Soixante et une 乱戦
Sideティル
「クワガノン、いけ! 」
「フラージェス、返り討ちにしてやりなさい! 」
これはある意味、チャンスかな? 夜の湖で、ここをアジトとしているプライズと、それに奇襲を仕掛けてきたプロテージと鉢合わせ…。結果的に目的通りになったけど、俺達はその戦闘に巻き込まれてしまう。他の場所はどうかは分からないけど、俺達がいる南中央部は、二勢力が入り乱れ、あちことで戦闘が勃発している。…例えるなら、地獄絵図、これが一番ふさわしいかもしれない。おまけに俺達、エクワイルの存在もばれているらしい。少なくとも俺達に対しても、二勢力から戦闘の対象にされてしまっていた。
『フルロ君、フルロ君はウチと来て♪ 』
『スーナさんとやな? 』
『スーナ、フルロの事は任せた! 』
『ラグナ達も! 』
スーナさんといるなら、フルロも安心だね。本来なら四にんで同時に戦うと良いんだけど、何しろこの敵の数…。暗い夜っていう事もあって、十分なスペースがない。そんな中で背中を預けて戦うとなると、その一点集中して攻撃され、全滅するのがオチ。だから俺達は、それぞれ個人で戦うことになった。だけどフルロはこういう状況で戦うのは初めてのはずだから、一番経験を積んでいるスーナさんと組んで戦うことになっている。だから俺達は、一言ずつ言葉を交わし合うと、三方向へ散っていった。
「十万ボルト! 」
「ムーンフォースで打ち消しなさい!
『まさかお前と戦うことになるとはな、十万ボルト』
『確かにそうよねぇ。だけど、今は敵同士、容赦はしないわ! ムーンフォース! 』
ラグナは影分身で色んな相手と戦ってくれてるし、スーナは地佐の方に行ってくれたから、俺は…。三にんが向かった方向を横目で確認してから、俺は直近で繰り広げられている戦闘に目を向ける。そこでは丁度、二者がそれぞれ遠距離技で相手に狙いを定めている所だった。クワガノンは全身からバチバチと音をあげる電気を放出し、フラージェスは手元に薄桃色の球体を作りだす。同じタイミングで相手に向け、高威力の特殊技を撃ちだす。…だけどこの軌道は、おそらくかち合って相殺すると思う。だから俺は…。
『サイコキネシス! 』
『何ッ? 軌…くっ…』
『そんなこ…っ! 』
両者にダメージが入る様に、誘導する! 即行で軌道を読んだ俺は、両者の側面から超能力を発動させる。力の影響範囲を広げ、その中に入った薄桃、黄色の両方を拘束する。この状態で進行方向を無理やりねじ曲げ、すれ違うように進ませる。その甲斐あって意表を突き、ほぼ無防備な状態で両者にダメージを与える事に成功した。
「なっ、何だい? 」
「…なんだ、タダの野生のマフォ…」
野生? 野生なら、わざわざこんな所に来ませんよ。…エクワイルとして、プライズ、プロテージ、両方とも、ここで倒します!
『マジカルシャイン! 』
どのみち今回の俺達の任務は囮なんだ、折角だし、大げさぐらいに気を引かないとね! ふたりの戦闘に割り込んだ俺に、当然そのトレナー達は気がつく。やっぱり俺の事を野生だって思っていたらしく、予想通りの反応をしてくる。なので俺は、これでもかと言うほど目立つ行動…、テレパシーで、自称幹部達に語りかける。気を引かせるために宣戦布告…。杖にエネルギーを送り込み、高々と閃光を発生させた。
『…、野生でないというのは、本当のようね。…面白いじゃない』
『プライズとプロテージ、エクワイルのトライバトル、やってやろうじゃんか』
…うん、ひとまず、乗ってくれたね。閃光の間に襲う衝撃波で、相手ふたりは俺の実力を何となく察したらしい。習得したばかりで殆どコントロール出来ない状態だけど、気を引かせるには十分だったらしい。プロテージ側のクワガノン、プライズ側のフラージェス、両方が俺の挑戦に乗ってくれた。半ば賭けだったけど、話術をラグナから習っておいてよかった、俺は密かに、こう思った。
『じゃあ早速、種爆弾! 』
『火炎放射』
『アクロバット! 』
乗り気のフラージェスは大きめの塊を作りだし、クワガノンを狙う。属性的にも不利だから、これは多分、牽制だと思う。こう予想したから、俺は口元にエネルギーを集中させ、炎のブレスを放つ。狙う先は、相性的にも有利なクワガノン。だけどそれが達する前に、その相手は軽い身のこなしで俺の方に向かってきた。
『それなら、サイコキネシス』
『超突猛進のあんたらしいわね。花びらの舞! 』
『なっ…、後ろから? ぐぁ…っ』
それならこのまま不意を突いて、次につなげるのもアリだね。俺の火炎のブレスは外れたけど、それだけでは終わらせない。すぐに喉にエネルギーを送るのを止め、すぐに別の技に切り替える。炎が消える前に素早く拘束し、虎視眈々と俺を狙うクワガノンを追わせる。背後から対象の背を掠らせ、意表を突く。
この場へ更に、プライズ側のフラージェスは釣り人の利を狙ってくる。膨大なエネルギーを解放し、接近している俺達を狙う。クワガノンに俺の炎が命中した瞬間から、微かに桜色の花びらが漂い始めた。
『あなた達もろとも、葬り去ってやるわ! 』
『草タイプでか、やってみろ! 虫のさざめき』
『ただ技を使うだけでは、俺には勝てませんよ? 』
