Des Pluie Quatorieme 化けて化かして
Side???
「パチリスたのんだよ」
「レディアン、今日は二回目ですがお願いします」
『当たり前でしょ』
『何か今日は朝から多いな。…確かこれで三戦目なんだってな』
エレン、あんたの期待に答えてやるよ!ボールから飛び出したアタイは、トレーナーの彼にこう返事する。昨日聞いた話では、アタイが戦えば有利にらしい…。逆さバトル…、とか言ったかな。パチリスは電気タイプで逆さバトルだから、今のアタイには不利…。だけどアタイには、それでも楽に勝てる自信がある。今までしたことが無い戦い方が出来るんだから、その楽しみと合わさって、アタイは胸が高鳴っていた。
『ん? パチリスの君を出すなんて、君のトレーナーはミスったんじゃないかな』
『さぁ、それはどうだろうね。だけどそんな事、アタイには関係ないね』
『大した自信だね。だけど僕も、二戦連続で負ける訳にはいかないんだ。全力でいかせてもらうよ』
んならこのアタイが、その敗戦記録を更新してやるよ! エレンがやらかしたと思ったのか、相手のレディアンはこう話しかけてくる。エレンとアタイの間で目線を行き来させ、エレンの誤選を指摘…。だけどこれも彼…、いや、アタイの作戦だから、挑発気味にこう返す。しめしめ、と作戦に引っかかってくれたことに満足しながら、素っ気なくこう言い返しておいた。最後に彼がこう言うと、何故か空気が張りつめてきたような錯覚を感じる。これが、ジム戦の緊張感なんだ…、だけど、何回もハンターの手から逃げてきたアタイからすると、どうって事ない。むしろ懐かしいぐらいだから、より一層闘志が湧き上がってきた。
『先手はもらうよ! マッハパンチ』
『当てさせないわ、影分身』
ユリン、あんたの姿、借りるわよ! 一瞬の静寂の後、最初に動いたのは相手…。彼は瞬発的に羽を動かし、アタイに迫ってきた。対してアタイは、慣れない二足ながらも、一つの分身を創りだす。左右に分かれるように跳び退き、相手への警戒を高めた。
『くっ、偽物…』
『ほらほらー、アタイを倒して連敗を止めるんじゃなかったのー? そんなんじゃ、いつまで経っても勝てやしないわよ。影分身』
こんだけ言っておけば、もうアタイのペースね。相手がアタイの方に向きを変えてたタイミングで、こう話しかける。わざとらしく尻尾をふりながら、相手を挑発…。おまけって言うほどではないけど、そのままの流れでもう一度分身を創りだす。予想通りイラッときたらしく、相手の口元は一瞬、ピクッ、っと引きつっていた。
『影分身…、これは厄介だね。だけど、これなら関係ない。超音波』
何とか平生を保ってるみたいだけど、アタイにはそんな仮面は、通用しない。苛立たせることは、アタイらのお家芸…。こうなってしまえば、もうアタイの勝ちはほぼ確定。アタイは二メートルぐらい跳び下がり、次の口撃の準備に入った。
対して相手は、無理やりいつも? の表情をつくり、こう分析する。マイナスな考えを頭の隅に追いやり、別の技を発動させる。虫タイプらしく、相手は背中の羽を細かく振動させる。アタイを混乱状態にするつもりらしく、甲高い音波を発生させてきた。
『どこ狙ってるのかしらねー、あんたにゃ恨みも何もないけど、アタイも負けられないのさ。引っ掻く』
『なっ…、しまっ…』
音波を飛ばしていたけど、アタイにとっては明後日の方向…。分身を狙っていたみたいだから、アタイ自身がそれを聴く事は無かった。その代わりに分身が混乱状態になったけど、そんな事は想定内。その隙にアタイは両手をついて走り、相手の背中との距離を詰める。タン、タン、ターン、とテンポよく飛び上がり、あまり鋭くない爪を立てる。まさかこのタイミングで隙を突かれるとは思ってなかったらしく、レディアンは素っ頓狂な声をあげていた。
『くっ…。でも、そっちが本物だって事は分かった。なら、マッハパンチ! 』
『えっ…、くっ…』
そっ、そうだったわね。相手は、先制技、使えたんだったわね。右手を振りかざし、アタイは相手の隙を突く事に成功する。だけどその代わりに、アタイは重要な事を忘れてしまっていた。それは、相手には反撃する手段があるって事…。レディアンは素早くアタイに向き直り、拳に力を蓄える。右上の拳を振り上げアタイの腹の真ん中を捉えた。
『えっ、なっ、何が…』
