Soizante et neuf 三者両立
Sideコット
「…だけど、まさかあそこがそうとは思わなかったよね」
「だよね。着いた時にはもう暗かったし…」
気付かなかったのは、仕方ないよね。あの後僕達は、フィフさんの案内でその場所を発った。真っ暗でろくに見えなかったから分からなかったけど、昨日僕達が戦っていた場所は、釣りの名所として有名な怒りの湖だったらしい。言われてみれば水の音も聞こえていたような気がするけど…。で、町まであまり離れてないみたいだったから、歩いてその町に向かう事にしていた。
そんな感じで湖の近くの町、チョウジタウンに着いたのは、凄く遅い深夜の十一時ぐらい。チェックインの時間もとっくに過ぎていたから、回復だけをしてもらってからは、共用スペースで一夜を過ごすことになった。フィフさんは慣れているみたいだけど、僕はあまりくつろげなかったかなぁ…。人の行き来がそこそこあったから、その物音であまり眠れなかったよ。
あっそうそう。エレン君の事なんだけど、昨日は凄く疲れていたみたいで、フィフさんが言うには、こっちに向かっている時には既に眠りに堕ちていたらしい。…よく考えたら、そうだよね? 他に何があったのかは分からないけど、朝はエレン君のお母さんと戦って、午後も鈴の塔に残って闘ってくれていた。…包帯で巻かれるほどの怪我をしている理由は、全く見当がつかないけど…。
「十時にはなってたはずだもんね。…すみません、ジム戦をお願いします」
ここで話に戻ると、一夜明け、僕達はいつもよりちょっと遅めに行動を開始していた。昨日の戦いで消耗した傷薬とかを買いに行ってから、僕達はすぐにジムへと向かった。その途中は、もちろんおしゃべりしながら…。昨日までも筆談で話せていたけど、やっぱり声と声で話すのは違うね! 書かなくてもいいから楽、って言うのもあるけど、言いたい事の微妙なニュアンスの違いとかも伝えられるしね!
「ごめんごめんー! 今いくよー! 」
っと、そろそろ話に戻らないとね。買い物を済ませた僕達は、チョウジタウンのジムの門をくぐっていた。自動扉が開いてからカナが大声をあげると、すぐに奥の方から一つの声が返ってきた。恒例と言えば恒例だけど、あまりの声の大きさ、そして空間の広さに、何重にも声が反響していた。
「あれ…、きみが…? 」
だけど奥から出てきたのは、カナよりも小さな女の子…。無邪気な笑顔を浮かべながら、僕達のいる外の方に駆けてきた。
「うん! 驚いたでしょー? わたしがチョウジタウンの新米ジムリーダー、レナっていうの! 」
えっ、こっ、この子が? だけどこの子、絶対にカナよりも年下だよね? 危うく驚きで声を上げそうになったけど、僕は何とかそれを堪える。あまり実感が無いからついうっかりしちゃうけど、人の言葉を話すポケモンは殆ど居ない。僕はそれを喋れるから…。そうなると、話せるようになったのは嬉しいけど、これから苦労しそうだなぁ…。
「しっ、新人なの? うーん、わたしも新人、なのかな…? 色んなことがありすぎてそんな気がしないけど…」
確かに、そうだよね。カナの言う通り、僕もそんなような気がしてきた。ここまでの事を思い返してみると、旅立った初日、結局昨日、エレン君達だってわかったけど、ルギアさんを見かけた。同じ日にはマダツボミの塔に登って、そこで初めてプライズと戦った…。…挙げ始めるといくらでも出てくるけど、旅立ってからあまり日が経ってないんだよね…。ジム巡りだけが旅の目的だったけど、いつの間にかプライズの事件に巻き込まれちゃってるし、さんにんも伝説の種族に会ってるしね。
「そうなんだー。なら、わたしと一緒だねー! …ええっと、ここのジム戦だけど、ルールはトライバトルだから、もう一人来るまで待っててねー! 」
「あっ、うん…」
そっか、チョウジのルールはトライバトルなんだね? 何かテンションが高くてついていけないけど、自称ジムリーダーの彼女はこう声をあげる。何タイプのジムかまでは言ってくれなかったけど、変わってなければ、確か氷タイプだったはず…。となると、僕達だけだとジム戦が始められない。…という訳で、僕達はジムリーダーの彼女が言うように、もう一人の挑戦者を待つことにした。
――――
Sideヘクト
「エアームド、いくぜ! 」
「アブリボン、思いっきりやっちゃって! 」
「ヘクト、いくよ! 」
もちろんだ! 今朝の打ち合わせ通りに、俺はカナが投げたボールから勢いよく跳び出す。昨日の時点では属性も何もわからん状態だったけど、あれだけ戦って進化もした俺なら、楽勝だろうな! 現に今も、ひとりは見た事ない種族だが、もう片方は鋼、飛行タイプのエアームド。大きくなった体にも慣れたから、負ける気がしねぇーな!
