Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Autre Sept
De Lien Huitieme 護るチカラ
  Sideシルク



 『…この感じだと、予定より早く着きそうだね』
 『ええ』
 この時間でこの場所なら、夕方までには怒りの湖に着けそうね。今日の講義を終えた私は、予定通りフライと大学から出発していた。昼を挟んで二限連続だったから少し疲れてるけど、幸い講義の概要説明だけだったからまだマシ、かしら…。今回は準備する時間もあったから、万全の態勢で来ることが出来ている。私の場合は右耳に、小型のイヤホンを身につけ、白衣の襟元にピンマイクを付けている。四年前にホウエンで使っていたものをオルトが改良したもので、ユウキ以外の全員が持っている。
 ちなみに今は、太陽の方角からすると午後三時ごろ。場所はエンジュシティ付近の上空。フライの背中に乗せてもらってるから、かなり見通しが良い。そこそこのスピードで飛んでくれているから、着ている白衣の裾、スカーフがヒラヒラと靡いていた。
 『フライが飛ぶスピードなら…、あら? 』
 『ん? 』
 あれ、おかしわね…。丁度エンジュの上空にさしかかったところで、私はふと、何かを感じる。それは、ほんの一滴の、水…。予報では晴れのはずだけど、にわか雨…、いや、それなりの強さの雨。羽織ってる白衣をはじめ、私の短毛やフライ自身もあっという間にずぶ濡れになってしまった。
 『シルク、今日は一日中晴れのはずだよね? 』
 『そのはず…、くっ…、風まで吹いてきたわ! …サイコキネシス! 』
 この天気、絶対に変だわ! 街の中心に近づくにつれて、天候は更に悪化していく…。打ちつけるような雨に加えて、しがみついていないと飛ばされてしまいそうな強風。台風さながらの気象条件にもかかわらず、午後の空には太陽が暖かな日差しをもたらしている…。横目で北東の方を見てみると、二重の虹が大空に橋を架けていた。
 違和感だらけの天気に、私、多分フライも、頭上に疑問符を浮かべながら互いに問いかける。無駄だとは分かっているけど、私はそうせずにはいられなくなってしまう。そんな中で雨が針のように私達に打ちつけてきたから、慌てて超能力を発動させる。水中に潜る時と同じ要領で、囲む様に空気の層を作りだした。
 『ありがとうシル…、しっ、シルク! 塔の上を見てみて! 』
 『とっ、塔…! あっ、あれは…』
 もしかしてあのひと達は…、でも何で彼があんな所に? 私の超能力で雨の痛みから解放されたフライは、横目で私にこう言ってくれる。だけどその途中で何かに気付いたらしく、声を荒らげる。ヒュウヒュウと甲高い音をあげて吹きつける風で聞き取りにくかったけど、私も彼が示す方に目を向けてみる。その先には、大型の飛行タイプのふたり、見覚えのある種族だった事もあって、何となくこの天気の原因が分かったような気がした。何故なら…。
 『ニアロ君? それにコルドの師匠まで? 』
