Cinquante et sept 常闇の月
Sideライト
「やっ、やっぱり…。すっ、すみません。エクワイルのライトです…」
『ライトちゃん、大丈夫です? 』
うーん、分かってはいるけど、やっぱり慣れないなぁ…。久しぶりに会ったハートさんと別れてから、わたし達は予備試験のためにジムに来ていた。シルクからゴーストタイプだって聞いてたけど、エスパータイプだからかな…? 薄暗くて不気味で、何かが出そうな雰囲気…。一応三年前にゴーストタイプのジムは攻略した事はあるんだけど、それでも背筋が冷えるような感じがする。私情を挟む訳にはいかないから声をあげたけど、無意識のうちに声が震えてしまう。こんなわたしに気付いたアーシアちゃんが、心配そうに見上げながらこう声をかけてくれた。
ちなみに、ちょっと話が前に戻るけど、さっき分かれはハートさんが言うには、ハートさんとは別の国際警察の人も、ジョウトで暗躍している密猟組織を追っているらしい。その人とジョウトのエクワイルの人と一緒に、プロテージを追っていたんだとか。この事に関しては少しだけシルクから聴いてはいたけど、それ以上の事をハートさんが教えてくれた。代表を含めて幹部クラスが四人いたけど、今では代表が失脚し、幹部二人が身柄を拘束されているらしい。…っていう事は多分、地元のエクワイルと国際警察が行方を知らないのは、代表ともう一人の幹部。そう言う事もあって、地元の人達は行方不明の二人の行方を追ってるって言ってた。だけどわたし、それからユウカちゃんもだけど、繋がりの洞窟でその幹部と一戦を交えた。事後報告としてユウキ君には伝わっているけど、念のためハートさんにも伝えておいた。
「うっ、うん…。だけど…、ちょっと…」
「あぁ、ごめんごめん」
「んぇっ? びっ、びっくりした…」
えっ、なっ、なに…? 心配そうに訊いてくれたアーシアちゃんに、ちょっと怖いけど、わたしはそう言おうとした。だけどその途中で、自動扉の開いた建物の中から聞こえた声が割り込んできた。いつもならただ遮られるだけなんだけど、苦手な暗さ、不気味さもあわさって、驚きでとびあがってしまう。そのせいでわたしは頓狂な声を出し、同時に鼓動が早鐘を打ち始めてしまった。
「ぃやあごめんごめん。一時間ぐらい前まで戦っててね、ちょとだけ休憩をとらせてもらってたところだよ」
「あっ、はぁ…」
「エクワイル…、マツバさんから聴いてるよ。昇格試験だってね? 」
「そっ、そうです、けど…」
…何か、突っ走ってるなぁ、この人…。もの凄くビックリしたせいでまだドキドキしてるけど、その人は構わず、ペラペラと喋りはじめる。何となくカントーでジムリーダーをしてる友達と似てる気がするけど、それは置いておくとして…。その人はわたしが何も言ってないのに、昔のティルみたいに独りで突っ走ってしまっていた。
「それなら話しは早い! 生憎ジムリーダーのマツバさんは今日一日留守にしてるけど、代役を任せられてる僕、ダイが引き受けるよ。エンジュでの試験内容はこう。光が一切ない暗闇の中で、標的を倒す、これだけさ。…エクワイルの人相手なら、島巡りで鍛えた実力が試せる…。…さぁ、早速始めようか」
…レイちゃんもそうだけど、ゴーストタイプ使いの人って、みんなこんな性格なのかな…? 語る勢いが止まらない自称ジムリーダー代理の彼は、丁度いいね、とでも言いたそうに声をあげる。こうなったらわたしの経験上、本人の気が済むまで止まらないのは分かってるつもり…。途中本音が出てた気がしたけど、ひとまずわたしは大切な部分だけに耳を傾ける。ここまで来ると、アーシアちゃんはこの人にドン引きって感じで言葉を失ってたけど…。…とにかく、わたし達はこの人が満足するのを待ってから、恐る恐るうす暗いジムの中へと入っていった。
