Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Six Des Light 〜駆け巡る情報〜
Cinquante et deux 支部長からの任務
  Sideライト



 「うーんと、森を抜けてきたっ言ゅう事は、ここから一番近いんは、エンジュやな」
 「エンジュですね? 何かあまり実感がないけど、ありがとうございました」
 ユウキ君がこの後で仕事だ、って言ってたから仕方ないけど、やっぱり何かスッキリしないなぁ…。ティルが頑張ってくれたおかげで三ヶ所目の予備試験も突破できたけど、中途半端な終わり方でわたしはあまり納得できていなかった。だけどそれが試験内容だから、わたしはそれを無理やり自分に言い聞かせ、ジムリーダーの賛辞に耳を傾ける。表情に出さない様にするのは大変だったけど…。…とにかく、その流れで次に目指す場所を示してもらえたから、わたしはこんな風に言いながらぺこりと頭を軽く下げた。
 「いやいや、正直うちも出し切れてへんけど、まぁしゃあないね」
 「仕事なら、どうしようもないですからね」
 ユウキ君は支部長って事もあるけど、そもそも大学で勉強を教えてる身だからなぁ…。
 「せやな。うちもジムリーダーに就いた時は…」
 『…、ライトさん達にもよくしてもらってるから、もう大分慣れました』
 あれ? そういえばティルとアーシアちゃん、どこに行ったんだろう…。さっきまでは傍にいたはずだけど…。こんなわたしに対して、意外にもジムリーダーのアカネさんも同じような感じだったらしい。あはは…、と苦笑い浮かべながら、こう呟いていた。ユウキ君とは同級生だって言ってたから、この言い方だとスクール時代にも似たようなことがあったのかもしれない…。だけどそこまではわたしが踏み込む領域じゃないと思うから、適当に笑いを浮かべながらこう受け答えしておいた。
 そんな感じで雑談をしている最中に、わたしはふと、すぐ近くの気配が薄くなっているのに気付く。戦ってくれていたティルはもちろん、わたしの傍で観戦していたアーシアちゃん、そのふたりの姿が近くから消えていた。アカネさんの話に耳を傾けながら、横目でふたりの姿を捜していると、そう離れていない場所からいくつかの話し声が聞こえてくる。ここでようやく、そっちの方に振りかえってみると…。
 『よかった…』
 「あっ、シルク! カナちゃんも、今来たところだね? 」
 「はい! ええっとライトさんは、今終わったところですか? 」
 「うん」
 やっぱりこの声は、うん、そうだね。わたしが振り返った視線の先、ジムの入り口付近には、探していたティルとアーシアちゃんの他に、わたしが知っている三つの影…。計五にんの知り合いが、楽し気に会話に華を咲かせていた。その中で真っ先にわたしの目に入ったのが、三年前とは違って白衣を羽織ったエーフィの彼女…。昨日はチラッとしか話せなかった、親友のシルク。いても経ってもいられなくなったわたしは、気付いたらこう、大声で彼女達に呼びかけていた。結果的に会話を遮ることになっちゃったけど、それでもみんなは、すぐに気づいてくれた。
 『その様子だと、無事にアカネの課題も突破できたみたいね』
 「ユウキくんが講義がある、って言ってたから、大分短かったけどね」
 『そういえば、今日は二年生の講義があったわね』

