Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜 - Chapitre Cinq Des Light 〜親友の拠点〜
Quarante et deux 心の距離感
  Sideライト



 『これで最後ですっ。アイアンテール! 』
 『…っくっ…』
 フルロの半ば強引な提案で始まったトライバトルも、いよいよ終盤に差し掛かっていた。当の本人はアーシアさんの連撃でやられちゃってたけど、彼もたぶん、全力で戦っていたと思う。少し技を発動させるタイミングが早いけど…。
 それからイグリー君も、彼のバトルは初めて見るけど、スピードスターにちゃんと対応できていた。それにアーシアさんも、ここまで見た感じでは、守るの使い方が上手かった。今みたいに四足の種族とは思えない動きも取り入れているところ見ると、彼女は結構戦闘経験を積んでいる、私は率直にこう感じた。まさに今も、後ろ足だけで立ち上がってトドメの一撃を与えていた。
 『これで決着がついたかな』
 『アイアンテールの手応えあったから、たぶんついたと思いますっ。つい夢中になっちゃったけど…』
 うん、これは決まったね。思いっきり勢いをつけていたせいでアーシアさんは転んじゃっていたけど、反撃を警戒してすぐに立ち上がる。だけどイグリー君は既に戦闘不能になっていたらしく、立ち上がりはしなかった。その様子を見て、先に倒れていたフルロの事を気にしていたラフが呟く。なのでアーシアさんは、ふぅ、って一息ついてから、観戦していたラフに振り返りながらこう言っていた。
 『誰だってバトルだとそうなるからね。シアちゃんって、結構強いんだね』
 『こっちに来る前に、何回も戦った事がありましたから』
 「連れてきてもらった、って言ってたけど、シルクに教えてもらったの? 」
 『直接ではないんですけど、立ち回りとかのアドバイスはもらいました』
 そっか。よく考えてみたら、シルクとは間合いの取り方が違う気がするから、そうなのかな? ラフに話しかけられていたアーシアさんのもとに、テトラが勢いよく駆けていった。わたしの位置からだと表情までは見えないけど、多分笑顔を浮かべながら、話しかける。アーシアさんも明るい表情、そして落ち着いた様子で彼女に応じる。あまり会ってから時間は経っていないと思うけど、かなり仲が良さそうに話していた。出逢った当時のテトラのことを考えると、彼女は見違えるほど成長したと思う。そんな事を考えながら、わたしも戦闘直後の彼女達の元に歩を進めた。
 『まだ詳しくは聴けてないんだけど、向こうの世界で色々教えてもらってたんだって』
 「そうだったんだね。…カナちゃん、急にバトルにつきあわせちゃってごめんね」
 「ううん、そんな事ないですよ。トライバトルはあまりしたことが無かったから、凄く勉強になりました」
 テトラでもあまり訊けてなかったんだ…。それなら、仲間になる訳だし、みんなが揃ってから聴かないといけないね。わたしの問いかけにアーシアさんは、すぐに答えてくれる。まだ話し方に距離感はあったけど、これは仕方ないと思う。だけど今のところ、アーシアさんは素直で礼儀正しい子、っていうのが第一印象、かな。テトラもあまり知れてないみたいだけど、彼女に続いてその本人の事を少しだけ教えてくれた。
 教えてもらってたんなら、戦闘に慣れていたのも納得できるね、そう思いながら、わたしは彼女達に相槌をうつ。このまま話を続けようかとも思ったけど、わたしはそうはしなかった。フルロが勝手に始めたとはいえ、たまたま一緒にいたカナちゃん達にもつき合わせてしまった。その上、放置するわけにもいかない…。少し申し訳ないという気持ちにも満たされ、こう言いながらぺこりと頭を下げた。だけどわたしの心配は杞憂だったらしく、彼女は気にしないで、と言いたげに右手を細かく左右に振る。それどころか逆に感謝されちゃったから、わたしは…、何というか…、言葉で表せないような複雑な気分になってしまった。
 「わっ、わたしも数えるぐらいしかしたことが無いから、お互い様、かな。…あっ、そうだ。カナちゃん、イグリー君にこれを使ってあげて」
 「えっ、いいんですか? 」
 「うん。コット君を早く探さないといけないのに、時間を使わせちゃったから、ね」
 探すのを手伝うって事になってるのに、こうなっちゃったからね。予想外の返事が返ってきたから声が裏返っちゃったけど、とりあずわたしはこう言っておいた。本当は七回ぐらいはあるけど、咄嗟だったから…。一桁には変わりないから、いいよね、そう自分に言い聞かせていたけど、その状態でわたしは別の事を思い出す。バトルはアーシアさんが勝ったけど、フルロとイグリー君は戦闘不能の状態になっている。なのでわたしは鞄から二つの黄色い結晶を取り出し、そのうちの一つを彼女に手渡した。
