Soixante et trois 月下の乱争
Sideアーシア
ならアーシアちゃん、わたしも試したい事があるから、いい?
『はいです! 電光石火! 』
様子がおかしいエンテイさんと対峙することになった私達は、お互いに思った事を伝え合う。大まかな事しか言わなかったから、作戦会議、っていうレベルではないと思う。だからライトさんは何をするつもりなのかは分からないけれど、ひとまず、作戦を開始。ライトさんは変身してからすぐに飛び下がり、竜の波動をエンテイさんに向けて撃ちだす。私もほぼ同じタイミングで、その人の方に向けて一気に駆け出した。
『ガァッ! 』
『体当たりっ! …電光石火』
くっ…、やっぱり、びくともしない…! 電光石火で勢いの乗った私は、正面からエンテイさんとの距離を詰める。四、三、二…、目で距離を測り、一メートルぐらい手前で急に方向転換。右に跳び退くと、そこを制御できていない猛炎が、地面をえぐりながら突き進んでいった。内心ヒヤリとしたけど、私は無理やりその思いを押し込める。勢いを逃がさずに一、二歩、走り、三歩目で思いっきり地面を蹴る。左…、エンテイさんに向けて大きく跳躍し、着地してからもすぐに足に力を込める。立ち上がった状態で跳びかかり、足が離れてからすぐに技を解除する。それでも電光石火で勢いがついているから、大丈夫。このまま突っ込んでもいいけど、別の技の方が威力は出る。体当たりは初級技だけれど、今の私は剣の舞で強化されている。突進ぐらいの威力は出ているはずだから、頭から赤黒い鎖に突っ込む。だけど全く堪えていないらしく、私は呆気なく弾かれる。反撃してくる前に、電光石火で退避した。
『冷凍ビーム! 』
『アイアンテール! 』
ライトさん、あんな技も使えるのですね…。私が後ろに跳び下がると、入れ替わる様にライトさんが空から距離を詰める。斜め上からすれ違い様に、左の前足に冷たい光線を命中させる。その間に私は、後ろ、右、右って言う順番でステップを踏み、更に強化しながら注意を引く。ライトさんが光線を撃つのを止めて左へ通り過ぎたから、ライトさんが照射していた部分に思いっきり尻尾を叩きつけた。
『グオォォッ、ガァァッ! 』
『えっ…、まも…』
こっ、これでも? 体に捻りを利かせて叩きつけたけど、エンテイさんは全く揺らがない。変化があったと言えば、ライトさんが命中させて纏わりついていた、関節辺りの氷が弾け飛んだぐらい…。それどころか、エンテイさんは全く気にすることなく、大きな声をあげる。するとエンテイさんの足元から、もの凄い温度の炎…。
『くっ…! 』
『アーシアちゃん! 』
咄嗟に緑色のシールドで防ごうとした。だけど、完全に張り終える前に炎が襲いかかってくる。エネルギーを流し込むのが間に合わなかったから、あっという間にヒビが広がり、薄いガラスみたいに砕け散ってしまう。もちろんそれでも炎は、全く衰えずに私に襲いかかってきた。バリアが弾けた反動で動けないから、私はまともにその炎をくらい、派手に飛ばされてしまった。
「ふっ…、たかがブラッキーでは、この私には敵わないのよ。使う駒を…」
『ぅ…、っく…』
『ガッ、ガァァッ! 』
…覚悟はしていたけど、ここまでとは…。大ダメージをくらってしまったから、全身が痛んできた…。何とか立ち上がろうとはしたけど、体に力が入らない…。おまけに、目の前が霞んできた…。…エンテイさんを助けるって決めたのに…、これだと…、私って、足手まとい…、だよね…。リファ…。
『…ソーラービーム! ライト、今のうちに! 』
『うん! 癒しの波動! 』
『…っ? 』
…? 痛みが…、引いた…? ぼやける視界で見ると、満身創痍の私を狙って、エンテイさんがトドメを刺そうと技を発動させる。夜で暗いからよくわかるけど、あれは多分、ソーラービーム、だと思う。ダメかもしれない、そう諦めかけたけど、私の目の前が急に緑とか白で覆われる。かと思うと、いきなり私を暖かな何かが包み込む…。すると、さっきまでの痛みが、最初からなかったかのように消え失せてしまった。
『アーシアちゃん、大丈夫? 』
『はっ、はい…。ライトさんって、…回復技、使えたのです? 』
『うん。…だからアーシアちゃん、ダメージは気にせず戦って! リーフも駆けつけてくれたし、多分テトラも、もうすぐ来ると思うから』
リーフさん? …ていうことは、あれは…、リーフさんてこと? 急に痛みが引いて、訳が分からず茫然としていると、ライトさんが降りてきて私に話しかけてきてくれた。心配そうに訊ねてきたから、ひとまず私は。こくりと頷いた。続けてこう尋ねると、ライトさんはにっこりと笑顔を浮かべ、首を大きく縦にふる。すぐに戦ってくれているリーフさんをチラッと見、手短に現状を教えてくれた。
