Cinquante et quatre Visible Words
Sideライト
「えっ…、ふたりだけ? 」
ふたりしかダメって…、どういうこと? シルクから今の状況を聴いてから、わたし達は一通り話してから分かれた。シルクはこの後で講義があるらしく、一端大学の方に戻って、カナちゃん達はメンバーのコット君達を回復してもらうためにセンターへ…。そしてわたし達は、これからの任務のために、デパートへ凄い傷薬とか元気の欠片とかの備品を買いに行った。本当は街の雰囲気とか、ジョウトで流行っているらしいポケスロンとかを見たいとも思ったけど、それはプライズとプロテージの事が落ち着いてからでもいいような気がする。フルロは観光より、バトルを何回もしたいみただけど…。
だけどフルロ以外は意見が合ったから、後ろ髪を引かれながらもコガネシティを後にした。道中は道中でバトルが多くて、結果的にフルロは満足してくれたみたいだけど、予定よりもかなり時間がかかってしまっていた。
そんな状態でわたし達は今、エンジュシティへの近道らしい自然公園の入り口の前まで来ていた。そのまますんなり入ろうと思ったんだけど、わたしは思わず、入り口前の立札の文字に対して頓狂な声をあげてしまった。
『…公共の施設みたいだから、仕方ないかもね』
『そうだな。…だが他の地方ではひとりのみの場所が多いからな、マシといえばマシだな』
『他…、あぁー、言われてみれば、カントーの地下鉄はひとりだけだったね』
『あの時はショウタ君が出てたんだよね。懐かしいなぁー』
そういえば、そうだったね。それなら、まだ規制は緩い方なのかもしれないね。わたしの声にいち早く気付いたのは、一番近くにいたラフ。地面に足をつけて翼をたたんでいた彼女は、ほんの少し目線を上げ、若干諦めを含んだような声で呟いていた。ラグナはラグナで他との違いを比べてたみたいだけど、ティルとテトラは三年前の旅の事を思い出したらしい。ラグナのセリフでその時の事を思い出したティルは、手をポンと叩きながら呟き、テトラはその時一緒に旅していた友達の名前を口にしていた。
『地下鉄…? 何なん、それ? 』
『こっちの世界にもあるとは思わなかったのですけど、地面の下を走っている交通手段、かな』
『こうつう…、しゅだん…? 』
『うん。ええっと…』
『空を飛行タイプのひとに乗せてもらって飛ぶみたいに、地面の中を穴を掘るとかで進ん…。…じゃなくて、地面を中を、人間でも一度に沢山、それも早く移動できるようにした乗り物、かな』
『テトちゃん、ありがと』
『どういたしまして! 』
つい昨日まで野生だったフルロは、ティル達の会話の中に分からない言葉があったらしい。彼は不思議そうに、頭の上に疑問符を浮かべながら首を傾げていた。それに対してアーシアちゃんは、一瞬意外そうな顔をしてたけど、すぐに気持ちを切り替えてフルロの方に向き直っていた。アーシアちゃんは元々別世界の出身みたいだけど、この感じだと元いた世界にもそれがあったのかもしれない。久しぶりに聞いたのかもしれないけど、彼女は詰まりながらも、何とかそのモノについての説明をフルロにしてくれていた。
だけどついに説明に使う言葉が出てこなくなったらしく、アーシアちゃんは上に視線を流しながら必死に探ろうとしている。そんな彼女に気付いたらしく、一番仲が良いテトラが、言い換えていたけど助け舟を出す。この説明でフルロが分かったのかは分からないけど、何とか説明した彼女達は、互いに目線を合わせ、仲良さげに笑顔を浮かべていた。
『地下だからずっと真っ暗だけど…。…それより、誰が外に残る、シア姉以外に』
あっ、そうだよ。それを決めないといけないよね。言葉に少しト毒があったような気がしたけど、ラフが肝心な事をわたしを含めたみんなに思い出させてくれた。彼女は倒置法で話題を元に戻しながら、アーシアちゃんから順番に視線を流す。ここの公園はトレーナー一人につきふたりしかボールの外に出せないみたいだから、誰かがボールの中に戻らないといけない。元人間ってことでボールへのためらいがあるらしい、アーシアちゃんは確定。あとのひとりは…。