 『コットさんって、シルクさんと一緒にいたイーブイの男の子、ですよね』
 『そうだけ…、あっ、しっ、しまった』
 「ひゃっ…、てっ、テトラ? 」
 『テトちゃん、どっ、どうしたの? 』
 テトラ、きゅっ、急に大声あげないでよ。元気の欠片を渡し、フルロにそれを使ってあげていると、別のところで話しているアーシアさんが、何かを思い出したらしい。そういえば、っていう感じで、わたしと、一緒に喋っていたテトラにこう尋ねてきた。そうだよ、そう言おうとしたけど、それは似たようなことを言いはじめたテトラに先を越されてしまう。それだけなら良かったけど、彼女は何か重要な事に気付いたらしく、突然大声をあげる。そのせいでわたしは驚きでとびあがってしまい、手に持っていた空のおいしい水のボトルを落としてしまった。
 『カナさん達がライト達と一緒にいるなら、コット君にもついてきてもらえばよかったよ』
 『つっ、ついてきてもらうって…、ニンフィアさん、こっ、コット君のこと、見たんですか? 』
 『はいです。テトちゃんと来る前まで、一緒にいたんです。…という事はもしかして、コットさんが探していた仲間って…』
 『そう言う事だよ。シアさん…、だよね? シアさんの言う通り、コット君のトレーナー、カナさんだから』
 あー、それなら、入れ違いになっちゃったのかな…。声を荒らげるテトラは、ちょっと後悔したような様子で、右のリボンで頭を抱える。一緒にいたらしいアーシアさんも、ほんの少しだけ、チーゴの実を食べた時の様な顔をしていた。そこに同じく話していたらしい、カナちゃんのメンバーのラプラスが、そわそわした様子で尋ねる。自信が無いらしく、彼女は恐る恐る、声を絞り出すようにテトラ達に訊く。その場に更に、ラフがラプラスの彼女の方を見上げながら割り込む。横目でチラッとアーシアさんを見、続いてカナさんを目で指していた。
 「お互い知らなかった訳だし、仕方ないよ」
 「ええっとライトさん? 何て言ってたんですか? 」
 「テトラとアーシア…、ブラッキーの彼女が、合流する少し前にコット君を見た、って言ってたよ」
 「えっ、本当ですか? 」
 「うん、そうだよね? 」
 入れ違いなんて、よくある事だしね。カナちゃんには聞こえてないけど、テトラとアーシアさんのお陰で、コット君の手がかりが分かった、と思う。偶然とはいえ何とかなったから、わたしはホッと一息つく。そこにカナちゃんが、不思議そうにわたしに訊いてくる。ごく普通の女の子の彼女にはみんなの声は鳴き声にしか聞こえないから、代わりに会話の内容を教えてあげた。すると彼女は、驚きつつも嬉しそうにこう返してくれる。すぐにそうだよ、って頷きたかったけど、実際にわたしが見た訳じゃないから、そのふたりに視線だけで確認してみる。そのふたりは、うん、って大きく首を縦に振ってくれた。
 『今はどの辺にいるかは分からないけど、見つからなかったら、一度大学の研究室に戻ってからセンターで待ってみる、って言ってたよ』
 「そっか。それなら、合流してからもしばらくセンターにいた方がいいね。…あっ、フルロ、目が覚めたね」
 大学って事は、シルクは何か用事があるのかもしれないなぁ…。コット君と一緒にいるというシルクから訊いたらしく、テトラはその彼女の予定を語り始める。大学自体がどこの有るのかは分からないけど、とにかくセンターにさえいれば何とかなるよね、そう考えながらテトラに返事していると、視界の端で何かが動く…。すぐにそっちの方に目を向けてみると、丁度フルロが目を覚まし、起き上がろうとしているところだった。
 『ぅん…、バトルは…』
 『あっ、フッ君、起きたね。フッ君は負けちゃったけど…。ええっと、結果は、二番目はイグリー君で、一番がシア姉だったよ』
 『しっ、シア姉って、私のこと? 』
 『うん』
 シア姉かぁ…。何か知らないうちに、アーシアさんも馴染んでるし。この様子なら、フルロもティルとラグナと打ち解けられるかな。フルロが目を覚ましたのに気付くと、ラフは弾けた声で彼に話しかける。ちょっとストレートすぎる気もするけど、彼女はベイリーフの彼に結果を教える。その時に右の翼で、カナちゃんの傍にいるイグリー君、それからアーシアさんをあだ名で呼びながら示していた。一方のアーシアさんは、シア姉と呼ばれて、少し戸惑っているらしい。頬のあたりを少し赤く色づかせて、恥ずかしそうに訊き返していた。
 「何かもう仲良くなってるみたいだね。アーシアさん」
 『はっ、はいっ』 
 「イグリー君の目が覚めたら、フルロと一緒に回復してあげようと思ってるけど、どうする? ほとんどダメージは食らってないみたいだけど」
