Trente et neuf 妖艶なる月光
Side???
急な事でビックリするかもしれないけど、ここで視点を変えさせてもらいますね。私の事は後で話すとして…、シルクさんに導かれた私は、彼女と一緒に森の中に来ています。長くなりそうだから端折るけど、シルクさんからこの世界の事を教えてもらいながら歩いていると、私達はバトルの最中の二人に出逢いました。…うーんと、偶々流れ弾に当たりそうになった、って言った方が正しいのかもしれませんね。それをアイアンテールで防いだから、なんとかなりました。…それからは、シルクさんと、戦っていた二人、イーブイのコットさんとデルビルのヘクトさんが知り合いだって事もあって、しばらくの雑談。本当に仲が良いみたいで、歳が離れてるみたいだけど、それでも和気藹々と話していた。
自己紹介も兼ねて話していると、もう一人…、ニンフィアのテトラさんとも出逢った。彼女もシルクさんの友達みたいで、聴いた感じだと、コットさんの事も知っていたらしい。質問攻めでテトラさんの事は殆ど訊けてないけど、話した感じだと仲良くなれそうな気がする。
そんな訳で、今この場には、この世界に連れて来てもらったシルクさん、コットさん、ヘクトさん、色違いらしいテトラさんと私の五人。相変わらず自己紹介みたいな感じで話が進んでいた。
『ええっとアーシアさん、アーシアさんって、フィフさんと同じトレーナーのメンバーだったりするんですか』
『とっ、トレーナー…』
『いいえ、アーシアとは確かに友達だけど、それとはちょっと違うわね』
そっか…、私ってブラッキーだから、そう言う事になるんだよね…。コットさんはこんな風に、私に訊ねてきた。急に目が合ってビックリしちゃったから、私は思わず言葉が詰まってしまう…。ここに来る前の世界に慣れていた、っていう事もあるかもしれないけど、そういう訳で私はその言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまった。随分昔に聞いた気がするから、何とか思い出して応えようとした。だけどその前に、私の事をよく知っているシルクさんが、代わりに答えてくれた。
『ちょっと説明するのが難しいけど…。…そうね、野生って事にしておいてくれないかしら』
『そっか、私って、野生って事になるんですよね』
『あっ、はい』
野生って言われると、何か不思議な感じがするけど、そうなるもんね。正直言って実感が無いけど、私はシルクさんがこう言うのを聴いて、ようやくそう気づく。野生って言われるとダンジョンの人達の事が浮かぶけど、これとそれでは意味が違うはず。おぼろげにしか覚えてないけど、たぶんシルクさんが言う野生は、モンスターボールに登録されていない人の事だと思う。シルクさんに上手い具合に誤魔化してもらった事に感謝しつつ、わたしはとりあえず、こくりと頷いておいた。
『やっぱり、そうだったんだね。コット君達の仲間って言うと年が離れてるきがするしね。…ってことは、アーシアさんって、ここの森の出身だったりするの? 』
『ううん、何て言ったらいいのか分からないんですけど、別の世界の出身、だと思います』
シルクさんが言うには、前にいた世界はここから五千年後で、元々は同じ時代の、別の世界らしいけど…。シルクさんもそうだと思うけど、私も、自分の事を言おうか、迷ってしまう。向こうの友達にはすぐに信じてもらえたけど、テトラさんもそうだとは限らない。だから私は、かと言って無視するわけにもいかないから、ちょっと賭けかもしれないけど、とりあえずこんな風に話しておいた。
『そうなんだー。別の世界って事は、五千年後の未来だったりするの? 』
『そっ、そうですけど、何で分かったんですか? 』
嘘? 前にいた世界の事は一言も言ってないのに、何で? 私はてっきり、別の世界の出身だって聴いたテトラさん自身が驚くかと思っていた。だけどその予想ははずれてしまい、逆に私がビックリする事になってしまった。よく考えたら、シルクさんの友達みたいだから、テトラさんが知っていてもおかしくはないとは思う。だけどそれ以上に、見事に当てられた事への驚きの方が勝ってしまっていた。
『私の仲間にもふたり、未来の世界に行ったことがあるひとがいてね、その時に知ったって感じかな』
『テトラさんの仲間が、ですか? 』
『うん』
シルクさんだけかと思ってたけど、二人もいるなんて…。それにテトラさんの仲間って事は、テトラさんもトレーナーに就いてるのかな。彼女の言った事から、私はこんな風に予想する。シルクさんと会うのは三年ぶりって言ってたから、たぶん別のトレーナーの事だと思う。シルクさんもそうだけど、合わせて三人も時代を超えてるから、空間亀裂の事が気になったけど…。だけどそれは私にも言えるから、結局同じ、かもしれない。シルクさんとは深い仲だっていうセレビィさんが、何とかしてくれているとは思うけど…。
『ラティアスとマフォクシーなんだけど、三ね…』
『らっ、ラティアスさん? っという事はテトラさん達って、アルトマーレっていう島の出身だったりするんですかっ? 』
この時代も同じ名前なのかは分からないけど、ラティアスさんが仲間なら、知っているはずだよね? 未来に行ったっていう仲間の事もそうだけど、それ以上に私は、そのラティアスさんの方が気になった。テトラさんの話を遮る事になっちゃったけど、そのせいで思わず声を荒らげてしまう。ハッと彼女の方を見、こう訊き返した。
