Quarante 既視感
Sideライト
「へぇー、こんな出逢いも、あるんですね」
『わたしだけかと思ってたけど、他にもあったとは思わなかったよ』
ラフを最後にずっと五匹で旅をしてきたわたし達に、三年ぶりに新しい仲間が加わった。それは、わたしがカナちゃん達と話している間に、ラフが仲良くなっていたベイリーフのフルロ君。聴いたところによると、彼はこの森の出身で、この一年ぐらいはシルク達にバトルを教えてもらっていたらしい。まだどんな技を使えるのか、どんな戦い方をするのか、分からないけど期待はできると思う。
そんな彼をボールから出してあげてからは、カナちゃんにラフとの出逢いの話しを語っていた。一通り話し終えると、カナちゃんと彼女メンバーのラプラスが、こんな風に声をあげていた。
「うん。ラフだけじゃなくて、ティルとテトラ、それからラグナもそうだよ」
『そういゃあラフちゃん、他にも仲間がおるって言…』
『あっ、ライト、カナちゃんと一緒にいたんだね』
『カナさんって、コットさんのトレーナー、ですよね』
そういえば、誰ひとりバトルで仲間になってないんだよね。わたしがこう言うと、仲間になったばかりのフルロが、傍にいるラフの方をチラッと見る。ティル達の事は予め聴いていたらしく、その事を思い出しながらわたしに続く。この感じだと、仲間がいるって言ってたね、彼はそう言おうとしていたのかもしれない。だけどそれは、わたしが背にしている西の方から聞こえてきた二つの声に遮られてしまっていた。
「みんなと別れてから、偶々会ってね。テトラ? ブラッキーのこの子は? 」
『話し始めると長くなっちゃうんだけど…』
『テトちゃんから、ライトさんの事は聴いています。私、ブラッキーのアーシアって言います』
声がした方に振りかえってみると、そこには二つの陰。別行動をしている色違いのニンフィアと、少し小さめのブラッキー。フルロと同じで地元の子だと思うけど、気になったからテトラにその子の事を尋ねてみた。するとテトラは、うーん、っていう感じで少し考えて、言葉を溜めながらこう言ってくれる。だけど、アーシアって名乗ったブラッキーに先を越されてしまっていた。
『ブラッキーかー。ウバメの森だから、ここの出身じゃないの? 』
『ううん、ここの森の出身なら知っとるはずやけど、ブラッキーはおらんかったね…。やから、どっか別の場所の出身なんとちゃうかな? 』
『シアちゃんはシルクに連れてきてもらったみたいで…』
テトラとアーシアさん、あだ名で呼び合ってるけど、仲良くなったのかな…。彼女の種族に何か心当たりがあったのか、カナちゃんのメンバーのピジョンがこう、アーシアさんに問いかける。わたしには何でこう訊いたのかさっぱり分からなかったけど、この森出身のフルロが、すぐに首を横に振る。相変わらず訛りが凄いけど、彼は自分なりの考えを言う。最後にテトラが、前もって聴いていたらしい事を、その本人に目を向けてから話し始める。
『…あっ、そうだ。ライト、シアちゃんも私達のメンバーに入れてくれる? 』
「えっ、こっ、この子も? 」
ちょっ、ちょっとテトラ? 話が急すぎて訳が分からないんだけど? わたしはてっきり、アーシアさんの事を話してくれるのかと思っていた。そのせいで、わたしはテトラが言った事をすぐには理解する事ができなかった。ただでさえフルロが加わったばかりだから、思わず頓狂な声を出してしまう。なのでわたしに出来たのは、テトラとアーシアさんの間で視線を行き来させる…、それだけだった。
『はいです。まだこの世界には来たばかりなんですけど、いろんな場所を見たいんです! 』
『仲間にって…、テト姉も? 』
『も? 』
「まだみんなには言えてないんだけど、フルロ…、ベイリーフのこの子がさっき仲間になったところでね」
そっか…。テトラと友達になったらしいアーシアさんは、こんな風に元気よく声をあげる。彼女はもう心に決めているみたいで、真っすぐ私の方に見上げる。彼女の訴えに関してわたしが考え始めると、同じぐらいのタイミングで、ラフが首を傾げる。仲よくなった子をメンバーに誘うって事に、たぶん既視感を覚えながら、テトラに問いかけていた。だからわたしは、新規メンバーのフルロの首元に手を添えながら、合流したばかりのテトラにこう説明してあげた。
「仲間は多い方が楽しいし、折角テトラとも仲良くなってくれたから、いいよ。アーシアさん? でちょうどメンバーが六にんになるし」
まだこの子、それからフルロの事もよく知らないけど、折角決心してくれたんだから、断るわけにもいかないもんね。ここにはいないティルとラグナには、合流してから離せばいいし。フルロの事に触れたわたしは、一度軽く上を見上げ、考える。すぐにテトラに視線を戻す。彼女の頼みに二つ返事で大きく頷いてから、今度はブラッキーの彼女に目を向ける。その時の彼女は、凄く嬉しそうに目を輝かせる…、そんな感じ。パッと明るい表情で、わたしの方を見上げた瞬間だった。
『ありがとうございますですっ! 』
『シアちゃん、改めてよろしくね』
『うん、こちらこそ』
本当に仲良くなったみたいだね。わたしがこう言うと、アーシアさんがにっこりと笑顔を浮かべる。ぺこりと頭を下げると、そこにテトラが嬉しそうに声をあげる。彼女は顔を上げたアーシアさんに、珍しく右の前足を差し出す。それにアーシアさんが快く応じ、互いの前足を重ね合っていた。
『僕と同じやね。…そうだ、折角やし、僕とバトルしてくれん? 』
『わっ、私と? 』
確かにそうだけど…。この様子を見ていたフルロは、突然アーシアさんにバトルを申し込む。ラフから聴いてはいたけど、ここまでとは思ってなかったから、アーシアさんはもちろんわたしも変な声を出してしまう。申し込まれたアーシアさんは、右の前足で握手をした状態のまま、彼の方にハッと振り返っていた。
『ブラッキーに進化しとるって事は、バトルもできるって事やんね? 』
『ええっと、一応できます、けど? 』
『そんなら話が早いね。じゃあ早速、葉っぱカッター』
『まっ、守る! 』
ふっ、フルロ? だからって言っていきなり挑むのは…。戸惑うアーシアさんに、フルロは続けてこう言う。わたしが見た感じでは、バトルがしたくてたまらない…、そんな感じ。普段からバトルで鍛えているって言ってたから、彼はたぶん、普段とは違う相手と戦えることにワクワクしているのかもしれない。彼女がゆっくりと頷いたから、彼は待ってましたと言わんばかりに技を発動させる。一歩後ろに下がりながら、頭の葉っぱにエネルギーを溜める。それで頭を振り下ろすように空気を切ると、そこから三、四枚ぐらいの葉が放たれた。
いきなりの攻撃で先手を取られたアーシアさんは、慌てながらも何とかそれに抗う。咄嗟にエネルギーを具現化し、目の前に壁を作る。その甲斐あって彼女は、即行だったけど何とか不意打ちをしのいでいた。
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