Soixante et six 龍の里へ
Sideライト
「ところでライト? ライトは予備試験、どこまで進んでるの? 」
「予備試験? あとフスベとアサギとタンバだけだから、五か所終わってるよ」
そういえば、ジム巡りで考えたら、もう折り返し地点を過ぎてるんだよね。わたしの同族のアイラさんと会って、彼女から
あるものを受け取ってからは、お互いの事を話し合っていた。テトラ達はテトラ達で、フレアとかアイラさんのパートナーと話し込んでいて、それなりに打ち解けているらしい。そんな中ヒイラギが、思い出したようにわたしに訊ねてきた。わたしはまさかヒイラギが聴いてくるとは思わなかったから、ちょっと反応が遅れちゃったけど、何とか応える事はできた。本当に見当がつかなかったけど、何か考えがあるのかもしれない、わたしは彼に対してそう思う事にした。
『えっ、ライトさん、ジム巡りしてるの? 』
「うーん、ジム巡りと言えばそうなるけど、昇格試験のための予備段階、みたいなものかな? 」
「確か普段の任務を意識した課題を与えられる、だったよね? 」
「うん」
そういえば、この事はまだ言いきれてなかったね。わたしの答えに、ラティアスとしてのアイラさんは、かなり驚いた様子で訊き返してきた。だからわたしは、彼女にも分かる様に、言葉を選びながらこう教えてあげる。エクワイルっていう組の名前を出す事も考えたけど、つい昨日、アイラさんはプライズに捕まったばかりみたいだから、それだけはやめておいた。ヒイラギがどこまで伝えてくれているかは分からないけど、ひとまずわたしは、最低限の事だけ言っておくことにした。
『そうなんだー。って事は、次はイブキさんと戦う予定なんだよね? 』
『ええっと、フスベシティのジムリーダー、だったっけ? 』
『うん。あたし達は昔から看てもらってたんだけど、凄く強いんだよ。…そうだ! 折角だから、案内するよ。フスベのジムも、あたしにとっては家みたいなものだからね』
「えっ、いいの? 」
あっ、アイラさん、ジムリーダーとそんな関係があるの? ここまで話した感じだと活発そうなアイラさんは、当然のようにわたしに訊いてきた。わたしよりも少し小さいから年下だとは思うけど、それでもしっかりしているとは思う。…言うなら…、子供から大人への過渡期、って感じかな? もしわたしで当てはめるなら、シルク達と初めて逢ってホウエン中を旅してたぐらいだね、きっと。
話が逸れちゃったから元に戻すと、当然のように訊ねてきたアイラさんに、最初からわたし達に混ざって話しているティルがこう質問する。わたしもどこかで聴いただけでうろ覚えだったけど、そんなような名前だったと思う。ティルも確認していたけど、あっていたらしく、アイラさんはこくりと頷いてくれる。それから彼女は何かを思い立ったらしく、例の人物に挑戦予定のわたし達にこう提案してきた。
『うん! あたしも、ヒイラギさんとライトさんをイブキさんに紹介したかったし! 』
「そうだね。自分もこっちの方の事とか、情報交換を直接したかったから、丁度いいかもしれないね」
『だね! じゃあ、早速案内するよ。アノード! 』
『えっ、あっ、うん』
『サイコキネシス』
そうだね。わたし達の方の事も教えてあげた方が良いし、もしかすると伝承とかが伝わってない、って事も考えられるもんね。わたしはまさか連れてってくれるなんて夢にも思っていなかったから、喜んで彼女の提案の乗る事にする。その事が相当嬉しかったらしく、彼女はそれを体で表現…。その場で小さく宙返りしたりして、全身で表してくれる。同族、そして年下のラティアスだからかもしれないけど、そんな彼女の仕草がもの凄く可愛かった。
「フレア、ヘイスも、一端戻って」
『ん? って事は飛んで行くんだな? 』
『それなら、俺達もそうした方が良さそうだな』
『そうだね。ライト、私達もお願いね』
「うん」
アイラさんがパートナーを控えに戻していたから、それを見たヒイラギは、すぐにふたりの名前を呼ぶ。これだけで分かったらしく、振り返ったフレアはすぐに頷いていた。話はどれだけ進んでいて、途中なのか否かも分からないけど、少なくとも、中途半端なところではなかったらしい。状況から判断したラグナとラフが、適当に切り上げてわたしに話しかけてきた。少し遅れてみんなも来てくれたから、アーシアちゃん以外をボールに戻した。
