。だから僕は、大分端折ることになったけど、もの凄く手短にこう返事した。
 『そう。…それなら、エーフィの彼女も、その途中で仲間になったのかしら? 』
 『いいえ、コット君達のメンバーではないけど、仲間…、に近いものはあるかもしれないわね』
 「そうですね。仲間って言うよりは、身内とか、師匠って言った方がいいのかも…」
 だってフィフさんって、ユウキさんのメンバーだもんね。僕のもの凄くざっくりした説明から、母さんは何かを思ったらしい。僕の左隣でキョロキョロと家の様子を見ていたフィフさんに目を向け、こう訊ねる。するとフィフさんはすぐに気付き、小さく首を横にふる。その流れで僕をチラッと見、すぐに正面に戻す。声に出す言葉に迷ってたけど、彼女なりの言い方で表していた。
 『身内…? 』
 「うん」
 『そうね』
 「母さん、紹介するね。父さんから聴いてると思うけど、このエーフィさんが、僕の従兄弟のフィフさん」
 エンジュで会った日にもフィフさんと話してたけど、あの時はコガネと怒りの湖だったからなぁ。母さんが不思議そうに首を傾げたから、僕はすぐにフィフさんを紹介してあげる。左の前足で指しながら、彼女の事を話す。最低限の事しか言わなかったけど、母さんも父さんから聴いているはずだから、これだけでも分かってくれるはず…。
 『フィフ…、って事は、あなたが? 』
 『ええ! 私も、フェールさんとコット君から聴いたわ』
 「そうでしたね。旅の途中で、技とかいろんな事も教えてもらったんだよ」
 よく考えたら、僕が使える技って、二つがフィフさんから教えてもらった技なんだよね。目覚めるパワーは初めて逢った時で、ついさっきも、アシストパワー、っていう技を教えてもらったばかりだし…。僕の予想通り、母さんはこの説明だけでも分かってくれた。ぼんやりと察し始めているらしい母さんに、フィフさんはにっこりと笑顔を浮かべて話す。横目で話をふってきたから、この流れで僕も彼女について付け加えていった。


  Continue……

Lien ( 2017/03/14(火) 23:16 )