Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Cinq De Cot 〜ジョウト一の大都市で〜
Quarante et sept 襲撃
  Sideコット



 『うわっ…』
 『くっ…』
 フィフさんとフライを見送った連絡通路で話していたら、突然強い風が吹いてきた。思いっきり踏ん張ったから何とかなったけど、何もしなかったら吹き飛ばされていたと思う。最初はビル風かなって思ったけど、そうじゃないような気がした。バトルの時みたいな感じがあったから、誰かの技かもしれない、ぼくはそう思いはじめていた。
 『コット君、ヘクト君も、大丈夫だった? 』
 『おぅ…、とりあえずはな』
 『ぼくも大丈夫です。…ユウキさん。コガネって、こんなにも強いビル風が吹くんですか? 』
 そうじゃないと思うけど、とりあえずはね…。風が弱くなってきたから、ぼくはほんの少しだけ重心を元に戻す。そのタイミングでティルさんが、ぼく達の方を見ずにこう訊いてきた。ぼくはそっちの方はまだ見てないけど、斜め上の方を見上げている。ぼくが目を向けたユウキさんも、同じ方向を見ていた。たぶん風の原因がそっちの方にあると思うけど、話しはじめちゃったから言い切る事にした。
 「流石にコガネでも、ここまでの風は吹かないよ」
 一応聞いてみたけど、この感じだとそれどころじゃなさそう。今のユウキさんの表情は、さっきまでの優しそうな顔じゃない。目力が強く、完全に警戒しているような…、上手く言葉にできないけど、そんな感じ。全くの別人みたいに、表情が険しいものになっていた。
 「誰かと思えば、あの時の学者のガキか…。この風はコイツの技だからなぁ、当然だろう? 」
 答えてくれたからすぐにそっちの方を見てみると、ちょうどビルの六階ぐらいの高さに一つの影…。オニドリルの脚に掴まって…、いや、オニドリルに腕を掴まれているのかな? どっちでもいけど、男の人がユウキさんに向けて、こう声をあげていた。
 「どうりで、技のエネルギーを感じた訳だ…。…ベータ、暫く名前を聞かないと思ったけど、まだよからぬ…」
 「ほぅ、ただのトレーナーだったお前が、タメ口を訊くようになったか。…まぁいい、予定にはないが、ここでお前を見つけられたのなら、好都合だ」
 『…ユウキさん、もしかして、知り合いですか?』
 あの人のユニフォーム、どこかで見た事がある気がするけど…、どこだったっけ? それにユウキさん、この人と会った事、あるのかな。通路の上にいるのはユウキさん以外みんなポケモンだから仕方ないけど、あの人はユウキさんだけを見ていた。だからユウキさんは、その人に向けて声のトーンを落として語りかける。どういう関係なのかはさっぱり分からないけど、どうやら二人は面識があるらしい。その事について訊こうと思ったけど、その前にティルさんに先を越されてしまった。
 「ティル君はもう気付いてると思うけど、あの人はプライズの幹部…。もっと分かりやすく言うと、ラグナさんの前のトレーナー…、ガンマと同じ、元グリースの幹部だよ」
 『ラグナの…』
 「グリースか。懐かしい響きだなぁ」
 「もう四年、か…。そんな事より、僕の教え子達に手を出さないでもらえます? 何を企んでるのか知らないけど、僕としてもわざわざ幹部を捜す手間を省けた。コガネ大学助教授…、いや、エクワイル、ジョウト支部長として…」
 「なら話しは早いな。オニドリル、生死は問わん。奴らもろとも吹き飛ばせ! 」
 『えっ、ちょっと、吹き飛ばすって…』
 この場所だと、タダじゃ済まないよね? ユウキさんに言われて初めて気づいたけど、確かにマダツボミの塔でのプライズと、着ている服が似ていた気がした。デザインが少し違ってたけど、幹部なら納得がいく…。流石にラグナさんの名前が出てきたのには驚いたけど、そういえばそんな事も前に聴いたような覚えがある。ぼくはこんな感じで、ひとりで考えながら聴いていた。正確に言うと、幹部っていうあの人と、フィフさんがそうだって言ってた、治安組織のオーリックっていう地位のユウキさんの言い合い…、それに割り込める雰囲気じゃなかったんだけど…。そんな訳で、ユウキさんとプライズの幹部は、敵意むき出しで言い争っていた。
 そうかと思ったけど、ユウキさんの言った言葉の何かが、相手の何かに引っかかったらしい。話している最中のにもかかわらず、その人は何かを悟ったらしい。すると突然、その人はオニドリルに指示を出す。何かとんでもないような内容が含まれてた気がするけど…。
 『まっ、マズい! サイコ…』
 『見かけない顔だが、俺達と出逢った事を後悔するんだな! 吹き飛ばし! 』
 『すっ、すげぇかz…』
 『ヘクト君! うわっ…! 』
 そっか、あの時の風は、技の吹き飛ばすだったんだ。でっ、でもこの状況、本当にマズくない? トレーナーに指示されたオニドリルは、何のためらいも無く技を発動させる。多分翼にエネルギーを溜め、その状態で思いっきり羽ばたかせる。するとさっきとは比べものにならないぐらい強い風が、足場の狭い場所にいるぼく達に殴りかかってきた。
 オニドリルが発動させた直後に、ティルさんもすぐに超能力を発動させようとする。だけど相手の突風の方が早く、ティルさんの技は間に合わなかった。あの時は距離があったからそうではなかったけど、今回は耐えられそうにない。技の効果で仕方ないんだけど、軽いぼくとヘクト君が、真っ先に押し倒されてしまった。