『そうだね…。…俺は試験の後もずっと出てたから、遠慮するよ』
『俺は出てなかったが、この中では最年長だ。だから俺も辞退しておく』
『私もいいかな、十分戦ったし』
『ラフちゃんがおらんのなら、僕もええかな』
あれ、案外あっさり決まった? これって…。何か会話に取り残されてるような気がするけど、思った以上にすんなりと決まったらしい。いつもの事だけど、わたしはメンバーが増えてもこんなにうまくいくと思わなかったから、内心かなり驚いてしまった。
『みんな、ごめんね』
『ううん、たまたま意見が合っただけだから、気にしないで。…だからライト』
「はっ、はい」
『テトラとシアさんも、何かあったら頼んだよ』
『うん! 』
『はいです! 』
「あっ、うん」
うーん…、でもやっぱり、これがわたし達のチームらしさ、なのかな? 蚊帳の外で他事を考えてたわたしは、ティルに急に話をふられたから思わず変な声を出してしまった。そのままの流れで、ティルは外に残ることになるテトラ、それからアーシアちゃんを見、こう言う。ふたりとも大きく頷いてから、みんなが揃ってわたしの方に視線を移す。それにちょっとビックリしちゃったけど、それでもわたしは、何とかテトラ以外をボールに戻す事はできた。
「よし、…っと。公園を抜けたら…」
「あっ、ライト! やっと会えた」
『キキョウ以来だから、二日ぶりか』
ん…? 公園を抜けたらすぐに出すからね、わたしはそう言いながら、テトラ達に呼びかけて止めていた足を進めようとする…。だけどそれは、控えに戻ってもらったティル達と入れ替わるように聴こえてきた声に遮られてしまった。トーンと声色からすぐに誰か分かったけど、それでもわたしは驚いてしまう。声のパートナーも続いた事で、ゲートから出てきた人物の正体が、たぶんテトラにも伝わることになった。
『フレア君! それからヒイラギさんも、ラグナから聞いたよ。向こうのアジトの場所が分かったんだよね? 』
「そうだよ。ライトも、プライズの任務を妨害してくれてありがとね」
「こちらこそだよ」
まるでタイミング見計らったように声をかけてきたのは、探偵としてプライズに潜入しているヒイラギと、彼のパートナーでギャロップのフレア。ふたりもまさかこんな所であえるなんて思っていなかったらしく、わたしと同じく驚いた様子だった。昨日は一戦闘員として潜入していたみたいだけど、生憎わたしは会う事が出来なかった。ラグナはスーナと一緒にいる時に会えたみたいだけど…。
『ええと、テトちゃん? この人って知り合いです? 』
『あっ、そっか。シアちゃんは会うのは初めてだったよね』
『そうだな。キキョウで会った時はいなかったから…、新入りさんか? 』
「うん。あともうひとりいるんだけど…、この子はブラッキーのアーシアちゃん。それから、彼がわたしの幼なじみのヒイラギと、ギャロップのフレア」
アーシアちゃんが仲間になってくれたのが森の中だったから、あの時はいなかったね。この中で唯一面識がないアーシアちゃんが、若干取り残されて気まずそうにしていたけど、彼女は疑問符を浮かべながらも親友のテトラにこう問いかける。彼女の問いかけでテトラ、それからわたしもその事を思い出し、揃って短く声をあげる。すぐにでも紹介をしようと思ったんだけど、その前にテトラの返答に先を越されてしまう。なのでフレアが頷いてから、その返事を含めて、割り込まれる前に手短に紹介。右の手のひらでそのじんぶつを示しながら、順番に教えてあげていった。
『まぁ、そう言う事だ』
『はい。 よろしくお願いしますです! 』
『それとシアちゃん、ヒイラギさんはライトと同じなんだよ』
『おっ同じっ? おっ同じって事はラティオスさんなのですかっ? 』
「流石、ライトのメンバーだね。そうだよ」
