Quarante et quatre 予兆
Sideライト
「うわー、ここがコガネですか。初めて来ましたよ」
「一時期ヤマブキにはいた事があるけど、わたしもコガネは初めてかな」
ヤマブキも結構な都会だったけど、ここも同じくらいかなー…。あの後のわたしは、とりあえず適当な茂みを見つけて人間の姿に変えた。海岸沿いを歩いてたからかもしれないけど、そこから出たら結構な数のトレーナーがいた。人数が人数だったから、テトラ達がひとりで戦ったりカナちゃんと組んで戦ったり…、色んな方法でのバトルを楽しんだ。森でメンバー入りしたフルロとアーシアちゃんもそうだけど、今の段階でのカナちゃんのメンバーの実力も視る事が出来た。イグリー君は森でのトライバトルで分かってたけど、ネージュちゃんはまだまだ粗削りって感じかな? 見た感じバトルの経験がなさそうだったけど、その分色んな可能性があるね。…やっぱり一番ビックリしたのが、ブラッキーのアーシアちゃん。わたしの予想取り、彼女は結構バトルの経験があるって言っていた。それも普段しているような試合形式じゃなくて、本気で命を削りあうようなレベル…。ダンジョンで字自我を失ったひと達と戦う、っていうと分かりやすいのかもしれないね。わたしが視た感じだと、攻める時は攻めて、退く時は退く…。深追いはせずに、チャンスがあれば一気に仕掛ける、これが彼女の戦法なんだと思う。それにアーシアちゃんは、元々人間だったって事以外にも、もう一つ秘密があった。わたしもアーシアちゃんに言われるまで気付かなかったんだけど、彼女は使える技の数に制限が無いみたい。確かにトライバトルの時も、四種類以上の技を使っていた。アーシアちゃんが言うには、一緒に別世界から導かれた人は、みんな技の数に制限がなかったらしい。その代わりに、種族として持っているはずの特性を使えないんだとか…。
話が脱線しちゃったから元に戻すと、そんな感じで戦いながら進んでいたわたし達は、ジョウト一の大都市、コガネシティに到着した。結局テトラとは途中から一緒に行動してたけど、ティルとラグナとの集合場所も、この街。それに、カナちゃん達とはぐれちゃったコット君の事もある。シルクが一緒にいてくれているみたいだから、テトラが言うには、用事が済んだらセンターの方に来る予定らしい。
『噂では聴いとったけど、やっぱ森とは全然ちゃうね。ラフちゃん、他の街もこんな感じなん? 』
『ううん、ここが都会過ぎるだけだから。町にもよるんだけど、ビルの高さと数は、ここよりも少ないんだよ』
『へぇー、そうなんやな。森の外に出るのは初めてやから、どこもこんな感じかと思っとったよ』
ちょっと曖昧な言い方だけど…、そんな感じ、かな? 街という所に初めて来たらしいフルロは、興味津々といった様子で声をあげる。彼は夜空の星々のように目を輝かせながら、一番仲が良いラフに質問していた。それをラフは、すぐに首を横にふって答える。言葉足らずな気もするけど、彼女は彼女なりの言葉で説明していた。
『おれも最初はそんな風に思ってたな。おれはまだキキョウとヒワダしか行った事ないけど、どこも全然違ったね』
『そう…、なんですね。わっ、わたしも、アサギシティとかヨシノシティしか、見たことがなかったから…』
『イグリーさん達は、初めてなのですか? 』
『はっ、はい。わたし達、野生の出身、だから』
ネージュちゃんは群れからはぐれたって言ってたけど、どこの出身なんだろう。年が近いからかもしれないけど、フルロだけでなくてイグリー君とネージュちゃんも馴染んでいるらしい。和気藹々、なのかな? ネージュちゃんは遠慮気味だけど、みんな仲が良さそうに話していた。
『野生…、あっ、そうなのですね』
『シア姉はどうなの? 』
『私? うーん、初めてっていうより、懐かしいって感じかな』
『懐かしい…? 』
『うん。向こうの世界って、こういう街が多かったから。五千年の差があるって聴いて…、あれ、あの人…』
やっぱりアーシアちゃん、テトラが一番の友達かな。別世界の出身のアーシアちゃんにははまり馴染が無いらしく、ネージュちゃんのことばに首を傾げる。だけどすぐにピンときたらしく、すぐに明るい声をあげていた。そんな彼女を見たラフは、少し高い位置からこう尋ねる。訊かれたアーシアちゃんは少し視線を上げ、何かを考える。あまり間髪を開けずに、こう答えていた。
さらにアーシアちゃんは、多分ここに来る前の世界を思い出しながら語ってくれる。流石未来だなぁ、そう思いながら聴いていると、彼女はふと言葉を止める。何かが視界に入ったらしく、そっちの方に目を向ける。わたしもその方向…、街道の奥の方に目をやると、人混みを縫うように駆ける一つの影を捉える事が出来た。
『ギラ…』
「あっ、ラグナ。もう着いてたん…」
『ライト! それにテトラとラフも一緒だったか』
「らっ、ラグナ? 」
どっ、どうしたの? 街の中心の方から駆けてきたのは、わたし達とは別行動をしていたラグナ。彼は右に左にと身軽に跳びながら、わたし達の方に迫ってきていた。もう着いてたんだね、そう訊こうとしたけど、その前に彼に遮られてしまった。それだけでも十分に驚いたけど、それ以外の理由でわたしは思わず声を荒らげてしまった。わたしが叱られたり言い合ったりする時は別だけど、あのラグナがかなり取り乱している。彼は彼なりに平生を保ってるつもりみたいだけど、息遣いと表情は隠しきれていなかった。
『ラグナが慌ててるって、珍しいね。何か…』
