Soixante et quatorze ライバル
Sideヘクト
『ねぇヘクト』
『ん? 』
『ヘクトってどんなとこを見てきたん? 』
ん、俺か? コットとネージュの話によると、カナのジム戦は無事に勝利で終わったらしい。その後にセンターに寄ってから、俺、イグリー、それから新入りのオークスはそのタイミングでボールの外に出してもらった。その時驚いたのが、コットとカナと一緒に、フルロ達とフィフさん、それからフライさんも一緒にいたこと。フルロもボールの中だったらしいけど、ジム戦の時から一緒にいたんだとか。それで俺達は、ジム戦も済んだって事でフスベシティを後にしている。
フスベシティを出てからは、行き先が同じだからって事でフルロ達と一緒に行動をしている。話しながらだし初めて通る場所だから分からねぇーけど、太陽の傾きからすると結構な距離を歩いてると思う。んで、その途中だけど暖かいって事で、一旦休憩。カナはフルロのトレーナーと話していて、コットはフィフさんとアーシアさんと一緒にいる。ネージュはティルさんとラフさんと話していて、イグリーとオークスは何か言い争っているけど、それをテトラさんが宥めている。
…でヘルガーの俺は、何日かぶりに再開したベイ…、いや、メガニウムに進化していたフルロと、雑談三昧。途中からグラエナっつぅー種族のラグナさんも混ざっている。…正直言ってこれはコットとラグナさんから聴いた事なのだが、ラグナさんは俺の親父の事を知っているらしい。どんなヘルガーだったかは全く覚えてねぇーが、コットの話しだと、俺とコットは一度、俺の親父を相手に戦った事があるらしい。…となると、俺の親父は悪事に手を染めている、そう思ったんだが、親父のトレーナーは不可解な行動をしていたんだとか。おまけにラグナさんは、俺の親父とは昔の同僚らしい。ラグナさん自身もワケありらしいが…。
『俺は…、そうだなぁ。鈴の塔に登ったな。俺はその前のバトルで引き分けて気ぃ失ってたが…。んでもそれから大分後で、あのルギアに会ったんだぜ! 』
『そっ、そうなん? 』
『おぅ! 』
『ルギア…、あの少年の事か。確かニドランがメンバーにいたな』
知ってるっつぅー事は、ラグナさんも会った事があるんだな? ここで話に戻ると、フルロに分かれてからの事を聴かれたから、とっておきの事を彼に話す。野生出身の俺達でも知っている伝説の種族の事だから、俺は自信を持って言い放つ。案の定フルロは声をあげて驚いてくれたから、俺は満足した。…だけどこれを聞いたラグナさんの反応は違い、伝説と聞いても大して驚いていなさそう。至って冷静に何かを考え、俺の目を見ながらこう呟いていた。
『ニドラン…、あぁ、ニドの事か! エンジュのジム戦の直後で本気は出せんかったけど、あいつも強かったな。今度会った時は絶対に引き分けじゃなくて、勝ってやるんだ』
『やっぱヘクトもジム戦、戦っとったんやな! 僕はチョウジのジムやで』
『チョウジかぁ! んならフルロ、お前はそこを進化の場所に選んだんだな? 』
『そうやで! 』
やっぱりな。フルロの事だからそうすると思った。一瞬誰の事を言ってるのかピンと来なかったけど、少し考えたらすぐに分かった。向こうも万全な状態じゃなかったっぽいが、そんでも十分強かった。俺はそのままニドとのバトルの事を話そうと思ったが、フルロにはチラッと出したジム戦の方が気になったらしい。進化しても相変わらずな溌剌とした声で、俺に訊き返す。すぐに予想を交えて返事すると、フルロは当然のように大きく頷いていた。
『ふっ…、やはりお前はアイツの子供だな。会った頃のアイツとそっくりだ』
『親父と…? 全っ然覚えてねぇーけ…』
