Quarante et neuf 入れ違いで…
Sideティル
『…目覚めるパワー! 』
『火炎…放射…』
ひとまず山場は過ぎたと思うけど…。ライト達とは別行動をとっていた俺は、ウバメの森で再会したシルクとコット君、それからデルビルのヘクト君と行動を共にしていた。シルクはエクワイルだって前に聴いていたから、俺は途中で彼女と情報交換。それからはコット君のトレーナーのカナさんと合流させるために、コガネのセンターに向かう予定だった。その途中に立ち寄ったのが、シルクとユウキさんの大学での持室。そこで雑談をしていたら、突然プライズが襲撃してきた。偶々外に出ていた時だったから荒れる事は無かったけど、俺が対峙した相手が悪かった。その時にはシルク、それから街で再会したフライ君もいなくて、コット君とヘクト君を守りながらだったから仕方ないけど、俺はかなりのダメージを食らってしまった。俺も反撃をしたかったけど、何しろ相手は、特性が貰い火のヘルガー。ユウキさんが俺の代わりに倒してくれたけど…。
それからはヘルガーのトレーナー、プライズ幹部のベータのメンバーとの戦闘を繰り広げていた。だけど本来ならマフォクシーの俺が闘わないといけないけど、姿を変えているユウキさんがメインで戦っている。俺はこんな状態でも戦うつもりだったけど、ユウキさんがそうさせてはくれなかった。それどころか、彼の立ち回りからすると、俺は守られている、俺が、護らないといけないのに…。
『ティル君! ここは僕が何とかするから、後ろに下がっ…』
『だけどそうは…、言ってられない…、ですよ…』
ただでさえ足を引っ張ったのに、ここで休んでいろだなんて…。赤い球体を相手に命中させたユウキさんは、こんな俺に対してこう口調を強める。確かにユウキさんの言う通りだけど、俺にだって譲れないものはある。ぶれる視界で炎を放出してから、俺は立て続けに精神レベルを限界まで高める。都会の空に祈りを捧げ、相手への強襲の準備を進める。
『どんな状態でも…、闘えないと…、守るものも、守れないじゃないですか! それにこの程度で…、倒れたら…、エクワイルの名が…、廃ります…。それ以前に俺は…、ライトのパートナー…。手も足も出せずにやられたら…、仲間に顔向けが出来ません! 火炎放射…! 』
ライトと旅を始めた時から、俺が仲間を…、ライトを守るって決めたんだ。それなのに、俺はこんな有様…。ユウキさんの気持ちも分かるけど、分かるけど…、俺はこんなところで倒れてなんかいられない! チームリーダー…、ライトのパートナーとして、
みんなの前に立たないといけないんだ! 『ティル君…』
ユウキさんは何かを言いたそうにしていたけど、俺は構わずこう続ける。体力がいつ尽きてもおかしくない状態だから仕方ないけど、途切れ途切れに主張する。心の底からの想いを、猛炎による業火に載せて思いっきりぶつけた。
「俺のヘルガーにやられても、まだ抗うか…。まぁいい、捨て身タックルで息の根を止めろ! 』
『つくづく諦めの悪い奴だなぁ。だが、これで終わりだぁっ! 捨て身タックル』
『そうはさせない! 十万ボルト』
『もう一発…、火炎放射…! 』
そっちがそのつもりなら、俺にも策がある! 幹部のベータは俺を見るなり、こう声をあげる。俺達…、いや、ユウキさんに、か…。追い込まれているという事もあって、半ば投げやりに指示を出していた。幹部のメンバーのグランブルは、そのトレーナーとは正反対でやる気満々な様子。荒々しくこうはき捨てながら、余裕の笑みを浮かべて突っ込んできた。
それに対し、ユウキさんが即行で反応する。彼は俺の事を気にしながら駆けだし、俺から見て三メートルぐらいの位置で急に進路を変える。横跳びでその場から逸れながら、体中に電気を溜める。左足が地面に着くのと同時に、捨て身で走ってきている敵に向けて解き放った。