 そういえば前にもこんな事、あったよね。高さは違うけど、マダツボミの塔…。今日の方が三階ぐらいの高さだから、死ぬことはない、かな。…でも流石に、最低でも骨折ぐらいはしちゃうかもしれない…。それなら、何とかしないといけないよね! 今連絡通路の上にティルさんがいるけど、直後には間に合わなかった。おまけに吹き飛ばしで飛ばされてるから、サイコキネシスも届きそうにない。…それなら電光石火で何とかする? …いいや、これもダメ。ヘクト君を咥えてそのまま衝撃を受け流そうと思ったけど、そもそも蹴る足場がない。なら他のわ…

 『どうか間に合って! 電磁浮遊
 『えっ? 』
 平行距離で十メートルぐらい飛ばされている間に、ぼくは自分でも驚くぐらい次々に対策を考えていた。だけど思いつくのは、どれも上手くいかないものばかり…。考えている間にも地面が近づいてくるから、余計にちゃんとした考えが浮かばなくなってしまっていた。何も出来ずに大怪我を負ってしまうかもしれない、二メートルぐらいまで落ち、そう思いはじめた丁度その時、ぼく達の真上から大きな声が聴こえてきた。そう思った矢先、ほんの一瞬だけ体中がピリッって痺れた様な気がした。
 『とっ、止まった? 』
 『いやコット、俺達、浮いてねぇーか? 』
 ぼくが止まったのは分からないでもないけど、何でヘクト君まで? 体に痺れが走った直後、ぼくだけでなくてヘクト君もピタリと止まる。それも、地面から十センチぐらいの、ギリギリの高さで…。訳が分からず揃って声を荒らげていると、急にぼく達に重さがかかったようにストンッ、と地面に落ちる。落ちてもどうって事ない高さだったから、痛さは全然なかった。
 『よかった、ギリギリ間に合ったみたいだね。さっきのは電磁浮遊っていう技で、少しの間地面タイプの技を受けなくなる効果があるんだよ』
 あたふたするぼく達の後ろに、もう一つ小さい何かが落ちてきた。その何かはぼく達が振り返る前に話しはじめ、技の効果を教えてくれた。半分ぐらいまでその人が言い終わったタイミングで、ぼくはようやくその声の主を確認する事が出来た。そのひとは全体的に黄色くて、ぼくよりも少しだけ背が高い…。実際に会うのは初めてだけど、ぼく達ポケモンといえば、って訊かれると真っ先に挙がる、ピカチュウだった。それもただのピカチュウじゃなくて、パッと見フィフさんを思い出させるような第一印象。白衣を羽織っていて、右腕に青い帯を結んでいた。右の頬の辺りが少し濃くて、痣みたいになってるけど…。
 『これが、電磁浮遊なんですか? でも電磁浮遊って…』
 『ティル君、そっちは大丈夫? 』
 『はい! とりあえずオニドリルは倒したんで、空中戦にはならないと思います』
 ティルさんが知ってるって事は、このピカチュウさんが、ユウキさんが言ってた図書館に行ってる仲間、なのかな? ぼくはぼくで聴きたい事があったけど、それは例のピカチュウさんに遮られてしまう。誰かに話し方が似ているそのひとが呼びかけると、丁度上から降りてきたティルさんが大きな声で答える。木の枝で出来たステッキの先端に火がついてたから、闘ってい最中なのかもしれない。最中って言うより、直後って言った方が正しかったけど…。
 『今は知らないけど、四年前のメンバーを考えると、そのは…』
 「そういえばお前はそうだったな。ヘルガー、四匹もろとも焼き尽くせ! 」
 『学者気取りのピカチュウか…。何処のポニータの骨か知らんが、まずは貴様からだぁッ! 』
 へっ、ヘルガー? ヘルガーって、ヘクト君が進化した後の種族だよね? ティルさんが言った事に、ピカチュウさんが何かを話し始める。四年前って言いかけてたから、ピカチュウさんがフィフさんの仲間っていうのは確実。言葉として聞こえてないから当然だけど、ぼく達が飛ばされる原因になったトレーナーが荒々しく声をあげる。ボールから次のメンバーを出し、曖昧な指示を出す。その指示を受けたヘルガーは、それだけで走り始めた。
 『コット君、ヘクト君、避け…』
 『まずは雑魚からくたばってもらおうかぁッ! 不意打…』
 『コット君! 』
 ざっ、雑魚って…、ぼく達のこと? ぼく達の真後ろで、ピカチュウさんがこんな風に叫ぶ。たぶん避けてって言おうとしていたと思うけど、また言い切る事が出来ていなかった。遮った張本人は、十メートルぐらい離れた場所から走ってきたヘルガー。後ろで何かが横に動いた気配があったから、ピカチュウさんが横に跳んだんだと思う。相手は何かの技を発動させていたから、このままだと攻撃を食らってしまう。だけどこんな時に限って、何故か足に力が入らなかった。