『そんな事より、ヘクト。折角時間もある訳やし、久々にバトル、せぇへん? 僕らが旅立ったあの日、元々する予定やったワケやし』
親父と俺、そんなに似てんのか? 俺達の雑談を聴いていたラグナさんは、この感じだと俺の親父の事を思い出しているらしい。明後日の方向を見上げながら、ボソッと呟いていた。上げていた視線を俺達の方に戻し、やっぱりそうだ、とでも言いたそうに今度ははっきりと言っていた。だけど俺は、その親父の事は全く覚えてねぇー…。全然実感がねぇーから、俺はパッとしない表情でしか返事する事ができなかった。
んだけど俺の反応はお構いなしに、相変わらずのフルロは溌剌とした声で言い放つ。まさかこのタイミングでこう言われるとは思ってなかったから、思わずフルロの方にハッと振りかえってしまう。…まぁバトルとなればいい運動になるし、何よりフルロに、コット達と戦ってきた成果を見せる事ができる。だから俺は…。
『…まぁ、コットの奴も何かしてる訳だ。フルロの誘いを断る訳ねぇーだろぅ? 』
『やっぱそうやんな! 』
『そういえばフルロ、今度会った時に決着をつけたい、って言ってたな』
っつぅー事は、ラグナさんは俺達のバトルを見届けてくれるんだよな? 俺はコットの方をチラッと見てから、こう言い放つ。俺としてもフルロの誘いなら、当然断る理由なんて何もない。もちろんフルロは、進化しても変わらん笑顔で喜んでくれた。この感じだとおそらく、フルロはトレーナー就きになってもバトルがしたいと連呼していたのかもしれない。もの凄くすんなりとラグナさんは、フルロに納得したように答えていた。
『そうそう。んじゃあヘクト、早速やろ! 』
『おぅ! 』
そうと決まれば、早速! ラグナさんも同意してくれているみてぇーだから、俺達はすぐに行動に移る。五、六メートルぐらい距離を開け、互いに向かい合う。湧き立つ気持ちをバトルに切り替え、短く声をあげる。この感じだと、フルロも同じ事を思っているだろう。
『んじゃあ、いくで! 』
『あぁ、来い! 』
フルロの戦法は、よく知っている…。俺の作戦も、フルロは知ってる。それでも俺は、フルロに勝つ! 俺達は互いに声をあげ、同時に走りだす。これがきっかけで、俺達の何日かぶりのバトルが幕を開けた。
『ヘクト、進化した僕はベイリーフん時の僕と一味ちゃううで! 』
『蔓の鞭か! それは俺も同じだ! 不意打ち! 』
フルロがそう来るのは、予想済みだ! 俺達の距離が二メートルぐらいになったタイミングで、フルロは首元の花から二本の蔓を伸ばす。この行動から発動させた技を予想した俺は、迷うことなく不意打ちの準備に入る。走りながら距離を測り、同時にエネルギーを力に変えていく。頭を低く下げ、角をフルロに向けて思いっきり突っ込んだ。
『くっ…』
『なっ…』
『やけどヘクト、技だけが攻撃方法とちゃうんやで? 自然の力…、トライアタック! 』
嘘だろ? 確かにフルロ、蔓の鞭、使ってたよな? 俺の角とフルロの蔓はほぼ同じタイミングで相手を捉える。初手は成功したかに思えたが、何故か思ったよりも手ごたえは無かった。フルロは俺に突かれて後ろに圧されていたが、この様子だと大して堪えてはいないらしい。圧されながらも両方の蔓にエネルギーを流し込み、反撃を仕掛けてきた。
『自然の力っ? 』
まず初めに、フルロは赤いエネルギーを纏わせた左側の蔓を、俺の右頬に打ちつけてくる。おそらく炎タイプなので、あえて回避せずに攻撃を食らう。
『そんな技、使えたのかよ…、くっ…』
二発目、逆側に黄色い鞭を、左から撓らせてくる。咄嗟に俺は踏ん張り、後ろに跳び下がろうとしたが、間に合わない。ほぼ密着していたという事もあって、当たった蔓からそこそこの強さの電気が流れ込んできた。