『テトラ、話は後だ! 一度しか言わない、だからよく聴いてくれ』
ラグナがこんなに慌ててるって事は、相当だね…。アーシアちゃんと話していたテトラも気づいたらしく、わたしに続いて彼に訊ねていた。確かに彼女の言う通り、ラグナがここまで焦る事って滅多にないから、よっぽどの事があったのかもしれない。本当にそうだったらしく、彼は息を切らせながら、吐き捨てる様に語り始めた。
『結論から言うと、プライズの幹部がこの街にいる』
「かっ、幹部が? 」
『そうだ。センターでスーナと会ったんだが、そこで偶然見かけた。後を追いかけたんだが、戦闘位と下っ端に阻まれて見失ってしまった。だから今、スーナと本体が全力で捜索しているという訳だ』
「でもラグナ? 何でプライズの幹部って…」
『四年前のグリース、覚えているか? あの時のベータだ。メンバーのオニドリルに乗っている状態だったが、あれは間違いなかったな』
ええっとつまり、この街にプライズが出現していて、それを仕切っているのがベータって事? ラグナにしては珍しく早口だったけど、何とか聴きとることはできた。色々と情報がありすぎてぐちゃぐちゃになりそうだったけど、そこは彼がまとめてくれていたお蔭で、すぐに頭の中にインプットされる。彼の口調からも想像できたけど、これだけで事の重大さが分かった気がする。その幹部の元同僚であるラグナが言うなら、尚更。横目でチラッと見たら、この説明だけでテトラとラフも状況は掴んだ、そんな様子だった。
「いたぞ、あそこだ! 絶対に逃がすな! 」
『くっ、もう追いつかれたか…。俺が仕留めたいところだが、生憎今は分身だ。見かけない奴がいるようだがライト、テトラにラフも、ここは任せた! 』
『ラグ兄、分かったよ。分身なら、あのクズ共を相手にする訳にはいかないもんね』
ラグナが手短に語ってくれたタイミングで、街の奥から荒々しい声がいくつも聞こえてきた。この感じからすると、二人とか三人っていう規模ではなさそう。分身のラグナは振り返らずにこれを聞くと、一度小さく呟いてから駆けだそうとする。これだけを言い切ると四肢に力を込め、街の東側に向けて走りだした。
「えっ、あれってもしかして、プライズですか? 」
「そうだよ! マダツボミの塔で戦った、あの密猟組織だよ! …テトラ、ラフ、アーシアちゃんも、闘える? 」
『当たり前でしょ? こんな大都市で、社会のゴミ共を野放しにできないでしょ? 』
相変わらず口は悪いけど、ラフは大丈夫そうだね。このタイミングでようやく気付いたらしく、その方とわたしの間とで目線を往復させながら、カナちゃんは声をあげる。彼女の中で確信はしているみたいだけど、訊かれたからとりあえず頷いておく。あの時のあの事件の事を言う事で、手短に言い切る。この間にも近くまで迫られてたけど、構わずわたしは自身のメンバーに視線を送る。アーシアちゃんはいまいちピンときてないみたいだけど、テトラとラフは小さく頷いてくれた。
『ラフちゃん、言い方が…。…ライトさん、私も戦えますっ! 凄く久しぶりだけど、こういう戦いに慣れてますから』
『そういえばシアちゃん、そう言ってたね。もちろん、私も戦えるよ』
「よかった。フルロは…」
「ライトさん、わたしも戦います! 」
「戦闘位一人とかなら大丈夫かもしれないけど、今はカナちゃんには危険すぎるよ! 」
「大丈夫です! 昨日も…」
「だけどカナちゃんを巻き込む訳には…」
「
もう巻き込まれてます! 昨日は違う組織だったけど、下っ端を倒しました。だから…」
「プライズとプロテージでは危険度が違いすぎるよ! ラフ、フルロも、カナちゃん達を安全な場所に避難させてあげて! 」
ただでさえメンバーが揃ってないのに、カナちゃんに戦ってもらう訳にはいかない。それにこれは、プライズとエクワイルの戦い…。まだ旅立ってからあまり経ってないカナちゃんを巻き込む訳にはいかないよ! アーシアちゃんとテトラも了承してくれたから、今度はフルロにも指示を出そうとした。だけどそれは、闘う気満々のカナちゃんに遮られてしまう。結果的に言い合いになっちゃったけど、確かに彼女の気持ちも、わかる。カナちゃんにも戦ってほしいのが本音だけど、危険に晒す訳にもいかない…。他に何かを言いたそうだったけど、それに構わず、彼女達と同年代のラフとフルロにこう指示を飛ばした。
『ライトさん、もし向こうで出くわしたら、戦ってええって事やんね? 』
『そうなるけどフルロ君、守るのも大事だけど、無理だと思ったら逃げてくださいね! 』
『ライ姉、あれお願い! ムーンフォース!』
「うん」
信用してない訳じゃないけど、ラフがいれば、大丈夫かな? カナちゃんと言い争っている間に、遠くにいたはずのプライズに接近されてしまった。どうしようかと悩んでいる間に、意外にもアーシアちゃんが代わりに指示を出してくれた。カナちゃんの方はまだ説得出来てないけど…。あまり時間が無い状況で考えていると、ラフがわたしの前に立ちはだかり、こう言ってくれる。短い言葉で提案しながら技を準備し、メンバーをだしたばかりのプライズに牽制球を放ってくれた。
カナちゃん、ラフに就いてもらうから、無理だけはしないで! そして戦えそうなら、一人でも多く倒して!
ラフの言葉でピンと来たわたしは、彼女の言葉に大きく頷く。目を閉じて意識を集中させながら、彼女に直接言葉を伝える。同時にラフの事を強く意識する事で、彼女の戦闘の準備段階に入った。
Continue……