『当ったり前だろぅ! コット、俺のバトル、見とけよ! 』
「うん! ヘクト、頑張ってね! 」
「ルールは、他のジムの通りだけど、そこにトライバトルのルールも採用するね! 使えるポケモンは一匹で、お兄ちゃんたちはわたしよりも早く倒れたら負け。もちろんトライバトルだから、協力してもいいし、倒し合ってもいいよ。その代わり、わたしも本気でいくから、覚悟してねー! 」
なるほどな。要はあの虫タイプっぽい奴よりも先にやられたら負けっつぅー訳か。横目でチラッと見ながらこう言うと、後ろの方でコットがすぐに答えてくれた。結局コットとの決着はついてねぇーけど、今はそれよりもジム戦だ! こう自分に言い聞かせながら、ルール説明に耳を傾けていた。
『そういう訳だから、よろしくお願いしますわね』
『おぅ! 』
『トライバトルってのはやった事無いけど、要はバトルロワイヤルと似たようなもんなんだよな』
俺に言われても知らねぇーけど、そうなんじゃねぇーの? 小さい相手は背中の羽を羽ばたかせながら、丁寧にお辞儀する。エアームドの方も何かを言ってるけど、正直言って俺もその辺の違いは分からない。あまり差し支えないと思ったから、とりあえず適当に返事はしておいた。
『それじゃあ、始めましょうか』
『そうだな。そんじゃあ…、エアカッター』
なるほどな。あいつは全体攻撃で殲滅するっつぅー作戦か。彼女の宣言を受けて、エアームドは真っ先に行動を開始する。四、五回羽ばたいて浮上し、同時に翼にエネルギーを送り込む。前に打ちつける事でエネルギー体を放出し、俺ともうひとりに向けて撃ちだしてきた。
『空中戦となると…、火炎放射! 』
今回の相手だと、俺は袋叩きとかの物理技じゃなくて、火炎放射を中心に戦った方が良さそうだな。ほんの少し遅れて、俺も喉に炎を蓄える。一瞬どっちから狙おうか迷ったけど、エアームドが先制してきたので、とりあえずはそっちから対処する事にする。俺に向けて飛んでくるエネルギー体に狙いを定め、蓄えたエネルギーを解放する。ブレスとして解き放ち、全体技に対抗した。
『貴方がそうするのなら、私もこうさせてもらいますわね。…銀色の風! 』
エアームドに対し、ジグザグに浮上する相手は、同じ高さになると更にせわしなく羽を羽ばたかせる。エネルギーを解放しながらしているらしく、その直後から急に風が吹き始める。浮上しながらの動きは回避のためのものだと思うが、俺にはどこかわざとらしく見えた気がした。
『くっ…、全体技か、おもしろくなってきたじゃねぇーか! なら俺は、これでいくぜ! スモッグ! 』
そっちがそのつもりなら、俺はこうさせてもらうぜ! 俺だけ陸に取り残されたのが気に食わないので、腹癒せを込めて別の技の準備をする。鋼タイプのエアームドには効果は無いが、そもそもこれはダメージを与えるつもりで発動させた訳ではない。空中戦を繰り広げている相手達の方を見上げ、俺は深く素早く息をはく。すると息が紫で霧状になり、もくもくと立ちあがっていった。
『おいおい、俺の属性は分かっているよな? 』
『あぁ、解っているさ』
『そういう…、事ね。…マジカルシャイン! 』
『凍える…』
『なっ…、不意打ち! 』
マジカルシャイン? という事は、アイツはフェアリータイプか? 俺が解き放った紫の霧に対し、当然エアームドは不思議そうに疑問を投げかけてきた。この事を考えさせて注意を逸らす、って言うのもそうだが、一番の狙いは、相手の視界を遮る事。あれだけ濃い霧を発生させれば、相性云々以前に、相手の位置を探るのが困難になる。もうひとりがもの凄く嫌そうな顔をしたのが、その証拠だろう。
だけど逆に、それがソイツを本気にさせてしまったのかもしれない。自分の中で何かを理解したかと思うと、急に膨大なエネルギーを解放する。この技は野生時代に何度か見た事があるので、俺は何をするつもりなのか、すぐに分かった。エアームドも察したらしく、緩和するために別の全体技を発動させるつもりらしい。一方の俺は、正式には全体技を覚えてはいない。このままでは弱点属性を食らい、最悪の場合一撃で倒される事だってあり得る。なので俺は咄嗟にエネルギーを全身に送り込み、身体能力を一時的に活性化させる。エアームド、それから技の効果を利用して、俺は大きく跳び上がった。
『か…』
『悪いが、お前には盾になってもらうぜ? 』
『いっ、いつの…ぐぁッ…! 』
技の効果で四メートルぐらい垂直に跳び上がった俺は、エアームドの背後をとる。この位置関係になってすぐに、頭を低くし、角で思いっきり突く。あまり手応えは無かったが、向こうが俺の突きの押されたので、それで十分。丁度そこへ光を纏った衝撃波が到達し、丸腰のエアームドに襲いかかった。
『貴方、中々汚れた手法を使うのね? 』
『汚れてる…? 汚れちゃあいないさ。要は技の使い方を変えただけさ』