『あれ? ブラッキーのきみだけ戻らないの? 』
「うん。アーシアちゃんだけはね…」
『ちょっと訳ありだからね』
『そうなりますよね。ライトさん、私はライトさんの背中に乗ればいいのです? 』
『…だね』
抱えて飛ぶ事もできるけど、そっちはちょっと自信ないかなぁ…。当然と言えば当然だけど、唯一残ったアーシアちゃんに、アイラさんは疑問を投げかける。わたしもたまに忘れそうになっちゃうけど、アーシアちゃんは元々人間だったから、今のところわたしと同じで野生、っていう扱いになっている。だからボールに登録される、って事が嫌かもしれないから、相談した結果、そう言う事にしている。実際に乗ってもらうのは初めてだけど、彼女はわたしが頼む前に、こう訊いてきた。その時にはわたしも姿を元に戻していたから、答える代わりに地面についてたいせいを低くしてあげた。
『やっぱりライトの方が早いかぁ…。…それじゃあアイラさん、頼んだよ』
『うん! 山を一つ越えるけど、ついてきて! 』
『はいです! 』
アイラさん、お願いね! 一歩遅れてヒイラギもラティオスの姿に戻し終えていたから、彼の号令で、彼女が大きく頷く。その途中でわたし、ヒイラギの順に視線を送ってきたから、わたしも笑顔でそれに応じてあげる。その直後に背中に感じる力がほんの少し強くなったから、多分アーシアちゃんも、準備できたんだと思う。それを察してなのかは分からないけど、アイラさんは先陣を切って浮上し始めた。
――――
Sideライト
『ここが、そうなの? 』
『うん! 時間的に…』
「早めの昼休みをとった直後だと思うから、すぐ戦えると思うよ」
『あれ? こんなに大々的に姿、変えちゃってもいいのです? 』
「うん。フスベは龍の里って言われてるぐらいだからね、町のみんなもあたしたちの事は知ってくれてるから」
そっか、それなら良かった。あの場所からわたし達は、三十分ぐらい飛んだと思う。山を越えるって言ってたから、もしかすると直線距離ではあまり飛んでいないのかもしれない。カナシダトンネルとか煙突山ぐらいの険しさは無かったけど、それでもそれなりのアップダウンはあった。
そんな感じでアイラさんを先頭に風を切っていると、彼女はある一点で降下を始める。その場所はというと、山中の台地? それとも盆地? 際どい所だと思うけど、山と山の間の小さな村に降りたった。建物の特徴的にジムだと思うけど、彼女は何のためらいも無く光を纏い、人間としての姿に変える。そんな彼女に思わずビックリしてしまった事もあって、訊こうと思っていたことを先にアーシアちゃんに訊かれてしまった。
『町のみんなが…? 』
「って事は、アイラさんは…」
「その時の気分で、どっちの姿でもいるよ。…イブキさん! ジム戦の挑戦者を連れてきたよ!」
へぇー。ホウエンにはこういう所、無かったから、羨ましいなぁー。朗らかに話す彼女は、わたしの率直な疑問を、言い切る前に答えてくれた。言われてみれば、さっきわたしが変えても騒がれなかった気がする…。それにこれは気のせいかもしれないけど、山を越える前よりも暖かいような気がする。ドラゴンタイプ…、もちろんわたしもだけど、寒さに弱いから、すごくありがたい。話に戻ると、アイラさんはくるっと向きを変え、こう声をあげながら自動扉をくぐっていった。
「…アイラ、予定より早いんじゃあ…」
「うん。帰ってくる途中で偶然会ったんだけど、何かの試験? を受けに来たんだって」
「試験? 」
「あっ、はい。エクワイルの予備試験なんですけど…、ライト、っていう名前を出せば大丈夫ですか? 」
…もしかしてアイラさん、我が道を行く、っていうタイプ? 奥から出てきた人…、多分ジムリーダーだと思うけど、彼女は意外そうな表情を見せながらこう呟く。この後も何かを訊こうとしていたけど、アイラさんはお構いなしに話を進めていく。わたしの方にチラチラ振り返りながら、自分なりの説明をジムリーダーにしていた。だけどやっぱりそれだけではピンときていないらいく、ジムリーダーらしき彼女は頭上に疑問符を浮かべていた。だからわたしが、仕切り直して要件を説明する事にした。…本来ならこうなる予定だったんだけど…。
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