Quarante et une それぞれの実力
Sideアーシア
「それじゃあ、気を取り直して始めよっか」
「はい! 」
本格的なバトルは久しぶりだけど、大丈夫かなぁ…。テトちゃんの仲間に正式に加わってから、私は他の仲間っていうラフさんとフルロさん達の話を聴いていた。訊いていたのはいいんだけど、何故か話題はバトルの事になっていた。おまけに、挑まれたのは私。守るで防げたから良かったけど、思いがけない形で先手をとられてしまった。
それから、すぐに次の技で攻撃を仕掛けようかと思ったけど、そうはならなかった。人間…、っていうのはやっぱりまだ変な感じがするけど、私のトレーナー? になるライトさんが、一端フルロさんを止めていた。その間に私は、改めて心の準備。ライトさんはもう一人の女の子と話していたみたいだけど…。それで、今のこの状況になったって感じ。何て言う方式のバトルなのかは分からないけど、闘うのは、私とフルロさんと、もう一人。カナさんのメンバーらしい、ピジョンのイグリーさん。私達三人が、互いの様子を伺い、睨みを利かせ合う。
「先手はもらいますよ! ブラッキーに電光石火」
『先手必勝だもんな! 電光石火』
『やっぱり私ですよね? 』
うーん、進化しきってるから、最初に倒そうっていう考えなのかな…。真っ先に動いたのは、イグリーさん。彼はすぐに技を発動させ、一番近い私を狙う。素早く両方の翼を羽ばたかせ、一気に距離を詰めてきた。
『守る』
『なっ…』
『からの体当たりっ! 』
それに対して、私はエネルギーを溜め、それを実体化させる。目の前に薄緑色の壁を作りだし、相手の攻撃を防いだ。技を受け止めた勢いで圧される事は無かったけど、壁を通して衝撃が伝わってくる。後ろ足で踏ん張り、すぐに壁にエネルギーを送るのを止める。丁度その時には、イグリーさんは空中でのけ反っているから、私は反撃のために別の技を仕掛ける。踏ん張っていた後ろ足で地面を蹴り、斜め上に跳び出した。
『くっ…、体当たりって、こん…っ! 』
『きゃぁっ』
『僕のこと、忘れんでくれんかな? 』
そうだった…。戦ってるのは、イグリーさんだけじゃなかったんだ。跳びあがった私の攻撃は、のけ反るイグリーさんに命中。お腹の辺りを、狙い通り捉える事が出来た。この感じなら、勝てるかもしれない、そう思いはじめたのも束の間、着地したタイミングで、体の左側に突然痛みが駆け抜ける。一瞬訳が分からなかったけど、それはすぐに、その方向から聞こえてきた声で理解する事が出来た。この感じだと、私とイグリーさんが食らった技は、葉っぱカッター。横目でチラッとそっちを見ると、ちょうどフルロさんが、頭の葉っぱを振り上げ、こう言っているところだった。
『忘れてなんかないよ。竜巻! 』
『スピードスターっ! 』
ごめんなさい、フルロさんの事、ちょっと忘れてた。あまりダメージは食らわなかったから、私はすぐに五メートルぐらい跳び下がる。あの時にリファルさんから教えてもらった事を思い出しながら、今度は斜め右斜め後ろに下がる。その甲斐あって、私はイグリーさんが起こした突風をかわす事が出来た。だけど今までずっと攻められ続けてるから、口元に溜めた七つの流れ星で反撃を開始した。
『数なら負けへんよ! 種マシンガン』
『スピードスターなら、コットとのバトルで攻略済みだぁっ! 風おこし』
私が放った七つの星は、三つが二メートルぐらいの高さで羽ばたくイグリーさんに、残りが私に向けて駆けてきたフルロさんへと飛んでいく。スピードスターは必中技だから、二人とも技で打ち消そうとしてきた。フルロさんは口元にエネルギーを蓄え、小さい粒にして撃ちだす。カーブした星を捉え、小さな光になって砕け散った。
対してイグリーさんは、今いる高さを維持しながら凄い速さで翼を前後に動かす。するとさっきとは違って、広い範囲に風が吹き始める。進むスピードと風速が同じらしく、私の流れ星はその場で停滞していた。
『技に気を取られていると、攻撃を食らっちゃいますよ? 電光石火』
『っ! いつの間に? 』
イグリーさんが気を取られているうちに、フルロさんの方にも攻めなきゃっ! 二人が星の対処をしている間に、私はフルロさんの方に向き直る。フルロさんが二つ目の星を打ち消したタイミングで、私は両足に力を入れる。思いっきり駆けだし、八メートルぐらいあった間合いを一気に詰める。だけど直接は攻撃せずに、フルロさんの周りをぐるっと駆けまわる事にした。
『やけど、攻撃せんと意味ないで! 蔓の鞭! 』
うん、上手く作戦に引っかかってくれたかな? フルロさんは少しイラッとした感じで、私が駆ける中心から外れる。首元から蔓を伸ばして、私の顔を叩くような感じで、フルロさんは左の鞭を大振りで撓らせてくる。だけどこの行動は、想定内。残り七十度ぐらいのところで、前足で同時に踏ん張る。そのまま地面を思いっきり斜めに押し込んで、正面を向くように跳び下がる。頭が下の方になるから、少し見上げながら、次の攻撃に備えた。
