Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Huit De Cot 〜連鎖する闘争〜
Soixante et quatre 空中の攻防
  Sideコット



 「エレン君、大丈夫かな…」
 『うーん』
 ふたりとも伝説だから、大丈夫だと思うけど…。塔の上で密猟組織、プライズのボスと戦っていた僕達…。その人が連れていた、様子がおかしいエンテイに、ネージュ、イグリー、それからユリンも呆気なくやられてしまった。伝説の種族が相手っていう事もあるかもしれないけど、僕達にはあのホウオウさんが味方してくれていた。だけどそのホウオウさんでさえ、中々思い切った攻撃が出来ていないような感じだった。さっきの戦いで見た事だけしか分からないけど、多分あの感じだと、ホウオウさんとエンテイは知り合い…、それも結構深い関係だと思う。
 …本当は僕も戦って、何とか逃げる隙を作ろうと思ったけど、エレン君がそうはさせてくれなかった。エレン君は自分のペースでどんどん進んでくことが結構あるけど、今回は別の意味で特に凄かった。彼は彼なりに覚悟を決めていたみたいで、僕達が逃げるための囮役を買って出てくれていた。…あの時のエレン君、格好良かったけど…。そう思う間もなく、僕達は彼が出場させた大きなふたりの、この時に初めて知ったけど、伝説の種族であるルギア…。そのうち片方は化けたヤライさんだと思うけど、そのひとの背中に無理やり乗せられて離脱させられていた。
 …ルギアさんに乗せられて鈴の塔を離れてから何分か経つけど、僕達はここまで、何も話せていない。乗せてくれているルギアさんは表情が見えないけど、カナは不安で不安で仕方がない…、そんな感じ。僕は僕で、…短い時間で色んなことがありすぎて上手く言葉にできないけど、塔に残ったエレン君に対する不安はもちろん、ワカバを旅立つ時に見かけた飛行タイプのひとに会えた事への嬉しさ、そのひとがエレン君のメンバーだった事への驚き、圧倒的に強かった、様子がおかしいエンテイへの恐怖…。色んな種類の感情のせいで感覚が麻痺しちゃったのか、僕は自分でも驚くほど冷静になってしまっていた。
 そんな中ルギアさんの背中で、カナは心配そうに鈴の塔の方に振りかえりながら、気が気でない、といった様子で呟く。確かに僕もそうだけど、カナと、多分ルギアさんもそんな感じ。つられて一言こう呟いたけど、その後はまた、ヒュウヒュウと吹き抜ける風だけが、この場の空気を支配していた。
 『…アタイが認めたエレンなんだ。ニアロもホウオウもいるエレンなら、負けるはずがないわ』
 『ニアロ…? ニアロって…』
 『そういえばあんたらは知らなかったわね。ニアロはアタイが今化けている、ルギアの本名よ』
 化けてるって事は、僕達を乗せてくれてるのは、ヤライさん? 重い空気の中、囁くように声をあげたのは、僕達を乗せてくれているこのひと。当然と言えば当然だけど、相当心配らしく、呟く声に塔の上みたいな覇気が無い…。だけどどこか、そんな気持ちを切り替えるために、自らに言い聴かせる、そんな風に僕には聞こえた気がする。遠まわしに誰なのかを教えてくれた彼女は、僕の疑問に静かに答えてくれた。
 『ルギア、さんの…? っていうことは、きみはヤライさん? 』
 『そうよ。…んだけど、野生時代は化け狐と言われていたアタイでも、進化したとはいえ伝説の種族は厳しいわね。イリュージョンを維持するだけでも精一杯…』
 特性の効果でも、種族によってなりやすい種族とかがあるのかな…? 僕の勝手な想像だから何とも言えないけど、大きな種族? それとも飛ぶのに慣れていないのか、僕達を乗せて飛んでくれているヤライさんは、時々飛ぶ体勢を崩してしまっていた。イグリーの飛び方を見慣れているから分かるけど、ヤライさんはたまに、羽ばたく力が足りずに、三十メートルぐらいの高さのうちの一メートル落ちてしまっている。その度に慌てて素早く動かし、何とか高度を維持しているような状た…。
 「…やっと追いついた。…アルファ様の命令だ、お前にはここでくたばってもらおうか! 」
 「えっ、おっ、追っ手…? 」
 いっ、いつの間に? 塔にはいなかったはずだよね? バランスを崩しながらも何とか今の状態を話してくれていたけど、その最中に後ろの方の大声で遮られてしまった。急な事だったからビックリしながら、背中の上で向きを変えながらそっちを見ると、ちょうど五メートルぐらい後ろに一つの影…。グライオンの背にしがみついた男の人が、僕達に対して声を荒らげていた。その人の言動からすると、多分プライズの組員だと思う。驚き慌てるカナなんかお構いなしに、片手で腰のボールを手にとっていた。
 「メガヤンマ、原始の力でルギアを撃ち落とせ! 」
 『伝説との空中戦か、腕が鳴るぜ! 原始の力! 』
