Soixante et sept 共通点
Sideコット
「ヘルガー、手早く終わらせろ! 」
「ミカルゲ、完膚なきまでに打ちのめせ! 」
「クロバット、お前もだ! 」
どうなるか分からないけど…、やるしかないよね。二つの密猟組織の幹部と鉢合わせになってしまった僕達は、プライズのベータと組んで戦うことになった。本当は形式上カナの指示で動くのが良いんだけど、頑なに拒否されたから、仕方なく僕は単独で戦うことになった。一足先に前に出て、プロテージ側の二人に目を向けたタイミングで、残りの三人もメンバーを出場させる。相手側は初めてだけど、ベータ側は僕が知っているひとが跳び出していた。
『プロテージの連中か。分断して以来だな』
『お前もな』
『にしてもまさか、コガネでのお前と組むことになるとはなぁ』
「確かに…、そうですよね」
やっぱりこの人達、知り合いなのかな? トレーナー側もそうだったけど、幹部に就いて要るふたりも、顔を合わせるなりこう言葉を交わし合う。かと思うと、ヘルガーは僕にも話しかけてきた。ベータのメンバーは何にんいて、どれくらいの実力なのかは分からないけど、四面楚歌のこの状況で出場するぐらいだから、メンバーの中では一番なのかもしれない。ヘルガーといえばヘクトだけど、見た感じ彼とは親子ぐらいの歳の差がオルと思う。
「ほぅ、お前はやはりヘルガーか。お前はむ…」
「さあ、それはどうかな? ヘルガー! 」
『おぅ! 』
「えっ、これって…」
この感じ、それからこの構え…、絶対にそうだよね? 相手の幹部は何かを言おうとしていたけど、それをベータが遮る。メンバーのヘルガーにこう呼びかけると、彼は左腕のリストバンドに右手を掲げる。それから左腕だけを高く上げ、何かを作動させる。すると、メンバーのヘルガーが七色の光に突如包まれる。ほんの数秒し弾けると…。
『
久々のメガ進化…、思う存分暴れてやるぁ! 』
メガ進化し、ふたまわりぐらい大きくなった彼が、気合十分に声をあげていた。
「あの時はしてなかったのに、メガ進化、できたんですか? 」
『
そりゃああの時とは状況が違う。当然だッ! 』
そう言われるとそうだけど…、あの時は本気で戦ってなかったって事だよね? 敵側として面識がある彼に対し、僕は率直に感じた疑問をぶつけてみる。すぐに答えてくれたけど、それはそれで、何か微妙な…。全力じゃなかった、そう分かって少し悔しい気持ちになる。だけど、今の僕はあの時とは違う…。僕はすぐに気持ちを切り替えた。
「お前が来ないなら、俺からいくぞ! サンダースにシャドーボール! 」
「超音波で動きを封じろ」
『メガ進化? 所詮見掛け倒しだろ? シャドーボール! 』
『そんだけ自信が無いって事じゃないっすか? 』
…早速、攻めてきたね。僕達がこんな感じで話していると、相手側がとうとうしびれを切らせたらしい。荒々しく指示を出し、先手を打ってきた。ミカルゲっていうらしい種族の彼は、その場から動かずに口元に真っ黒なエネルギーを溜める。十五センチぐらいの大きさになってから、僕を狙って撃ちだす。クロバットの方もほぼ同時に動き出し、ヘルガーとの距離を詰めはじめていた。
「目覚めるパワー連射! 」
『
俺の邪魔はするなよ。熱風! 』
そっちだって、僕の技の妨害だけはしないでくださいよ! ミカルゲがシャドーボールの準備し始めたタイミングで、僕も一気に駆け出す。十メートルぐらいある距離のうち、三メートルぐらいを一気に走り抜ける。その途中で口元にエネルギーを溜め、氷の属性に変換する。十センチになったところで相手が撃ちだしてきたから、僕もそれを狙って発射する。すぐにもう一発分溜め直して向きを変え、真上を通過しようとしているクロバットに狙いを定めた。
組んでいるヘルガーも、僕からほんの少し遅れて技を発動させる。目で見てないから分からないけど、足音から推測すると、多分右斜めに走り始めていると思う。僕が一発目を溜め終えた時、後ろから暖かい風が一瞬吹く。かと思うと、焼け付くような突風が僕を追い越す。味方として戦っているからだと思うけど、想像よりも熱くはなかった。
『ちっ…』
『くっ…、まさか俺から…、倒す作戦なんすか? 』
「敵に背中を向けるなんて、余裕ですね」
『それはお前が言えた事か? イカサマ! 』
今の状況なら、僕にもそう言えるよね? 空中を滑空するクロバットに、ヘルガーの熱波、僕の氷弾の順に命中する。僕もそうだけど、ヘルガーは牽制のつもりだったらしく、決定的な一撃を与えることはなかった。だけどこの隙に、もうひとりが僕との距離を一気に詰めてきた。僕も完全に背を向けているから、このままだとクロバットの二の舞に…。だけど僕には、あの技がある。
「相手の動きを把握しさえすれば、問題無いです! 」
すぐに僕は聴覚、触覚を研ぎ澄ませ、相手との間合いを計る。すると行動する事で起こる対流が、僕とミカルゲとの正確な距離、方向、速度を正確に教えてくれる。そこから到達する時間を予想し、それに間に合うように四肢に力を込める。見切りの効果で、一時的に身体能力が上がっている。だからぶつかりそうなくらいの際どいタイミングで右に跳び退いても、相手の攻撃を食らわなかった。
『なっ…』
「チャージビーム! くっ…」