 ルギアのニアロ君とホウオウが、鈴の塔の上で飛び交っていたから…。戦闘中なのか、ホウオウは何かの技を発動させ、ニアロ君は塔に向かって急降下。暴風雨だからもしかすると、エレン君もそこにいるかもしれない…。誰と戦ってるのかまでは分からないけど、伝説の種族であるふたりが戦うって事は、よっぽどのことが起きている…。ただならない不安と共に、私の頭の中がこういう想いに満たされ始めた。
 『フライ! 』
 『うん! 』
 予定には無いけど、そうは言ってられないわ! 原因はどうであれ、何となく状況を把握できた私は、短く彼に呼びかける。彼も似たようなことを考えていたらしく、これだけで私の意図を察してくれた。
 本当に同じことを考えていたらしく、フライは羽ばたくスピードを早める。目指すのは数十メートル先にそびえ立つ、エンジュの観光名所である鈴の塔。私も振り落とされないように、しがみつく前足に力を込めた。
 『ガアアァァッ! 』
 『えっ…』
 『エレン殿! 』
 『エレン! エアロブラスト! 』
 まっ、まさかあの技…、聖なる炎? だっ、だけど、聖なる炎って、二種類しか使えないはずよね? 弧を描く様に塔に接近する最中、尋常じゃない声量の咆哮が響き渡る。雨が降りしきる音で場所までは分からなかったけど、多分あまり離れてはいないと思う。だけど声量が声量だったから、私、そしてフライも、思わず顔をしかめてしまう…。イヤホンで塞がってるから右は大丈夫。だけど左は前足で塞ぎそびれたから、耳鳴りが…。
 『えっ、エレン君? 』
 『まっ、マズいわ…! 水の波動! 』
 『目覚めるパワー! 』
 …まだ頭がキンキンするわ…。フライが何とか塔の頂上の高さま浮上すると、そこには目を疑う様な光景が広がっていた。対戦相手までは分からないけど、そこには雲の上までそびえ立ちそうな紅蓮の炎柱…。豪雨にもかかわらず、赤々と燃え盛っていた。更に悪いことに、その炎塊に、見覚えのあるじんぶつが突入しようとしてしまっている…。多分発動させた技の余波だと思うけど、数年ぶりに会うブイゼル…、チカラで姿を変えているエレン君…。勢い余る彼の前に、猛炎が立ちはだかっていた。
 何となく嫌な予感はしていたけど、あまりの事に私は声を荒らげてしまう。加護を発動させて護る事もできるけど、あの技は多分、専用技の聖なる炎。使えるのは伝説の種族だけだから、間に合っても効果を成さない…。だから私は、咄嗟に水のエネルギーを口元に蓄え、リング状にして解き放つ。フライも一歩遅れて、手元の黒弾を撃ちだしていた。
 『うわぁっ…! 』
 「ガキの分際で、この私に刃向かうからこうなるのよ。せいぜい自分の無礼を悔いる事ね! 」
 『グアァッ! 』
 『えっ、嘘でしょ? 』
 『あっ、あなたは…! 』
 だけど気付くのが遅かったせいで、私達の二発は炎が治まってから目標を捉える。この時ようやく、私はエレン君達が対峙している相手を目で捉える事ができた。聖なる炎っていう時点でニ択にまで絞られてたけど、それでも私は驚いてしまう…。聖なる炎を使えるのは、私の記憶が正しければホウオウとエンテイだけのはず…。だけどこの状況では、空にいるコルドの師匠には不可能…。そうなると残りは、プライズに捕えられているエンテイ。確かにそうだったけど、私、それからフライも、その後ろで高笑いする…。

