Soixante et deux 七色の炎と囚われの炎(災火)
Sideコット
「カナちゃんあのたてものがいりぐち? 」
「うん! 」
はぁ…、こうなったら、つき合うしかないよね…。エンジュの観光名所を目前にして、カナとエレン君は更にテンションが上がってきている。本当はバトルした直後だから回復してもらいに行った方が良いと思うんだけど、二人の頭の中にはそんな考えは全くないらしい。一応エレン君には僕の言葉は伝わるけど、この様子だと聴いてくれそうにない。だから僕は、興奮してわき立っている二人の後を、ため息をつきながら追いかけることしかできなかった。
「外から見るだけなら普通に行けるんだけど、中に入るにはジムバッチを見せないといけないんだって」
「そうなの? 」
「うん。ええっと、何だったかな…、何かあった気がするけど…」
『マダツボミの塔よりも古い塔だから、保護するために入場を制限してる…、だったかな? 塔に入れる人数を把握できるから、エンジュのジムバッチを使ってるんじゃないかな? 』
カナ、やっぱり忘れてたね…。カナはエレン君に塔の事を話始めたけど、僕の予想通り、その大半を忘れちゃってたらしい。その証拠に、彼女はそわそわしながら、視線を色んな方向に泳がせていた。そんな彼女を見かねた僕は、ジム戦の前にセンターで聴いたことを話始める。この時には、センターでヘクト達を回復してもらう事は諦めかけていた。
「ジムバッチを? オイラはいつもそらからいってたからしらなかったよ」
「空…? …あれ? 」
空から? 空からって…、飛行タイプの誰かに乗せてもらって来てたのかな…? だけどエレン君、メンバーに飛行タイプのひとはいないよね? …あとひとり、僕が知らない誰かがメンバーにいるみたいだけど…。僕が塔に入るための条件を教えてあげると、エレン君はへぇー、っていう感じで呟く。塔に来たことがあるなら知ってるはずだけど…。だけど彼は空から来てたのと、カントー出身だから、何となく知らないのも納得できる気がする。研究所で初めて会ったときからいる、ニド以外の誰かが飛行タイプなのかもしれない、彼の話から、僕はこんなような気が…。
「いつもなら警備員さんがいるはずなん…、えっ? 」
『うっ、嘘でしょ? 』
そんな気はしたけど、そんな考えは、施設の入り口に見えた光景のせいでどこかへ弾かれてしまった。
「かっカナちゃんこれってマズくない? 」
「こんなこと、聴いたことないよ! 」
その光景の原因は、鈴の塔の入り口にいる、二人の警備員。いつどんな時も欠かさず二人で見張っているはずなのに、今は違う…。その二人は、何故か向かい合うように入り口の前で倒れている…。警備員さんは実力もあるジムトレーナーのはずなの…、いや、そうじゃなくて…。とにかく、僕にはどうしてこんな事になっているのか、さっぱり分からなかった。
『だっ、大丈夫ですか? …気を失ってるよ…』
訳が分からなかったけど、僕はその人の元に駆け寄り、右の前足で揺すってみる。だけど辛うじて呼吸する音だけで、それ以外に何の反応もない…。大事には至ってないみたいだけど…。
「うそ…」
「カナちゃんコットくんきっとなにかあったのかもしれないよ。アークさんならだいじょうぶだとおもうけど…。カナちゃんいってみようよ」
「えっ、エレン君…! 待って…」
『…』
エレン君の言う通り、ここで何かがあった、この状況を見て、僕はこう思わざるを得なくなる…。ジムトレーナーでさえ倒されて…? それとも、トレーナーの方を直接…? …とにかく、あり得ないことが起きてるから、僕は次々に色んな事を考え始める。今まで何回かプライズとかプロテージみたいな密漁組織と戦ってきたせいなのかもしれないけど、嫌な予感がする…。本能的に、こう思えてきた。それを口で言う前に、エレン君が我先に倒れてる警備員さんの上を飛び越す。その彼の後を、気づいたら僕は追いかけてしまっていた。
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Sideコット
「えっ? 」
『どっ、どういうこと? 』
ちょっ、ちょっと、何が何だか全然意味が分からないんだけど? ただならない不安を抱えながらエレン君の後を追い、塔の中に入ったけど、そこはあり得ないぐらいに静まり返っていた。入り口であんな風になっていたのに、何故か入った直後の堂、それから奥の五重の塔の中も人っ子一人いない…。強いて言うならここに住んでるコラッタとかラッタさんがいたけど、何故か物凄く怯えきって端の方で小さくなってしまっていた。