確かに、これだけで伝わっちゃうからなぁー。ひとまずお互いの事は、紹介する事が出来た。アーシアちゃんはフレアの方に向き直ってから二足で立ちあがり、彼の右前足をとって握手を交わす。フレアのそれは蹄だから、アーシアちゃんが空いた両手で包んで上下に振っていた。そこへテトラが追加でヒイラギの事を言うと、彼女は驚かすをくらった時みたいに慌てふためく。驚きのあまり早口になってたけど、それでも何とか、その本人に尋ねる事が出来ていた。そのせいで、握手する手が止まってたけど…。
「あっ、そうだ。折角会えたんだから、アジトの正確な場所を教えておくよ」
「確か怒りの湖、だったよね」
ラグナが言うには、確か湖に停泊させている船舶、だったっけ? 見た感じアーシアちゃんがそれどころじゃなさそうだけど、ヒイラギは無理やり話題を塗り替える。彼はタイミングを見計らったつもりだとは思うけど、わたしにはそうは思えなかった。本当はもう少し落ち着いてからの方が良かったと思うけど、勢いに押し流されてしまった。彼がわたしを見ながらこう言ってきたから、仕方なく、確認の意味も込めて聞き返した。
「うん。…じゃあ、頼んだよ」
『チカラを使うんだよね』
『そうなるな』
アーシアちゃん、一端目を閉じて。
『目を…? はいです』
ヒイラギだけじゃないけど、このチカラは説明が難しいからなぁ…。わたしの問いに頷いたヒイラギは、そのまま目で何をするつもりなのか語ってきた。わたしはそれだけで分かったけど、テトラはいまいち確信できていなかったらしい。フレアを見上げながら、こう尋ねる。そんな光景を横目で見ながら、初めてのアーシアちゃんに、声を出すことなく、必要な事だけを教えてあげる。当然訳が分からない、って感じで首を傾げてる。半信半疑のままだと思うけど、それでもわたしの頼み通りに目を閉じてくれた。
「ヒイラギ、始めて」
このチカラにはわたしも必要だから、頑張らないとね! アーシアちゃんも準備が出来たから、わたしは短く声をあげる。それと同時にわたしも目を閉じ、発動の為に意識を研ぎ澄ませ始めた。
…ヒイラギも発動させ始めたらしく、わたしの脳裏にぼんやりとした何かのイメージが送られてくる…。その状態でわたしは、このイメージを見せる相手、テトラとアーシアちゃんと、本人のヒイラギを強く意識する…。するとそれがきっかけで、あいまいだったイメージが鮮明になり、真っ暗な視界の中に映像が流れ始めた。
音とか風とかは何も感じないけど…、ここは…、どこかの森、なのかな? だけどウバメの森みたいに暗くないから、そこじゃないのは確かだね…。映像が前に進んで行っているから…、ヒイラギは着く直前からの映像を見せてくれてるのかな?
…あっ、急に視界が開けてきた! …うん、聴いた通り、どこかの湖みたいだね。ヒイラギの視界だけど、この感じだと結構な広さがありそうだね。っていう事は、ここが怒りの湖なんだね?
ええっと今度は…、うん、湖の外周に沿って歩き始めたみたいだね。釣り人が沢山いるけど、本当にこんな場所にアジトなんてあるのかな…?
ん、ちょっと待って? ヒイラギ、こんなに木が茂った所に入ってくの? 一応湖沿いみたいだけど、ここ、絶対に道じゃな…。
えっ、ええっ? こっ、こんな所に…? こんなに狭い所にこんなに大きな船が…? でっ、でも、こんなところ、絶対にこの大きさだと入れないよね?
でも…、よく考えたら、これだけ見通しが悪くて、奥まった場所なら、これだけ大きな船を隠すのには、丁度いいよね。おまけに密猟組織のアジトとして使ってるなら、尚更だよね?
っていう事は、ひたすら湖沿いに進めば…。
「…ふぅ…。こう行けば、アジトを見つけられるはずだよ」
奥まった場所に浮かぶ巨大な船舶が数秒映し出されると、ぷつりと視界が暗転する。急にイメージも伝わってこなくなったから、ここでヒイラギはチカラの発動を止めたんだと思う。一、二秒すると、暗い視界の中からヒイラギが一息つく声が聞こえてきた。ここでようやく、わたしはさっき見せてもらった事を整理しながら、ゆっくりと閉じていた目を開けた。
Chapitre Six 〜駆け巡る情報〜 Finit