  アルファ! まさかあなたが、エンテイを…

 「ちっ…、どいつもこいつも、この私の邪魔をすれば気が済むのよ…」
 『しっ、シルクさん? フライさんも…』
 嘗てホウエンで対峙した、密猟組織の幹部…。四年前と変わらない態度で、ブツブツと独り言を呟いていた。
 『…、エレンが…! 』
 『汝等、何者…』
 『話しはコルドから聴いてます! 』
 『グルルル…』
 話には聞いていたけど、まさかここまでとは思わなかったわ…。コルドからエンテイの様子がおかしい、そう聴いてはいたけど、見たところ状況はかなり悪化しているらしい。コルドの話しでは、エンテイはまだ辛うじて自我を保てていたらしい。…だけど今は、その様子が全くなく、目の光が完全に失われている…。聞こえてくる声には、全く意味が添加されていない。五千年後の世界で戦った、ダンジョンにいたひと…。…いや、さっき見た炎の温度からすると、元々の技の威力を考慮しても…。…そうね、あの時にアーシアちゃん達と一緒に戦った、闇に飲まれし者…、そっちの方が近いかもしれないわね…。…とにかく、今は…。
 『コルドの…? 』
 『はい! アークさん、見た目は白衣を着たエーフィですけど、シルクさんも当事者、“絆の従者”です! 』
 『エレン君…、サイコキネシス! 』
 エレン君を保護しないと! 制御できていない炎に襲われたエレン君は、相性的には有利だけど気を失ってしまっていた。しかも食らったのが自我の無い伝説の種族の炎だから、その傷もかなりのもの…。ユウキ、それか私も経験した事があるから分かるけど、私が見た限りでは火傷を負っている…。それももし彼が普段の姿で食らっていたら、命が無い…、ポケモンの私達でも、すぐに処置しないと後遺症が残るほど、重篤なレベル…。だから、彼が私の二の舞にならない…、させないために、すぐに見えない力で手繰り寄せた。
 「何者かと思えば、…忘れもしないわ。あの時の学者の駒ね。…上等じゃない! 」
 …アルファ…、貴方はエンテイだけじゃなくて、エレン君にまで…! 今すぐにでも倒して解放したいところだけど、この状況では無理そうね…。エンテイの事もあるけど、それだとエレン君が大変なことになる! …火傷で苦しむのは私だけで十分…。一回分しか持ってきてないけど、エレン君には同じ思いは、させないわ! そのためには…。
 『“絆により、我らを護り給へ”…』
 私のチカラで、エレン君…、それからニアロ君とホウオウさんも護る! 苦しい思いをするのは、私だけで十分だから! 私は自分にこう言い聞かせ、フライの背中の上で目を閉じる。位置関係的にはエンテイ、それから因縁のアルファの斜め上をとっている…。発動させている間、私は無防備になるけど、フライなら何とかしてくるはず。…私だけでも、簡単にやられる気なんて全くないけど…。集中力を高めてチカラを活性化。その状態でフライ、ニアロ君、ホウオウさんを強く意識する。すると私には見えてないけど、彼らに青い光が纏わりつく。二、三秒すると、それがパンッと弾けた。
 『これは…、“絆の加護”か? 』
 『だっ、だけどシルクさん? “絆の加護”だとエンテイの攻撃は防げな…』
 …そう、それは私も分かってるわ! 例えこの場にユウキとコルドが揃っていても、伝説とメガ進化したひとの攻撃、それからZ技は防げない。だけど、この加護で繋がった今、完全にチカラが覚醒した事で発動できるようになったアレなら…。
 『“絆の導きに…、光あれ”! 』
 “絆の加護”を発動させた後も、私はまだ目を開けない…。むしろ更に精神統一し、当事者としてのチカラを解放する。半年前にその段階になったばかりだから使い慣れてないけど、“従者”として最後に解放される能力でさんにんに更なる効果をもたらす。代償として私は最初に発動させてから一時間後には、特殊技も半日封じられる…。その代わりに、“絆の加護”の対象者に、逃げ足の特性を十分間付与する事ができる。
 「エンテイ、お前の炎で焼き尽くしてしまいなさい! 」
 ここで私は、ゆっくりと目を開ける。チカラの効果で蒼く変色した瞳で相手を見下ろし…。

  ニアロ君、ホウオウさん! エンテイの事は心配だけど、今は逃げるわよ!

 『グオァァァッ! 』
 『だがしかし…』
 『ボクも本当は今すぐにでもエンテイさんも解放したいです! …だけど二兎追う者は一兎を得ず…、それだとエレン君もエンテイさんも、救えなくなります! 今はシルクのチカラで、おふたりの特性が逃げ足になってるんで、今は退きましょう! エンテイさんは必ずボク達、エクワイルが救いますので! 』
 『…っ! エレン! 』
 フライ、ありがとう。完全覚醒したチカラを解放しながら、私は気を失ったエレン君をニアロ君の背中に誘導する。その状態を維持しながら頭の中に語りかけた後で、フライがふたりを説得してくれた。
 『ガアァッ! 』
 『…時間が無いわ! 水の波動、シャドーボール! 』
 『目覚めるパワー! 』
 『…やむを得ん…。フラム、すまない…』
 この隙に心を囚われたエンテイが、私を乗せたフライを狙ってソーラービームを発射してきた。咄嗟に私は声を荒らげ、同時に二つの技を発動させる。今回は化合させず、水のリングの中心を漆黒の弾が進む様に、それらを解き放つ。私の助太刀として、フライも黒い弾丸を計六発撃ちだしてくれた。
 『…はい! 』
 「ちっ…」
 そのままフライは、先導するように身を翻る。結果的に背を向けることになるけど、今なら多分大丈夫。風雨の音に紛れて後ろから羽音が二つ聞こえてきたから、多分ふたりもついてきているはず…。その跡には、屋根上の密猟者と囚われの炎、それから完全覚醒した証拠である蒼い軌道が、ほんの数秒残されていた。



  Continue……

Lien ( 2017/01/15(日) 00:13 )