その甲斐あって、俺は弱点属性の攻撃を何とかしのぐことができた。確かに手法は悪いかもしれねぇーが、そもそも俺は悪タイプだ。賢く頭を使ってこそ、その技の真価を引き出せるってもんだ。現に今も、技の効果を利用して体格上不可能な動きを披露する事ができた。ある意味褒め言葉を言ってきた彼女に、俺は落下しながらこう返事した。
『…よくもやってくれたな! 鋼の翼! 』
『考え方によっては、そうとも言えるけど…、花粉団子! 』
どうやら俺の対処法が相当頭にきたらしく、エアームドは青筋を立てて俺に襲いかかってくる。翼を硬質化させた状態で急浮上し、荒々しくこうはき捨てる。もうひとりの方も何かの技の準備をしていたけれど、向こうはもう少し時間がかかりそう。んだから、放置で良さそうだな、そう感じた俺は、一メートルまで迫った怒りの塊への対処に移る。
『一斉攻撃か…、面白い! 火炎放射! 』
咄嗟に燃え盛る炎をはき出し、徐々に火力を上げていく。
『っく! 』
『ぐぅ……! 』
『その隙、利用させてもらうわね! 』
距離が距離だけに完全に防ぐことは出来なかったが、それでも多少はダメージを軽減する事はできた。打ちつけられたことで下の顎がじんわりと痛くなってきたが、このぐらいなら差し支えないだろう。だけどエアームドと立体的にすれ違ったのも束の間、もうひとりの相手が、小さな手元に黄緑色の大きな塊を抱えて迫ってきた。俺の足が地面に着いたタイミングで、それを飛ばしてきた。
『俺にそこまで近づいても良かったのか? 袋叩き! っく…』
わざわざ近づいてくれたのなら、逆にそれを使わせてもらうぜ! この時には一メートルぐらいの距離まで迫られていたので、俺はこの状況を逆手にとって反撃に出る。短めの間エネルギーを解放し、その効果で頭を低くする。タイミングを合わせて角で突き、飛んできた粉末の塊を粉砕する。思わず咳き込みそうになったが、その影響で細かな粒子が辺りに拡散した。
『コット! 』
「うん! イグリー! 」
『おう! 』
いつもとは勝手が違うが、頼んだ! 技の効果はまだ続き、控えの方からコットが駆けてくる。あっという間に俺の横を走り抜け、接近の勢いが余る相手を跳びながら右の前足で叩き落とす。すぐに退避し、ボールから跳び出したイグリーと入れ替わった。
『っ…』
『ネージュ、フィニッシュは任せたよ! 』
『私が最後って変な感じがするけど…』
今相手は地面に堕ちているから、イグリーは空中で両方の翼で風を起こす。それは俺の技の効果で悪タイプになり、立ちあがろうとしている相手を吹き飛ばす。その先にボールから出たばかりのネージュが待ちかまえ、同じ属性を帯びた頭突きを食らわせていた。
これだけ連続でダメージを与えたが、おそらく相手にはあまり堪えていないと思う。見た目的には虫タイプで間違いなさそうだが、この様子を見る限りでは少なくともエスパータイプではなさそう。現に今も、ほんの少しバランスを崩しているだけで、平然と空中に浮上し直していた。
『…さすがに、このぉッ…! 』
『鋼タイプの…、忍耐強さ…、舐めるなよ! 』
『おいおい、まだ動けたのかよ…』
この間に技の準備をしていたらしく、斜め上の方から銀白色の弾が飛んでくる。それは正確に技の対象、俺が相対していた相手を捉えた。半ば驚きながらそっちの方に目を向けてみると、かなりふらつきながらもエアームドが何とか空中で羽ばたいていた。
『…鋼タイプ…、流石ね…』
『これで…終わりだ…! 鋼の…翼! 』
『花粉団子…! 』
あの様子だと、エアームドはこれで倒れそうだな。アイツも同じ技を使ったって事は、ああなるよな? ということは…。ラスターカノンだとは思うが、どうやらそれがかなり効いたらしい。息が切れ切れになり、体勢もあまり安定してなさそうだった。そこへチャンスだと思ったらしく、気絶寸前のエアームドが急降下してくる。彼はおそらく、相討ちで引き分けを狙っているのだろう。さっきの黄緑の塊にも臆せず、真正面から突っ込んでいった。
この光景をバックステップで距離をとりながら見ていた俺は、ある事を思い出す。そこ事を頼りに作戦を練り、その通りに行動する。喉元に炎のエネルギーを溜め、技に変換する。エアームドの翼が塊を粉々にしたタイミングでそれを解放し…。
『火炎放射! 』
距離のある場所から、その方向に火種を注ぎ込んだ。
『なっ…、嘘…だろ…』
『油断…したわね…。まさかここまで…』
『粉塵爆発、だったか、確か…』
すると辺りに舞っていた大量の粉末に引火し、かなりの規模の爆発が起こる。炎と煙で目視は出来ないが、おそらく大ダメージを与える事ができただろう。俺自身も名前と原理はうろ覚えだが、確かフィフさんが言うには、そんなような名前だったような気がする。数秒経って煙が治まると、そこには耐え切れずに気を失ったふたりが地面に倒れていた。
Continue……