『アルトマーレ? うーん、そういう場所は知らないけど、ライト…、仲間のラティアスはホウエン地方の離島の出身だって言ってたよ』
やっぱり、時代が違うと名前も変わるのかな…。何となくそんな気はしていたけど、私の予想は外れてしまう。だけど全部が全部そうっていう訳ではなくて、同じこともあった。それに、ラティアスっていう種族っていうのもあるかもしれないけど、よく知っている人と同じ名前…。いつしか私は、テトラさんと、その仲間の事が気になり始めていた。
『そうですか…。それならテトラさん、テトラさんの仲間って何人いるんですか? 』
『私の? 私の仲間は、さっきも言ったラティアスとマフォクシー、それからグラエナとチルタリスの四匹だよ』
グラエナも、いるんだね。…なんだろう、こんなにも似てるって、偶然…? でも偶然なら、いくつも重ならないはず、だよね…。
『…あっ、そうだ! アーシアさん、もしよかったら、私と一緒に来てみない? 』
『えっ、テトラさんと、ですか? 』
いっ、一緒に? テトラさんの仲間の事が気になったからその事を聴いてみると、テトラさんは快く答えてくれる。それを聴いた私は、更にテトラさんの事をもっと知りたい、そう思いはじめていた。私の知り合いとも共通点が多いから、多分そのためだと思う。ここまで来ると、もう偶然じゃあ言い切れないよね、そう思っていると、突然テトラさんがこう提案してくる。予想外の質問だったから、私はまた変な声を出してしまった。
『でっ、でも私シルクさんと来たばかりで…』
『ごっ…、ごめん…。私、同じぐらいの年の同性のひとと話したこと、あまりなかったから』
『私こそ、ごめんなさいです。いきなりだったから、ビックリしちゃって…』
そっ、そう言ってもらえて嬉しいけど…。私、シルクさんに連れてきてもらったばかりだし、シルクさんの事もあるから…。
『だから、お互い様ですっ』
『そうだね』
ちょっとビックリしちゃったけど、そうだよね。私だって、そのつもりは無かったけど、がっかりさせちゃったし。思っていた事と真逆の事を言ってしまったから、テトラさんの尻尾と耳が下がってしまっていた。だから私は、気にしないでっていう感じでこう言ってあげる。ねっ、て短く言うと、テトラさんはすぐに元気になってくれた。私自身も申し訳ない事を言ってしまった。だから、少しの間合いが空いた後、私達は互いに目を合わせ合い、笑いあっていた。
『あら、この様子だと、もう仲良くなったみたいね』
私と年も近いみたいだし、テトラさんとは仲良くなれそう。何かテトラさんとの距離が、一気に近くなったような気がする。そう感じ始めたその時、気付いたら会話から外れていたシルクさんが、私達の様子を見て、こう話しかけてくる。いつから聴いていたのか分からないけど、流石シルクさんって感じかな。前にシルクさんは、仲間のうちの一人の喘息を見抜いていた。その人が言うには、よく観察していないと判断する事ができないらしい。その時にシルクさんの観察眼…、なのかな? エスパータイプっていう事もあるかもしれないけど、そういう訳でシルクさんは、急に進んだ私とテトラさんの関係を見抜いたらしかった。
『はいです。…シルクさん、まだ再会したばかりですけどテトラさんに着いて行ってみていいですか? 』
『テトラちゃんと? 』
『ダメ元で訊いたけど…、シルク達って、もう六匹いるでしょ? 私達はまだ四匹だし、またすぐに会えるでしょ? スーナさんとも会えたし、シルク達ってコガネに住んでるんだよね。だから、ね』
コガネって事は、ここはジョウト地方なんだね。それなら、ここはウバメの森になるね。再会したばかりだけど、私は意を決し、シルクさんに訊いてみる。急に提案したからどんな答えが返ってくるのか分からなかっけど、少なくとも、ビックリはしていないっていう感じだと思う。シルクさんはそう言うと思ったわ、って表情で言いながら、わざとらしく首を傾げる。そこにテトラさんが、たぶんトレーナーの手持ちの事? を例に出しながら、代わりに説得してくれた。
『そうね。もし離れても、テトラちゃん達と一緒なら、またすぐに会えるわね。私も早くライト達とも会いたいし…。それに、折角架かった橋なんだから、私が斬る訳にもいかないわ。アーシアちゃんが決めた事だから、私は止めないわ』
『本当ですか』
『ええ』
シルクさんはシルクさんなりに、何か考えがあるらしい。だけどそれは、私達の提案に肯定的な事だと思う。シルクさんが背負っているモノは前に聴いた事があるけど、それ以前に、友達として、こう言ってくれたんだと思う。私が確かめるように再び訊くと、シルクさんはにっこりと笑って答えてくれた。
『やったね! じゃあアーシア…、ちゃん、これからよろしくね』
『はいです! 』
私の方こそ、よろしくです! 私もそうだけど、シルクさんがこう言ってくれたから、テトラさんは凄く嬉しそう。互いに声をかけあって、友達になった私達は、私は右の前足を、テトラさんは右側のヒラヒラを、それぞれ重ね合った。
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