本当はもう少しこのまま戦うつもりだったけど、こうなっては仕方ないわね。反撃を受けたアタイは、そのまま数メートル吹っ飛ばされる。逆さバトルだったからどうって事なかったけど、普通のバトルなら間違いなく致命傷になってた。…だけどその考えを、頭の隅に追いやる。攻撃を食らったせいで変化が解かれたから、飛ばされながらも身を翻す。姿が歪み、本来のアタイ…、ゾロアに戻るとすぐに、前足と後ろ足で同時に着地する。ほんの少し脚を屈めて、衝撃を逃がすのを忘れずに。
『残念だけど、アタイはパチリスじゃなくてゾロアさ。アタイの特性はイリュージョン。知らず知らずのうちに、化かす事に関しちゃあ最強のアタイ騙されてたって訳さ。ダメ押しの影分身』
いつものアタイに戻されちゃあ、本気でかからない訳にはいかないわね。何が何だか分からない、って感じの相手に、アタイはこう種明かしする。他の種族に化けるなんて反則だ、そう言われるかもしれないけど、それは愚問だってアタイは思ってる。アタイのコレは特性、それにメタモンとかいう種族も化けるんだから、卑怯でも何でもない…。正当な方法だから、構わずにアタイは突き進んだ。
『ッ! ぎっ、銀色の風』
『狙いが甘いよ』
『くっ』
『引っ掻く』
やっと立ち直ったらしく、相手は慌ててトレーナーの指示を聴き、エネルギーを蓄える。するとどこからか、黒っぽい風が吹きはじめてきた。このままだとダメージを食らうから、アタイはさっき創りだした分身を前に走らせる。それを盾にして技を防ぎ、消滅した事でできた穴からくぐり抜ける。そしてアタイは、相手に狙いを定めながら右前足に力を溜める。たまたま相手はアタイに高さを合わせていたから、高く跳ぶ事なく攻撃できそう。だから何のためらいもなく、後ろ足で地面を思いっきり蹴った。
『連続パンチ』
だけど、相手も黙ってはいない。アタイと同じく力を溜め、また違った技を発動させる。
『れっ、連ぞ…くっ…』
相手は右上の拳を、アタイの振りかぶった右前足に振り上げる。結果相討ちになった。けど、アタイの技の効果は終わり、相手はまだ続いている。そのまま流れるように、左のそれで殴りかかったきた。
技を相討ちとはいえ命中させた直後のアタイは、当然隙だらけ…。相手の連撃に対応する事ができず、まともに食らってしまう。フッ飛ばされたお蔭で三発目、四発目は当たらなかった。でも、何の備えも無しに食らったから、アタイは大ダメージ…、受け身さえ取る事ができなかった。
『形勢逆転だね。マッハパンチ』
くっ…、一気に、追い込まれた、かな…。でもアタイには、まだ、あの技がある。結構ダメージを与えたはずだから、いけるはず…。賭け、だけど。倒れる寸前まで一気に追い込まれたけど、アタイは四肢に力を込め、何とか立ち上がる。その間にも、相手はトドメを刺そうと迫ってくる。この感じだと、多分、決着がつくのは二、三秒後。このままだと負けるから、一か八かの賭けにアタイは身を任せる事にした。
まず初めに、アタイは技のイメージを最大まで膨らませる。それを元に、両前足にエネルギーを集める…。世間一般でこの技は上級に分類されるけど、アタイはこの技で何度も窮地を助けられてきた。使い慣れたこの技で、何人ものハンターの手から逃れる事ができた事だってあった。エネルギー効率が尋常じゃないぐらい悪いけど、切り札には申し分ない…。その技を、アタイはタイミングを測りながら、その時を伺う。そして…。
『ナイト…、バースト! 』
ほんの一瞬だけ体勢を上げ、後ろ足だけで体を支える。そしてそのまま、前足で崩れるように地面を叩きつける。同時にエネルギーを解き放つことで、技を発動させる。するとそこから、黒い帯状の波紋が二つ、放たれる。交差するように放たれたそれは、交点が前進するように突き進んでいった。
『うっ、嘘…。そんな技…ぐぁぁッ…』
アタイの大技に相手も気づいたけど、直ぐには相手は止まれない。ただでさえ先制技で素早い上に、かなりのスピードが乗っている。咄嗟に浮上してかわそうとしていたけど、手遅れ…。かわし切ることが出来ず、まともにアタイの波紋に突っ込むことになっていた。
『っ…、負け…か…』
アタイの大技を食らった相手は、派手に反対方向に飛ばされる。相当ダメージを食らったらしく、受け身を取る事ができていなかった。彼は何とか立ち上がろうとしたけど、それが叶わず崩れ落ちる。アタイもギリギリだけど、彼はそう言い残すと意識を手放した。
Continue……