ユウキさんに三歩ぐらい遅れて、俺も対処に移る。膝に両手をついた体勢から、何とか状態を起こす。前が霞んで狙いを定めにくいけど、そこは勘を頼りに相手の位置を探る。口の中に炎を溜め、喉に力を込めて放出した。
『ぐぁっ…。…だが、この程度かぁ? 流石に、疲れが…』
『サイコ…、キネシス』
流石ユウキさん。急に変な動きをしても、確実に電撃を命中させていた。だけど倒しきるまでには至らず、捨て身の突進を食い止めるだけに留まっていた。そこへ立て続けに、俺の業炎が一直線に迫る。だけど狙いが甘い、射程が長いせいで、いともたやすくかわされてしまった。
だけどかわされるのは、俺の想定内。炎を放つ口をすぐに閉じ、一度エネルギーの供給も遮断する。今度は放った炎へ強く意識を向け、軌道がねじ曲がる事を強くイメージする。そうする事で超能力を発動させ、燃え盛る炎を拘束した。
『そんな距離じゃ、俺には当たら…っ? 』
『目覚めるパワー! 』
『いっ…、いつの間…』
明後日の方向に突き進んでいった炎をまとめ、それを相手に沿うように移動させる。丁度そのタイミングで未来予知の効果が発動したらしく、相手は急に頭を抱え、悶え始めた。こうなれば、もう俺達の勝利が決まったも同然。グランブルを挟んで炎の反対側にいるユウキさんは、これだけで俺がしようとした事を察してくれたらしい。炎と敵を結んだ延長線上まで走り、そこまでに紅い球体を創りだす。自分の体の半分ぐらいの大きさになるまで溜め、両手投げをする様に解き放つ。俺が向かわせた炎と挟み撃ちにするように、彼はタイミングを合わせてくれた。
『っく…』
「ちっ…、やられたか。フーディン、ピ…」
「…テトラ、アーシアちゃん! 」
『うん』
『はいですっ! 』
二種類の火炎に挟まれた相手は、回避する間もなく意識を手放す。ベータはグランブルの状態を確認せずにボールに戻していたので、その場には猛火によって強化された炎の熱しか残っていなかった。
三にん目のメンバーが倒されたプライズの幹部は、八メートルぐらい離れた俺にでも聞こえるぐらいの、大きな舌打ちを一つする。彼にとっては追い込まれているはずなのに、俺が見る限りでは何故か冷静さを保っているように感じられた。そんなベータは、声色一つ変えずに次なるボールを手にとり、都会の戦場に新たな刺客を出場させ…。
「新手か…。まぁいい。腑に落ちねぇが、ここで撤退だな。フーディン、テレポー…」
『そうはさせない! 』
この声は…、ライトとテトラ? ベータが自身のメンバーを出場させたタイミングで、どこからか声が聴こえてきた。聞き間違いかもしれないけど、よく知った声の様な気がする…。相手の反応からすると、気のせいじゃなくて本当に誰かが大声をあげたらしい。聞こえてきたと思われる街の中心の方をチラッと見、ボソッと何かを呟いていた。
『俺達の任務は単なる時間稼ぎ、十分だ。テレポート』
『十万ボルト! 』
『火炎…』
テレポート? まさか、ここまで追い込んだのに…。抑揚のない声で呟くと、フーディンは軽い身のこなしでベータの傍まで跳び下がる。この感じからすると、どうやらこの場から逃げ出すつもりらしい。どういう方法かは知らないけど、着地するまでに技を発動させる準備をしていた。
俺達としてはここで逃がす訳にはいかないから、咄嗟に使い慣れた技で応戦する。俺より一歩早く動き出したピカチュウのユウキさんは、体中に溜まっている電気を一気に解放し、目にも留まらない速さで相手に向かわせる。俺も口の中にエネルギーを集中させ、それを炎の属性に変換させた。けど…。
『放…』
