De Lien Sixieme 動き出す組織
Sideコルド
『…あのフラムも狙われている? 』
『はい。その時は僕も一緒にいたんですけど、向こうの狙いはそうみたいです』
あの時は何とかなりましたけど、まだまだ油断はできないですね…。陽の差し込む間もない雑木林を駆ける僕は、隣を走る彼を横目で見る。まだ合流したばかりなので全部は伝えきれていませんけど、それでも彼は信じられない、といった様子で声をあげる。身長差があるので仕方ないのですが、そんな彼に僕は、少し視線を降ろしながら口を開く。ついこの間、話に挙がっている兄弟子と遭遇した時の事を、推測を交えて話し始めた。
『コルド君も一緒に? でも何でフラムを狙う必要が』
『僕達もまだそこまでは分かっていないんですけど、その狙っている組織というのが、密猟組織なんです』
『密猟…。というとプロテージがまた活動し始めた…』
『確かにまだ幹部全員を捕えキレてはいないんですけど、それとはまた別の組織です』
それが分かったら、もっと積極的に対抗策を執れるんですけどね…。フラムさんの時と同じことを、僕は彼にも伝えておく。これからフラムさんも含めて会う予定のもうひとりにも言うつもりだけど、僕としては一刻も早く知っておいてほしい、っていうのが本音。僕はトレーナー就きだから例外だけど、一緒に走っている電気タイプの彼の身にも起こり得ることだから、尚更。二週間ぐらい前に、彼もその場面に直面しているから…。
『プライズという組織です。アサギやキキョウで消息が分からなくなった人が続出しているっていう事件の主犯、と言えばエクリアさんも分かるかもしれません』
『あぁそれは私も聴いているよ。三日前にリーヴェルと会った時農場の近くに住んでるミルタンク達がいなくなったって』
知ってるのなら、安心ですね。リーヴェルさんから聴いたという事は、フラムさんにも伝わっているかもしれませんね。そのまま僕は、共に合流地点に向けて走る彼、フラムさんと同じく兄弟子のひとりの、ライコウのエクリアさんに情報を提供する。少し口調が早くて聴きとり辛いけど、この事を知っていたらしくエクリアさんは大きく頷く。彼は普段別の場所に身を潜めているけど、現地近くにいるもうひとりから聴いていたらしい。彼の中で何かが繋がったらしく、早い口調が更に聞きとりにくくなったような気がした、昔からそうですけど…。
『それにエンジュでも起きているみたいだから聞き捨てならないよね。師匠なら大丈夫だとは思うけど』
『ですけど、油断はできないですよ。四年前の話しになりますけど、ホウエンで宝具を護っていた伝説の種族でさえ、護りきれなかったという事例があるますから…』
僕も師匠に限って捕まるとは思ってないですけど、何が起こるか分からないですからね…。エクリアさんも気になっているらしく、ほんの十分ほど前に横を通り過ぎた古塔の方をチラッと見る。師匠と言えばその塔なので、エクリアさんがそっちの方に目を向けるのも、何となく分かる気がする。僕も師匠の事は問題ないと思っているけど、やはり用心するに越したことはないと思う。なので僕は、嘗て調査していた伝承でのエピソードを例に、注意喚起。エクリアさんも気をつけて下さいね、こう言おうとしたけど、それは出来なかった。何故なら…。
エクリア…、良かった。エクリアは無事だったみたいだな。
名も無き森を駆ける僕達の頭の中に、一つの声が響き渡ったから。普段とは違って切羽詰まった様子だったけど、その声の主が誰なのか、僕はすぐに分かった。これは多分、エクリアさんも同じだと思う。僕がその声が講じた話法、テレパシーで話したのと、彼が口で言った名前は、同じだったから…。
リーヴェルさん、何かあったんですか?