―――
Sideアーシア
「アーシアちゃん、頑張ってね! 」
『はいです! 』
うーんと、何というか、このジムリーダーさん、マイペース、ですよね…。この人に対して私はこんな風に思ったけれど、とりあえずは一歩前に出た。ここに来る前にみんなと相談して、私が戦うことになったから、意気込んで返事をした。シルクさんから聴いてて知っていた事だけれど、エンジュシティのジムはゴーストタイプ。ギラファさんと同じ種族のラグナさんも悪タイプだけれど、テトちゃんの勧めで私に決まった。…これはまだ誰にも話していないけど、向こう…ええと、七千年代の世界、だったかな? 導かれたばかりの頃のバトルは、生きるか死ぬかの勝負だった…。そのために折角強くなったから、久しぶりの全力のバトルだけれど負ける気はしなかった。
「ガラガラ、アローラでの特訓の成果、魅せるよ! 」
『おぅよ! 俺達の全力、見せてやろうぜ! 』
『んっ? ガラガラさんの属性って、確か…』
地面タイプ、でしたよね? それと…あれ? ガラガラさんって、周りが暗いからかもしれないけれど、こんな色だったかな…?
『…ん? 攻撃してこないんなら、俺からいかせてもらうぜ? 骨ブーメラン! 』
『えっいっいきなりですか? まっ、守る! 』
対戦相手のガラガラさんと対面してから少しだけ考え事をしていたから、私はバトルに遅れれをとってしまった。ガラガラさんはこのように私に話しかけると、無駄のない動きで手に持っている長い骨を構える。縦に振るような感じで、それを私に向けて飛ばしてきた。
急な事で私は変な声を出しちゃったけど、それでも何とか対応する事はできた。暗いから距離とスピードの感覚を掴むのは大変だけれど、私は咄嗟に二足で跳び下がる。エネルギーを手元に集中させ、前に突き出しながら解放。すると私のニ十センチぐらい前に、緑みたいな色の壁が出現する。少し前かがみになりながら踏ん張って、いつ来てもおかしくない衝撃に備えた。だけど…。
『くっ…。もしかして、物理…』
『もう一発! 』
『でっ、電光石火! 』
バリッ、っという音がして、緑の壁に亀裂が走る。辛うじて持ち堪えたけど、エネルギーを送り込んで修復しないと、次は耐えられないかもしれない。本当はこのまま様子を見たかったけれど、跳ね返って手元に戻った骨をもう一回投げてきたから、慌てて守るを解除…。すぐに両手を地面につけて、力を込めて左に跳び退いた。
『流石エクワイル、反応が早いな! 』
先を越されちゃったけど、何とかしてここから攻めないと! 左に避けた勢いのまま、私は五、六歩ぐらい駆ける。このまま加速して攻めても良かったのだけれど、ゴーストタイプのジムのはずだから、攻撃は当たらない。…ええっと、よく考えたら、他の人よりも私は使える数は多いけれど、攻撃技の五つのうち、三つがノーマルタイプ…。今更だけど、残りの二つで上手く攻めないといけない、そう感じ始めてきた。
だから私は、スピードが乗る前に電光石火を解除する。代わりに別の技を発動させながら、ガラガラさんの位置を探る。四足で右に左にとステップを踏みながら、暗いフィールドを駆け抜ける。発動させた技の効果、剣の舞でステータスは強化する事が出来たけれど、その代わりに対戦相手の場所を見失っ…。
『背中がガラ空きだぜ? シャドーボーン! 』
『えっ…くっ…』
