Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Six Des Light 〜駆け巡る情報〜
Cinquante et trois 親友の古傷
  Sideライト



 「…勝者、チャレンジャーのカナ! 」
 「えっ、あっ、わたし…、勝ったの? 」
 彼のバトルは初めて見るけど、流石パートナーだって事はあるね! シルクから事務的な事を一通り聴いたわたしは、その後もジムの観客席に居座り続けていた。ティルとシルクによると、カナちゃんのメンバーのデルビルは、昨日仲間になってくれたフルロとはかなり深い仲らしい。その彼が、って事もあるけど、わたしもカナちゃん達のジム戦を見届けたかったから、アーシアちゃんも交えて話しながら観戦していた。
 『コット君、見切りを使えたのですね』
 『そうらしいわね。昨日使ってるのは見かけなかったから…、もしかすると、このバトルで習得したのかもしれないわね』
 「ティルから使える技を聴いてたけど、その中には無かったから…」
 たぶんそうだね。アーシアちゃんは彼の決め手に気付いていたらしく、隣に座っているシルクにこう尋ねる。多分推測だとは思うけど、そんな彼女にシルクはこう答える。シルクは昨日、森でコット君とティルと一緒に行動していたらしいけど、この様子だとその時は使えなかったのかもしれない。その時に仲良くなったんだとは思うけど、メンバーの中では彼について一番知っていると思うティルが言ってた事だから、間違いは無さそうだった。
 『シアちゃんとラフちゃんも、聞いた覚えはないって言ってましたしねっ』
 『そうなのね。…さぁ、コット君達のジム戦も一段落したから、下に降りましょ』
 「うん」
 追い込まれた時に進化とか、新しい技を使えるようになる事ってよくあるから、たぶんそれかもしれないね。アーシアちゃんは一度、わたし達よりもフィールドに近い席で観ているティル達を指さし、こう呟く。確かめるように訊いてきたアーシアちゃんに、シルクは小さくこう呟く。その後彼女は、一度フィールドの方に目を向けてから、話題を変える。腰をあげながらわたし達に向き直り、一足先に段を降りていく。なのでわたしとアーシアちゃんは、そんな彼女の後を追うように続いていった。
 『んだけどコット、あの時によくかわせたよな』
 『見切りっていう…、技のお陰だよ…。試した事無かったから…、ほぼ賭けだった…けど…』
 『コット君、ヘクト君も、お疲れ様。いいバトルだったわ』
 「カナちゃん、おめでとう」
 「あっ、ありがとうございます」
 途中でアーシアちゃんはティル達の方に行ったけど、わたし達は観客席の段を下りきって再びフィールドに足を踏み入れる。戦い終わったばかりのコット君は、切れ切れにしか話せていなかったけど、例のデルビル君と互いの健闘を称え合っていた。そこにわたし達が割り込むような形になったけど、先に降りたシルクがふたりにこう呼びかける。後でわたしが声をかけた事で、カナちゃんは少し照れながらも気がついてくれた。
 『ありがとう…、ございます』
 『どういたしまして。目覚めるパワーも使いこなせているみたいだし、このままいけば次のジム戦も難なく勝ち抜けるかもしれないわね』
 『おぅ、マジ? 』
 『ええ! 』
 シルクが教えたみたいだけど、かなり使いこなしてたもんね。にっこりと彼に笑いかけるシルクは、そのまま彼のバトルの評価に入る。わたしの見た感じだと、二発を連射できていたから、習熟度はかなりのものだと思う。これはわたしの勝手な推測だけど、昨日のプライズとの戦闘で、知らず知らずのうちに鍛えられたのかもしれない。
 『イグリー君とネージュちゃんはどこまで強くなってるのかは、ライト伝いにしか聞いてないけど、よっぽどのことが無ければ大丈夫だと思うわ』
 「巻き込んじゃってるから何とも言えないけど、カナちゃん達は多分、同じぐらいの歳の子よりも色んな経験積んで…」
 できればこれ以上わたしの任務に巻き込みたくなかったけど…。だけど、カナちゃんにも闘ってもらって、より多く殲滅できたのも事実。だから…。
 「…るから、その影響かもしれないね」
 悪い事ばかり、とは言い切れないかなぁ…。カナちゃんも何事も無く戦いきってたみたいだし…。不本意とはいえ彼女にも助けてもらったから、わたしは素直に思った事を言えなかった。昨日の事を考えながら言ったから、ちょっと言葉に詰まっちゃったけど、すぐに無理やり繋げたから、多分バレてはいないと思う。気付かれなかったから、とりあえずは誤魔化すことが出来たような気がした。