  とにかく、無事に突破出来て安心したわ。

 『ん、うん』
 ユウキ君が相手だったからちょっと苦戦したけど…。だから、逆に時間が短かったのが救いだったかな…。わたしの声のトーンから察したらしく、言わなくてもシルクは、今回の結果が分かったらしい。パッと明るい声で、アカネさんの方をチラッと見ながらこう言ってくれた。そのまま彼女はどこかにあるらしい壁時計に目を向け、何か小さい声で呟いてからこう続ける。何を言ってたのかは聞こえなかったけど、もしかすると時間とか大学関係の事かもしれない。本当にそうだったらしく、彼のスケジュール? を口に出してから、テレパシーで話を元に戻す。わたしにはこれだけしか伝わってこなかったけど、終始わたしの事を不思議そうに見上げていた彼、確かカナちゃんのパートナーでサンダースのコット君が頷いた。だから、たぶんシルクは別件で彼らに話しかけたらしかった。
 「うん! ええっとコガネのジムって、ノーマルタイプなんですよね? 」
 「そうやで! うちはノーマルタイプの使い手、きみには二対二のシングルバトルで戦ってもらうで! 」
 「って事は、普通のバトルなんですね」
 『そういえば、スクールで先生が言ってたもんね』
 昨日シルクはティル達といたみたいだから、その時に聴いたのかな? わたしもカナちゃんと、合流したテトラから聴いたし。テレパシーでシルクに何かを訊かれていたらしく、カナちゃんは大きく頷く。そのまま彼女はアカネさんの方に向き直り、我先にとここでの形式を尋ねる。属性だけは知ってたけど、エクワイルの昇格試験とは違うから、わたしには普通の方式は関係ない。だけど機会が違えばそれで戦うことになってたかもしれないから、一応二人の話しに耳を傾けておいた。
 『ティル君の時はちょっと違ったけど、これからが本当のジム戦なのですね? 』
 『そうよ。アーシアちゃんがいた世界にまで知られてるとは思わなかったけど、カナちゃん達の方がそうなのよ』
 『そうだね。今回の俺達は、ジム戦であってジム戦じゃないからね。…そうだ。ライト、カナさん達のジム戦見ていってもいいかな? 』
 カナちゃん達のバトルを…? アーシアちゃんが異世界から来た、って事は知ってるけど、まさか彼女がジムの事まで知ってるとは思わなかった。ビックリしてえっ、って声をあげちゃったけど、幸い誰にも聞かれなかったらしい。配置に着こうとしているカナちゃん達をチラッと見ながら話すシルクの声を聴きながら、わたしはホッと肩を撫で下ろす。わたしは元々そのつもりだったけど、観客席の方に移動する最中、ティルが思い出したようにこう尋ねてきた。
 「言うまでもないと思うけど、わたしもそのつもりだったから、いいよ」
 『ライトは昨日聴いていたのね? 』
 『やっぱり? ライトならそう言ってくれるって思ってたよ。それじゃあ…、フルロを出してくれる? 』
 「フルロを? うん」
 いいけど、何でフルロなんだろう…。多分行動で分かってたとは思うけど、わたしはティルの頼みに二つ返事で大きく頷く。それはシルクにも伝わていたらしく、納得したように呟いていた。
 期待通りの答えに満足したらしく、ティルは嬉しそうに声をあげる。丁度そのタイミングで、フィールドの方から威勢のいい声が聞こえてきた。わたしは背を向けていたから分からないけど、ティルはそこで何かを見かけたらしい。それに関してふと思った事を、そのままの流れで訊いてきた。
 どうして彼なのかはさっぱり分からないけど、きっとティルの中には何か思う事があったのかもしれない。わたしとしても断る理由は無いから、頭の上に疑問符を浮かべながらもとりあえず首を縦にふる。気になると言えば昨日のティルの事だけど、何も話してくれないから相当な事があったのかもしれない。その事とフルロが関係しているのか、わたしにはさっぱり分からないけど…。…とりあえずわたしは、分からない事が多かったけど、とりあえずフルロが控えるボールを手に取った。
 『ティル君、勝て…、あっ、ヘクト戦っとるやん! 』
 『ヘクト君って…、今戦っているデルビルのあの子です? 』
 『そうよ。ヘクト君とフルロ君は、昔からの親友みたいなのよ。ライトにとっては、フライとの関係に近いかもしれないわね』
 フライ…、そっか。ボールから飛び出したフルロは、何となくだとは思うけどこの状況を察したらしい。この流れだと多分、勝てたんだね、そう言おうとしていたのかもしれない。だけどその途中で興味が別の方に逸れたらしく、フィールドで繰り広げられている試合を見るなりこう声をあげる。それにアーシアちゃんとシルクも気づいたらしく、ふたりとも納得したような表情をしていた。
 「フライと…? …そういえばシルク? 昨日はフライも戦ってたみたいだけど、どこにいたの? 」
 『そういえば、ライトとは入れ違いになってたし、その後も忙しかったから、話せてなかったわね』
 フライとオルトとは夜に話せたけど、やっぱり気になるよね…。親友の彼女の口からもうひとりの親友の名前が出たから、わたしの頭の中に、ふっと疑問が浮かび上がってくる。その疑問とは、昨日のあの時に戦闘の場にいたらしい彼女と彼の行方…。スーナの事はラグナから聴いて知ってるけど…。