『…っ、間に合わなかったか…』
『…フォース…』
僅差で間に合わず、ユウキさんの電撃は黒いアスファルトを捕えた。俺も火炎放射で阻止しようといていたけど、その途中でこの結果になってしまった。だから溜めかけていたエネルギーを無理やり鎮め、技の発動をキャンセルする。そのせいで体温が一気に上がったけど、炎タイプの俺にとってはどうって事なかった。
『ティル、ごめん! 』
『テトラ…? 』
やっぱり、気のせいじゃなかったんだ…。これまで余裕が無くて全く気付かなかったけど、俺達以外にもフーディンのテレポートを止めようとしていたらしい。よく知っているその声の主、青いニンフィアのテトラが、息を切らせながら走ってキテクレテいた。
「もう少し早く気付けたら良かったんだけど…」
『
社会のクズを相手にしてたから、遅くなっちゃって』
『ラフちゃん、クズっていうのは言い過ぎだと思うんだけど』
彼女に続いて、ライトとラフも駆けつけてくれた。ライト達とテトラが一緒にいるとは思わなかったけど、これは多分、どこかで合流していたんだと思う。ライトは何かを言いかけていたテトラに続き、ここに至るまでのことを話し始めていた。
この場所でもこの数だったから何となくそんな気はしてたけど、ライト達も結構な時間を戦い抜いてきたんだと思う。おまけにラフがメガ進化している状態だから、少なくとも地佐以上の団員が相手だったんだと思う。ラフのセリフに戸惑いながら彼女の事を見上げているブラッキー、それから後から追いついたベイリーフは知らないけど…。
『んでも僕は…、戦えたで満足やな』
『フルロ君は本当にバトルが好きなのですね? 』
『まさかとは思ったけど、見た感じフルロ君もトレーナー就きになっていたとはね…』
…うーん、本当に誰なんだろう、このふたりは…。ライト達とは仲が良さそうな感じだけど…。若干ふらつきながらもライト達に追いついたベイリーフの彼は、息を切らせながらも自分のペースで話し始める。戦った直後で消耗しているみたいだけど、揚々と語っていた。そんな彼にブラッキーの彼女は、若干笑みを浮かべながら声をかける。でもそれは、分かりきっているけど…、そんなニュアンスが含まれているような気がした。
一緒に来たからここまでは何となく分かるけど、どうやらユウキさんも、ベイリーフの彼とは面識があったらしい。それでもユウキさんにとっても意外だったらしく、話しかけた表情に若干の驚きの色が含まれていた。
『森で逢ったラフちゃんに誘ってもらったんよ』
『森…、で? 』
『はいです。…ええと、あなたが、マフォクシーのティルさんであってます? 』
『えっ、そっ…、そう、だけど…』
なっ、何でブラッキーさんが俺の名前を? 会話の流れで、とりあえずはフルロってユウキさんに呼ばれていたベイリーフは、別行動をしている間にメンバー入りしたっていう事は分かった。分かったのは分かったけど、分かりきる間もなく別の事で驚いてしまった。何故なら、初対面のはずのブラッキーの彼女に、俺の名前を言い当てられたから…。正解だけど、あまりにもビックリし過ぎてすぐには頷くことが出来なかった。
『そうだよ。彼が前に話したティル。それからティル、ちょっと遅くなっちゃったけど、ブラッキーのこの子はアーシアちゃん。シアちゃんも、私達と一緒に来てくれることになったんだよ』
一緒にって…、一気にふたりも? ただでさえフルロっていう彼の事でも驚いたのに、そこへ更に追撃ちをかけることになった。仲間が増えることは嬉しいけど、それでもやっぱり…。テトラが彼女の事を紹介してくれたけど、あまりに驚きが大きすぎて、俺は空返事しかする事が出来なかった。
Chapitre Cinq 〜親友の拠点〜 Finit…