 『一概にそうとは言い切れないけど、その可能性も無い事はないわね。…あっ、そうだ。ライト、コット君もいるから一つ訊いてもいいかしら? 』
 『ん、僕も? 』
 「コット…、カナちゃんのパートナーっていう、サンダースのこの子の事? 」
 『そうよ』
 一応任務関係の事は一通り情報交換できたはずだけど、他に何かあるのかな? 何でサンダースのこの子の名前が出てきたのかは、さっぱり分からないけど…。シルクは一通り話し終わってから、何かを思い出したらしく小さく声をあげる。上げている目線を一瞬彼の方に落とし、またわたしに目を向ける。いきなりシルクに名前を呼ばれ、コット君は不思議そうに首を傾げていたけど、シルクはあまり気にすることなく、わたしの問いかけに頷いていた。
 『コット君は私の従兄弟なんだけど…』
 「えっ、しっ。シルクの? シルクに…」
 『私達、ポケモンの言葉が解る人間がいるみたいに、人の言葉を話せるひとも…、存在するのかしら? 』
 えっ、ちょっ、ちょっと待って! コット君がシルクの従兄弟だなんて、聞いてないんだけど? それ以前にシルク、とコット君がそんなに親密な関係だなんて知らなかったんだけど? 昨日会ってるはずのティルも言ってなかったし、隠してた訳じゃないと思うけど…。だっ、だけど、すぐにでもその事を訊きたいけど、シルクの頼みだから、無視する訳にもいかないよね…。思いがけず知ることになった親友の事に、わたしは思わず頓狂な声をあげてしまった。この事をすぐにでも問いただしたかったのは山々だけど、逆にシルクに質問された。だからわたしは、モヤモヤしながらも彼女からの質問に答えることにした。
 「わたし達、が…? 」
 『ええ』
 ええっと、ポケモンが人の言葉を話せる事があるのか、だよね…。…あっ、そういえば…。
 「うーん…、わたし達の場合は先天性? なのかな? ちょっと違う気もするけど、お兄ちゃんが言うには、もの凄く少ないけど、後天的に話せるようになったひともいるらしいよ。どういうきっかけで話せるようになったのかまでは、知らないみたいだけど…。それとシルク、わたしも訊きたいんだけど…」
 『コット君の事ね? 』
 お兄ちゃんが昔、そんな事があるって教えてくれたっけ? もう何年も前でうろ覚えだったけど、ひとまずわたしは親友の疑問にこう答える。わたし自身は種族としての“チカラ”で練習さえすれば、姿を変えた時に話せるけど、これはいわゆる特例。お兄ちゃんがこの事をどこで知ったのかは分からないけど、わたしは持っている情報を彼女に提供する。一通り話し終わったから、今度はわたしから、彼女に対してこう話題を提起した。
 「それもなんだけど、昨日の夜にフライから聞いたんだけど、喉は大丈夫なの? 」
 『喉? フィフさんの喉がどうかしたんですか? 』
 確かにコット君の事も訊きたかったけど、わたしは別の事も気になっていた。それは、昨日センターに会いに来てくれたフライから聞いた事。その時彼から、シルクにはあまり無理させないでほしい、そう頼まれた。あまり時間が無かったみたいだから、詳しくは聞けなかったけど、このから先に彼女に尋ねることにした。
 『…正直言って、あまり良いとは言えないわね…。コット君のためにちょっと補足するけど、四年ぐらい前に喉に大火傷を負ってね、一時期声が出せなくなったのよ…』
 そういえば、初めて五千年後の世界に行ったときに、伝説級の炎タイプと戦って、その時に喉を傷めた、って言ってたっけ?
 『その後遺症で今も大声が出せないんだけど、処置が早かったから何とかなったわ』
 その時の発作で、三年前のカントーでの旅の途中で、クチバで会った時にシルクがダウンしたんだよね。…確かシルクの傷の事を初めて知ったのが、その時だったよね。
 『…話に戻ると、半年ぐらい前までは何ともなかったんだけど…、その少し前に無理をし過ぎたせいかしら、発作だとは思うけど、たまに何もしなくても声が出しにくくなる事があるわ。炎症を抑える強力な薬を調合して飲んでるから、辛うじて日常とバトルには支障は出てないけど…』
 嘘でしょ…? 見た感じ大丈夫そうなのに、そんなに酷くなってたの? シルクは昔から自分で溜め込む事が多いけど、流石にそれはマズいでしょ? …だけどもし、今以上に喉の状態が悪化したら、シルクは…。彼女の喉の事は知ってたけど、まさかこんな事になってたなんて夢にも思わなかった。おまけに、危機的な状態、らしい…。想い詰めた様子で、覇気のない声で語る彼女を見て、わたしは嫌でも最悪の状況を想像してしまった。そのせいで、わたしは彼女に何も言ってあげることが出来なかった。


  Continue……

Lien ( 2016/12/17(土) 17:15 )