Quarante et deux バトルの評価
Sideコット
『ヘクト君、やったね』
『おぅ…! 』
戦ったから知ってるけど、勝てたのもヘクト君のお陰だね。森の中で出くわしたトレーナーと戦っていたぼく達は、圧勝とまではいかないけど、とりあえずは勝利を収める事が出来た。これは後で聴いた話だけど、ヘクト君は相手を毒状態にして、持久戦に持ち込もうとしてたらしい。どちらかというとヘクト君の方が劣勢だったけど、ぼくの流れ弾で何とかなっていたみたい。
で、話に戻るけど、トレーナーが去ってから、ぼく達は互いに声をかけあう。少しふらついてるけど、うっすらと笑顔を浮かべてくれてから、互いに握手を交わした。
『まだ少し粗削りな部分があったけど、いい感じだったわね。ふたりのバトルを考察すると、ヘクト君は隙を伺いながら時間を稼いで、時々高威力の一撃を与える…』
『まっ、俺は同い年の奴の中でも一番の実力だからなぁ! 』
いや…ヘクト君、自分で言う事かな…? ぼく達のバトルを見守ってくれていたフィフさんは、お疲れ様、って付け加えてからこう言う。羽織っている白衣を風に靡かせながら駆けてきた彼女は、まずはヘクト君の方を評価する。その彼女に、ヘクト君は自信満々に声をあげていた。
『ただ…、技の命中率が少し低かったわね。技の威力も大事だけど、そのそも当たらないと意味が無いわ。…だからヘクト君、相手の動きを予想しながら戦えば、もっと良くなると思うわ』
『予想…? 』
『そうよ。フルロ君は深読みし過ぎている部分があるけど…、そうね…、ふたりを足して二で割れば、丁度いいぐらいになるかもしれないわ』
そんなヘクト君に、フィフさんはほんの少しだけ言葉を濁す。声のトーンを少し落とし、ややキツめのセリフで評価…。率直な意見って言う感じで、彼に改善策をアドバイスしていた。
一方のヘクト君はというと、フィフさんの批評に、僅かに表情が暗くなる。途中でこくりと首を傾げていたけど、それでも彼は彼女の評価に真剣に耳を傾けていた。
『それからコット君は、バトル全体を見れていたと思うわ。手助けでヘクト君をサポートしながら、スピードスターで全体攻撃。技の利点を上手く使いながら戦えていたわね。…ただ、移動のためだけに電光石火を多用するのは、あまりオススメ出来ないわね。今回は短かったから何とかなったけど、長期戦や連戦になると、エネルギー切れをおこしかねないわ。だからコット君、コット君は電光石火を発動させずに、自分の敏捷性とスタミナを磨けば、改善するかもしれないわね』
『そういうつもりは無かったけど…』
その方が早く動けるから使ってたけど、フィフさんにはそう見えたのかなぁ…。ヘクト君にアドバイスしていたフィフさんは、今度はぼくに視線を移す。エスパータイプだからかもしれないけど、フィフさんはこれだけのバトルで、ぼくの戦い方を見抜いたらしい。正直その事にはビックリしたけど、評価してくれたから凄く嬉しかった。だけど彼女は、そのままの流れで悪い部分も指摘してくれた。真っ直ぐな言い方であまり良い気はしなかったけど、そういう想いはすぐに打ち消された。指摘を元に、ヘクト君の時と同じように、直す方法を教えてくれた。
『次からきをつけてみます』
『最後に、ふたりの連携、結構良かったと思うわ。偶々相手は先取りを発動させていたけど、ヘクト君はそれを想定していたのかしら? 』
『いや、俺はコットが来てくれたから、だな』
『だって袋叩きって、仲間の数が多いほど威力が上がる技だもんね。攻撃回数も増えるし』
きっと、これが勝因かもしれないね。ぼくへの公表が終わると、フィフさんはぼく達の間に出る。向かい合うように立ったフィフさんは、ぼく、それからヘクト君の順に視線を送ると、笑顔を浮かべてこう言う。結局フィフさんの予想は外れていたみたいだけど、ぼくはあながち間違いじゃないと思う。ぼくの中では、ヘクト君といえば袋叩き。そのお陰でぼく自身も、結果的に悪タイプの攻撃をすることになるから、ね。
『まぁな。…そうだ。コット? 』
『ん? ヘクト君、どうしたの』
『コットはトレーナー就きで、旅をしているんだよな』