そんな違和感だらけの塔を登って、僕達は天守閣の上の屋根に出る。黒く光る瓦が一面に敷き詰められていたけど、何か用途があるらしく、一ヶ所だけ階段状になっていた。エレン君を先頭に登り、平坦な場所に出る。だけどそこには先客がいたらしく、三つのうちの一つに、僕達は思わず声を荒らげてしまう。そこにいたのは、一人の女のトレーナーと、その人のメンバー、そして…。
「あっ、あのポケモンって…」
『うん! スクールで習った通りだから、絶対にそうだよ! 』
ジョウト出身の人なら誰でも知っているほど有名な、七色の羽が特徴的な大型の飛行タイプ…。
「ホウオウ? 」
「アークさん! 」
「っ? 」
伝説と言われているが、目の前のトレーナーに対峙していた。
「アークさんどうしたんですか」
『この声は、エレン殿か? 』
『えっ、エレン君? もしかして塔にいる知り合いって…』
まっ、まさか? 僕とカナは、伝説の種族の彼に対して声をあげてしまったけど、エレン君だけはそうじゃなかったらしい。確かにビックリしてたけど、この状況に対してらしかった。更に僕は、別の事に対しても素っ頓狂な声を出してしまう。エレン君が大きな声でこう言っちゃったから、交戦していたトレーナー、ホウオウさんが思わずこっちに振り返る。名前らしいことを言って、声をあげたのはトレーナーじゃなくて、ホウオウの方…。まさかの事に、僕は訳が分からなくなってしまった。
「そうだよ。ちょっとしたえんがあってねいちねん…」
「ちっ…、邪魔が入ったか…。…ベータの野郎は一体何をやってるのよ…。アイツもこの私の命令が聴けないなんて、聞き捨てならないわね」
『っ! もっ、もしかして、あのロゴ…』
…うん、あのマーク、絶対にそうだよ! エレン君は僕かホウオウさん、どっちに答えたのかは分からないけど、とにかく大きく頷く。僕とそのひと、その間を視線で行き来しながら、こう言いはじめる。だけどそれは、予想外の事に驚いてこっちに振り返っていたトレーナーに遮られてしまう。何かをブツブツ言ってたけど、その人の服に描かれていた、見覚えのあるイニシャルが目に入ったから、それどころじゃなくなってしまった。何故なら…。
『プライズ? 』
「プライズ? なんなのそ…」
「プラ…、ほっ、本当だ! えっ、エレン君! この人、密漁者だよ! エレン君、昨日コガネ大学が襲撃された事は知ってるよね? その犯人のグループだよ! 」
昨日とマダツボミの塔で見た制服とは違ったけど、確かに襟元には小文字のPとZを象ったシンボル…。それがそうであるように、圧倒的な存在感を放っているように僕には見えた。結果的にエレン君経由でカナにも伝わったから、すぐにその組織ついて語ってくれた。昨日の事件はニュースにもなってたから、それを挙げて説明…。
「クソガキが…、よく知ってるじゃない。そうよ、昨日の襲撃を指示したのはこの私、プライズ代表ののアルファよ! 」
「みっみつりょう? アークさんみつ…」
やっぱり…。でっ、でも代表ってことは…! 相変わらずブツブツ言ってるけど、その人は満足したのか、僕たちに改めて向き直る。元々こういう性格なのかは知らないけど、アルファって名乗った彼女は、上から目線でこう言い放つ。堂々とした出で立ちで、僕が見た感じでは、屋根に降りたったホウオウに匹敵しそうな威圧感を放ってるような気がする…。
密猟…、さては汝等が、民の安全を脅かす輩だな?
「…バレては仕方ないわね…。そうよ」
「でっ、でも何で、昨日大学を襲ったりしたんですか? 」
「小娘が…、この私が貴様の問いに答えるとでも? …まぁいいわ。ここまで登りつめた褒美に、特別に教えてやるわ。コガネを襲わせたのは…、
コイツを捕獲するためよ! 」
ほっ、捕獲? テレパシーで語ったホウオウさんにバラされた? 事もあって、偉そうな彼女は開き直ったように呟く。そんな彼女にカナが驚きながら訪ねると、不機嫌そうに聞き返す。だけどすぐにそれを訂正し、相変わらずな態度で言い放つ。かと思うと、制服のポケットから何かを取り出し、起動させる。すると赤い鎖…。
「
グルアアアアァァッ!」
「うわっ…」
「うっ…」
『くっ…』
なっ、何? この声? 彼女が取り出した機械みたいな何かから伸びる赤い鎖を引くと、あまり遠くないどこかから尋常じゃない声量の咆哮…。普通では考えられない大きな声に耐えきれず、僕は思わず前足で両耳を塞ぐ…。
「これを知った以上は、覚悟することね」
「えっ? 」
『なっ…、フラム! 』
フラム…、拙者の弟子に、何をした!
「決まってるじゃない、私の目的を達成するため、手駒にしただけよ。…さぁエンテイ、この私の邪魔をしたことを、このクソガキ共に後悔させてやりなさい! 」
『ガルルゥッ…』
「うっうそでしょ…。ユリン…」
「ねっ、ネージュ! 何とか戦って! 」
Continue……