 『サイコキネシス! 』
 『っ! 』
 『ぐぁっ…』
 なっ、何でこんな時に限って動かないの? ヘクト君は確認する余裕が無かったから分からないけど、少なくともぼくは、相手の迫力に畏縮し、動けなくなってしまう。本能的に大ダメージを悟ってしまったので、ぼくは思わず硬く目を閉じてしまう。暗闇の中で、ぼくは何か強い力に引っ張られるのを感じる。それはあまり遠くないどこかから悲鳴が聞こえたのと、ほぼ同じタイミングだった。
 『ティルさん! 』
 『ほぅ、自分を盾に雑魚を庇ったか。…なら望み通り、貴様から葬ってやるぁっ! 噛み砕く』
 途中で恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景…。あんなに強いティルさんが、あっさりと相手の一撃を食らう、その瞬間だった。何でこうしたのかはさっぱり分からないけど、ぼくを強制的に移動させたのはティルさんの超能力。その証拠に効果が切れたらしく、ぼくは弾かれるように左に投げ出されてしまった。
 ぼくが地面を転げる間にも、更に場面は展開する。弱点の技を変な体勢でくらってのけ反っている間に、相手のヘルガーは一気に距離を詰める。そのまま流れる様な動きで、丸腰のティルさんに噛みかかっていた。
 『袋叩き! ティルさん、これでしの…』
 『ヘクト君、すぐに技を解除して! 十万ボルト! 』
 あの時にヘクト君は右に回避していたらしく、その位置で技を発動させる。この様子だとヘクト君は、仲間一人ずつが攻撃する技で、ティルさんのピンチを助けようとしているんだと思う。それならぼくも、ヘクト君の技を利用して、攻撃を仕掛ける事が出来る。だからぼくは何のためらいも無く、反時計回りに弧を描くように走り始めた。
 『ぅっ』
 『ヘクト君、助か…』
 『ティルさん、今のうちに逃げて…』
 ヘクト君の作戦が成功し、ティルさんは間一髪のところで右手に持っている杖を振り上げる。ある程度はダメージを食らっちゃってたけど、直撃だけは避けられたと思う。だからぼくは、この隙を逃すまいと更に加速…、ヘルガーの真横を陣取る。この間合いならすぐに退いて、ヘクト君に繋げられる、そう思ったけど…。
 『…だが甘いな。熱風! 』
 『ぐぅっ…』
 『えっ…、うわっ』
 二メートルまで迫った瞬間、ヘルガーは一歩分だけ跳び下がる。するとそこに、ぼくが元いた場所から放たれた電撃が直撃する。更にぼくが一メートル接近したところで、相手は待ちかまえていたかのように技を発動させる。すると一瞬だけ暖かい風が吹き、すぐに焼けつくような疾風が襲いかかってきた。
 当然走るぼく、それからかなりのダメージを食らっているティルさんは、咄嗟にはかわす事が出来ない。気付いた時には何故か地面が反転し、全身がヒリヒリと痛み始めていた。
 『コット! こうなったらスモ…』
 『くっ…』
 『ヘクト君! このヘルガーはヘクト君が敵う相手じゃない! だから今すぐ下がって! 』
 こっ、この感じ、まさか…、火傷? 一発でやられたかと思ったけど、ぼくは何とか耐えられたらしい。これはたぶん、強力な技をくらった時、至近距離じゃなかったからだと思う。免れはしたけど、ぼくが気絶寸前なのには変わりなさそう。何故なら、一気に体が重くなった気がするし、視界がぼやけてきた…。だから、ぼくが倒れるのは時間のも…。
 「コット! イグリー、風おこしでヘルガーを吹き飛ばして! 」
 『当たり前だ! 風おこし』
 『ティル兄! 遅れてごめん、ムーンフォース』
 意識が朦朧としてきたせいでよく聴きとれなかったけど、どこからか懐かしい声が聴こえてきた気がした。これも錯覚だと思うけど、涼しい風も吹いてきた。
 『もしかしてあの子がカナさん…? それなら…。コット君、これを受けとって! 』
 ユウキさんが、ぼくに向けて何かを叫んだ気がする…。横になった体勢のまま顔をそっちに向けると、黄色い影が、何かを投げたのが見えた。透明な石? みたいな何かを…。
 『っ! 』
 「えっ、こっ、コット…」
 コツンッって、何かがぼくに当たった気がする。何かが当たったけど、何だろう、この感じ…? 上手く言葉にできないけど、体の中の方から、力が湧いてくるような気がする…。










 自分では分からなかったけど、この時ぼくは、突然目が眩むような強い光に包まれ始めていた。


  Continue……

Lien ( 2016/09/21(水) 00:27 )