『うん、そうだけど? 』
ヘクト君、急にどうしたんだろう…。一通りフィフさんに評価してもらったから、とりあえずって事で、ぼくたちは止めていた足を進め始めた。ぼく自身も危うく忘れそうになってたけど、ぼくは今、カナとイグリー達とはぐれちゃっている…。フィフさんも探すのを手伝ってくれるって言ってくれてるけど、あまり迷惑をかけたくないって言うのも事実。こんな事を考えていると、ヘクト君が急に、何かを思い出したかのように話しかけてきた。
『もうすぐこの森の出口なんだけど、トレーナー合流出来たら、すぐにでも出発すんだよな? 』
『うん。ぼくがいないと、カナには仲間が何を言ってるのか伝えられないし、ぼくもみんな…、特にカナの事が心配だから』
だってぼくがいないと、カナってすぐに大事な事でも忘れちゃうから…。ヘクト君はこう言いながら、ぼく達が進む方をあごで指す。初めてこの森に来たぼくには分からなけど、彼の言う通り、この先に出口があるらしい。その証拠に、フィフさんがそうね、と彼の言葉に頷いていた。その横でヘクト君は、続けてぼくに尋ねてくる。だからぼくは、ほとんど間髪を入れずに、こう返事した。
『私でもこの暗さでは感覚が鈍るから、イグリー君なら尚更ね』
『この暗さも、慣れればどうって事ねぇーけどな。んだけどコット、見つかるまではどうするんだよ。フィフさんも忙しいだろうから…』
『その事なら、問題ないわ。今日はまだ講義が無いから、実質一日中フリー…』
『コット、今はいいけど、もし見つからなかったらひとりになるだろぅ? 』
いやヘクト君、フィフさんは今日は仕事は無いって言ってるんだけど…。フィフさんは心配ない、って言ってくれてるけど、どうやらヘクト君には聞こえていないらしい。いや、聴いていない、って言った方が良いのかな? フィフさんが言った事を全く気にせずに、言の葉を繋げていた。
『うっ、うん。もしフィフさんがいなかったら、ひとりになる…』
『だろぅ? しょうがねぇーから、俺がついて行ってやるよ。友達だからな』
『ふふっ…、ヘクト君らしいわね』
うーん、ヘクト君、完全に聴いてないね…。ヘクト君の言う通りだけど…。戸惑いながらも頷き、ひとりになるけど、そう言おうとしたけど、ぼくも彼の勢いにのまれてしまう。中途半端にしか聴いていないはずだけど、ヘクト君は自分なりの解釈でひとり先走ってしまう…。そうだろぅ? と笑みを浮かべながらこう言ってくれる。そんな彼を、フィフさんは微笑ましそうに暖かく見守っていた。
『それにコットとは、まだ決着がついてねぇーからな。その決着もつけてぇし、外に出るいい機会だしな。んだからフィフさん、おふくろとフルロに、旅に出るって伝えてくれねぇーか』
『そうね。コット君達のチームなら、ヘクト君の夢も叶えられるかもしれないわね。分かったわ。ふたりと、タチノさんにも伝えておくわ』
えっ、そっ、そうだけど…。あまりに急な展開に、ぼくはついていけなくなってしまう。急すぎて頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃったから、ぼくはただ、小さな声を出す事しか出来なかった。そんなぼくを置き去りにして、ヘクト君とフィフさんはふたりだけで先に進んで行ってしまう。結局話に出てるフルロっていうひとが誰なのか、ぼくにはさっぱり分からないけど…。
『よっしゃぁっ! コット、そういう訳だから、これからもよろしくな! 』
『うっ、うん…。…えっ? いっ、今、何て言ったの? 』
『だから、俺もコット達の旅についていくって事だ』
えっ、ヘクト君…? っていうことは、つまり…、ぼく達の仲間になる、って事…? 訳が分からなくなっていたぼくは、思わずこくりと頷いてしまう。少し遅れてだけど、結局何を言っていたのか、乱れている頭で何とか考えてみた。聞こえていた事を思い出し、その意味を考えてみる。そのせいで、ヘクト君の決心に気付くのがかなり遅れてしまった。
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