Soixante et neuf 補助を力に
Sideアーシア
「…ええっとフィフさん」
『ん、コット君、何かしら? 』
「一つお願いがあるんですけど…」
コット君、お願いって何なのでしょうか? カナさん達のジム戦が終わってから、私達は行動を共にしていた。戦っていたネージュちゃんを回復してもらうのを待っている間、センターでみんなと談笑…。途中から戦ってなかったコット君達、それからシルクさんとフライさんも混ざって、楽しく雑談で盛り上がっていた。そして回復が終わってから、私達はみんな揃ってフスベシティを後にした。私はライトさんが、もう少しアイラさんと残って話したほうが良いかもしれないと思ったのですけど、それはまた後日、という事になった。これはライトさんから聴いた話なので何とも言えないのですけれど、ヒイラギさんが、色んなことを話してくれていたそうです。そういう訳で、今はまだプライズを追っていて忙しいから、ヒイラギさんに後を任せた、そう言う事じゃないでしょうか?
それでそろそろ話を元に戻しますと、フスベシティを出発してしばらく経ったので、進める足を止めて一休み。よく考えたら、今まで何回もあっているけど、落ち着いて話したことが無かったから、交流を兼ねて…。シルクさんのチームは…、私もまだ全員とは会った事がないのですけど、フライゴンのフライさんも合わせて、それぞれで色んなことをしています。天気も良くて暖かいですし…。そんな中、シルクさんの従兄弟のコット君が、シルクさんにこう話しかけていた。
「僕に、稽古を付けて下さい! 」
『という事は、ちょっとした特訓をしたいのですね? だけどコット君、どうしてなんです? チームの中で一番強いって、テトちゃんから聴いていたのですけど』
前に観たのはコガネシティのジム戦だけど、その時でも十分戦えていたと思うんだけど…。コット君はシルクさんが振り向いてから、真剣な表情でこう言い放つ。真っ直ぐシルクさんの目を見て言っていたから、本気なんだと思う。分かってはいたけれど、私は今でも十分だと思ったから、彼に理由を訊いてみる事にした。
「トレーナー就きのひと戦う時もあまり苦戦しなくはなったんですけど、それだとまだ足りないんです。捕まってるエンテイさんを助けたい、っていうのもあるんですけど、プライズみたいな組織から、リーダーとしてみんなを守りたいんです! 」
『えっエンテイさんと? 』
こっコット君も戦った事が…? 私の質問に、サンダースの彼は力強く答える。その声には迷いが一切なくて、決意が滲み出ているような気がする。まさかエンテイさんの名前が出てくるとは思わなかったから、ちょっとだけびっくりしちゃったけど…。だけど何となく、コット君の気持ちも分かる気がする。
「はい! 」
『…わかったわ。今まではライト達の誰かが一緒にいてくれたから良かったけど、誰もいない時に襲われる、っていう事も無くはないわね。…それなら、コット君とアーシアちゃんに、ぴったりな技があるわ』
『わっ私もですか? 』
『ええ! 』
こっコット君の頼みのはずだけど、何で私も? コット君が話してくれている間、シルクさんは空を見上げ、何かを考えていた。だけどコット君が大きく頷いてから、視線を戻してすぐに話始める。私は途中からメンバー入りしたから、それよりも前の事は分からないけれど、コガネの時はティル君が一緒にいてくれていた。昨日は湖でコット君達もプライズと戦ってたみたいだから、シルクさんの言う通りだと思う。カナさん達のチームの中では、コット君が一番期間が長いらしい。
だけどそのように考えている最中、シルクさんは急に、何かを思いついたように声をあげる。それも話題には出ていなかった、私にも視線を送りながら…。思わず変な声を出しちゃったけど、そんな私に満面の笑みで頷いてくれていた。
『アシストパワー、っていう技なんだけど、聞いた事があるかしら? 』
『アシスト、パワー…? 目覚めるパワーなら、知ってますけど』
それなら、シルクさんが向こうの世界でも使っていたから、知ってるけど…。確か、使う人によって属性が変わる、だったような…。
「ええっと確か、エスパータイプの技、ですよね? どんな技なのかは分からないけど…」
エスパータイプなら、私と逢う前とか、帰った後に使ってたのかな? 私は聞いた事が無かったけれど、この感じだと、コット君は名前だけは知っていたのかもしれない。私と同じで不思議そうに首を傾げていたけど、知っている事だけでも、シルクさんに訊いて確かめていた。
『そうよ。エスパータイプだけど、コット君のサンダースとアーシアちゃんのブラッキーも、習得する事ができるのよ。普通に使うと、アシストパワーは…、そうね…。お世辞にも高威力とは言えない特殊技なのよ。…だけどこの技は、使い方を知っていれば、戦略の主軸にもなり得るのよ』
『という事は、何かそのための方法があるのです? 』
悪タイプの私でも使えるのなら、相手にできる属性も増えそうですね。
『ええ! この技の効果は、自分のが何かしら強化されているほど、威力が底上げされる、っていうものなのよ。…そうね、アーシアちゃんなら剣の舞かふるいたてる、コット君ならチャージビームで、一時的に技の威力が強化された状態ね』
ふるいたてる? 私って、ふるいたてるっていう技、使えたっけ?
「チャージビームが…? あっ、そっか。それなら、何回か発動させた後に使えば、一気に決着をつけれそうですね! 」
『そういう使い方も出来るわね。昨日の湖みたいに、長期戦になった時に最適なのよ! もちろん、仲間の誰かの技で強化されていてもね』
という事は、私が使うなら、剣の舞で一気に強化してから、即行で仕掛ける、っていう使い方もできるかもしれないですね。シルクさんは順番に、私達にその技の効果と使い方を教えてくれる。最初は何でこの技を教えてくれるのか分からなかったけれど、聴くうちに何となく分かってきたような気がする。聞けば聞くほど、私にピッタリかもしれない、そう思えてきた。
『使い方は、凄く簡単よ。自分が持っているエネルギーを強く意識して、それを外に放出する。狙う場所は相手じゃなくて、念を飛ばしたい場所。そうすれば、エネルギー塊を送り込んで、それで攻撃する事ができるわ』
念を、送る…? 私は使えないけれど、サイコキネシスみたいな感じかもしれないですね、同じエスパータイプですし。
「場所を意識するんですか? それだと、あまり当たらないような気がするんですけど…」
『そうね。普通に使えば、そうなるわね。だけど、塊の状態から工夫すれば、それを補えるわ。コット君が目覚めるパワーでしているみたいに、弾道に変化をつける、みたいにね。アーシアちゃんなら、別の技から即行で切り替えて、回避する隙を与えない、っていう感じかしら? …大まかに説明すると、こんな感じかしら? 』
『技の応用、ですね』
それなら、何とかいけそうですね。場所に対して発動させる、って聴いて私も心配なったけれど、シルクさんがその対策をすぐに教えてくれる。私とコット君、それぞれの例も挙げてくれたから、案外簡単にその問題は解決できそう、そう思えてきた。コット君の応用のし方は分からないけれど、シルクさんが言ってくれた方法なら、習得さえすればすぐに使えると思う。
「それなら、何とかなりそうです。…ええっと、エスパータイプの技って…」
よく考えたら私達って、エスパータイプのイメージを身につける事から始まりますよね? コット君は少し考えてから、そういえば、っていう感じでこう呟く。それまで私は、その、根本的な事を忘れてしまっていた。結果思い出せたけど…。
それから私達は、時間の許す限り、シルクさんの直接指導で、アシストパワーていう技を習得するための練習を始めた。
Chapitre Neuf Des Light 〜龍翼の跡〜 Finit……