うそ…いつの間に? 私が気づかない間に、ガラガラさんは私の背後をとっていたらしい。完全に死角になっている所から私に跳びかかってくる。一瞬の事で目では見てないけれど、多分武器代わりの骨の先端には、黒いオーラみたいなものが纏わりついていたと思う。不意を突かれたから、対応出来ずまともに叩かれてしまう。…今いる時代だから良かったけれど、これが三年前の…じゃなくて、今は二千年代だから五千年後? どっちなのかよく分からなくなって来ちゃったけど、私にとっての三年前なら、致命傷を負ってたと思う。硬い骨で、地面に叩き崩されてしまった。
『…守る! 』
『っ? 』
『シャドーボールっ! 』
このままだと、連続で攻められちゃうよね…? それなら、埃を払ったあの時みたいに、守るで弾けば…。…うん、飛ばせたから、何とかなったかな? 飛ばした方向は何となく分かるから、ここで一気に攻めれば…。
周りに緑の壁を展開して相手を弾いてから、私はすぐに立ち上がる。向きを変えながらだったから両手を使えなかったから、シルクさんみたいに口元にエネルギーを集中させる。ゴーストタイプに変換しながら丸く形作って、十センチぐらいになってから撃ちだす。薄暗くて距離感を測るのが難しいのは、ガラガラさんも同じなはず…。
『なっ…、火炎ぐぅっ…』
『そこですねっ? 電光石火』
本当にそうだったみたいで、ガラガラさんは咄嗟に技で身を守ろうとする。だけど反応が遅れたみたいだから、一瞬赤いが燈ったタイミングで、私の黒い弾が命中してしまっていた。
ガラガラさんが纏いかけた炎のお蔭で、私は彼の場所を完璧に捉えることができた。また見失わないうちに両足に力を込めて、一気に駆け出す。一秒も経たないうちに、トップスピードに達する。走る足が遅くならないように注意しながら、目線だけで相手の方向を追う。そして…。
『アイアンテール! 』
一、二、三、って言うリズムで踏み切って、相手めがけて大きく跳躍…。両足が地面から離れてから尻尾を硬質化させ、腰の捻りを聴かせながらながらガラガラさんの頭に叩きつける。結局地面タイプなのかさえ怪しくなってきたけど、剣の舞で強化しているから、それなりの手ごたえがあった気がした。
『シャっ…! 火炎…車! 』
『剣の舞…』
私の尻尾がクリーンヒットしたらしく、ガラガラさんは転がる様に何メートルか飛ばされる。だけど負けじと立ち上がり、ふらつきながらも炎を纏う。
このまま攻めたら、致命傷を負わずに戦い抜けるかもしれない、私はそう思ったから、更に相手を追撃する。完全に発動できるかは分からないけれど、ステータスを強化しながら相手を待ち構える。
『電光石火』
『っ? 』
ガラガラさんは凄い量のエネルギーを注ぎ込んでいるみたいで、纏っている炎が赤々と燃え上がっている。おまけにバトルフィールドの照明は何一つ灯ってないから、より一層輝いて見えた。そのお陰で私は、迫るガラガラさんとの正確な距離を測ることが出来た。だから二足で立ちあがった状態で電光石火を発動させ、真上に跳ぶ、そして…。
『これで最後です! アイアンテール! 』
人間だった頃で例えるなら宙返りするような感じで、移動方向を真上から真下に切り替える。地面から二メートル半ぐらい跳び上がったから、落ち始める前に電光石火を止める。すぐにエネルギーを尻尾に蓄え、もう一回宙返り…。落ちるスピードに回転の勢いも乗せて、真下に来た相手の頭に叩きつけた。
『ぐぁっ…。…剣の舞…、だったのか…、あまり効かないはずなのに…、ここまで威力が…、高かったのは…』
『ふう。…そうです』
叩きつけた尻尾がちょっと熱かったけど、それでも私は押しきることができた。その甲斐あってガラガラさんは頭から崩れ、多分その影響で砂煙があがっているはず…。反動をもらって、私はもう一度上の方に跳び出す。そのまま両手から着地。その頃には対戦相手のガラガラさんは、意識を手放してしまっていた。
Chapitre Sept Des Light 〜平穏な一日〜 Finit……