Quarante et quatre 到着
Sideコット
『すげぇ、これが街かぁー』
マフォクシーのティルさんと合流した後、ぼく達はすぐに森を抜ける事が出来た。目が暗闇に慣れてたせいで眩しかったけど、それ以外はいつも通り…、なのかな? 森から初めて出るっていうヘクト君が凄くはしゃいでたけど、それ以外は何事も無く進んだ。フィフさんはしてないんだけど、みんなで合わせて五回ぐらい戦って、その中でぼくは二回勝つことも出来た。
そんな感じで進んでいたぼく達は、とりあえず目的の街、コガネシティに着く事が出来た。流石にぼくでも大都会だって知っていたけど、それでもぼくは驚いてしまった。たぶんヘクト君もそうだと思うけど、思わずそびえ立つビルのてっぺんを見上げてしまう。キキョウで見慣れているつもりだったけど、それでも首が痛くなりそう…。ティルさんはそんな様子は全く無いみたいだけど、ヘクト君も似たような感じだった。
『流石、ジョウト一の大都市だね。コット君は初めて、だったっけ? 』
『はい。テレビで観た事があったから知ってはいたんですけど、やっぱりテレビとは違いますね』
上手く言葉に出来ないけど、何というか、凄いね。ティルさんはティルさんなりにこの雰囲気を楽しんでいるらしく、へぇー、と呟きながら辺りを見渡していた。かと思うと、彼はぼくの方に視線を落とし、こう訊いてくる。なのでぼくはすぐに頷き、彼の方を見上げる。見上げるというより、横に移す、って言った方が正しいけど…。とにかく、直に感じる都会の空気に圧倒されながらも、彼にこう答えた。
『それも旅の醍醐味よね。…さぁ、見えてきたわ』
『えっ、もう? フィフさんの研究室って、そんなに近いんですか? 』
ふぃっ、フィフさん? まだコガネについたばかりだけど、もう着いたの? ぼく達に合わせて歩いてくれているフィフさんは、何かを思い出しながらこう呟く。そういえば前に会った時、色んな地方を旅した、って言ってたから、たぶんその時の事を思い出しているんだと思う。そんな彼女は突然、進む前の方に目を向けながらぼく達に言う。街に入ってから海がある方向に進んでたけど、それでもやっぱり、あるのは高いビルばかり…。フィフさんは目的の建物を見つけたみたいだけど、ワカバから出てきたぼくには、どれも同じ建物にしか見えなかった。
『そうよ。私達が働いている…、って言っていいのか分からないけど…。私のトレーナが働いているコガネ大学は、沿岸部にあるのよ』
『海の近くに? 』
『そういえばカイナのスクールも、港の近くにあったっけ? 』
『カイナ…、懐かしわね』
海の近くって事は、海岸とかにも行けたりするのかな? ぼくの質問に、フィフさんはにっこりと笑顔を浮かべながら答えてくれる。大学で働いているって言ってたから、ぼくはてっきりキキョウのスクールと似たような感じのところにあるのかと思っていた。ぼくとカナが通っていたスクールは海よりも草原っていう感じだったから、フィフさんが言った事をあまりイメージする事が出来なかった。
森の外に出ることが初めてなヘクト君は置いておくとして、ティルさんはティルさんでまた違った感想を言っていた。カイナって言う街がどんなところなのかは分からないけど、少なくともヨシノみたいな感じって事は分かった気がする。その町に行ったことがあるらしく、フィフさんはこんな風に、何かを想像しながら呟いていた。
『カイナ…? 』
『ホウエン地方にある町…、でしたよね』
『そうよ。ティル君達はカイナを中心に活動して…』
『あっ、シルク! 戻ってきてたんだね? 』
ぼくも名前を聴いた事しかないから、ヘクト君が知らないのも無理ないかな…。ヘクト君がこくりと首を傾げていたので、ぼくが分かる範囲で教えてあげる。分かるといってもあまり自信が無かったから、確かめるっていう意味も込めて、フィフさんに目で訊いてみた。するとフィフさんはもちろん、っていう感じで大きく頷く。そのままの流れでティルさんの方を見上げ、何かを訊こうとしていた。だけどそれは、突然空から聞こえてきた声に遮られてしまう。ビックリしながらも上を見上げると、そこには一つの大きな影…。フィフさんの知り合いらしく、彼女の近くに降り立とうとしていた。
『ええ』
『ティル君も久しぶりだね。ティル君達がリーグを突破して以来だから…』
『三年ぶりぐらいだね』
あれ? 何かティルさんも話してるから、知り合いなのかな? 種族、分からないけど…。空から降りてきた彼は、親し気にティルさんと話し始める。ティルさんもタメ口で喋ってるから、相当仲が良さそう…。これだけ話し終えると、ふたりは再開を喜びあうかのように、硬く握手を交わし合っていた。
『そうなるわね』
『ええっと、シルク? イーブイのこの子がもしかして…』
『そうよ。彼が前に話した、従兄弟のコット君。会うのは二回目なんだけど、森の中で偶々会えたのよ』
『会ったというより、トレーナーとはぐれてたんですけど…』
本当はそうだけど、まぁいっか。翼があって大きい彼は、フィフさんの方を見てから、ふとぼくの方に視線を落とす。彼はぼくの事を知っていた…、のかな? すぐにフィフさんを見、確認するように話しかける。彼はこれだけしか言ってなかったけど、フィフさんには彼が何を言いたいのか分かったらしい。右の前足でぼくを指し、代わりに紹介してくれた。
『それからコット君、紹介が遅れたけど、彼はフライゴンのフライ。仲間のうちの一匹よ』
『フライ…、ゴン? 』
『うん。ボクの種族はジョウトにはいないから、知らないのも仕方ないかな。…というわけでコット君、よろしく』