『リーヴェルそんなに焦ってどうかした? 』
『コルドも一緒だったか。それなら話が早いな』
僕達が同時に言い切ったタイミングで、真正面から声の主が姿を現す。…いえ、声の主がいた場所に僕達が着いた、と言った方が正しいですね…。僕達にリーヴェルと呼ばれた彼、スイクンが、僕を目で確認するなり、ほんの少しだけ安心したような声をあげる。安堵から表情が緩んだけど、すぐに険しい目つきで、僕達に淡々と、でもかなり焦った様子で話し始めた。
『俺は今日、ここにはフラムと合流してから来ることは、知ってるよな』
『はい。僕も昨日、フラムさんから聴きました』
『私もさっきコルド君から聴いたよ。だけどリーヴェルフラムは…』
『その事だ』
ふっ、フラムさんの事ですか? リーヴェルさんは、僕とエクリアさんの両方を視線で行き来しながら語ってくれた。その事は本人から直接聞いたので、間髪を入れずに大きく頷く。一拍置いてエクリアさんも、同じような反応をする。でもすぐに矛盾に気付き、彼に訊こうとしていた。
その事は僕も思っていたけど、訊きそびれてしまっていた。だけど僕はもちろん、エクリアさんも、敢えて質問する必要はなかったらしい。リーヴェルさんは話しているエクリアさんに構わず、大声で短くこう言い放った。
『時間にルーズとはいえ、昼まで待ってもフラムは来なかった。アイツは今まで約束は破った事は無かったから…。アイツの身に何かが起きたに違いない。コルド、コルドが昨日会った時は、何もなかったんだよな? 』
『いいえ、他にもうひとり仲間がいたので撃退できたんですけど、自然公園で密猟者…、プライズに襲われました』
『自然公園…、どうりで昨日、エンジュで騒ぎになってた訳だ』
あのフラムさんが、来なかった? 言葉を強めていたリーヴェルさんは、僕の話を聴いた途端、急に声のトーンが落ちる。彼は彼なりに予想していた事があったみたいで、どうやら悪い意味で当たってしまったらしい。苦い表情を浮かべ、少し俯いてしまっていた。
『エンジュでも? コルドの話しといいリーヴェルの話しと…フラム? フラム! 』
『フラムさん! リーヴェルさんからさっき聴いたんですけ…』
えっ、ふっ、フラムさん? エクリアさんもこの事が引っかかっていたらしく、えっ、とでも言い出しそうな感じで、こう声をあげる。この様子だと多分、フラムさんの事が心配だ、という趣旨の話をしようとしていたのかもしれない。だけどその最中、彼は遠くの方に何か…、いや、誰かを見つけたらし。予想外だったらしく、声を荒らげながら、何度もその名前を声に出していた。
そんなエクリアさんに一瞬驚いてしまったけど、その名前を聞き、すぐに平生を取り戻した。エクリアさんがハッと見たその方向、コガネシティがある南東の茂みから、そのじんぶつが出て来のが目に入った。だから僕はその彼に、すぐにこう問いただす。だけど…。
コルド…! リーヴェルにエクリアも、今すぐ逃げろ!