 『やっ、ヤライさん、来るよ! 』
 くっ、空中でのバトルって…。その人は控えからメガヤンマを出場させると、即行で技を指示する。一発で仕留めるつもりらしく、メガヤンマは見かけでは弱点の属性技を準備する。先を行くヤライさんに追いつきそうな勢いで、どこからか出現させた岩石を飛ばしてきた。
 『この軌道なら…、右、左の順に蛇行して! スピードスター! 』
 『スカイバトル…、上等じゃない、やってやるわ! 』
 もしイリュージョンで化けてるヤライさんに攻撃されたら、僕達は…。…だから、ここはは何が何でも僕が守らないと! 山なりに飛来する岩石群に対し、僕は見切りを発動させて軌道を読む。頂点に達した段階で広範囲に散らばり始めたから、僕は予めヤライさんにこう指示を出す。だけどこれだけだと防ぎきれないから、聴いてくれると信じて、僕は立て続けに別の技を発動させる。口元のエネルギー塊を即座に発射し、交点を先読み…。岩の軌道とヤライさんの経路の交点を狙い、五つの流星を向かわせた。
 『流石伝説…、やるじゃねーか! シャドーボール! 』
 『ヤライさんには手出しはさせません! 目覚めるパワー連射! 』
 向こうがシャドーボールなら、僕はこの技で…! ヤライさんは僕の頼み通り、重心を右に左にと移動させながら滑空してくれた。その間僕は、バランスが変わるからそれに合わせて重心を落とす。僕が開けた欠陥を通り抜けたところで、相手は別の遠距離技を撃ちだしてきた。真っ黒な球体、シャドーボールが、化けたヤライさんの長い尻尾に狙いを定めていた。
 このままだと追いつかれてしまうから、僕はすぐに氷のエネルギー塊を口元に作りだす。そのうちの半分を先に発射し、残りは弧を描く様に解き放つ。試した事が無い飛ばし方だけど、軌道の操作の仕方はスピードスターである程度身につけた…。それと似たような感じで、若干歪んだ球状に形成し、すぐに解き放った。
 『ほぅ、お前も中々やるじゃねーか! んなら、これはどうだ? シグナルビーム! 』
 しっ、シグナルビーム? 僕と相手の丁度中間、二メートルぐらいの位置で、相手の漆黒と僕の水色は衝突…。だけど勢いが弱まっただけで前者が勝り、後者を打ち消した。そこへ斜め上から後弾が続き、そこでようやく相殺する事ができた。
 更にメガヤンマは、狙撃を続ける。口元にエネルギーを溜め、その状態で吹き出す。すると七色に光る光線が、僕を狙って一直線に突き進んできた。
 『それなら…』
 試した事は無いけど、今の僕なら、いけるはず…。僕はすぐにスピードスターで応戦しようかと思ったけど、すぐにその考えを取り消す。スピードスターはすぐに発動できるけど、威力と持続性に欠ける…。それは目覚めるパワーでも同じだから、仮にあてたとしてもその後の回避が間に合わない。
 その代わりに僕は、ある技の存在を思い出す。初めて使う属性の技だけど、これまでにイメージの練習だけなら何回もしてきた…。ここで発動させると一番いいのはあの技だけど、今この状態だと乗せてくれているヤライさんにも影響が出る。だから僕は、別の技のイメージを膨らませ、その通りに口元にエネルギーを凝縮させる。自分の属性の電気の属性を纏わせ…。
 『…チャージビーム! 』
 ハーッ、って息をはくような感じで、それをブレスとして撃ちだした。初めて発動できた技だから、パチパチと音をあげる光線が撃ちだされたのは、虹色の目の前…。あと二十センチぐらいのところで、黄色の先端とぶつかり合う。すぐに僕は送り込むエネルギーの量を増やし、威力を強めていく…。少し苦しくなってきたけど、その甲斐あって五分のところまで…。
 『…下がガラ空きだ…、辻切り』
 『くっ…、いつの間に…』
 『やっ、ヤライさん! 』
 「えっ…」
 だけど、目の前のメガヤンマに集中し過ぎたせいで、別の敵の存在に全く気付けなかった。黄色い光線を撃ちだしている最中、突然突き上げるような衝撃が僕達を襲ってきた。その存在に気付いた時には既に遅く、すれ違い様に斬撃を、ヤライさんの脇腹に命中…。視界の外に赤い影が通り過ぎたかと思うと、その余った勢いが背中の僕達にも及ぶ。このせいで僕は、思わず技の発動を中断してしまった。おまけに更に悪い事は重なり…。
 『まさか死角から来てたなんて…』
 ヤライさんのイリュージョンが解け、元々のゾロアークの姿に戻ってしまう。体の大きさがいきなり変わった事で、僕た…。
 「こっ…、コット! 」
 『カナ! 』
 うっ、嘘でしょ!
 位置関係でヤライさんと僕は進行方向の右へ、カナだけは左へと振り落とされてしまった。
 『カナ…、カナッ! 』
 おっ、お願い…、お願いだから…!
 別々の方向に飛ばされるも、僕は精一杯、カナの方に向けて右の前足をのばす。同じタイミングで、カナも右手を僕の方に差し伸べる。でも…。




















