Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Autre Sept
Des Pluie Cinquieme 雨のチカラ、風のチカラ
  Sideエレン



 「くっ…! …クソガキが…」
 …よし、とりあえずこれで、カナちゃん達は大丈夫、かな。様子がおかしいエンテイを連れたトレーナーと交戦していたオイラ達は、全く手を出せずに追い込まれてしまった。エンテイもそうだけど、荒れている相手を前に、オイラ達は戦闘から離脱する事を決意。だけどオイラも一緒に逃げるとなると、成功する可能性が物凄く低くなる。だからオイラは、囮として残り、時間を稼ぐことにした。
 そこでオイラは、まだ戦っていないヤライと、控えてもらっていたニアロを同時に出した。ヤライはルギアに化け、カナちゃん達を乗せてこの場から逃げてもらう。その直前に、ニアロはエアロブラスト、ヤライはナイトバーストを発動させ、少しでも相手の目を逸らさせる。突風と波紋でエンテイが怯み、そのお陰で逃がすことに成功した。
 「…アルファ様! これは一体…」
 「イオラ! 早くあのルギアを追いなさい! 」
 「でっ、ですがアルファさ…」
 「この私の命令を無視する気? 貴様はそんなに…」
 「はっ、はい! ヨルノズク! 」
 えっ、まっ、まさか、増援? カナちゃん達を乗せたヤライが飛び去ってほんの数秒、屋根に上がる階段の方から別の声が聞こえてくる。一つだけ聴こえてきたその声は、相手のトレーナーに何かを言おうとする。だけどその途中で、その女の人に遮られてしまっていた。男の人は反論しようとしていたけど、またしても脅迫じみたセリフで叶わなかった。若干怯えながらも言う事を聴き、メンバーをボールから出場させていた。
 『させてなるものか! 熱風! 』
 『助太刀します! ウェザーボール! 』
 すぐにでも対応しようとしたけど、オイラはいきなりの事に驚いて反応しきれなかった。だけどその代わりに、警戒レベルを最大まで高めているアークさん…、ホウオウが立ちはだかってくれる。多分翼にエネルギーを集中させ、その状態で大きく羽ばたかせる。すると焼けつくように熱い風が、飛び立つヨルノズクを追うように吹き始めた。
 これにニアロも続き、口元に白い球体を作りだす。タイミング的に間に合うか際どいけど、同じ敵を狙って撃ちだしてくれた。
 『くっ…、遅かったか…』
 「…まぁいいわ。ルギアを(しもべ)にしてるとはいえ、所詮はガキ…。そろルギアもろとも、葬り去ってやるわ! 」
 …ヨルノズクは止められなかったけど、相性的にも有利なヤライとコット君がいるから、向こうは大丈夫なはず…。だけど、この状況は、流石にマズい、かな…。ほんの少しタイミングが遅れたせいで、ニアロ達の技は外れてしまった。これを見届けた相手は、何かをボソッと呟く。かと思うとオイラに向き直り、こう言い放つ。傾いた日差しで眩しそうにしてたけど、この声に感情も乗せて解き放っていた。
 「ニアロ…ルギアはしもべなんかじゃない! ニアロだけじゃなくてみんなたいとうです! …エンテイをつれてるひとがそんなことをいうなんてかんがえられない! だからオイラはひとりのトレーナーとして…だいさんじゅうななだいめ…“雨水の防人”としてぜんりょくであいてします! ニアロ! 」
 何でエンテイを連れてるのかは分からないけど、この感じだと、絶対に無理やり従わせてるよね? それなら…。
 「“無常なる事象よ、我が身の力となれ”」
 アークさんは戦いにくくなるけど、相性的に有利なオイラが、このエンテイを解放する! こう決心したオイラは、目を閉じて意識を高めていく…。その状態できっかけとなる台詞を唱え、伝説の当事者としてのチカラ、“候象(こうしょう)の加護”を発動させる。
 「…ちっ…、よりによって雨か…」
 すると晴れた青空から、かなり強めの雨が降り始める。屋外にいるオイラ達の衣服が、為す術無くずぶ濡れになっていく…。