『テトちゃん、も…? 』
『うん。…アーシアちゃん、ちょっとだけ、時間を稼いでくれる? 』
『ええと、さっき試したい、って言ってた事? 』
『うん』
結局何するつもりかは聴けてないけれど、ライトさんなら、大丈夫かな? ライトさんは、何となく状況を掴みつつある私を真っ直ぐ見、こう頼み込んでくる。やっぱり見当がつかないけど、ライトさんはライトさんで、思う事があるんだと思う。ライトさん…、テトちゃんもだけど、本気で戦っている所は見た事が無いけれど、そうじゃ無い状態でも、十分に戦えていた。
『それじゃあ、頼んだよ! 』
『はいですぅっ? あっ、そっか』
私が肯定し、大きく頷くと、ライトさんもコクリ頷く。何かを決心したかのように声をあげると、ライトさんは私の目の前で姿を消す。一瞬びっくりしちゃったけれど、すぐに思い出したから慌てる事は無かった。ラティアスとしての能力のはず、それしか知らないけど…。
『兎に角、頑張らないと! …シャドーボール! 』
ライトさんに頼まれたし、そもそもリーフさんは、相性的にも不利だよね? それなら、私が率先して戦って、危なくなったら守らないと! こう自分に言い聞かせ、私は自らを鼓舞する。この間もリーフさんが一人で戦ってくれているから、すぐにでも助けに入らないといけない。不利な相手にどんな風に戦ったのかも気になるけど、それは置いておいて…、私はすぐに、彼の元に駆けだす。私から見て、エンテイさんから三メートル、リーフさんからは二メートル…、丁度二等辺三角形になるような位置に来てから、私は溜めていた黒い弾を発射する。いつもは、もう少し小さかったような気がするけど…。
『リーフさん、さっきはありがとうございますっ! 』
『…アーシアさん、ライトの癒しの波動で回復できたね? 』
『はいです! リーフさんも、大丈夫なのです? 』
『うん、僕は平気だよ。…アーシアさん、フラムさ…、エンテイはソーラービーム、噴火、炎の牙、それから専用技の聖なる炎を使…』
『グオォォッ! 』
『…っ、リーフストーム! だから、聖なる炎さえ発動させなければ…』
聖なる炎…、あの、私が受けた炎タイプの技、かな…? エンテイさんが噴火を発動させていたから、私は連続でシャドーボールで撃ち落とす。状況が状況だから、私は振り返らずに感謝の言葉を伝える。どんな表情をしていたのかは分からないけれど、リーフさんはこんな風に答えてくれる。そのままエンテイさんが使える技を、手短に教えてくれた。そのままエンテイさんの傾向とかを教えてくれようとしていたけど、それは途中で遮られてしまっていた。炎の牙だと思うけど、一か所に固まる私達を狙って、一気に距離を詰めてきていた。
『スピードスターっ! やっぱり…』
やっぱり、数、増えてるよね? リーフさんの草嵐に少し遅れて、私も特殊技で対抗する。シャドーボールで圧しきろうかとも考えたけど、体力を削れている実感がない今、少しでも確実にダメージを与えたい…。だから私は、立ち上がった事で空いた手元に溜めているエネルギーを、何にも変換せずに撃ちだす。それは七…、じゃなくて八つに分かれ、星型になって飛んでいった。
『全然、効いて…』
『アーシアさん、下がって! …逆鱗! フラムさん、これで! 』
『はっはい! 』
『リーフさん、遅れてごめん! ギガインパクト! 』
『アイアンテールっ! 』
これだけ一気に当てれば、流石に闇に呑まれていても効くよね? 私達の一斉射撃でも、エンテイさんは止まる事は無かった。そのまま突き進み、正面のリーフさんに狙いを定めているらしい。牙に炎を纏わせて、噛みかかろうとしていた。
こんな状況でも、リーフさんは冷静に声をあげる。私に呼びかけると、すぐに全身に力を溜める。牙をむき出しにするエンテイさんに対し、リーフさんは下から尻尾を思いっきり振り上げる。相手の体がほんの少し上方向に崩れたかと思うと、リーフさんは胴、頭…、っていう感じで、凄い勢いで体中を叩きつけていた。
この間に私は、巻き込まれるといけないからすぐに左に跳ぶ。体勢を起こした状態で駆け、その状態で尻尾にエネルギーを流し込む。技の効果で硬質化させ、左足で踏みきって大きく跳ぶ。エンテイさんを挟んで反対側から攻撃を仕掛けたテトちゃんと同じタイミングで、私も強化された一撃を首筋に命中させた。
『ライト! 』
うん、テトラ、アーシアちゃん、リーフも、ありがとね!