 見た感じフルロの葉っぱカッターしか食らってなかったけど、ついでだからね。まだあまり話していないせいで、どうしても距離ができてしまうけど、とりあえずわたしはアーシアさんに話しかけてみる。急に話しかけたから驚かせちゃったけど、それでも彼女はすぐに振り返ってくれた。わたしだけ取り残されてちょっと気まずかったけど、何とか思っている事は伝える事はできた。これから一緒に旅をする仲間として、わたしも打ち解けたい、でも急に馴れ馴れしく話しかけるのも、ちょっと…。色々悩んでしまったから、ぎこちない問いかけになってしまった。
 『ええっと、私、月の光も使えますけど…、お願いしますです』
 うーん、あんな話し方しちゃったからかな…? やっぱり、距離があるね、気を使わせちゃったし…。
 『シルクさんから聴いたんですけど、やっぱり、傷薬を使うんですよね』
 でも、ずっとこのままでいる訳にはいかないよね。それなら、あの方法が一番かな。
 「普通ならそうだけど、傷薬は使わないかな」
 『っていう事はライ姉、姿を元に戻すんだね? 』
 「うん」
 考えた結果、わたしはこうする事にした。わたし自身が距離を感じているなら、わたしから歩み寄ればいい。距離を縮める一番の方法は、ありのままの自分をさらけ出すこと。どのみちいつかは話さないといけないから、そのついでに…。決心してこう言うと、これだけでラフは、わたしが何をしようとしているのか分かってくれた。反応を見た感じだと、多分テトラも分かってくれたと思う。ラグナは何て言うか分からないけど…。
 『姿、ですか? 』
 『姿戻すって、どういう事なん? 』
 『ふたりでいた時間が短くて話しきれなかったけど、み…』
 『見たらすぐに分かるから! 』
 それに対して、メンバー入りしたばかりのフルロとアーシアさんは首を傾げている。テトラとラフ、ふたりから聴ききれてなかったらしく、揃って頭上に疑問符を浮かべていた。
 「口で説明すると時間がかかるからね。傷薬じゃなくて、癒しの波動を発動させるつもりだから」
 『いや、癒しの波動って、技やん…えっ』
 これだけを言い切ると、わたしは一度、これから一緒に旅をする事になるフルロとアーシアさんに目を向ける。相変わらず訳が分からないっていう感じだったけど、構わずに目を閉じる。意識を集中させ、光を纏いはじめたタイミングでフルロの声が聞こえてきたけど、気にせず身体を浮かせる。そして…。
 『技を使えるのは当然でしょ? 』
 光が治まり、低い位置で体勢を起こしてから、こう言い放った。
 『らっ、ライトさんが、ラティアス? てっ、テトちゃんから仲間にラティアスがいるって聴いてたんですけど、ライトさんがラティアスだったんですか? 』
 『うっ、嘘やろ? ライトさんって、人間やろ? なのに何で…』
 『ううん、こっちの姿が本当のわたし。わたしの種族を知ってたのにはびっくりしたけど、わたしも、ラティアスっていうポケモンだから』
 この感じ、いつ以来だっけ…。あっ、そっか。マダツボミの塔でカナちゃんに明かした時以来だったね。案の定ふたりは、わたしの予想通りの反応をしてくれた。アーシアさんがわたしの種族を知っていることまでは予想出来なかったけど、別の意味で満足。何日かぶりに見る反応に、少し高揚。ふたりの反応を一通り楽しんで? いや、一通り見てからわたしは首を横にふる。折角の機会だから、わたしはタメ口でこう言う。人間の姿でも普段はそうだけど、明るく? 溌剌と言い放った。
 『でもアーシア…、ちゃん? わたしもビックリしたよ。アーシアちゃん、わたしの種族、知ってたんだね』
 『この世界に来る前…、向こうの世界でラティアスさん達に会った事があるんですっ』
 『向こうの、世界…? 』
 『はい! ウォルタさんと知り合い、って言えば分かりますか? 』
 『えっ、ウォルタ君の事を知ってるの? 』
 ウォルタ君と知りあいなら、アーシアちゃんって、七千年代の出身、って事だよね?
 『シルクさんもその時からの友達です。という事は、ライトさんも、来た事があるんですか? 』
 『七千年代だよね? うん、シルクに連れてってもらってね。それとアーシアちゃん、わたしの事はライトでいいよ。もうわたし達、仲間なんだから。もちろん、フルロもね』
 だって、これからずっと生活を共にする仲間、友達なんだから、さん付けは、ね…。タメ口で話したから、距離があったアーシアさんも、少しは心を開いてくれたと思う。その証拠に、わたしと話している時も、少しずつだけど、明るい表情になってきた。それに思いがけず、共通の友達がいる事も分かったから、尚更かな。まだ丁寧な話し方だけど、さっきよりは緊張を解いてくれたような気がした。


  Continue……

Lien ( 2016/08/29(月) 22:50 )