 『“無常なる事象よ、我が身の力となれ”』
 ニアロも同じ文句を唱えると、今度は今にも吹き飛ばされそうな風が吹き始める。オイラがチカラで降らせた豪雨と合わさり、台風さながらの気象が晴天の古塔に再現された。
 『エレン殿、まさかチカラを…』
 「アークさんだいじょうぶですこのてんきはふりつけるあめでダメージがはいるけどみずとひこうタイプにはこうかがありません。だからふりになるのは…」
 『…あのエンテイだけです! 』
 「まっ、まさか貴様も…、あの考古学者の同類? 」
 ゴォォッと唸りをあげて吹き荒れる暴風雨の中、オイラはこう声をあげる。空にいるアークさんは風の強さにバランスを崩しかけてたけど、多分すぐに慣れてくれると思う。そのためにこの天気の事を教えてから、チカラとして変えることができるブイゼルの姿をイメージする。するとオイラの姿はすぐに歪み、その通りになる。
 『ニアロ、アークさん、オイラに力を貸してくれますか? 』
 『エレン、愚問だよ! 』
 『道から逸れた弟子を連れ戻すのが、師としての務め…、当然だ! 』
 『アクアジェット! 』
 『神通力』
 『ガァッ? 』
 すぐに目を開け、頭上にいるルギアとホウオウの方を見上げる。答えは訊かなくても分かってたから、言い切ってからすぐに水を纏う。右足で瓦を思いっきり蹴り、前傾姿勢で跳び出す。その間にニアロが、見えない力でエンテイを縛る。技と特性の効果で素早さ上がっているオイラは、目にも留まらぬ速さで突っ込んだ。
 「先制技か…。だかたががブイゼルでこの私のエンテイに勝つとは…、極刑に値するわ! 」
 『えっきっきいてない? 』
 「エンテイ! 」
 高速の水塊と化したオイラは、狙い通りエンテイの頭に衝突する。…だけど豪雨で威力が上がってるとはいえ、アクアジェットでは威力不足。スピードに乗ってたのに、相手はびくともしなかった。
 ぶつかった瞬間に向きを変え、眉間を蹴って退避。弧を描く様に引き返し、相手の様子を伺う。だけど雨でずぶ濡れのエンテイは、何事も無かったかのようにオイラの後を追ってくる。
 『原始の力! 』
 『ドラゴンダイブ! 』
 こう気付いた時にはアクアジェットの効果が切れてたから、オイラはすぐに反応する事ができなかった。だけどアークさんがエンテイとの間に岩石を落としてくれたお蔭で、何とか体勢を立て直すことができた。更に怯んでいる隙に、ニアロが大きな身体で急降下…、そのままのしかかってくれた。
 『…もういっかいアクアジェット! 』
 『グオォォッ…』
 『かっ、堅い…。…ウェザーボール! 』
 にっ、ニアロの攻撃も効かないの? 威力の高い技を命中させたはずなのに、理性の無いエンテイは全く動じない。こうなると我を忘れてるせいで、痛みすら感じてないのかな、こう思えてくる…。だけどカナちゃん達を逃がす時間を稼ぐため、エンテイを解放するため、ここで退くわけにはいかない…。ニアロと同じタイミングで、オイラは水弾となって岩石を迂回するように距離を詰める。
 『…ぼうふ…』
 スピードに乗り、エンテイを正面に捉えたところで技を解除する。それでも勢いが余ってるから、瓦に足がついてない状態で別の技を発動させる。二本の尻尾にエネルギーを集中させ、チカラの一つとして使える暴風…。
 『ガアアァァッ! 』
 『えっ…』
 だけど、エンテイは高らかに咆哮。それがきっかけになり、エンテイを中心に極太の火柱が出現する。オイラはそれにすぐ気付けたけど、その時には既に技を発動しかけていた。…もし暴風を発動させていても、チカラの代償でオイラはブイゼルの姿ではアクアジェットと暴風しか使えない。…仮にもう一つの姿、シキジカに変えたとしても、そもそも草タイプだからダメージが多くなるだけ…。おまけにスピードに乗ってエンテイに突っ込んでる最中…。だからオイラは、為す術無く豪雨下の火柱に向かっていくしかなかった…。


  Continue……

Lien ( 2017/01/14(土) 17:30 )