Chance Des Infinitude〜ムゲンの可能性〜










































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Chapitre Cinq De Cot 〜ジョウト一の大都市で〜
Quarante et trois パートナーの行方
  Sideコット



 『…夢? 』
 『おぅよ。おぼろげにしか覚えてないんだけど、いつかトレーナー就きになった親父に会うのが夢なんだ。そして、バトルもしてみたいんだ』
 そういえばヘクト君、ちょっと前にそんな事言ってたっけ? まだ正式に、じゃないけど、ヘクト君が仲間になってから、ぼく達は目的地に向けて歩きはじめていた。相変わらずカナ達は見つからないけど、それでもフィフさんは捜してくれていた。はぐれてから何分経ってるのかは分からないけど、少なくともフィフさんと再会してから二時間…、いや、もうちょっと経ってるのかな? 陽の光が殆ど入ってこないから分からないけど、それぐらいの時間が経っているような気がした。
 『ヘクト君って、本当にバトルが好きなんだね』
 『当ったり前だろぅ? そういゃあコット? コットの夢って、何なんだ』
 『えっ、ぼくの? 』
 ぼくの、夢かぁ…。そういえば、今まで考えた事なかったなぁ…。枝葉の上で輝いている太陽みたいな笑顔を浮かべている彼は、こんな風に言い放つ。気のせいかもしれないけど、暗い森を吹き抜ける風が、ほんの少しだけ強くなったような気がした。そんな彼に思ったままの感想を言うと、今度はぼくに、その事を訊いてきた。フィフさんもぼくの答えが気になってきたらしく、第一ボタンだけで留めている白衣の裾を靡かせて、ぼくの方に向き直る。後ろ向きで歩きながら、私も聴きたいわね、と興味の眼差しを向けてきていた。
 『うーんと…』
 夢…、何なんだろう…。…あっ、そうだ、そういえば!
 『どんな種族かは分からないんだけど、ワカバを出発した時に見た、白くて大きな飛行タイプのひとと会って、仲良くなりたい、かな』
 これといって浮かばなかったけど、やっぱり、これかな? 色々考えていると、ぼくの頭の中にある光景が思い浮かんでくる。それは、あの時に見かけた、見た事も無い種族が優雅に飛んでいく姿…。家を出て、研究所に行こうとしている時だったから、鮮明に覚えている…。そういえば、あれからまだ二日しか経っていない。色んな事があり過ぎて、随分昔の事にも感じられた。
 『白い、飛行タイプ…? 』
 『うん。結構高い所を飛んでいたけど、はっきり見えたから、結構おおきい種族だと思う』
 『白くて大きな飛行タイプ…、もしかするとル…』
 結果的に語尾を濁す事になっちゃったけど、そんなぼくに、ヘクト君は首を傾げながら訊いてくる。見た感じだと、ヘクト君もその種族の心当たりはないらしい。ヘクト君が知らないって事は、少なくともウバメの森にいる種族じゃないのかもしれない。そう考えていると、上に目を向けていたフィフさんが、あっ、と小さく声をあげる。何かを思い出したらしく、パッと明るい声で言おうとしていた。でも…。
 『あっ、シルク! やっぱりシルクもこの森に来てたんだね? 』
 歩いてきた方とは全く別の方向からの声に遮られてしまった。急に割り込んできた声にビックリしながらも振りかえると、そこには見覚えのある影が一つ…。
 『ティルさん! ティルさんも調査ですか? 』
 『えっ、コット君? うっ、うん』
 ぼくからだと見上げる様に背が高いマフォクシー…、ティルさんが、腰ぐらいの高さの茂みから出てきているところだった。彼が喋ってるぼく達よりも先にフィフさんを見つけたのは、たぶん暗い森の中では白い衣装が目立ったからだと思う。一方のぼくは、ちょっと前にテトラさんと別れたばかりだから、何でティルさんだけでいるのかすぐに分かった。本当にそうだったらしく、彼の左手には一冊のノートが握られていた。そんな彼に話しかけたらビックリされちゃったけど、それでも何とか頷いてもらえた。
 『そうよ。さっきテトラちゃんと別れたばかりだから、入れ違いになっちゃったわね』
 『テトラにも会えたんだね。…でもまさか、シルクとコット君が一緒にいるとは思わなかったよ』
 『そういゃあ、さっきのひとも同じこと言ってた気が…』
 この感じ、デジャヴだなぁ…。ビックリしているティルさんとは対照的に、フィフさんは凄く落ち着いている。涼しい顔で彼の方を見、残念そうに呟いていた。