なるほどね? 高威力の技を連続で発動させて、一気に殲滅する作戦だね? 危険を察知した俺、それとクワガノンは、咄嗟に後ろに跳び下がる。すると元いた地点に、花びら交じりの突風が吹き始める。それだけでなく、桜風は二手に分かれ、それぞれの対象を追撃してくる。そこで俺は自分の方に炎を手繰り寄せながら、手に持っているステッキを左から右に振り抜く。先端が通ったところには赤い軌跡が描かれ、すぐに消滅。風に乗る花びらの一部も焼けた事で、ほんの少し焦げ臭い匂いも漂い始めた。
クワガノンも、当然桃色の風の対処に移る。常に羽ばたかせている羽を更に早く振動させ、高周波の音波を発生させる。それを風に衝突させることで、相殺を狙っているらしかった。
『その言葉、そっくりあなた達に返すわ! 二発目! 』
もしかして、フラージェスは完全な遠距離タイプ? それなら…。
『悪いけど、そろそろ本気でいかせてもらうよ』
俺が得意な接近戦に持ち込めば、フラージェスは倒せるね。こう感じた俺は、相手の二撃目を左に跳んで避け、間合いを詰めはじめる。弧を描く様に走りながら、維持し続けている炎をステッキに纏わりつかせる。この状態で炎を変形させ、三十センチぐらいのブレード状にする。逆手に持ち換えながら体の前に構え…。
『これだけ近づけば、花びらの舞も当て辛いですよね? 』
進行方向を急激に変え、フラージェスの目の前を横切る。すれ違い際に右腕を外側に振り抜き、炎の刃で切り裂いた。
『熱ッ…』
『俺を忘れるなよ! ラスターカノン! 』
『くっ…。これで…! 』
この間に準備していたらしく、斜め上の方から、クワガノンが白銀色の光線を撃ちだしてきた。斬撃を命中させた直後だったから、俺は反応が遅れてしまう。フラージェスの方は咄嗟に下がった事で回避していたけど、俺は対応しきれなかった。だけど元々フラージェスの方を狙っていたらしく、俺はあまりダメージを受けずに済んだ。光線を体に受けながら身を翻し、空中の相手に向き直る。伸ばしていた腕でもう一度、右から左に平行に振り抜き、同時に拘束していた炎を解放する。すると炎の刃は針状になり、空の刺客に向けて飛んでいった。
『サイコキネシス…。シルクじゃないけど、この光線、使わせてもらいますよ! 』
炎はもう飛ばして使ったからなぁ…。それなら、シルクみたいに相手の技も利用すれば、有利に戦えるよね? 解除しかけた超能力を再び発動させ、今度はクワガノンの技を収集する。ラスターカノンの状態のまま塊状にし、空中にフワフワと浮かせる。さっきの一撃でクワガノンには弱点属性のダメージを与えられたから、今度はコレでフラージェスを…。シルクみたいにエネルギーにまで分解は出来ないけど、形状だけは変えられる。だから俺は、ステッキに細長くコーティングする事で、即席で剣…、いや、刀って言った方が良いかな? 両手で刀を構え、深く長く呼吸を始める。
『あいつの技を借りる…、紛い物では、勝てないわよ! 花吹雪! 』
『どんな状況、物も臨機応変に対応できてこそ、勝利を掴めるんです! 師匠直伝の剣術で…、勝ってみせます! 』
そうでないと、この戦法は使いませんよ! この俺の行動で危機感を抱いたのか…、それともこの剣術の対処ができる応用法があるのか…、どっちかは分からないけど、相手は真っ向から俺に向かってくる。さっきと似たような感じで、相手は無数の花びらを出現させる。だけど今度は風を利用してじゃなくて、量で物理的に俺を押し返すつもりらしい。横に跳んでもかわせないほどの、壁って言っても良さそうな表面積の桜塊の嵐を俺に飛ばしてきた。
このままでは流石に防げないから、俺もすぐに構えを変える。手首で刀を反時計回りに回転させ、切っ先で円を描く。それを絶えず、素早く繰り返すことで、即席で円形のシールドを作りだす。守るとは違って完全には防げないけど、ある程度は花びらを切り刻む事ができる。この状態で俺は走りだし、迫る桜壁に挑む…。
『そんな状態で、この花吹雪を…』
『俺が今発動させている技、忘れてませんよね? 』
『当然よ。斬撃系…』
『いいえ、今俺が使っているのは、メタルクローでも斬撃系の技でもなく、サイコキネシスです』
…よし、ひとまず、壁は突破した!
『サイコキネシスで…』
『だから、言いましたよね? 臨機応変に対応して、勝利を掴むと』
『くぅっ…! 』
刀の形状を維持するために発動している超能力でも、ピンクのベールをかき分けていく…。するとその甲斐があって、ピンク一面の視界が、黒を基調としたものに変貌する。それなりにダメージは食らったけど、その代わりにフラージェスとの距離を一気に詰める事ができた。刀の間合いまで急接近し、左斜め下に業物を構える。半刀身まで接近したところで切り上げ、その勢いを利用して軽く跳び上がる。
『それともう一つ、状況に応じて使い分け、冷静に対処してようやく、戦況は自分に味方してくれるんです! 』
最高点に達したところで、降下しながら一気に振り下ろす。その途中で鋼のエネルギー塊を解放。地面に足が触れてから跳び下がり、去り際にこう言い放つ。敵の技を利用したとはいえ、弱点属性を二回命中させたから、フラージェスは何も言う事無く崩れ落ちた。
Continue……