『…いや…、拙者から…グゥッ…、離れろ! 』
『フラム! どうした? 一体何があったんだ! 』
返ってきたのは、これまた普段とは異なる、兄弟子の声…。茂みから姿を現したフラムさんは、今度は自身の口からこう言い直す。だけどその声は、どこか覇気がなく、弱々しい。昨日会った時には無かった傷が、体中に増えているように見えた。
『すまん…、あれだけ言われていたのに…』
「あーら、伝説と言われる奴らが揃いも揃ってこんな所に…、ほぅ、それもコバルオンまで居たとは、いい誤算ね」
『こっ、この声は…、まさか! 』
弱々しいフラムさんの後ろから、今度は別の声が響いてきた。その声は集まる僕達を見るなり、わざとらしくこう声をあげる。相当自分に溺れているらしく、満足げに言い放っていた。
そんな耳にツンと来る言い回しで、僕はピンときた。もしかすると、出来れば一番会いたくなかった人物、そう言っても足りないかもしれない。
グリースのアルファ? 何でアル…
「グリ―スなんていう言葉、聴くのいつ以来かしら? …まぁいいわ。コバルオン、単刀直入に言うわ。その二匹を渡しなさい」
『お前らだけでいい、早く…、逃げるんだ…! 』
『フラムを置いて逃げる? そんな事出来る訳ないでしょ! 』
『そいつが何者か知らんが…』
何でアルファがここに? その声の主は、四年前に敵対した組織の幹部…。リーフさんをはじめ、僕達にとって因縁の相手だった。嘗て戦った中では最も危険と言える彼女は、僕が語りかけた事には全く興味がないらしい。独りボソッと呟くと、真っすぐ僕を見る。僕にそのつもりは全く無いけど、短い言葉でこう交渉してきた。
それに対してフラムさんは、切羽詰まった様子でこう訴えてくる。その時間があるならフラムさんも逃げれるはずなのに、何故か彼はそうしようとしない。エクリアさんはそんな彼に一喝。僕も同じ気持ちだし、リーヴェルさんもそのはず…。
「ごちゃごちゃとうるさいわね…。この私に逆らうとは、いい度胸してるじゃない。交渉決裂ね」
『早くぅッ…! 』
『フラ…』
相手は普通の人だから仕方ないけど、元幹部の彼女はかなり苛立った様子で声を荒らげる。かと思うと彼女は、徐にポケットから赤黒い何かを取り出す。それを両手で持ち、紐を引っ張るような構えをし…。
『
グアアアァァァァ…ッ』
『くっ…』
『フラム! どっどうした? 』
アルファがその動作をした瞬間、突然フラムさんが大きな声をあげる。それもただ吠えたのではなく、苦痛に悶えるような、そんな感じ…。あまりの声量に怯み、思わず怯んでしまう。僕の見間違いかもしれないけど、フラムさんの首筋に赤黒い何かが巻きついているように見えた気がした。
アルファ、一体何…
「エンテイ、この私に逆らった事を後悔させてやりなさい! 」
『そんなこと、拙者ガァッ…。ガァァッ! 』
『フラム! やむを得ん…、ハイドロポンプ』
フラムさん、しっかりしてください! アルファはこう声をあげたので、フラムさんは必死に抵抗する。しかし彼女がもう一度同じ動作をすると、彼はまた痛々しい声をあげる。今度は見間違いではなく、ハッキリと赤黒い紐…、いや、鎖と言った方が正しいかもしれない。フラムさんの首に巻きついたソレが、キツく絞まる。そのせいで意識が飛びかけたらしく、彼は一瞬ふらつく。しかしその瞬間、突然口元にエネルギーを溜め、即行で撃ちだす。思わず目を疑ってしまったけど、それは巨大な炎塊、オーバーヒートとなり、真っすぐ僕達の方に飛んできた。
信じられない行動をしたフラムさんに対抗し、リーヴェルさんもすぐに行動を開始。真ん中にいた僕の前に出て、口元に膨大な水のエネルギーを集中させる。周りの木々を焼き尽くしながら迫る炎塊を狙い、超高圧なブレスとして撃ちだした。
「そう、これよ、この感じよ! 」
『フラム…』
『神秘の守り…! 』
『エクリア、コルド…』
どういう訳かは分からないが、闘うぞ。
でもリーヴェルそうは言ってもフラムだ…
エクリアさん、僕も本当は戦いたくありません! フラムさんを見た感じでは、フラムさんの意思で動いていないような気がします! なのでエクリアさん、フラムさんの為にも、闘いましょう!
訳が分からないけど、少なくともこれだけは言えていると思う…。今のフラムさんは、いつものフラムさんはない。何かしらの理由で、自分の意志を乗っ取られている状態なんだと…。こう推測していると、あのひとの弟子の中ではリーダー的ポジションのリーヴェルさんが、声でなくて頭に直接語りかけてくる。同じ方法でエクリアさんは何かを語ろうとしていたけど、その前に僕が遮る。そのまま僕は意を決し、自分に言い聞かせる意味を含めて、こう説得する。それと同時に自分のエネルギーを活性化させ、これから始まる死闘に備えた。
Continue……