『袋叩き! 』
『っ! 』
『フルロの好きには、させねぇーよ! 』
三発目、フルロは頭を下げ、俺に向けて突進してくる。俺が跳び下がったって事もあって一メートルぐらい距離があったので、フルロの三撃目までにほんの少しのタイムラグがあった。この隙に俺は、一番使い慣れた袋叩きを発動させる。近くに誰もいないから俺だけの攻撃になってしまうが、防ぐためだけなら何の問題も無い。後ろ足で地面を蹴って切り返したら、瞬きするかしないかの短い時間でフルロとぶつかる。その瞬間、フルロの技の効果で僅かに氷の結晶が散ったような気がした。
『スモッグ! 』
『光の壁。僕やって、ヘクトの思い通りにはさせへんで! 』
ふっ、フルロ、こんな技まで使えたのかよ! 五分の力でぶつかり合った俺達は、互いに逆方向に弾かれる。後ろ足から着地してから、俺は即行で喉にエネルギーを蓄える。それを右回りに迂回しながら毒の属性に変換し、霧状にしてはく。その時にはフルロも、同じように動いて、俺の様子を伺っていた。
しかしフルロも、タダで食らうほど鈍感ではない。予めエネルギーを溜めていたらしく、瞬時にそれを解放する。するとフルロと紫の霧の間に、透明な壁が出現する。それがフィルターとなって、俺の攻撃は半減させられてしまった。
『んじゃあ、今度は僕からいくで! …はな…』
『今度こそ不意討ち! 』
『くぅっ…、花吹雪! 』
『花吹雪? そんな大…ぐぁッ…! 』
まっ、マジかよ! フルロ、いつ大技を使えるようになったんだよ! 俺の毒を防ぐと、フルロは俺から離れる様に直進。その途中でエネルギーを溜め始めたように見えたから、俺は即座に技を発動。これを利用して、一気に距離を詰める。勢いをそのままに、捨て身でフルロに突撃した。
今度は確かに手応えはあった。が、逆に俺自身が追い込まれる結果となってしまう。フルロはのけ反りながらも耐え、膨大なエネルギーを解放する。するとフルロの周りに桜色の花びらが沢山散ったかと思うと、急にとてつもない強風が吹いてきた。これが草タイプだから何とかなったが、もしそれ以外なら一発で倒されていたかもしれない。花びらに叩きつけられながら吹っ飛ばされた俺は、受け身を取れず地面に叩きつけられてしまった。
『ヘクト、今回は、僕の勝ちやな! トドメの花吹雪! 』
『負けて…、たまるかぁっ! …火炎放射! 』
辛うじてフルロの大技に耐えた俺は、四肢にありったけの力を込め、意地でも立ち上がる。俺の様子から倒せそうだと判断したフルロは、ここぞとばかりに同じ技を発動させてくる。他の技だとどうなったか全く想像できねぇーが、花吹雪だったのが救いだったのかもしれない。大技と言えど、草タイプであることには変わりない。だから俺は、いつもより多めにエネルギーを溜め、炎のブレスとして解き放つ。半ば賭けだが、フルロもろとも、燃やす事にした。
『えっ…』
『焼き尽くしちまえば…、っく…、大技だろうと…、関係ねぇ! 』
『ぐっ…』
流石にフルロでも、発動している最中なら、対処出来ねぇーだろうな。風の勢いが強くて完全には燃やしきれなかったが、それでも俺の炎は一直線に突き進んでいく。吹きつける燃えカスに耐えるだけで精一杯だったが、引火しているものもあったから特性で威力は上がっているはず…。だがとうとう俺に限界が来てしまい、ふっと力が抜けてしまう。ぼやける視界でハッキリとは見えなかったが、フルロも同じタイミングでバランスを崩し、倒れかけているように見えた気がした。
Chapitre Neuf De Cot 〜挑龍の儀〜 Finit……