 「…っ! こっ…」
 ふたつのては虚しく空を掴む事しかできなかった。






 「きゃああぁぁーッ!




 


















 …うっ、嘘…、でしょ…。






 嘘だって、言って…。





 このままだと…。




 カナは……。


 カナも…。




 カナが!











 「カナーーーっ! 」





 とっ、兎に角、今はこの状況をどうにかしないと、取り返しがつかないことになる! 九・八の力に引かれ、真っ逆さまに僕達は地面へと落ちていく…。三十メートルぐらいの高さを飛んでくれていたけど、それでも数秒で地面に激突してしまう。…こんな時に思う事じゃないけど、僕はこういう高い所から落ちるのは三回目だから、慣れている。…だけど、当然カナ、多分ヤライさんも、初めての経験のはず。違う方向に飛ばされちゃったカナは分からないけど、近くのヤライさんは、最期を覚悟して目を硬く閉じてしまっていた。
 「とっ、とにかく…」
 なっ、何か、いい方法を考えないと! …ええっと、イグリーをカナに出してもらって、飛んでもらう? …だめだ。それが一番手っ取り早いけど、この距離だと僕が書いた文字を読み取ってくれるかも危ういし、そもそもイグリーは今、戦える状態じゃない。それなら、ネージュ…、はダメだし、ヘクトも炎と悪タイプだから、当然飛べない…。コガネの時、ユウキさんに助けてもらったみたいに、電磁浮遊も無くはないと思うけど、それだとカナの命を捨てることになる! となると、あとは何が考えられる? 今はヤライさんが…。
 …そうだ、そうだよ! ヤライさんなら…!
 「ヤライさん…、ヤライさん! 」
 『…コット…、アタイの…』
 「ヤライさん、イグリーの事は知ってますよね? 」
 『えっ…、ええ。今朝戦ったから…』
 「それならイグリーに化けれますか? 」
 ヤライさんのイリュージョンなら、何とかなるかもしれない! 電流にも似た何かが駆け抜けた僕は、体重の関係で先に堕ちているゾロアークの彼女に大声で呼びかける。同時に前足と後ろ足をピンと後方に伸ばし、空気抵抗を少なくする。そうする事で彼女に追いつき、彼女の肩に前足をかける。一応僕の呼びかけに答えてくれたから、彼女の反応は関係なしにこう頼み込んだ。
 『出来なくは…、ないけ…』
 「無理でも化けてください! でないとヤライさん、僕とカナも、このままだと…、せっかくエレン君が逃がしてくれたのに無駄になるし、もう二度と会えなくなっちゃうよ!
 『…そう、よね。ここでやらなきゃ、アタイもエレンに顔向けできないわ…。…そもそも、何もできずに屍になるのは、アタイは御免だね…。…コット、あんたのお蔭で目が覚めたわ。…ありがとう。…コット、しっかり掴まってて! 』





 僕達とカナまで、およそ七メートル。僕と地面まで、約十五メートル。


  Continue……

Lien ( 2017/01/17(火) 22:50 )