 あれからどの位の時間が経ってるのか分からないけど、正直言って、ぼくもみんな揃って話がしたかった。そう思っていると、その頃にはティルさんは落ち着きを取り戻していたらしい。そうなんだー、と言う感じで声をあげる。そのまま彼は、白衣のエーフィから小さなイーブイに視線を流す。意外だよ、っていう感じで、こう呟いていた。
 『驚くのも無理ないかもしれないわね。ヘクト君…、デルビルのこの子といる所に、私が通りかかったって感じかしら? 』
 『そうですね。ヘクト君と戦ってたら、流れ弾に当たりそうになっちゃってたけど…』
 『んだけど流石フィフさんだよな。コットの目覚めるパワーなのに、簡単に止めてたしな』
 それと、一緒にいたアーシアさんもね。合流? したばかりのティルさんに、ぼく達は会った時の事を簡単に話してあげる。テトラさんの時にも同じような事をした気がするけど…。それに今更だけど、止めてもらっていた目覚めるパワーを打ち消していたアーシアさんも、凄かったと思う。どんなひとなのか訊く前に分かれちゃったから、また会ってみたい。そんな思いが、頭の端の方で浮かびはじめていた。
 『フィフ…、あっ、シルクの事だっけ? まぁいいや。それよりもコット君? 』
 『んっ? 』
 『コット君がシルクと一緒にいて、安心したよ』
 『わっ、私も? 』
 えっ? 安心したって、どういう事なんだろう…。聴きなれない名前だったらしく、ティルさんは少しだけ難しい顔をする。でもすぐに、それがフィフさんの事だって気付いたらしく、すぐに元の表情になる。そうかと思うと、その拍子に何かを思い出しく、彼はあっ、て短く声をあげる。何故かぼくの方に視線を下して、ホッと肩を撫で下ろしていた。
 急に話をふられたから、ぼくは思わず変な声をあげてしまう。何のことかさっぱり分からなかったけど、少なくともフィフさんが関係している事だけは分かった気がした。横目でチラッとフィフさんの方を見上げると、どうやらフィフさんも同じような感じだったらしい。驚きながら、不思議そうに首を傾げていた。
 『うん。調査中だったからすぐに離れたんだけど、ライトがカナさんと一緒にいるのを見かけたから…』
 『えっ、カナがいたんですか? 』
 『ライトと? 』
 らっ、ライトさんって…、確かティルさん達のトレーナーだよね? 何の事を言うのかと思ったけど、それはいい意味で驚きの内容だった。まさかティルさんの口からカナの名前が出るとは思ってなかったから、ぼく達、従兄弟の声が共鳴する。フィフさんが驚いている理由は分からないけど…。とにかく、探していたカナの事が聴けたから、驚き半分安堵半分…、複雑な気持ちに、ぼくはなった。
 『カナさんと一緒にラフもいたから、間違いないよ。結構話し込んでたみたいだから、もしかすると一緒に行動してるんじゃないかな? 』
 『そうね…。と言う事は、テトラちゃんがセンターで集合するって言ってたから…、そこで待っていれば会えるかもしれないわね』
 『だよな。俺だって中々会えない事があるし、その方がいいかもしれねぇーな』
 確かに…。この森って、ただでさえ薄暗いのに広いから、見つけにくいもんね。確信は無いけど、っていう感じでティルさんは付け加えていたけど、彼は真っ直ぐ、自分の意見を言う。推測の部分もあるみたいだけど、この様子だと結構自信があるみたい。そんな彼の主張に、フィフさんは少しだけ上を見上げて考える。別れる前に聴いた事を根拠に、ティルさんのいけんを肯定していた。そこへ更に、この森の出身のヘクト君が後押しする。エスパータイプのふたりとは違って、完全に言い切っていた。
 『デルビルの君の言う通りだね。…っていう事は、俺がシルク達と一緒に居ればいいかな? その方がシルクもライトと会えるだろうし、コット君もカナさんと合流できるからね』
 『それもそうね。ティル君、センターに行くのは研究室に寄ってからになるけど、それでもいいかしら? 』
 『俺は構わないよ』
 『なら、決まりだね』
 何やかんやあったけど、この感じなら案外早くカナ達と合流できるかもしれない。それ以外にも、ティルさんの仲間ともまた会えるかもしれない。願ったり叶ったりな状況に、ぼくは思わずテンションが上がる。そのせいでティルさんの言葉を遮る事になっちゃったけど、いいよね? とにかく、これ以上に無いんじゃないかって思うほど、良い具合に事が進んでいった。


  Continue……

Lien ( 2016/08/31(水) 22:04 )