『二発目! 』
すると今度は、構えていた右側の蔓で、振り上げる様に私の顎を狙ってくる。その頃には体勢が上がり、後ろ足が地面に付いていたから、咄嗟に回避行動をとる。前足がつく前に地面を思い切り蹴って、左に跳び退いた。
『また外れた? んならもう一回葉っぱ…』
『そろそろ、決めさせてもらいますっ! シャドーボール! 』
それでもフルロさんは諦めず、更に踏み込んで追撃。私が着地するタイミングを狙って、低い位置を蔓で凪払ってきた。危うく引っかかりそうになったけど、私もすぐにかわす。運よくタイミングがズレたから、縄跳びをするような感じで、直立した状態で真上に跳ぶ。妙な懐かしさがこみ上げてきたような気がしたけど、それを無理やり頭の中に押し込む。自由になった前足にエネルギーを集中させ、そこに黒い球体を創りだす。二足で着地し、人間で例えるなら手の甲から振り上げる様な感じで、それを目の前のフルロさんめがけて撃ちだした。
『嘘やろ? うあぁっ…』
『電光石火! 』
『痛ぃっ…』
なっ、何とかフルロさんは倒せたけど、こっちに集中しすぎちゃったかな…。前足を地面につき、私はホッと一息つく。だけど、そのせいでイグリーさんの接近に気付くことが出来なかった。追い風を発動させていたらしく、イグリーさんは凄い速さで低空飛行…。私の右の脇腹あたりに、思いっきり突っ込んできた。
『もう一発電光石火! 』
『まっ、守る! 』
無防備な状態だったから、私は十メートルぐらい吹っ飛ばされてしまう。気絶する事は無かったけど、私の中だけでは形勢が一気に逆転してしまった。少しふらつきながらも立ち上がり、上を見上げると、そこには宙返りで私の正面をとろうとするイグリーさん…。次の一撃でトドメを刺すつもりみたいで、下降する勢いも乗せて私を狙う。
距離はまだ八メートルぐらいあるけど、このスピードでは間に合いそうにない。だから私は、考えていた作戦を別のものに切り替える。そのために、まずは迫るイグリーさんの攻撃を防がないといけない。エネルギーを実体化させ、しのぐための壁を作りだした。
『また防がれた…』
『電光石火! 』
一応回復技を使えるけど、発動させてるとどうなるかわかんないからなぁ…。何とかイグリーさんの一撃を防ぐことが出来た。壁で弾いてのけ反らすことが出来たから、私はすぐに両足に力を込める。体勢を崩しながらも後退するイグリーさんを、地上から追いかけた。
『だけど、流石にこれは防げないでしょ? 風おこし! 』
『くっ…』
迫る私に対して、空中のイグリーさんも別の技を仕掛けてくる。翼にエネルギーを集中させ、その状態で力いっぱい羽ばたかせる。すると私に抗うように、強い風が吹き始めた。
『守る…』
…そうだ、あの時のあの方法を使えば、何とかなるかも! 電光石火を発動させていたから何とかなったけど、イグリーさんの突風は踏ん張らないと飛ばされそうになるぐらいだった。このままだと、いつ限界が来るかは分からない。正直言って、ヤバいかもしれない、そう思いはじめたその時、過去にあったある光景フラッシュバックする。それがきっかけになって、私にある考えが思い浮かぶ。その時にした通りに守るを発動させる。本当なら踏ん張って発動させる技だけど、壁を張った状態のまま、向かい風の中を駆け抜けた。
『風じゃあ、ダメなのか…。なら、電光石火』
このままだと全然決着がつかないから、イグリーさんの方が先に折れてくれた。イグリーさんは風を起こすのを止め、高い位置から急降下してきた。
『それなら私だって! 』
『くっ…』
こうなったら、もう大丈夫、かな? イグリーさんは私の真上から直滑降してきたから、私は見上げてタイミングを伺う。風を防ぐために張ったバリアーを維持したまま、その時を待つ…。丁度三メートル上まで迫られた瞬間、私は前足で勢いをつけ、後ろ足だけで立ち上がる。結果これが回避行動になって、イグリーさんは地面に思いっきり突っ込むことになった。
『これで最後ですっ。アイアンテール! 』
二足で立った私は、その状態のまま尻尾を硬質化させる。結構キツイ体勢だけど、イグリーさんが堕ちた地面スレスレを薙ぎ払う。右の後ろ足を軸にして、左の後ろ足で、後ろに向けて地面を蹴る。後を追うように尻尾が続き、立ち上がろうとしていたイグリーさんを捉えた。
『…っくっ…』
勢いがつきすぎて転んじゃったけど、確かに尻尾に手応えを感じた。反撃を食らわない様に慌てて立ち上がり、振り返ると、そこには倒れたイグリーさん…。私のアイアンテールがクリーンヒットしたらしく、耐え切れずに意識を手放していた。
Chapitre Quatre 〜親友の影〜 Finit