De Lien Septieme 雷の皇帝と洪の君主
Sideコルド
『…痛ッ…、フラム…一体どうしちゃったんだろう』
『フラムの様子といい、あの女といい、ただ事では無さそうだな』
『僕達も調査はしていますが、情報不足で何とも言えませんけど…』
情報があるなら、すぐにでも伝えたいところですけどね…。プライズのアルファとの激戦から一夜明け、僕、ライコウのエクリアさん、それとスイクンのリーヴェルは、傷を癒すためにウバメの森に身を潜めている。捕まり何らかの要因で操られたフラムさんと戦ったけど、僕達の惨敗…。リーヴェルさん達を守りながら戦っていたとはいえ、それでも撤退するのが精一杯だった。
そんな訳で敗走した僕達は、森の湖の畔で一夜を明かした。理由は分からないけど、昨日戦った時、フラムさんの技の威力が桁外れに底上げされていた。そのために僕達は、かなりの深手を負ってしまっていた。僕達もそうだけど、相手は伝説の種族、それも理性を保てていない状態…。僕達だから軽い火傷で済んだけど、そうじゃなかったら大変なことになっていたと思う。
昨日の戦闘で負った傷が痛むのか、エクリアさんは顔を歪めながらこう呟く。それに対して、リーヴェルさんは険しい表情で何かを考える。そんな兄弟子達に情報提供したいのは山々だけど、それが出来ないからつい、僕の語尾は空気の抜けかけた風船のようにしぼんでしまった。
『コガネでもプライズ関係で騒動があったみたいですから…。そうですよね、オルトさん? 』
『ああ。何故かは知らんが、大学が襲撃されたからな。ユウキは今日講義で動けないが、昨日残ってた俺とスーナ、フライとシルクで調査中だ』
ユウキさんから“心”を通じて聴いてますけど、向こうも大変だったみたいですしね…。僕は昨日、心を共有している彼から聞いた事を、この場にいるもうひとり、今朝コガネから駆けつけてくれた、コジョンドのオルトさんに尋ねる。それにオルトさんは、エクリアさんの傷の様子を看ながらこう答えてくれる。話してくれている間も、彼は作業の手を止めることはなかった。元々手先が器用だって事もあって、シルクさんが合成した治療薬を染みこませた包帯を、右前足の患部に巻いているところだった。
『そうか…。あの青年等の方でも、一騒動あったという訳か』
『私達を襲ってきたのと同じ組織みたいだから何か関係があるのかもしれないね』
『ですね』
『これは俺の推測だが、昨日襲撃してきた規模、戦力からすると、俺達の方が向こうの作戦のメインと言えるかもしれない。プライズが知ってたのかは定かではないが、昨日大学では新入生の入学式が催されていた。アルファだけが単独行動していた理由だけは予想出来んが、集まった人々のメンバーを強奪するのが目的…。そう考えるのが普通だろうな。…よし、これでニ、三日すれば、完全に治るだろう』
『えったったそれだけで? 』
『シルクさんが合成した薬品の効能は、僕が保証しますよ』
流石にそこまでは考えつかなかったけど、言われてみればその可能性も無くはないですよね。僕の方を向いていたオルトさんは、リーヴェルさんが話し始めたタイミングですぐに患者に向き直る。傷に触れてヒリヒリするらしく、エクリアさんは小さく声をあげながらも、自身の考えを口にする。そんな彼を気遣いながら作業を続けるオルトさんは、そのままの体勢で淡々と持論を語る。包帯の先と先を結び、立ち上がりながら彼を見てこう付け足していた。
『だが逆に、こうも考えられないか? もし奴らが青年の立場を知っていたのなら、コガネには足止めのために大勢向かわせた。そして真の目的は、俺達。フラム同様俺達を…、っ、誰だっ? 』
リーヴェルさんの仮説も、一理ありますね。彼は彼で別の考えがあったらしく、一通り僕達の話を聴いてから、問いかけるように主張を始める。確かにリーヴェルの考えも、可能性としては無いとは言えないと思う。そう考えると、アルファはひょっとすると、伝説上同等の存在のエクリアさんとリーヴェルの事も捕獲するつもりだったのかもしれない…。リーヴェルさんも似たようなことを考えていたらしく、そう言いかける。だけど言い切る間もなく、彼は何かを感知したらしく、湖とは反対側の茂みの方にハッと振りかえる。一気に警戒のレベルを高め、辺りの空気を一瞬のうちに張りつめさせた。
『もしかして誰かにつけられてた? 』
『いや、それなら俺が気づくはずだ。だが俺がここに着いたのは早朝の六時だ。時間的に考えても、それはあり得ん! 』
『だがこうして何者かの気配がするのは事実…、やられる前に撃つまでだ! 冷凍…』
『まっ、待って! 私達はただ、ここを通りかかっただけだから!』
リーヴェルさんにつられて、エクリアさんも辺りに意識を向ける。いつでも攻撃できるように、帯電してバチバチと派手な音を出していた。何故かリーヴェルさんに誤解されることになってしまったオルトさんは、落ち着きながらも強い口調で無実を晴らそうとする…。だけどそれは叶わず、リーヴェルさんは口元に凍てつく冷気を蓄え始めていた。
そんな一触即発な空気の中、例の茂みから慌てた声が飛び出してきた。多分その声の主は、自分の知らない間に縄張りに踏み込んだ、そう思ったのかもしれない。こう声を荒らげながら、生い茂る茂みの中から跳び出してきた。
『問答無用だ! 冷凍ビー…』
『リーヴェルさん、待ってください! 』
『えっ、コルドさんにオルトさん? 何でこんな所に? 』
その跳び出した影に、僕はすぐにピンときた。何しろその影は、僕、それからオルトさんも、よく知った人物だったから…。だから僕は、敵意を顕わにしたリーヴェルさんの前に躍り出て、その彼の攻撃を無理やりにでも止めさせる。そこでようやく僕が目に入ったらしく、跳び出した影はかなり驚いた様子でこう声をあげていた。
『ツバキ? スーナから聴いてはいたが、まさか本当に来ていたとはな』
『話すと長くなりますけど、手短に言うとこのおふたかたの保護です』
その影の主は、僕とオルトさんにとっては弟子にあたる緑色の彼女…。ジュカインのツバキさんは、驚きのあまり右手に持っていたノートを落としそうになっていた。そんな彼女に僕は、後ろで戦闘態勢をとっているエクリアさん達をチラッと見ながらこう語る。本当は弟弟子の僕がしないといけないけど、この間にオルトさんがふたりを宥めに入ってくれた。
『俺も驚いたが、彼女はエクワイル側だ。ツバキ、その様子だと、ユウカも一緒だな? 』
『うん。多分もう少しで来ると思うよ』
『エクワイル、なのか…? 』
『そうです。階級もアージェント、です。なので安心してください』
ユウキさんから聴いた話だと、フライさんが言うには繋がりの洞窟の件でユウカさん達が頑張ってくれたみたいですからね…。リーヴェルさん達を説得してくれているオルトさんは、切り札とも言える台詞を並べ、こう言い切る。するとふたりは、溜めていた技を解除してくれた。だけどまだ半信半疑らしく、リーヴェルさんは恐る恐るこう訊き返してきた。だから僕は、その彼らに対して大きく頷く。続けてこういう事で、彼女の立ち場を手短に説明する。その甲斐あって、何とかふたりの落ち着きを取り戻すことが出来た。
Continue……