『これで…、きめる! “癒しの波動”! 』
衝撃音が響き渡ったところで、私の頭の中にライトさんの声が話しかけてきた。これだけを私達に伝えると、ライトさんは話し方を声に変えていた。跳び退く時にチラッと見えただけだけど、ライトさんは高さが三メートルぐらいの位置に、手元に光の塊を溜めた状態で姿を現す。暗いって事もあってより一層輝いて見えるそれを、両手投げみたいな感じでエンテイさんに飛ばした。癒しの波動っていうと、回復技だから逆こ…。
『らっライトさん? 』
『ライト、まさか、チカラを…? 』
だけどライトさんは、その光塊を放つと、急に全身の力が抜けてしまったらしい。浮遊できる種族だけど、真っ逆さまに地面へ堕ちていく…。
『
ライ姉! …よかった、何とか間に合った! 』
その真下に滑り込む様に、白くてフワフワな誰か…、声的にラフちゃんだと思うけど、綿菓子みたいな彼女がライトさんを受け止める。そのお陰で、ライトさんは何とか、地面に叩きつけられずに済んでいた。
『ライトさん、大丈夫ですか? 』
『…チカラ、使ったから、その“代償”で体に力が入らないけど、それ以外は…』
『チカラ…』
『ラティアスが使える、特殊能力みたいなもの、かな? 発動させた反動で半日は身動きがとれなくなっちゃうみたいなんだけど、その代わりに、ひとりの感情を無理やり鎮めることが出来るんだよ。本当はミストボールを基に発動させるみたいなんだけど、ライトは同族の中でも、このチカラを使うのが得意なんだよ。だから回復技の癒しの波動を…』
テトちゃん、そうなの? 下から訊ねた私の問いかけに、ライトさんは力なく答える。凄く心配になったけれど、そんな私に、テトちゃんが代わりに説明してくれる。特殊能力って言われると、ライトさんって、何か特別な人? 一瞬そう思ったけど、よく考えたらライトさんも伝説の種族…。だから、シードさんの“時渡…”
『
グオオオォォォッ! 』
『くっ…』
『
えっ、うっ、嘘でしょ? ライ姉のチカラが、効いてない? 』
『守る…! 』
ちょっちょっと…、ライトさんの能力って、感情を鎮める能力なんじゃあ…。…っ、凄い、威力…。ライトさんの能力で放った光は命中した。だけど、エンテイさんに何の変化も無い。それどころか、もの凄い大きさの咆哮をあげ、炎の塊を打ち上げてきた。あまりの事に、テトちゃんとラフちゃんは言葉を失てしまっている…。だから私が、ほぼ条件反射的に、真上だけに緑の壁を作りだした。今度はありったけのエネルギーを流し込めたから、すぐにヒビが入って砕け散る事は無かった。だけど、壁の三分の二ぐらいの広さに亀裂が入ってしまった。
『まさか、ライトのチカラが効かないなんて…。リーフ…』
『リーフさん、待って! ここは退いた方がいいと思います! 』
『
だっだけどテト姉、それだとエンテイが…』
『…うん、だけど、ライトのチカラでも効かなかったんだから、これ以上戦うのは危険だよ! 』
そっ、そう、だよね…。リーフさんはすぐに攻勢に移ろうとしていたけど、それを慌ててテトちゃんが止める。リーフさんの前に飛び出したテトちゃんは、私達にも含めて必死にこう提案してくる。ラフちゃんの気持ちも分かるけど、…本当はこう思いたくないけれど、今のままだと、私達がバテて全滅、っていう事も考えられる。だから、私は…。
『私も、そう思います。ライトさんが動けないみたいだから、尚更ですっ。だから、ラフちゃん』
『
…』
『グォァァッ! 』
『とっ、兎に角、今は退かないと! フラッシュ連射! 』
テトちゃんに助太刀して、ラフちゃんを説得する。まだ納得できてないみたいだけど、この間にもエンテイさんは技の準備をはじめてしまっていた。この感じだと多分、ソーラービームだと思う。私が壁を張り直す前に、テトちゃんはヒラヒラの部分に光の玉を作りだす。時間差で七つ撃ちだし、我先に逆方向に駆けだす。テトちゃんがスピードに乗り始めたタイミングで閃光が放たれ始めたから、私も慌ててそれに続く。羽音がするから、ラフちゃんもついてきてくれているはず…。…こういう訳で万策尽きた私達は、相手の目が眩んでいる間にこの場から離脱した。
Chapitre Huit Des Light 〜湖畔の任務〜 Finit……