 『私とフライは、海岸の方を中心に戦ってたわ。本当は巻き込む訳にはいかなかったけど、規模が規模だったから、ユウキが顧問を務めてるバトルサークルの部員達にも協力してもらって…。私達の方には地佐レベルしかいなかったのが、せめてもの救いだったけど…。本当はコルドとユウキにもいて欲しかったけど、ひとまず怪我人は出ずに済んだ、って感じかしら? 』
 ユウキ君とコルド…、あっ、そっか。さんにん揃ってたら、完全な“絆の加護”を発動できるもんね。シルクは彼女なりに、手短に昨日の事を語ってくれる。スーナの事は何も言ってなかったから、その事は多分、本人から聴いているのかもしれない。という事は、もしかするとラグナが訊き出してくれた情報も、彼女達に伝わっているはず…。聞いたからと言ってどうかなる訳ではないけど、とりあえず、昨日からあったモヤモヤは払しょくできたような気がした。
 「そっか…、シルク達の方も大変だったんだね」
 『こちらこそ、何も情報を渡せてなかったのに、幹部と戦わせる事になって、申し訳ないわ。…あっそうだ。プライズ関係で話す事があったのを、すっかり忘れてたわ』
 「プライズで…? 報告書なら、昨日フライに渡したからいってるはずだけど…」
 他にも私達が手にした情報は伝えてるはずだから、それ以外に思い当たることは無いけど…。申し訳なさそうに語尾がしぼんでいたシルクは、その途中で何かを思い出したらしい。こんな風に小さく声をあげる。そのまま彼女は、さっきまでの気持ちを入れ替えて、彼女にとっては重要な? ことを順番に語り始めた。
 『ええ、確かにもらったわ。その事じゃなくて、今のプライズとの状況と、ライト達に任務として頼みたい事よ。…ここからはエクワイルのオーリックとして言う事になるけど、プライズとの情勢はあまり良いとはいないわ。プロテージの方は地元の子達に頼んでいるけど、プライズの方は情報が少なすぎるのが現状ね…。分かってるのが、幹部二人と代表、それからラグナさんが訊き出してしてくれた、本拠地の情報と階級の種類ぐらいだわ…。…次に今の状況を言うと、昨日の大学への襲撃、あれはカモフラージュに過ぎなかったと、私は思ってるわ』
 「かっ、カモフラージュ? って事は、わたし達は上手い具合に時間稼ぎに使われたってこと? 」
 『断定はできないけど、その可能性が高いわ…。…実昨日、私達が大学で交戦している間に、コルドがプライズの頭領と戦ってたのよ。その時に戦ったのが、あの時に敵対していた、グリースのアルファ…。更に悪いことに、エンテイが捉えられていて、無理やり戦わせられていたらしいのよ。コルドの話によると、従わされていたエンテイは、自我を喪失しかけ…、五千年後の世界で戦った、ダンジョン内のひと達みたいな感じだったそうよ。まだ辛うじて意識を保てていたみたいだけど、その反面威力が正気の沙汰じゃない程に引き上げられていた。その時コルドは、同じ伝説のライコウとスイクンのさんにんで応戦したらしいけど、それでも逃げるのが精一杯だった、ってユウキ伝いで言ってたわ。…もしかすると、あの後でユウキの落ち着きが無かったのも、この影響かもしれないわ』
 えっ、エンテイが? それにあのコルドと、同等のふたりと一緒でもそうなったって相当マズくない?
 『…だけど、一応いい事もあったらしいわ。そのままウバメの森に避難したらしいんだけど、今朝、向かってくれたオルトだけじゃなくて、偶々通りかかったユウカ達とも合流できたらしいのよ。ユウカ達には別の任務を頼もうと思ってたけど、ひとまず今は、コルドと一緒に保護してもらっているわ。かなりの深手の傷を負ってる、ってユウキから聴いているけど、オルトには私が合成した治療薬を持って行ってもらったわ。…私が持ってる情報は、これだけよ。…そこでライト、ライトにはプライズの本拠地の調査をしてもらうわ』
 「本拠地…。っていう事は…、わたし達は怒りの湖に行けばいいんだね? 」
 『ええ、そうよ。今日の朝、先にリーフとスーナが現場に向かったわ。ふたりには本部の監視、それから周辺の情勢について調査してもらうつもりでいるわ。スーナ達にとってはその間に、ライト達と合流。あわよくば少しでも敵戦力を減らしてほしい、っていうのが本音ね…。私も今日の講義が済み次第、フライと向かうわ』
 …とにかく、今は最悪の状況…、ってことだね。声のトーンを落として、立場上はわたし達の上司にあたる親友は、神妙な様子で語ってくれる…序盤で察しがついたけど、あのシルクが暗い表情をするって事は、相当危機的な状況なのは間違いない。白衣の彼女の話によると、プライズの目的が解ってない上に、この地方の伝説の種族のうちのひとりが捕らえられてしまっている…。しかもそのエンテイが、プライズの頭領に服従させられてしまっている。これを聞いたら誰でもそう思う気がするけど、この先、何か悪いことが起こるかもしれない…、そう思わずにはいられなかった。


  Continue……

Lien ( 2016/12/04(日) 21:05 )