Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜 - Chapitre Neuf De Cot 〜挑龍の儀〜
Soixante et douze 雪華の音響
  Sideコット



  イブキさん、今、いいかしら?

 「ジム戦をお願いします! 」
 丁度昼時だから、大丈夫かな…? フィフさん達からジムのルールを聴いてから、僕達はフスベシティのジムへと向かった。僕達が挑戦してるのとは別のルールがある、っていう事には驚いたけど、あれは多分、僕達には関係ないかな? だから気を取り直して、春空のジムの扉をくぐる。扉が閉まると、フィフさんはすぐにテレパシーで中の人に呼びかける。カナもそれにつられて、一応大声で呼びかけていた。
 「…奥の方から物音がするけど、昼休み中、なのかな? 」
 『うーん、時間的にも微妙なところかもしれないね』
 『そうね。でもフスベは…』
 「あっ、ごめん! バトルに夢中で遅くなっちゃった! 」
 僕達はまだ食べてないけど、そのぐらいの時間だもんね。フィフさんとカナが呼びかけても、聞こえてくるのは何かの物音…。それ以外は、僕達の足音しか聞こえてこなかった。少し待ってみても誰も来ないから、僕はフライさんの方を見上げながら呟く。通路は照明がついていたから薄暗くなかったけど、彼の表情は微妙…。ボソッと呟くような小さな声で、こう言っていた。フィフさんも何かを言おうとしていたけど、それはやっと聞こえてきた別の声に遮られてしまう。その声の主は、何かテンションが上がっているらしく、凄く明るくて溌剌としていた。
 「あっ、きみって、自然公園で戦った、観光局の…! 」
 「ピジョット連れてた子だね? 」
 奥から出てきたのは、少し前に戦った事がある女の人。カナとはあまり離れていないとは思うけど、自然公園でイグリーが戦った時のトレーナーだった。まさかこんな所で再会するとは思ってなかったから、カナは思わず頓狂な声をあげてしまう。僕は何とか我慢できたけど、多分そのせいで凄い表情になっちゃってると思う。幸い僕の表情には気づいていないらしく、出てきた彼女は何食わぬ顔でカナがカナって事を確認していた。
 「うん! きみも強かったから、ジム戦? 」
 いや…、観光局だから、流石に違うと思うけど…。
 「ううん、今日は仕事が休みで暇だから、手伝ってるんだよ」
 ほら、やっぱり…。本当は二人のやりとりにこう言いたかったけど、僕は無理やりその思いを押し留める。僕の言葉は普通の人でも分かるから、ビックリさせちゃうかもしれない…。直接話せるから便利だけど、こう言う意味では不便。何事にも長所と短所があるんだって、僕は身をもって感じだ。
 「へぇー」
 「うん! じゃあ、中に案内するね! 」
 別のところで働いていて、ジムを手伝ってるって事は、ジムリーダーの娘さんとかなのかな…? 僕は彼女についてこんな風に思いながら、二人の会話に耳を傾けていた。フィフさん達はフィフさん達で別の事を話していたのか、先に歩き始めた僕達に慌ててついてきている。何の話をしていたのか気になるけど、それは後で聴けばいいかな…?
 「…流石に私も…」
 「イブキさん! もう一人ジムに挑戦したいって言ってるんだけど、いい? 」
 「えっ…」

  イブキさん、この子なんだけど、大丈夫かしら?

 ん…? 挑戦者、いる? 手伝いをしてるこの人に案内されて、僕達はジムのフィールドに案内された。そこではついさっきまでバトルが行われていたらしく、ジムリーダーらしき女の人が誰かと話していた。だけど観客席にいる一人を除いて、それらしき人は誰もいない…。そんな中案内してくれた人が話しかけていたから、ジムリーダー? が驚きで言葉にならない声をあげてしまう。そこへ更にフィフさんが、頭の中に語りかける。フィフさんと知り合い、って事は何となく予想は出来たけど、まさか本当にそうだとは思わなかったから、僕は思わず小さく声をあげてしまいそうになってしまった。
 「この声…、ユウキさんのエーフィね? 」
 『はぁ…、はぁ…。こんなに…、疲れるなんて…