『あっ、はい。よろしくお願いします』
フィフさんの仲間って事は、このひとも強いんだろうなぁー。フライゴンって言われてピンと来なかったから、ぼくはそれだけでこの地方にはいない種族だって分かった気がした。大きくて空も飛んでたから、本当に強そう、これが彼に対する第一印象、かな。切り替えがすごく早かったからすぐに反応できなかったけど、フライさんは気さくに話しかけてくれた。
『そういゃあフライさん、フライさんってホウエンの出身だって言ってたよな』
『ヘクト君、よく覚えてたね』
『当ったり前だろぅ? ジョウト出身なのはフィフさんだけで、あとはイッシュって言ってたよな? 』
『オルトさん達の事だよね? 』
前にジョウトにはいない種族だって、言ってたけど、イッシュだったんだ…。ヘクト君がフライさんの事を知ってたのはビックリしたけど、よく考えたら、分からなくもない気がした。何しろ、フィフさんの仲間って事は、フライさんもウバメの森に行っててもおかしくない。案の定話し的にもそんな感じだったから、たぶんぼくの予想はあってると思う。それ以外にも、残りの仲間がイッシュの種族って事も分かったから、それだけで十分なような気がした、フィフさんたちの事を知れたっていう意味で。
『そうよ』
『あっ、そうだ。折角だから、ボクの背中に乗ってく? この時間なら、スーナも帰ってきてると思うし』
『それがいいわね』
『背中にって、全員乗れますか? ふたりならいけそうな気がするけど…』
確かにフライさんは大きいから、いけそうな気がするけど…。二メートルぐらいありそうなフライさんは、ふと何かを思い出したように声をあげる。フライさんはぼく達の行き先を知ってるのかは分からないけど、とりあえずって感じで提案した。また知らないひとの名前が出てきたけど、それを訊く前に彼は話を進める。聞きそびれたからぼくは、代わりに別の事を尋ねてみる。フィフさんと誰かならいけそうな気がするけど、大きさ的に考えて、ティルさんは厳しいと思う。他にも色んな組み合わせを考えたけど、やっぱりどれも無理そうだった。
『大丈夫だよ。俺がサイ…』
『私が何とかするわ。ヘクト君には私と一緒に乗ってもらうことになるけど、コット君とティル君は、私のサイコキネシスで浮かせれば大丈夫だと思うわ』
『えっ、フィフさんの、サイコキネシス、ですか? 』
フィフさんの技でって…、ティルさんは大丈夫だと思うけど、ぼくは絶対に耐えられないよ! ぼくの疑問に、真っ先に答えてくれたのは、フィフさんと同じエスパータイプのティルさん。彼は即行で思いついたらしく、ポンっと手を叩き、すぐにそれを話そうとする。だけどそれは、二秒ぐらい遅れて口を開いたフィフさんに遮られてしまう。結局方法は同じだと思うけど、それでもやっぱり、ぼくは狼狽えてしまった。ティルさんのサイコキネシスは、マダツボミの塔で体験したけど、フィフさんのはまだ…。おまけにフィフさんの事情を知った直後だから、尚更耐えられる自信が無くなってしまった。
『大丈夫だよ。シルクは俺よりも使い込んでる…、よね? 』
『うん。シルクは毎日、一日中発動させてるようなものだからね。学生実験では生徒さんにかけて、代わりに実演してるぐらいだから。技をかけられることになって不安かもしれないけど、ボクが保証するよ』
『バトルを教えてくれる時も、ずっと発動させてるしなぁ』
せっ、生徒さんにって…。フィフさんが技かけちゃって、大丈夫なの? ティルさんも大丈夫、って言ってるけど…。人通りが多くなってきた道の真ん中で、ティルさんはぼくの問いに頷く。ティルさんもフィフさんとは仲が良いって言ってたけど、会うのは久しぶりらしい。だよね、ってフィフさんに確認していた。それに応えたのは、フィフさんじゃなくて、この中で一番大きいフライさん。同じメンバーだからかもしれないけど、フィフさんの代わりに例? を話してくれる。フライさんの事はまだよく知らないなずなのに、何故かそうなのかもしれないなぁー、って思いはじめていた。フライさんとは初めて会うけど…。
『んだからコット、全然問題ねぇーよ』
『あっ、ヘクト君…』
言うが早いかするが早いか、ヘクト君はすぐにフライさんの後ろにまわる。かと思うと、そのままヘクト君は体勢を低くしていたフライさんの背中に跳び乗っていた。
『…サイコキネシス』
『えっ、ちょっと、まだ準備でき…、あれ? 』
フィフさん、まだ心の準備が出来てないんだけど! ヘクト君が乗ったかと思うと、フィフさんもすぐにそれに続く。両方の前足でフライさんの腰を掴むと、何の前触れもなく技を発動させる。ぼくの答えを待たずに発動したそれは、すぐに対象を捉える。刹那、耐えられないような激痛が…、そう思い、思わず目を硬く閉じてしまう。だけどいつまで経っても襲ってこない。代わりにきたのが、上手く言葉にできないけど、ふわっと体の中から浮くような…、そんな感じ。前にもどこかで体験した、体が軽くなったような感覚に包まれた。
『フライ、このまま部屋の方まで飛んでもらっても、いいかしら? 』
『そうだと思ったよ。任せて! 』
部屋って事は、フィフさんの研究室かな? 前足と後ろ足、両方が地面から離れたタイミングで横を見ると、ちょうどティルさんもふわっと浮き始めたところだった。その間にフィフさんは、乗せてもらっているフライさんに、こう頼んでいた。フライさんはまるで、こう訊かれる事を分かっていたかのように、ほぼ即答で頷いていた。
Continue……