Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Huit Des Light 〜湖畔の任務〜
Cinquante et neuf 鉢合わせ
Sideティル



 『…派手にやれば、ええん? 』
 『うん♪ ウチらの任務はいわゆる(おとり)。自然を壊さない程度に思いっきりやっちゃって♪ 』
 『それなら、ティルは控えた方がいいな』
 まぁ、そうだね。俺は炎タイプだし。リーフさんやライト達、S班と別れた俺達は、湖の中央部、巷では釣りの名所として知られているスポットまで来ている。昼間なら人も多くて賑やかだけど、今は陽もすっかり沈んだ夜。聞こえるのは俺達の話し声以外に、そよ風が草木を撫でる音とか、湖面が微かに揺れる音、それぐらい…。嵐の前の静けさとも言えそうなほど、閑散としていた。
 その中で俺達は、スーナさんから任務の詳細を聞かされる。…とは言っても、プライズの気を引くために、思いっきり暴れる、それだけだったけど…。これはさっき聴いた話だけど、俺達やスーナさん、リーフさん以外に、地元のキュリーブやアージェント…、プロテージを追っている人達もこの湖に来ているらしい。元々エクワイルはいわゆる少数精鋭だから、来ていると言っても二組だけらしいけど…。だけど湖の東、西、そして俺達の南中央に分散する事で、大勢に見せかける作戦なんだとか。
 『ううん、そうでもないよ』
 『あれ、ティル君って、他にサイコキネシス…』
 『まぁ見てて』
 あの技は実戦では使った事無いし、そもそも属性のイメージは今日の昼にできるようになったばかりだからね。ラグナの言う通り、俺の技のメインは炎だから、昨日…じゃなくて今日の午前までの俺なら、この場所では止めた方が良いと思う。だけど今の俺には、密かに練習していた新技がある。当然と言えば当然だけど、そんな事は全く知らないスーナさんも、不思議そうに俺に尋ねてきた。だから俺は、結果的にスーナさんのセリフを遮ってしまったけど、それを示す為にみんなの前に出た。
 まず初めに、その属性のイメージを膨らませていく。想像するのは、妖艶というか、何というか…、上手く言葉にできないけど、メルヘンな気持ちで満たしていく…。…うん、これなら、何とかできそうな気がする。その状態になってから、俺は懐の杖に手をのばす。片側の端を両手で持ち、それを身体の前に持つ。手元にイメージで変換したエネルギーを流し込み…。
 『…マジカル…、シャイン! 』
 勢いよく真上に掲げ、同時にフェアリータイプのエネルギーを解放する。すると杖の先端にエネルギーが流れ込み、俺が思い描いたように技が発動する。一瞬エネルギーが弾けたかと思うと、眩い閃光が暗闇を照らした。
 …コガネの時に戦った、プライズのヘルガーに対抗するために習得したこの技。この技なら、弱点の悪タイプを突けるし、何より苦手な対複数への対処ができる。光っている間に衝撃波を放つ技だから、応用の仕方次第では色んな…。
 「…お前ら、この闇に紛れてプライズを壊滅させ、組織を復興させるのだ! 」
 「はい! 」
 「潰されたボスのため…、暴れてやるぜ! 」
 えっ、なっ、何? マジカルシャインの光が治まった直後、突然辺りに荒々しい声が響き渡る。掲げた手を下げてから慌てて辺りを見渡すと、俺達はいつの間にか沢山の人に囲まれてしまっていた。光の余波で少ししか見えなかったけど、あのコスチュームはどこかで見た事がある気がする…。…どこだったかな…?
 『スーナ、この…』
 『嘘でしょ? なっ、何で湖にプロテージが? 』
 『プロテージって…、地元の人たちが追ってたんじゃあ…』
 そう、そうだよ! あのイニシャルは、キキョウの近くで一度だけ戦った、プロテージだよ! 俺は最初、早速プライズの団員が押しかけて来たのかと思った。だけどよく考えたら、お膝元とはいえこんなに早くプライズが来るとは思えない。それなら、何だろう、そう思った矢先、ラグナの言葉を遮ってスーナさんが声を荒らげる。結果的に何者かピンと来たけど、想定外の敵襲に、俺も驚いて…。
 「デルタ様への土産もある事だ、あの群れも…」
 「あーら、愚民共がぞろぞろと、よくここまで来たものね」
 「報告通り、やはりプロテージか。頭領を無くして、とうとう血迷ったか? 」
 『おい、待て! 囮作戦とはいえこれはマズいぞ! 』
 ちょっ、ちょっと待って! こんな事って、あるの? 更に不運は重なり、北東の方からまた別の大群が押しかけてきた。こっちの軍団は、そもそも俺達が交戦する予定だった相手、プライズのはず。軍団を引き連れてやってきた女の人が、先客たちに、ある意味称賛にも似た言葉を贈る。驚きで一杯になりながらもそっちを見てみると、やっぱり来ていたのはプライズ…。ユニフォームからすると、幹部のはず。先にいたプロテージ側のリーダーと、口論を始めていた。
 「血迷ってなんかいないさ。…嘗ての仲間だったとはいえ…」
 「ん? 誰かと思えば、あの威張り腐ったゼータか」
 「いつからこのアタイにそんな口を利けるようになったんだい? 」
 「暫定とはいえ、この班の指揮を任されている。お前こそ、リーダーごっこのつもりか? 」
 「ふっ、たかが指揮官かぃ。テグラル、お前にはお似合いの役目だね。テグラル、このアタイはアルファ様に認められ、プライズの幹部までのぼりつめたのよ。…とはいえ、お前もここに来たのが運の尽きね。エクワイルのクソ鼠も紛れ込んでいるようだけど、お前らもろとも、跡形も無く消し去ってやるわ! お前ら、やってしまいなさい! 」
 「それは俺達のセリフだ! いくぞ! 」
 『ティル君、ラグナさん、フルロ君! 』
 『うん』
 『当然だ』
 『やっぱそう来んとね! 』
 とっ、兎に角、結果的に任務を遂行することになったけど、やらないと! 知りあいらしい二人は、口々に貶し合う。次第に熱を帯びていき、口論もヒートアップしていく。最終的に二人は大声をあげ、部下たちにこう指示を出した。
 俺達はこの場では空気になりかけていたけど、逆にそれで良かったのかもしれない。俺達が追っている対象ではないけど、プロテージの情報を手にする事ができた。…だけどこの状況では、そうも言ってられなさそう。何しろ俺達は、敵対している二つの組織、その抗争のど真ん中にいる。近くにはライトもユウキさんもいないから、当然二者は俺たちの事を野生だと思い込んでいるに違いない。だから当然、この抗争には俺達の奪い合いも含まれているはず…。トレーナー就きだから問題無いけど、俺達も任務遂行のため、同じタイミングで動き始めた。


  Continue……

Lien ( 2017/01/27(金) 23:23 )