  ええ。

 『あっ、フライさん! コット君達も、一緒だったんだね? 』
 「てっ、テトラさん? 」
 えっ、何でテトラさんがいるの? やっぱり知っていたらしく、ジムリーダーの彼女はフィフさんに気付き、こう話しかける。するともうひとり、別の人も僕達に気付いたらしく、こっちの方に駆け寄ってきた。そのひとは、色違いのニンフィアのテトラさん。テトラさんがいるならトレーナーのライトさんもいるはずだけど、何故かその姿が見えない。いると言えば、少し離れた所で観客の人と話している、ブラッキーのアーシアさんだけ…。他にいると言えばいるけど、見た事も無い種族の誰か…。何故かもの凄く疲れているらしい彼女は、誰かの声に似ている気がするけど…。
 『テトラちゃん? …って事は、ライトはもう終わってる? 』
 『うん。今終わったところです。コット君達は、これからだね? 』
 「はい。フライさんとフィフさんから聴いたんですけど、ここはドラゴンタイプなんですよね? 」
 そっか。ライトさん達、もう終わってたんだね? フライさんは何かを察したみたいだけど、いまいちその事に確証を持てていないらしい。パッとしない表情のまま、テトラさんに気になっていることを尋ねていた。それにテトラさんは首を大きく縦にふり、こう答える。そのまま彼女は、偶々目に入った僕にも質問してきた。
 『そうだよ。コット君達なら、ネージュちゃんが挑むといいんじゃないかな? 』
 「うん、ネージュにはまだ言えてないけど、そのつもりです」
 イグリーでも戦えなくはないと思うけど、ネージュの方が相性的にもルール的にも、有利に戦えるかもしれないしね。テトラさんは僕達のメンバーの中から、最適なひとりを選び出す。一応オークスもいるけど、陸では戦えないから、どのみち同じだけど…。
 『だよね! …じゃあ、イブキさんも準備できたみたいだし、頑張ってね! 』
 「戦うのは僕じゃないけど…、頑張ります! 」
 ネージュはまだ控えのままだけど…。揚々と話すテトラさんは、横目でチラッとジムリーダーの方を見る。いつの間にかカナも参加していたらしく、彼女もその輪の中に入っていた。その状況から判断したテトラさんは、視線をぼくの方に戻してから、こう声をかけてくれる。だから僕は、実際に戦う訳じゃないけど、ボールの中で控えている彼女の代わりに、こう答えた。