とりあえず、発動には成功したけど…。スレスレで攻撃を回避した直後、今度は電気の属性を口元に蓄える。あまり溜めずにブレスとして放ち、一メートル先のミカルゲの背中に命中させる。だけどその最中に、思わず僕は急に襲ってきた突風に表情を歪める。霊の属性を帯びた風に驚いたせいで、僕の光線は途絶えてしまった。
『
サンダースのお前、以前雑魚と言ったが、あれは取り消す! 袋叩き…、お前ら、いくぞ! 』
『あいよ』
『そっ、そんなの、ありっ…ぐぁッ…』
袋叩き? …うーん、そんな筈はないよね? 僕がミカルゲと対峙してる間に、メガ進化した状態のヘルガーはクロバットを追い込んでいたらしい。その彼はエネルギーを解放しながら、大きな声をあげる。袋叩きを使えるヘルガーといえば、やっぱりヘクトの事を思い出す。母さんの知り合いにも、ヘルガーがいるらしいけど…。
話を元に戻すと、ヘルガーの技の効果で、ベータの控えからハガネールが飛び出す。跳び出すとすぐに、大きな尻尾で狼狽えるクロバットを叩きつけていた。
『袋叩きか…。お前の十八番だったな。悪のは…』
「邪魔はさせませんよ! チャージビーム! 」
完全に信頼した訳じゃないけど、味方として戦っている以上は、サポートしないと! ヘクトの得意技だから分かるけど、袋叩き発動させている途中は、完全に無防備になる。その隙を狙って、ミカルゲは一気に攻めるつもりらしい。全身にエネルギーを行き渡らせ、悪タイプに変換しようとしていた。その行動に気付いた僕は、咄嗟に電気のブレスを準備する。さっきはあまり発動できなかったけど、それでもほんの少しは強化されているはず…。喉に力を入れて、一気に放出した。
『ぅっ…。そこまで言うなら、お前から消してやるぁッ! 』
「えっ…、くっ! 」
僕の光線は正確に相手の背を捉える。捉えはしたけど、それは勢い余って相手の逆鱗にも触れてしまったらしい。ヘルガーに対して使おうとしていたけど、急に対象を僕に変える。二メートルっていう近い距離だったから、僕はかわせずまともに攻撃を食らってしまった。
『
ちっ…、火炎放射! 』
『…っ! お前…、いつの間に、そこまで腕を…』
何とか耐えれた、けど…。攻撃の余波で、僕は五メートルぐらい吹っ飛ばされてしまう。何とか受け身は取れたけど、衝撃で思わずむせ返ってしまった。
このまま一気に攻められる、そう思ったけど、そうはならなかった。さっきの袋叩きでトドメをさせたらしく、ヘルガーが燃え盛る炎で足止めしてくれた。この間に僕は、目の前が霞んで足元もふらふらするけど、何とか立ち上がることが出来た。
『
コイツが言っただろぅ、手早く終わらせると』
「あっ…、ありがとう、ございます…」
『
…森に残してきた息子と、重なっただけだ』
「息…、子…? 」
森に? だったら、やっぱり…、もしかして…。ヘルガーの炎が相当効いたらしく、ミカルゲはそれだけで崩れ落ちた。その敵に対して彼は、響いてるけど何かをボソッと呟いていた。
助けてもらった僕は、バランスを崩さないように注意しながら、倒してくれた彼にこう話しかける。だけど返ってきたセリフが、僕は妙に気になってしまった。
よく考えたら、このヘルガーを見る度に、ついヘクトの事を思い出してしまう。同族、袋叩き、喋り方、森出身…、偶然かもしれないけど、ヘクトと同じ部分が多い気がする。それは母さんの知り合いの方とも、森に家族を残してきた、っていう部分が一致している。っていう事は…。
「もしかして…、その息子さん、ヘクト、っていう名前だったりしますか? 」
『
なっ、何故俺の息子の名前を…? 』
やっぱり…。って事は…。
「僕の仲間に…、そのヘクトが、いるんです。…だったら、ユナっていうトレーナーと、パートナーのグレイシアも、…知ってます、よね? 」
彼が狼狽えながらもこう答えた瞬間、僕の中で何かが一つに繋がった。正直言って立っているだけでもキツイけど、僕はつながった事を確認せずにはいられなくなってしまった。
「ユナ…、まさか…」
「…うん。その人は僕のトレーナーの…、お母さんだし、パートナーのグレイシアも、…僕の、母さんだから…」
『
嘘、だろぅ…。こんな偶然が… 』
「そう、だったのか…。…独り言だと思って、聴いてくれ。プライズの代表、アルファとは関わるな。何を目論んでいるのか知らないが、目的の為なら人を殺める様な奴だ。現に今も、伝説と言われているエンテイを“服従の鎖”で従わせている。…組織に入る前、あいつはどこかのジムリーダー候補だったと聴いた事がある。…詳しくは言えないが、アイツの目的を阻止するため、スイクン、ルギア、ラティアスを探せ」
「はっ、はぁ…」
『
…そういう事だ』
ん、なに? 今、何か言った? 僕の予想通り、このヘルガーはヘクトの、ベータはカナのお母さんの関係者で間違いなかった。彼らも予想外の事に、思わず言葉を失ってしまっていた。もちろん僕もそうだったから、辺りにしばらく風と、どこかで繰り広げられているらしい戦闘の音だけがこの場を支配する…。だけどその静寂を破り、何を思ったのかベータが独り、こう語り始める。かと思うと、意味ありげに微妙は表情で僕とカナを見、答えを待たずに立ち去ってしまう。残された僕達は、茫然とその後ろ姿を見る事しか出来なかった。
Chapitre Huit De Cot 〜連鎖する戦闘〜 Finit……