――――


  Sideネージュ



 「ネージュ、昨日の成果、みせるよ! 」
 『うっ、うん! 』
 「ドラミドロ、頼んだわ! 」
 『はいよ。ここまで連続なのは珍しいけど、まぁいっちょやりますか』
 ジムで戦うのはヒワダ以来だけど、大丈夫だよね…? カナさんが投げたボールから跳び出した私は、派手は水しぶきと共に着水する。ジム戦だから陸でするのかと思っていたから、一瞬ビックリしちゃったけど…。だけど、水を張ったフィールドなら、いつも以上に上手く戦えそう。これでも私は水タイプだから、陸の上よりも有利に戦える。今から戦う私の相手はフワフワ浮いているけど、水の上と中で戦えるなら、問題なさそう。
 「ネージュ、相手は少なくともドラゴンタイプだから、いつも通り戦えば勝てるはずだよ! 」
 『そう、なの? 』
 「うん! 」
 コット君、ありがとう! 久しぶりの水上での感覚を確認していると、コット君が声をあげ、こう教えてくれる。私が控えている間に聴いてたんだと思うけど、その事を知ってるのと知らないのとでは、戦い方も変わってくると思う。このひとは見た事がない種族だったから、尚更、だよね?
 「竜の波動で牽制」
 「水の波動で防いで! 」
 『先攻はもらいますよー! 竜の波動! 』
 『えっ? みっ、水の波動! 』
 水の波動は、あまり良いとは思えないけど…。ジムリーダーさんが真っ先に指示したから、カナさんも私にこう言う。だけど私は、もっといい方法があるんじゃないか、率直にこう思った。もちろん相手は待ってはくれず、正面から紺色のブレスを放ってきた。このままだとダメージを受けるから、前鰭で水を後ろにかく。右の方にほんの少し力を入れたから、左の方に進路が逸れる。ニ、三回かいて勢いをつけてから、両方の鰭を真っ直ぐ後ろに伸ばす。そうする事で、水の抵抗を少なくして加速した。
 それと同時に、私は口元にエネルギーを集中させる。水のエネルギーに変換した状態で、しばらく維持する。向こうもかわされたとすぐに気付いたから、この間にも滑空して私の方に向かってきた。四メートルぐらいまで近づいてから、リング状にして相手に撃ちだした。
 『そのぐらいの技じゃあ、僕は倒せないよー? ダストシュート! 』
 『えっ…、くっ…! 』
 どっ、毒タイプ、なの? 当然相手も、ただ距離を詰めるだけでは終わらせない。技を溜めながら接近していたらしく、口元に紫色のエネルギー体が出現する。一応気付けたのは気付けたけど、気付いた時には既に放たれてしまっていた。直前に放った水のリングを打ち消したそれは、そのまま私に着弾。相性は普通だけど、思いがけずダメージを食らってしまった。
 『連続でいくよ? 竜の波動! 』
 『っ! 』
 どっ、どうしよう…? このままだと、押し切られる…! 私がさっきの技をかわせなかったから、相手は有利かもしれない、って思ったんだと思う。時計回りに旋回するように泳ぐ私の正面をとり、口元にブレスを準備する。今度は何とか反応し切れたけど、あとちょっと遅れていたら、またダメージを食らっていたかもしれない。
 すぐにでも反撃したかったけど、生憎私が使える攻撃技は少ない。水の波動は飛距離があるけど、決定打にはならないし、凍える風は弱点属性だけど、威力に欠ける…。他に使える技は、補助技の歌うと超音波。どっちも音系だから、距離が近いほど精度が良くなる。だけど、相手は毒タイプの技を使うから、あまり近づきたくない。
 …そうだ、音系を上手く使えば…!
 『あんまり攻撃して来ないけど、大丈夫ー? 』
 『うっ、うん…。大丈夫、だよ』
 一定の距離をとりながら泳いでいると、相手はしびれを切らせてこう訊ねてくる。話し方は穏やかだったけど、多分心の中では凄くイラついていると思う。目だけは笑ってなかったから、多分、そうかな…。
 だけどこの行動には、ちゃんと理由がある。作戦を考えながら泳いでいたから、その直後からそれを実行する。今相手は水槽の真ん中にいるから、水を力強く押して、一気に加速する。喋る喉にエネルギーを送り込んで、密かに音波を仕込む事にした。
 『こっ、これも作戦だから、心配しないで! 』
 『そう、なら良かった。ダストシュート! 』
 『ダストシュートって事は、きっ、きみって…、毒タイプ、なの? 』
 あからさまだから心配だけど、どうか、バレないで…! 喋る声をわざと響かせているから、もしかするとそれでバレるかもしれない。こうヒヤヒヤしながら、私は音系の補助技、超音波を発動させる。相手はバトルに集中しているのか、この様子だと私の技に気がついていないんだと思う。
 そんな相手は、私があからさまに正面から突き進んできたから、チャンスとばかりに紫の塊を飛ばしてくる。この技はさっき食らったけど、あまり体には堪えなかった。これはあまり自信が無いけど、ヘクト君の袋叩きで、私の役目は先発だから、多分それで守りが鍛えられたんだと思う。だから私は、躊躇わず、正面から距離を詰めていった。
 『まぁね。僕は毒、ドラゴンタイプ…』
 『そっ、それなら…』
 やっぱり、毒タイプなんだね? それに、この感じは…。長い時間超音波を発動させていたから、多分相手は、混乱状態になっていると思う。普通なら教えるはずはないんだけど、彼は親切に自分の属性を教えてくれる。この事から私は、技が成功した、って思ったから、このタイミングで喉にエネルギーを送るのを止める。すぐに別の技に切り替えようと思ったけど、急に私の頭の中に、別の技のイメージが思い浮かんでくる。既に使える技と似ていたから、私は躊躇わず、その通りにイメージを膨らませる事にした。
 まず初めに、私が今使える技、凍える風のイメージで全身を満たす。すぐにできたから、その状態で、さっき通ってきた氷の抜け道みたいな、凍りつきそうな空気をイメージする。そこから更に、イグリー君の追い風…、それ以上に強い風に吹かれた時の感覚を強く意識する。こうなってからイメージ通りにエネルギーを溜め、解放し…。
 『それならこの技で、倒せる…、かな? …吹雪っ! 』
 雪交じりの暴風を、私の背後から吹かせた。技自体の命中精度は低いけど、これだけ近づいて、相手も混乱状態だから、多分大丈夫だと思う。あまりの強さに私も風に圧されそうになっちゃったけど、そこは前鰭と後ろ鰭で力いっぱい水をかいて耐える。
 『…えっ…? ぐぁっ…! くぅっ…』
 『水の、波動! これで…! 』
 やった、初めて使ったけど、できた! 一メートルぐらいの距離で発動させれたから、相手は対応する事ができず、まともに吹かれてしまう。まだコントロールが出来てないからかもしれないけど、相手は雪にまみれて吹き飛ばされてしまう。ちょっと強すぎた気もするけど、バトル…、それもジム戦だから、いいよね? 形勢が逆転したから、私は慌てて泳いで、相手を追う。まだ五メートルぐらいあるけど、相手はふらふらと安定してないから、躊躇わずに水のリングを撃ちだした。
 『どっ…どこか…、っく…! 』
 これで、どうかな? 一気に体力が削られたのか、混乱状態でしっかりと前が見えてないのか、どっちかは分からないけど、相手はキョロキョロと辺りを見渡す。もしかしたら方向感覚も無くしてるのかもしれないけど…。やっぱりそうだったらしく、さっき撃ちだした水のリングを、かわせずに食らってしまっていた。
 『吹雪…、あのタイミングで、使われるなんて…』
 相当吹雪が効いたらしく、水塊を食らった相手は、力が抜けたように水に落ちてしまう。そのまま相手は、意識を手放してしまっていた。


  Continue……

■筆者メッセージ
・ドラミドロ

特性:毒の棘
技:竜の波動、ダストシュート、ベノムショック、ベノムトラップ
Lien ( 2017/02/27(月) 22:30 )